人事本部 ヒューマンリレーションズ推進センター
杉山 修 氏 1993年入社
半導体製造ラインの課長時代、部下のメンタル不調をきっかけにカウンセリングを学ぶ。その後自らの希望で人事本部に異動し、従業員のキャリア支援に従事する。
イメージソリューション事業本部
イメージソリューション第二開発センター
関 敬司 氏 2007年入社
入社後10年間、光学機器事業本部で産業機器の光学レンズ設計を担当。2016年、社内キャリアチェンジ制度により、ソフトウェア技術者に転向。その後、現所属にてビデオカメラのソフトウェア設計を担当。
人事本部 採用・人材開発統括部 人材開発部
河本 誠志 氏 1993年入社
情報システム部門に新卒で入社。その後、企画部門で新サービス立ち上げ等を担当後、人事本部に異動。階層別研修を担当する傍ら、社内講師としてキャリアワークショップ等社内研修の登壇も行う。
コンシューマ事業統括 新規事業開発室
五十嵐 和夫 氏 2009年入社
ネットワークエンジニアとして新卒で入社。VR=Virtual Reality(仮想現実)技術を活用した新規サービス開発を担当。ソフトバンクアカデミア一期生。
株式会社マイナビ
社長室リサーチ&マーケティング部部長/グッドキャリア企業アワード推進委員
栗田 卓也さん
国立大学経営学部4年生
澤畠 千隼さん
内定先の業種:通信会社
私立大学
キャリアデザイン学部4年生
平鍋 千笑さん
内定先の業種:メーカー
澤畠 千隼(以下、澤畠) 僕にとっての「キャリア」はがむしゃらに働いて、自分自身のポジションを高めていくようなイメージです。僕は子どもの頃から高校までずっとサッカーをやっていたんですが、小学生の頃はベンチばかりでそれでも、毎日必死に練習していたら、中学・高校ではかなり上達しました。勉強でも、僕は浪人して大学に入っているんですが、浪人時代は誰よりも一生懸命努力した自負があります。こうした頑張りを社会人になっても続けて、周囲にも認めてもらえるような自分になりたいという思いがあります。
平鍋 千笑(以下、平鍋):以前は漠然と「結婚したら家庭に入り、子どもと一緒にいてあげたい」と考えていました。というのも、うちは両親が共働きなんですが、母親を見ているとどうも、本人が楽しくて働いているというよりも私たちを養うためという理由のように思えて。でも、就職活動の時期を迎え、キャリアについて考える中で、せっかく社会人として働く機会を得られるのであれば、仕事と家庭を両立し、自分の可能性を広げていけるのが理想ではないかと思うようになりました。
関 敬司(以下、関):今、改めて自分自身を振り返ってみると、学生の頃はまだまだキャリアに対する視野が狭かったなと感じます。現在はテレビ放送や映画制作用のビデオカメラのソフトウェアを開発する部門にいますが、入社当時は産業機器の光学レンズの設計をしていました。大学での専門が光学設計に関わりがある分野だったこともあって、当時はとにかく「光学設計に携わりたい」と考えていて、その夢がかなったのですが、しばらくするとやりたいことが変わってしまった。そこで社内のキャリアチェンジ制度で今の業務に就いたのが2年前のことです。
五十嵐 和夫(以下、五十嵐):実は僕も入社後に、大きくキャリアチェンジしています。学生の頃は、澤畠くんと同じように「とにかく早く成長したい」と思っていて、だからこそ、「就職するなら日々変化する場所に行きたい」と、ソフトバンクに入社しました。実際、ものすごいスピードで変わって行く会社で、僕は入社10年目になりますがすでに3回転勤し、名刺も20回ぐらい変わりました。ただ、キャリアチェンジといっても、外部要因ばかりで変化しているきらいもあって、もっと主体性を取り戻す必要があると思い、先輩らと共に現在の部署を立ち上げ、メンバーとして参加しています。
