グッドキャリア企業アワード2018
企業向けセミナー(大阪)
を開催しました!
平成31年1月29日(火)、大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)(大阪)において「グッドキャリア企業アワード2018企業向けセミナー」を開催しました。当日は企業の経営者、人事総務担当者を中心にご来場いただき、厚生労働省による挨拶、高橋 浩氏による「パラダイム・シフトを見据えたキャリア形成支援の取組」をテーマとした基調講演と、高橋 浩氏をコーディネーターに迎え、2018年度受賞企業3社を交えたパネルディスカッションを実施しました。
開会挨拶
厚生労働省より、開会の挨拶として「グッドキャリア企業アワード」の趣旨、事業目的について説明しました。
基調講演
「パラダイム・シフトを見据えたキャリア形成支援の取組」をテーマに、高橋浩氏(ユースキャリア研究所 代表)による基調講演を行いました。
《基調講演概要》
パラダイムシフトとは、パラダイム(物事の見方、捉え方、枠組み)がシフト(状態や体制などが移行する)することで、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的に、もしくは劇的に変化することをいう。
過去の歴史で大きなパラダイムシフト天動説が地動説になったと言われており、現代のキャリアの中でも同様に大きな変化が起きている。
※キャリアにおける古いパラダイム、新しいパラダイムは何か?を実感していただくため、下記の質問を参加者へ投げかけた。
【Q社長や上司の立場で考えた時、あなたの考えに近い項目にチェックしてください】
□社員のモチベーション・アップには、やはり昇進・昇給が有効である□定年までは1つの企業に勤めあげるのが望ましい
□社員が、仕事よりもプライベートを重視するのは考えものである
□社員は、上位者の指示・命令には従うものである
□仕事中は感情的になることは謹んだ方がよい
□人は理不尽さを乗り越えて成長するものである
□部下の能力開発では、弱みを見つけて向上させる方法をとる。
チェックの数が多いと古いパラダイムの価値観の人であり、少ないと新しいパラダイムの価値観の人である。若年層は少ない傾向にある。
社員のモチベーション・アップに関して、中小企業の経営者に対し、給料を上げることや昇進させるということの重要性を説く方が多いが、最近の若年層は、職務が大変な管理職になりたがらない傾向にある。「出世して管理職になることは価値が高い、同期に抜かれると悔しい」という感覚が50代にはあり、働くモチベーションにおいて価値観の変化がうかがえる。
定年まで一つの企業に勤めるのが望ましく転職しない方が良いという価値観があるが、実際の転職者数は急激には増えていない。正規雇用労働者の転職比率は1990年3.3%から2005年は3.5%と変化をしてない。一方、非正規雇用労働者は今日労働者の中の40%と増えており、転職回数が多い傾向にある。転職してはいけない感覚も年々少なくなっている印象を受けている。
仕事よりもプライベートを大事にしたい人は増えていて、若年層はできれば仕事をしたくないと考えている傾向が高い。共働き世帯数が、片働き世帯数を超えている背景もあり、若年層は子育てを共同で行うものであるという価値観へ変化してきている。管理職の立場としては仕事を優先して欲しいと思うが、部下の気持ちは子育ても自身の日常に組み込まれているので、不満を感じる場面があるかもしれない。
社員は、上位者の指示命令には従うものであるというこれまででは当たり前の考えも、今の若手社員は「なぜ自分がやらなければいけないのか」という疑問を持つケースが増えている。人は理不尽さを乗り越えて成長するものであるという価値観も、今の若手社員はそう感じない。
部下の能力開発では、弱みを見つけて指摘することで能力を向上させる方法をとる、という価値観も古くなっている。長所、努力のポイント、良いところを見つけて、褒める・ポジティブな側面にスポットをあてて声かけをすることが重要になってきている。
キャリアのパラダイムシフトにおける新旧をまとめると、
■古いパラダイム
昇進・昇格・昇給に価値があり、定年55歳、男性・女性の平均寿命約60歳。企業が生涯を保証してくれる、生涯一企業に勤務、指示・命令で動く従業員、画一的なマネジメントがキーワードである。
■新しいパラダイム
自己成長〔多様〕に価値があり、定年65歳、男性の平均寿命約80歳、女性の平均寿命約87歳。定年後の時間が約20年と長くなってる、企業が生涯を保障し得ない、生涯複数企業に勤務、指示・命令では動かない従業員、個々に応じたマネジメントがキーワードである。
新旧パラダイムの比較表
旧来のパラダイム | 新しいパラダイム | |
---|---|---|
キャリアの主体 | 組織 | 個人 |
雇用環境 | 長期・安定雇用、進路安定 | 短期・不安定雇用、変幻自在 |
重要なキャリア | 外的キャリア (役割、目標達成、業績) 仕事重視(キャリア) |
内的キャリア (ニーズ、価値観、意味) 生活重視(ライフ) |
