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企業の取組

「技術は人を幸せにするための手段」。
自作アプリとICT建機の内製化で挑む、
京都の老舗建設会社が描く「人が主役」の働き方改革

福田建設工業株式会社(京都府京都市)

アナログな業界風土への疑問から始まった改革

京都府と大阪府に拠点を構え、重機土木工事とダンプトラックによる運送の2部門を営業している総合建設業者の福田建設工業株式会社(本社・京都市)。同社は、1955年(昭和30年)に創業し、1997(平成9)年に法人化した従業員17人の組織だ。現在、同社は時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)や深刻な人手不足に対応するため、経営トップ主導による徹底したDX(デジタルトランスフォーメーション)と業務効率化を推進している。

同社が過労死防止や働き方改革へ着手した背景には、他業種から家業の会社に入社した施策担当者・福田聆常務取締役の強い危機感があった。福田常務は元々、アメリカ・ニューヨークでの賃貸不動産仲介業や、東京のスタートアップ企業、化粧品会社のPR業務など、建設業とはまったく異なる経歴を歩んできた人物だ。2020(令和2)年、コロナ禍によるリモートワークを機に京都の実家へ戻り、事務所を手伝い始めた際、大きな衝撃を受けたという。

福田聆常務取締役

福田聆常務取締役

福田常務は、「実家の事務所で作業をしているときにファクスが流れてきて、私はそこで人生で初めてファクスというものに出会いました。そこから、家業がどういう風に仕事をしているのか興味を持って話を聞いていくうちに、かなりアナログな働き方をしているなということに気が付いたのです。」と振り返る。

当時の働き方は、現場も事務所もアナログそのものだった。事務所以外で仕事をする環境が整っていなかったため、技術者や管理者は午前5時半には出社して事務作業を行い、それから現場へ向かい、夕方に現場が終わると再び事務所に戻って夜遅くまで書類仕事をするという日々を繰り返していた。日々の拘束時間は13時間程度に及び、肉体的・精神的な負担の軽減が急務となっていた。

福田常務は「現場の作業自体は時間を短くすることができません。それならば、どこができるかと考えたときに、この事務所内でしている作業時間をどうやって減らすのかというところが当時の課題でした。」と語る。

ドローン測量と3次元データの活用による劇的な省力化

福田常務が最初に着手したのは、会社の共有メールアドレスと共有フォルダを作成し、情報を一元化して属人化を解消することだった。情報をパソコンやスマートフォンで全員が確認できる環境を整えただけで、管理側の残業時間を1時間削減する効果をもたらした。

続いて着手したのが、現場の施工プロセスにおけるデジタル化と新技術の内製化だ。この最新技術を用いた実務の中心を担っているのが、入社3年目で、重機オペレーターとして現場に出ながらICT施工のための3次元測量や3次元設計データ作成、出来形評価表作成などを担当する齊藤大輔さんだ。

ICT担当の齊藤大輔さん

ICT担当の齊藤大輔さん

同社では、元請会社からいただいた平面図を基に自社で3次元データを作成し、そのデータを重機に読み込ませて現場で施工していくプロセスを構築している。齊藤さんは「データ活用による仕上がりの精度がまったく違います。また、ドローンやハンディスキャナーによるデータ取得を導入する以前は、測量屋さんが自分の足で歩いて測量していたため、ものすごい時間がかかっていました。それを上空からのドローン撮影と3次元の点群データ化に置き換えたことで、本来なら2~3日かかる測量が1日で完結できるようになり、時間効率が飛躍的に良くなりました。」と現場での劇的な省力化を説明する。

図面を基に作成した3次元データ

図面を基に作成した3次元データ

「丁張り」を不要にするICT建機の定着と休日確保

ドローン3Dスキャナーによる3次元測量データの蓄積を進めた同社は、さらに掘削作業の効率化を目指し、自動でバケットの刃先を制御する機能などを持つインテリジェントICT油圧ショベル(マシンガイダンス、マシンコントロール)を自社に導入した。

従来の土木施工では、重機で掘る場所や高さを地面に示すため、木杭や糸を用いて現場に目印を設置する「丁張り(ちょうはり)」という手作業が不可欠だった。福田常務は「ショベルが人工衛星(GNSS)等で自己位置を認識した上で、事前に作成した3次元設計データを確認しながら施工ができるようになります。丁張り作業や手元作業員の高さ確認が不要になるため、手待ち時間や手戻り時間が限りなくゼロになり、掘削のスピードが1.25倍から1.5倍程度早まりました。」と技術的なメリットを明かす。

この丁張り不要のメリットは、現場の作業員の働き方や休日取得にも直接的な好影響を与えている。齊藤さんは「熟練の監督さんが減っている中で、目印を待つ『手待ち』の時間や、間違いによる『手戻り』が多く発生していました。それが3次元データに変わることで丁張りが完全に不要になり、手待ちも手戻りもなくなりました。結果として全体の工期が大幅に短縮され、本来なら『今週は土曜日も出勤してもらわないと工程が間に合わない』という状況だった現場でも予定より早く作業が終わるようになり、現場にとって無理のない週休2日制に繋がっています。」と話す。