河本 誠志(以下、河本):たしかに五十嵐さんが言うように、ソフトバンクは企業としての変化が著しく、本人が好む好まざるに関わらず、どんどん仕事が変化していく環境にありますね。「やりたいこと」を詳細に決めすぎると変化についていけなくなるのではないかとも感じています。むしろ、「自分は何のために働くのか」「どうしてこの仕事がしたいのか」といった一段深い部分を掘り下げることが大切なのではないかと感じています。
五十嵐:入社直後の業務は携帯電話基地局のネットワークエンジニアでした。平たくいえば、「携帯の電波をよくするための仕事」です。もちろん僕なりに仕事の面白さを見いだしていたのですが、電波のつながりやすさ自体は2015年頃から大手三社が横並びになり、そこでの個人の成長余地を見いだすのが難しいと感じていました。VR事業を立ち上げるにあたっては企業としても、自分としても新しい市場へ出ていくぞという切実な思いがありました。
杉山 修(以下、杉山):「やりたいこと」を考えることも大切ですが、仕事をする中で変わっていくものでもありますね。私自身も現在は人事部にいますが、以前は半導体の製造と管理を担当していました。定年後に活かそうと思って、産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの資格をとったところ、人事部から「そろそろ来ないか」と声をかけられたのがちょうど48歳のときのことです。自分の興味が変わることもあれば、社会の中で企業に求められる役割が変わることもある。「なぜ働くのか」「どう働くのか」という幹の部分をしっかり持ちながら、社会人としての“枝葉”を豊かに繁らせていくことが今後、ますます求められるのではないかと日々感じています。ぜひ、学生のみなさんにはそんなことを頭の片隅に置きながら、どんどんチャレンジしていただきたいと思います。
澤畑:知りませんでした。
平鍋:私も今回の座談会で初めて知りました。
関:グッドキャリア企業アワードを知ったのは、大賞受賞がきっかけです。受賞理由になった研修型の制度のおかげで私自身もキャリアチェンジできたため、驚くとともに、嬉しく思いました。
杉山:社内では以前からこうしたキャリア支援の取り組み自体は行っていました。そのため、グッドキャリア企業アワードの前身である「キャリア支援企業表彰」の事例を見て、うちも受賞できるのではないか、という勝算もあり、上司をくどき落としてのエントリーでした。
関:そうだったんですね。
五十嵐:僕もグッドキャリア企業アワードを知ったのは、社内のイントラネットで「受賞しました」というお知らせを見たのが最初だったと思います。ただ、僕自身はあまり驚いたという記憶はなくて(笑)。ソフトバンクは新人社員研修から2年目研修、課長研修といったように社内の人事施策がかなり充実していて、ちょうどアワード受賞の前後も「キャリアを長期的に考えよう」といったテーマで勉強会が開催されていました。僕自身も参加し、先輩社員のキャリア感を聞いて、すごく学びになっていたこともあって、「やっぱり受賞したか」くらいの気持ちでした。
河本:人事としてもそうですね。もともとソフトバンクの人事方針のひとつに「“挑戦する人”にチャンスを」というものがありまして、施策をたくさん用意し、社員自身に手を挙げてもらうことをモットーとしています。自分自身が手を挙げさえすれば、門戸は開いているという環境がベースにあり、今回の受賞ではそこを評価いただいたのではないかと考えています。
平鍋:私は実はまだ、「これがやりたい」というものが、そこまで明確にはなっていません。ただ、「女性が社会の中で当たり前に輝いていられるような環境を作りたい」という思いはずっとあるので、そこを軸にAIやVRといった、少し先の未来につながるような技術に関連する業界で働いていきたいと考えています。その中で「自分がどのような社会人になりたいか」ということでいうと、ずっと働き続けるけれど、ある意味会社に染まりきらずにいたいとも考えています。
仮に、上司や先輩に指示されるままに動いた場合、その企業の中には適応できるかもしれないけれど、私は企業の一員であると同時に、社会のために役に立つ存在でありたいと強く思います。
