第12話

これからの
年金制度

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オプション試算について

今回の財政検証結果をみると、経済成長と労働参加が進むケース(ケースⅠ~Ⅲ)では所得代替率は50%を確保できるものの、経済成長と労働参加が一定程度進むケース(ケースⅣ、Ⅴ)では所得代替率が50%を割り込むことが確認されました。

ガイド経済成長の度合いによっては、所得代替率が40%近くまで下がるのか……経済成長が低くても、年金の水準が低くなりすぎないようにできるのかな?

ガイドこうした背景もあって、国では、今後、社会状況や経済状況が変わっていっても、十分な年金が受け取れるようにするには、どんな制度にしていけばいいかを考えているんだニャ

こうした背景の下、今回の財政検証では「もし年金制度が変わったら、将来の姿はどうなるか」という視点に基づいて、試算を行いました。

これが「オプション試算」と呼ばれるものです。

オプション試算の内容

オプション試算では、次の2つのオプション試算と参考試算について行っています。

・オプションA 被用者保険の更なる適用拡大
働き方の多様化が進む現在の日本において、働き方にかかわらず年金の2階部分(厚生年金)を受け取れることは、公的年金の意義から見ても非常に重要です。そのため、オプションAとして、より多くの労働者が厚生年金の適用を受けられるようになった場合の試算を行いました。

現行の制度では、厚生年金に加入できるのは正社員(正規職員)、または正社員に近い労働時間・労働内容のパートやアルバイトに加え、2016年10月からは、ⅰ週労働時間20時間以上、ⅱ月額賃金8.8万円以上、ⅲ勤務期間1年以上見込み、ⅳ学生以外、ⅴ従業員501人以上の企業等の要件を満たす短時間労働者となっています。オプションAでは、この制限を緩和し、

A―① 現行の企業規模要件を廃止した場合(約125万人の拡大を想定):
A―② 現行の企業規模要件、賃金要件を廃止した場合(約325万人の拡大を想定)

ただし、学生、勤務期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者は対象外
A―③ 一定の賃金収入(月5.8万円以上)がある全ての被用者へ適用拡大した場合(約1050万人の拡大を想定)

なお、学生、勤務期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者についても適用拡大の対象
の3種類のケースで、厚生年金への適用拡大を行った場合を考えています。

これは、厚生年金の加入者が増えることで、どの程度将来の年金水準が改善するかをみるものです。

・オプションB 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択
平均寿命が延び、同時に高齢者人口が増加していく中で、60歳を過ぎても働き続ける方が多くなっています。そのため、オプションBは、「より長く多様な形となる就労の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤を充実させる」という基本的な考え方のもと、就労期の長期化による年金水準の確保・充実について検討することを目的として、以下の4つの制度改正を仮定した試算となっています。また、これら4つの制度改正を全て実施した場合の試算も行っています。

B―① 保険料拠出期間の延長

現在の制度では、国民年金保険料を納付する期間は最大40年(20歳から60歳まで)となっています。これを45年間(20歳から65歳まで)とし、納付年数が伸びた分に合わせて基礎年金を増やす仕組みにした場合をみるものです。

B―② 在職老齢年金の見直し

65歳以上の在職老齢年金(高在老)の基準を緩和・廃止した場合をみるものです。

B―③ 厚生年金の加入上限の見直し

厚生年金の加入年齢の上限を現行の70歳から75歳までに延長した場合をみるものです。

B―④ 受給開始年齢の選択

個人の選択により繰下げ受給や就労期間を伸ばすことで給付水準がどの変化するかをみることを目的としたミクロ試算です。他のオプション試算と異なり、給付水準調整期間が変化するなどのマクロの財政影響は生じないものとなっています。

・参考試算 2016(平成28)年年金改革法による年金額改定ルールの効果

今回のオプション試算では、参考試算として2016(平成28)年年金制度改革法で成立した年金額改定ルールの見直しの効果を検証しました。

オプション試算の結果

・オプションA 被用者保険の更なる適用拡大

厚生年金の加入者が増加することにより、将来の給付水準が改善されることが分かりました。また、現在パート・アルバイトなどで国民年金にしか加入していない人でも、厚生年金に加入できるようになると将来的に厚生年金も受け取れるようになります。

A―① 現行の企業規模要件を廃止した場合

A―② 現行の企業規模要件、賃金要件を廃止した場合

A―③ 一定の賃金収入(月5.8万円以上)がある全ての被用者へ適用拡大した場合

・オプションB 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択

B―① 保険料拠出期間の延長

どのケースも所得代替率が6~7%程度上昇し、給付水準が大幅に改善する結果となりました。保険料の拠出期間が40年から45年に延長されたことに伴い、年金額が45/40倍となるため、給付水準もおおむね45/40倍となったためです。この結果、ケースⅤの場合であっても、50%超の給付水準を確保できる見通しとなりました。

※2026(令和8)年度より納付年数の上限を3年ごとに1年延長。

※スライド調整率は、現行の仕組みの場合と同じものを用いています

B―② 在職老齢年金の見直し

65歳以上の在職老齢年金(高在老)について、支給要件を緩和した場合は所得代替率が0.2%程度低下し、高在老を廃止した場合は所得代替率が0.3~0.4%程度低下する結果となりました。なお、在職老齢年金制度による支給停止は厚生年金(報酬比例)が対象ですので、基礎年金への影響はありません。