ショベルカーの先端が360度回転し自由な角度に傾くアタッチメント「チルトローテーター

ショベルカーの先端が360度回転し自由な角度に傾くアタッチメント「チルトローテーター」

さらに同社では、ショベルカーの先端が360度回転し自由な角度に傾くアタッチメント「チルトローテーター」の導入により、機械が届かない細部まで自動で綺麗に掘削できるようになった。稼働する重機の至近距離に手元作業員を立たせる必要性がなくなったため、接触などの労災リスクを排除し、安全な現場環境の構築にも寄与している。

最新技術を導入した当初、長年の経験を持つ現場からは反発の声もあった。齊藤さんは「導入当初は、熟練のオペレーターさんたちにも『わからないものに対する恐怖』や『本当に精度が合っているのか』といった疑問や不満はありました。しかし、実際に使っているうちに『もうこれなしだと本当に大変だよね』という意識に変わってきています。今では『今までの施工方法には戻れない』という革新的なツールとして受け入れられており、社内ではガイダンス機能やマシンコントロール機能のついた重機が奪い合いになるほどの状態です。」と、現場の意識が大きく変わった様子を明かす。

直行直帰を可能にしたバックオフィスDXの成果

現場の技術革新と並行し、自作アプリを活用したバックオフィス業務のDXも残業削減に直結している。福田常務は現場のデジタルアレルギーを和らげるため、まずは身近な作業日報のアプリ化を自作のプログラミングで進めた。スマートフォンから簡単に報告できる仕組みにしたところ、年配の従業員も数日で使いこなし、好意的なフィードバックが得られるようになった。

同社では、複数名で現場に入ることが多いため、現場が終わった後の「帰りの車内」でスマートフォンから日報を入力・クラウド送信する運用を徹底している。

福田常務は「従来は紙の伝票を出し、それを受け取った私が次の日の作業を組み立てたり、次の日の図面を見ながら対面で打ち合わせをしたりしていたので、どうしても順番待ちができてしまい、全員が帰るのが遅くなっていました。それがアプリ化とクラウド化によって、現場からそのまま帰宅ができるようになり、事務所で発生していた1時間から1時間半の対面でのやり取りや順番待ちの作業が不要になりました。」と、その合理化の仕組みを説明する。

確認・入力作業などの無駄が削減されたことで、管理部門や事務員の月間時間外労働時間は従来の30時間から10時間へと、20時間の大幅な削減に成功した。また、土木部の重機オペレーターの月間時間外労働時間も、従来の75時間から20〜30時間へと、月平均で45〜55時間もの削減という圧倒的な成果に繋がっている。

粗利益率の改善と従業員への還元、そして次の課題へ

働き方改革とデジタル化を高いレベルで融合させた結果、同社の経営面にも大きな好循環が生まれている。現場での手戻りや無駄、ムラを徹底的に排除して精度よく施工を管理できるようになったことで、会社の粗利益率そのものが大きく改善された。

福田常務は「最新の機材を導入し、働き方を改革して無理なく工程を進めることで、粗利益率の改善ができました。会社として成長した分、また従業員に給与や待遇として還元がしやすくなるという、非常によい環境づくりにつながっています。最新の機材やシステムは、会社に応じたものを導入して上手に使うと、長時間労働の是正だけでなく、省人化や利益率の向上といった全ての面につながっているというのが今の実感です。」と手応えを語る。

同社の取組みは現在も進行形だ。最新技術によって劇的な効率化を達成した重機土木の土木部に比べ、ショベルで掘削した土を搬出する「ダンプの運送(運輸)部門」には、まだ多くのアナログ的な労務環境や課題が残されている。福田常務は「土木部で土を掘削したら、それを搬出するのがダンプの仕事になるので、必ずワンセットで動くのですが、この運送部門がまだまだ実はアナログなのです。今後は法改正への対応はもちろん、産業廃棄物の運搬などに伴う膨大な種類と量の書類関係をメインに、運送部門のDXをさらに強化していきたいと考えています。」と、次のステップを見据えている。

「デジタルは手段、人が主役」という究極の目的

限られた人員の地方中小企業でありながら、独自のアイデアと内製化の精神で先進的な建設DXを突き進める福田建設工業。京都労働局の「ベストプラクティス企業」にも選定され、業界内外から高い評価と注目を集めているが、経営陣が見つめる未来の視線は、どこまでも「人間」へと向けられている。

作業日報のアプリ化を自作のプログラミングで進めた福田常務

作業日報のアプリ化を自作のプログラミングで進めた福田常務

福田常務は「デジタルやICTはあくまでも手段であり、道具にすぎません。物を入れれば勝手に会社がよくなるわけではなく、それをどう使いこなすかは、目の前にいる従業員一人一人のリテラシーや『何をしたいか』という目的意識に依存しています。私たちの究極の目的は、会社を持続させていく、継続していくというところにあります。建設業が基本的に屋外で現場ごとに違うものをつくる仕事である以上、どんなにDXが進んでも最後は人の手や経験、感覚が非常に重要な業界です。だからこそ、最新技術を導入して『働きやすさ』をしっかりと実現し、それを魅力に感じて新しい若手の人材が自発的に入ってきてくれるような好循環のループを生んでいきたい。その結果として、無理なく健康に継続できる事業を地域の中で育てていくことが、これからの私たちの重要な宿題であり、責務だと思っています。」と結んだ。

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