杉山:平鍋さんのキーワードとして「女性の活躍」があるように思いますが、10年後にはどのような自分になっていたいですか。
平鍋:10年後の自分ですか。まだ具体的にはイメージできていませんが、会社の中での「憧れの女性」にはなっていたいと思います。後輩のロールモデルになれるような存在というか。
杉山:なるほど、素敵ですね。
河本:周囲にそういった女性の先輩はいますか。
平鍋:います。仕事に対してすごく前向きな先輩がいて、やりたいことは厳密に言えば違うんですが、性格や雰囲気は似ているところもあって。近しい存在の人が、着実にキャリアを積んでいるということを目の当たりにしたことで、自分も頑張れそうだと影響を受けたようにも思います。
杉山:やはり、ロールモデルとなるような存在は大切ですね。
澤畑:僕が目指す、理想の社会人は「人格者」です。サッカー日本代表の森保監督という方がいらっしゃるのですけど、その方の本を読むと、例えば、怪我をした選手にずっと寄り添って、深夜でも電話がかかってきたら相談に乗るというエピソードが出てきます。非常に大雑把ですけど、僕もそんな大人になりたいと常々思っています。ただ、なろうと思ってなれるものでもないのかもしれませんが。
杉山:「なろう」と思うことが、最初の一歩ですよ。
澤畑:ありがとうございます。そのためにもできるだけ、多くの人と出会って、自分を開放していきたいとも思っています。「影響されやすい」という短所もあるので、そのバランスをうまくとっていきたい。しっかり自分を持ちながら、周囲の影響も受けながら、いいバランスを取っていきたいという思いがあります。
五十嵐:先ほどの平鍋さんの「社会のために役立つ存在でありたい」という話と少し似ているかもしれないのですが、「戦闘力の高い人間になりたい」と思っています。ここでいう「戦闘力」は社内外、どこに行っても通用する能力を持っているというようなイメージです。VR事業に携わるようになって今年で3年目ですが、今のところ10年ぐらいは続けようと思っています。ただ、現在は最先端技術であるVRもいずれは陳腐化する日がやってきます。次の10年では“その先”の技術に関わっていきたいと思っていまして、そのためにも、新しいものを理解する力やビジネスマンとしての基礎力といった土台をこの10年で固めておく必要があると考えています。
関:私はまず、ソフトウェアの技術者としてのキャリアがまだ2年目なので、その部分での力をつけるのが目下の課題です。最初の目標は、お客さんにいいなと思ってもらえるようなソフトウェアを作ること。10年後に到達していたい「理想の技術者像」を見据えながら、一年ごとの目標を積み重ねていくといったように、細かくステップを定めながらやっていきたいと思っています。
杉山:ソフトバンクさん程ではありませんが、私たちの会社もさまざまな外的要因によって、仕事環境は常に変化にさらされています。当社では「三自の精神」――「自発」「自治」「自覚」を行動指針として掲げており、社員ひとりひとりが自律的に行動し、キヤノンという“器”を利用し、自分たちのスキルを発揮してほしいと考えています。また、発揮できる場を用意するのは人事の役目であり、関さんがキャリアチェンジの際に利用された研修型のキャリアマッチング制度もその取り組みのひとつです。
また、昨年からスタートしたものに「ウィークエンド・ラーニング」「アフター5・ラーニング」の2つがあります。これらは自己啓発意欲の高い社員に応えるために、上司承認なしで、土曜日あるいはアフター5に研修に参加できるという仕組みです。例えば、育児のための時短勤務中の女性社員は、平日はなかなか研修に参加しづらいけれど、土曜日であれば、家族に子どもを預け参加することができます。これらに自己啓発のeラーニングや講習会を合わせると、今年はのべ3,600人を超える社員が受講しました。これは全社員の16%にあたり、“学び直し”へのニーズが高いこともわかりました。