B―③ 厚生年金の加入上限の見直し

厚生年金の加入年齢の上限を現行の70歳から75歳に延長した場合、所得代替率への影響は、ケースⅠの場合影響なし、ケースⅢの場合0.3%上昇、ケースⅤの場合0.2%上昇する結果となりました。これは、厚生年金加入者増加することで、保険料収入と将来の給付がそれぞれ増加することになりますが、給付は徐々にしか増えないため、保険料の納付から給付までの間の運用益が発生すること等によるものです。なお、70歳以上は基礎年金の算定期間ではありませんので、基礎年金の給付水準には影響がありません。

B―④ 受給開始年齢の選択

オプションB―④は個人の選択で繰下げ受給や就労期間を延ばすことにより、給付水準がどう変化するかを試算したミクロ試算となっています。このため、他のオプション試算とは異なり、給付水準を調整する期間が変化するなどのマクロの財政影響は生じません。試算結果をみると、マクロ経済スライドにより給付水準が抑えられていくなかで、繰下げ受給や就労期間を伸ばすことは給付水準を確保する有効な選択肢となることが分かります。

例えば、ケースⅢの場合でかつ75歳まで働いて受給を開始すると、マクロ経済スライドによる給付水準調整後の所得代替率は95.2%となります。

B―⑤ オプションB―①~B―④の全てを行った場合

オプション試算B―⑤は、オプション試算B―④に①~③の制度改正を加味した場合となっています。このため、基礎年金の加入期間が45年に延長されていることや、厚生年金の加入期間が75歳まで延長されたこと、在職老齢年金の廃止が前提となっているため、全ての年金額が繰り下げの対象となり、増額されるため、B―④とりも給付水準が高くなっています。

・オプションAとBの組み合わせ試算

オプション試算では、これまで説明した、オプションAとオプションBについて、その両方を行った場合の試算も行いました。

なお、オプションAとオプションBはそれぞれ複数の試算を行っていることから、全ての組み合わせを試算すると試算結果が膨大になるため、影響が大きい「オプションA―②とオプションB―①~③」、「オプションA―③とオプションB―①~③」の2種類について行っています。

試算結果をみると、「オプションA―②とオプションB―①~③」の場合は7~8%程度、「オプションA―③とオプションB―①~③」の場合は10~11%程度、所得代替率が上昇しています。これはおおむねオプションAとオプションBの影響を合わせた結果となっています。

・参考試算 2016(平成28)年年金改革法による年金額改定ルールの効果

今回のオプション試算では、参考試算として、2016(平成28)年年金改革法で成立した年金額改定ルールの見直しの効果を検証しました。このため、オプション試算のように一定の制度改正を仮定した試算とは異なり、既に組み込まれている制度の効果を測定するものになっています。

なお、参考試算における経済前提については、経済変動を仮定したものになっています。(物価上昇率賃金上昇率が2023(令和5)~2052(令和34)年度の30年間、10年周期の変化を繰り返し、変動幅を物価上昇率±1.1%、名目賃金上昇率±2.9%と設定)

参考試算の一つ目が年金額改定ルールの見直しのうち、賃金変動に合わせて改定する考え方を徹底することによる効果です。

改正効果としては、物価変動が賃金変動よりも高い場合であっても、賃金変動に合わせて改定することになるため、調整終了後の所得代替率は上昇する結果となっています。特に低い成長を仮定するケースでは、賃金変動率が物価変動率よりも小さくなる場合が多いため、改正の効果も大きくなっています。

参考試算の二つ目は、年金額改定ルールの見直しのうち、マクロ経済スライド調整の見直し(キャリーオーバー)による効果です。これは現行の仕組み(キャリーオーバーを実施した場合)とキャリーオーバーの仕組みが無かった場合を比較したものです。なお、マクロ経済スライドによる調整がフルに発動される仕組みとした場合も試算しています。

改正の効果としては、キャリーオーバーの仕組みにより、マクロ経済スライドの未調整分が比較的早期に解消されるため、キャリーオーバーの仕組みが無かった場合よりも調整終了後の所得代替率は上昇する結果となっています。特に低い成長を仮定するケースでは、未調整分が多く発生するため、改正の効果も大きくなっています。

2020(令和2)年の年金制度改正

2019(令和元)年財政検証で行ったオプション試算を踏まえ、2020(令和2)年の年金制度改正では、被用者保険の適用拡大(事業所規模50人超の事業所に緩和)が行われました。その他、2020(令和2)年改正では、在職中の年金受給の在り方の見直し(在職定時改定の導入、60~64歳の在職老齢年金の支給要件の緩和)、受給開始時期の選択肢の拡大(繰り下げ受給の年齢を75歳に拡大)等が行われました。

まとめ

  • 今後、社会・経済状況が変わっていっても、十分な年金が受け取れるような年金制度を検討していく必要がある
  • もし年金制度が変わったら、将来の姿はどうなるかをみるための試算が行われ、それをオプション試算という
  • オプション試算は、オプションA被用者保険の更なる適用拡大 オプションB保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択制が行われ、参考試算として、2016(平成28)年年金改革法による年金額改定ルールの効果についても行った
  • 実際の制度改正については、被用者保険の更なる適用拡大が一部実施された
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