組織のスタイル | 機械(従業員は歯車) | 生命体(従業員は細胞) |
労使関係 | 主従関係、対立関係 組織による拘束 |
対等な関係、共創関係 個人の自由裁量 |
業務スタイル | 定型業務 | 思考労働 |
重視される特性 | 合理、論理、客観 | 直感、感情、主観 |
重要な成果 | 組織の発展 | 自己の成長 |
重要な報酬 | 外的報酬(給与、地位) | 内的報酬(心理的満足) |
マネジメント | 指示・命令、外発的動機づけ | 共感・協働、内発的動機づけ |
キャリア支援 | 自己と仕事のマッチング | 仕事を通しての自己形成 |
Hall(2002)・Hartung(2018)ほかを参考に筆者が作成
高橋浩(2019)セルフ・キャリアドック入門(仮) 金子書房 (6月出版予定)より
「従業員は歯車」という組織スタイルから、ティール組織という「従業員は生命体」と考える新しいスタイルも出てきている。旧パラダイムによる「働かせ方」から新パラダイムによる、個々に応じた「働かせ方」、働く意味を重視した「働き方」へパラダイムシフトの変化が起きている。
キャリア形成のイメージは、WILL (やりたいこと)、CAN (できること)、MUST(何をすべきか)の3つで捉えることが重要である。これまではMUST(何をすべきか)とCAN(できること)ばかりを考え、Will (やりたいこと)をないがしろにしてきた。今必要なのは、Will(やりたいこと)であり、この3つの重複部分を増やすことが重要である。
また新しいキャリア形成の考え方で、ジョブクラフティングという考え方がある。
ジョブクラフティングとは、価値観、強み、情熱に合わせて仕事を再設計することにより、自分と仕事の間の最適なフィット感が得られ、仕事の幸福と効果を高めることができます。価値観強み、情熱によって幸福感が高まる。
ディズニーランドでの例を紹介する。皆を楽しませたいと思って就いた職種は人気がない掃除係でガッカリした。
しかし、ジョブブクラフティングの考え方を活用すると、ホウキに水をつけてミッキーなどの絵を描いてお客様を楽しませられるのでは?と創意工夫し、ちょっとした一工夫で、単なる掃除係から、エンターテイメントを発信している働き方をしていると、プラスの価値観へ変えることができる。と講演を締めくくった。
パネルディスカッション
グッドキャリア企業アワード2018受賞企業3社の人事担当、代表者による取組・事例紹介をはじめ、コーディネーターに高橋氏を迎えパネルディスカッションを行いました。《コーディネーター》
高橋 浩 氏《パネリスト》
グッドキャリア企業アワード2018大賞:株式会社アシックス 中野 修 氏
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 牧野 克人 氏
グッドキャリア企業アワード2018イノベーション賞:
株式会社ナンゴー 代表取締役 南郷 真 氏
《パネルディスカッション概要》
冒頭での登壇企業の事例紹介を踏まえ、「社員が成長できる企業とは?」というテーマのもと、参加者からいただいた質問を高橋氏が投げかけ、各パネリストが回答することを通じて、各企業の取組の苦労や工夫、成果の秘訣、今後の課題などを議論した。高橋氏からの質問と各企業の登壇者の回答を下記記載する。
Q1,受賞した効果、社内外の反応について
「今年の初めの朝礼で社長から表彰を受けたと報告があった。今後人材を育てていくことは経営戦略の一つとして捉えると発言があり、人材を育てる文化の醸成ができていると感じる。また学生からキャリア形成の取組について評価を受けていると感じる場面がある」(株式会社アシックス)
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
(株式会社ナンゴー)
Q2,キャリア相談室立ち上げ困難な点について
「特に組織を立ち上げているわけではないが、社員のキャリア形成において一番重要なのは管理職である。自分のメンバーの育成をすることが責務ということを根付かせるため、3年間ワークショップを実施している。良い面も悪い面も、事実ベースで評価をしていった。仕組みづくりは、公平性、シンプル、管理職の強化をすることを重要とした。また抵抗感を無くすために、まずはワークショップを開催した。何を評価するかも自分たちで決めて、風土醸成に3年はかかった」(株式会社アシックス)
「キャリアに関する相談は人事企画部で対応している。新しい人事制度を作る上で当初は、会社からの一方的なセミナーばかりであったが、うまく形が出来てきた。抵抗勢力がこれからでてくる可能性はある」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
「15名の小規模組織のため大きなものはないが、全体を通して組織作りはできていると思う。自社にノウハウがなかったので、経営全般のサポートができる外部講師のサポートを受けた。数年前まで社員は仕事に対して目標もなく、目標を立てるにあたっても、何を伸ばすべきか、現在の立ち位置が社員一人ひとり理解できていなかった。スキルマップの作成を通して自分の立ち位置が明確になり、何をやるべきか目標が決まり、最初は小さかった社員一人ひとりの目標が徐々に大きくなっていった」