河本:ソフトバンクでは主に、人材育成機関としての「ソフトバンクユニバーシティ」、ソフトバンクグループを担う後継者発掘・育成を目的とした「ソフトバンクアカデミア」、新規事業提案制度である「ソフトバンクイノベンチャー」を3本柱として、社員自らが自発的にチャレンジできる取り組みを行っています。ソフトバンクイノベンチャーはまさに「起業したい」「こんなサービスを立ち上げたい」ということを企画提案し、事業化が認められれば、会社として設立するという制度です。もともとは社員のみを対象としていましたが、現在は内定者も応募できるので、ぜひ挑戦してほしいですね。
澤畑:杉山さんと河本さんにお聞きしたいのですが、「キャリアチェンジ制度」に挑戦するために必要な資格のようなものはありますか。例えば、元々いた部署で成果をあげていることが必須になるとか。
杉山:応募にあたって、前職での成果は必須ではありません。キャリアチェンジへの応募資格としては、「入社後3年以上、かつ今いる部署で2年以上働いた経験があること」。この条件さえクリアすればエントリーできます。そして、面接に合格すれば異動決定。この面接の合格基準は、応募先組織の上司の判断になります。
河本:ソフトバンクでは「フリーエージェント制度」が該当します。自ら希望する部門やグループ会社に手を挙げ、異動をリクエストできる仕組みです。入社2年経過後であれば条件はありませんが、実際に異動できるかどうかは応募先の本部における選考次第です。
平鍋:入社後に、キャリアチェンジをした場合、職場の雰囲気はガラッと変わるものなのでしょうか。
五十嵐:僕の場合は現在の職場と以前の職場ではまったく雰囲気が違っていたため、結構苦労しました。それこそ、以前はスーツ姿で仕事をしていましたが、今はTシャツにデニムと服装からして違います。見た目もそうですし、ミーティングの進め方といったビジネス上のお約束もまったく違うため、最初の頃は戸惑いました。
関:私の場合は、偶然かもしれませんが、異動前も異動後も、雰囲気はさほど変わりませんでした。もちろん、扱う製品が異なれば、開発のペースも変わるので、仕事の進め方には違う部分もたくさんあるのですが、ベースとなる「人との関わり」には共通項が多いように感じています。全体として和やかな雰囲気で、優しい人が多いのかな。やはり、同じ会社なだけに、雰囲気が似ている人が多いようにも思います。
学生、若手社員、人事担当者がそれぞれの立場から「キャリア」について議論を進めてきました。参加メンバーに感想を聞くと若手社員は「学生のおふたりの話が刺激的で、自分自身も原点に立ち戻れた」(五十嵐)、「私も入社したばかりのことを思い出し、もっとがむしゃらにがんばろうと思いました」(関)と、学生の話に刺激を受けた様子でした。
一方、人事担当者からは「社会情勢が変化していく中で、柔軟性を持たせた制度の必要性を改めて感じました。これまで以上に積極的に社内に提案していきたい」(杉山)、「社内のキャリアチェンジ制度を実際に利用された方の話を聞ける貴重な機会でした」(河本)など、互いの制度への理解を深めたことが自社の制度の今後を考える上で役立ったというコメントが寄せられました。
さらに学生は「キャリアの幹を持ち、枝葉を変化させ、柔軟に生きていく、というのが今日一番の学びでした」(澤畑)、「具体的にやりたいことを決めすぎないほうがキャリアの視野を広げられると知ることができてよかったです」(平鍋)と振り返りました。
これらのやりとりをふまえ、コーディネーターの栗田氏は「キャリアは常に変化していくものであり、企業にとって人材の流動性を含めた魅力的な制度づくりが重要だと改めて実感しました」とコメント。「企業と働く側との関係性は学生から見るとまだまだ分かりづらいものであり、例えば、会社説明会の中でキャリアチェンジの制度についてより具体的に伝えていくといった取り組みを積極的に行っていくことが採用面での成果につながるのではないか」と提案し、結びの言葉としました。