(株式会社ナンゴー)
Q3,取組について経営者の反応はなかったか?(2社へ質問)
「逆に経営サイドから人を育てていくのだと御達しがありスタートした。経営と人事のバランスを取っていくことが重要と感じる」(株式会社アシックス)
「経営が学び続ける会社と言い続けている部分がある。時代の流れが早く金融のビジネスの在り方も変わるので、経営サイドにももっと理解を働きかけていかないといけない」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
Q4,キャリア形成の取組への社員のモチベーションについて
「従業員サーベイというシステムを取り入れている。2年に1回調査をしているが、会社のトレンドプログラムに対する評価は満足の声が多い。しかし、キャリアについての評価は低く、そこの結びつきが弱いのは事実ある。上司もキャリアを描き、従業員にもキャリアを描きやすいように場をつくっている」(株式会社アシックス)
「年に2回、自己申告制度で全社員にキャリア形成面談の場がある。そこで社員のニーズを拾い上げている。後ろ向きの社員に関しては元支店長などをワクワクハートパートナーと命名した職務に任命し、面談の場を設けることでモチベーション管理をしている」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
「仕事のモチベーションが低い人はいない。外部の機関に社風分析をしてもらったところ、100社中上位5社以内に入っているという喜ばしい結果が出た。社長が頭ごなしに言うのではなく、社員の気持ちを尊重し、社員から教えてもらうことを大切にしている」
(株式会社ナンゴー)
Q5,仕組みについての効果の測定方法について
「効果測定は難しいというのが本音。定性的になっているのを定量的にどう抑えていけるか。参加受講率、研修費用の効果測定にいきがちで経営サイドは納得してないことがある。目的をクリアにして、経営人材は毎年何人プールされているとか、計画的にKPIを設定してかないといけないのが今年の課題である」(株式会社アシックス)
「社外公募制度の認知と理解により、職種のチェンジができることが、若い世代やキャリアある世代にとっても新しくこういったことができるかも?という期待感が増えてきたと感じる」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
「繰り返しの仕事をやるときに、去年実施したデータがipadに溜まっていて、昨年との比較で効果測定ができている。スピードが早くなった、純利益が増えた、など見える化出来るようになった」
(株式会社ナンゴー)
Q6,従業員の層に応じてどのような取組があるか?(若年層、ミドル層、女性社員の活躍推進、非正規への支援など
「女性管理職が10%と非常に少ない。子育てをされている女性については、ワーク・ライフ・バランスを上手く取れるように、キャリアビジョンを設定するワークショップを行っている」(株式会社アシックス)
「女性活躍推進については女性社員の理想のロールモデルを選び、様々な場所に出てもらい、若手社員からの相談を受けてもらい、自身の体験談を発信してもらっている。女性役員の管理職比率は20%を超え、人事企画室、社員総活躍室の室長は2人とも女性である。ミドル層への取組課題である」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
「月に1回自社のナンゴーテストというものを実施している。工場長が説明をした後、選ばれた人が社員へその説明を紹介して記憶の定着を図るアクティブラーニングのようなことを実施している」
(株式会社ナンゴー)
Q7,若手の定着について
「社員の定着率は良い。採用のプロセスでも志望動機を重要視している。入社するまでの内定者プログラムで接触頻度を増やしている」(株式会社アシックス)
「若手の退職率は最近減った。退職理由が変わってきており、知識がついてきたが、アウトプットする場がなく、働きがいに課題を感じ、辞めるケースが出てきた」
(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社)
「離職はほぼない状況。退職された後でも良好な関係性を築くことができている」
(株式会社ナンゴー)
総括の中で高橋氏は、3社の取組の共通点を踏まえ、「人間性、人間力、人に焦点を当てているところが特徴的だった。今までの組織形成は旧パラダイムで、画一的に同じような社員を作っていた傾向が高いが、新しいパダライムでは、一人ひとりの力、強みを大事にしていることが伝わった。社員一人ひとりの能力を引き上げることの重要性として、学び続けられる場を提供していることも共通していた」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。
イベントレポート