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- 【企業の取組②】IT導入と新たなビジネスモデルの構築によるドライバーの働き方改革の取組事例
企業の取組
IT導入と新たなビジネスモデルの構築による
ドライバーの働き方改革の取組事例
野々市運輸機工株式会社(石川県金沢市)

石川県金沢市の野々市運輸機工株式会社
石川県金沢市を拠点に機械、鋼材、水道管などの大型貨物輸送を中心に展開する野々市運輸機工株式会社は、1966年創業の歴史を誇り、従業員55人、43台のトラックを有する(2024年6月現在)運輸会社だ。運送業を営む同社はいわゆる「2024年問題」に直面している中で、IT導入と新たなビジネスモデルの構築によるドライバーの働き方改革に取り組んでいる。
社員の辞職を機に改革に着手
大手の運送会社で勤務経験がある同社社長は「当時、夜中まで働いていて、業界全体がそんな感じで、ドライバーの労働時間っていうのは、すごく長かった」と振り返る。2007年に父が経営する同社に入ったが、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災を経て、企業の設備投資が落ち込んだため、メインの仕事だった工作機械や鋼材などの輸送の需要も激減した。そんな時、ベテランドライバーが「このままだとみんな辞めてしまう」と警告したという。
「その頃は仕事が少なく、ドライバーにとってきつい仕事しかありませんでした。長時間労働が当たり前で社員同士の関係もあまり良くなく、職場の雰囲気も悪かった。何かしなければいけないと思っていたが、どうしようもないとあきらめていた」という。だが、有望な中途採用の若手が入社後2週間で退職を申し出たという。「理由を聞くと、『みんなが休憩室で会社の悪口を言っていて、自分は一丸となって働きたいのに、今の会社では無理なので辞めたい』と言われました」と明かす。
危機感を感じ、経営者が集まる研修などに参加して会社の経営理念をつくり始めた。経営理念を作る過程で、創業者の祖父にトラック1台から会社を立ち上げてからの歴史を聞いた。「社員が事故を起こして大変なこともあったし、オイルショックなど大変な時期があって、高速道路のない、ガタガタの下道を走って全国に届けた。でも今まで続けてこれたのは従業員が頑張ってきてくれたおかげや」という祖父の言葉を聞いて、社員ときちんと向き合おうと決意したという。

社員と向き合おうと決意したという社長
そこで社員全員の意見を聞くと、社員から不満の声が次々と上がった。「ダムが決壊したかのようで、この会社の存在意義を疑うほどでしたが、意見を受け止めて、『やる』『やらない』をはっきり決めていった。それから少しずつ雰囲気も変わっていきました」という。その後、経営層とリーダー層が参加し、社員が幸せに働くことを目的として、毎回議題を挙げ目標達成のため意見を出し合う「野未会(野々市運輸機工の未来をつくる会議)」を設置して、従業員の要望や意見を吸い上げることにした。
常態化したドライバーの長時間労働にメス
こうした改革の中で、最大の課題はやはりドライバーの長時間労働の常態化だった。一人のドライバーが荷物を積んで、遠方の届け先まで運ぶ。そして走った分だけ報酬が出るという歩合制の給与体系だったため、ドライバーは運転時間を短くしようという意識も低く収入を確保するために、休みなしで働くことも多かったという。
しかし、地域ごとの運送会社が連携してそれぞれの地域で荷物を集積して届ける、「中継輸送」という形式のネットワークに参加することで1回の輸送距離を短縮することができ、労働時間の短縮につながった。さらに、ドライバーの運転時間の削減を目的として高速道路利用料金分の負担などを荷主と交渉した。「働き方改革の潮流や2024 年問題の報道などもあり、荷主企業の理解を得られた」と語る。運転時間が短くなったため歩合制は廃止したが、ドライバーの待遇は向上した。「労働時間を減らして待遇が下がったら、会社が儲けるためだと思われてしまう。中継輸送を推進することで新たな取引先からの発注も増え、企業努力で待遇を上げられたことが非常に重要だった」と説明する。
また、クラウド型の受発注システムを導入し、これまで電話が中心だった受注をインターネットで対応することにより、配車担当者の電話対応時間の削減や効率的な配車ができるようになった。さらに従業員全員にスマートフォンを貸与し、業務連絡をチャットで行うようにした。トラックの運転状況を記録するデジタルタコグラフを通信型にすることで、ドライバーの運転時間や休憩状況などをリアルタイムで見える化し、運転時間が改善基準告示で定められた時間を超過しそうな場合は注意するなど管理がしやすくなった。

システムを使って配車を行うベテラン社員
入社36年で元ドライバーの配車担当社員はデジタル化によって「電話の本数も減り、その時間を他に使える。以前は配車表が紙だったが、デジタル化したことによって配車表をみんなに共有できるので、誰が何の仕事をしているのかすぐ分かる。ドライバーが長く走っていたりすると連絡することもありますが、ドライバーから『あとどれぐらい走れますか』とか、相談が来るなどドライバーの意識も強くなってきています」と語る。入社10年という30代の中堅ドライバーは「以前は今よりも長い距離を運ぶことも多かったので、ついつい長時間運転をしていたが、中継輸送で距離も短くなり、休憩を取らずに運転しているとシステムで警告されるので、こまめに休憩を取るようになった」と変化を語る。長時間運転による判断力や認知の低下が事故につながっていたが、運転時間を管理することで、交通事故も激減したという。
配車担当社員は「中継輸送を推進する前のドライバーの仕事は自己完結型で、社員同士の接点は少なく、むしろ自分のトラックや積み荷も触って欲しくないというドライバーがほとんどでした」と語るように、ドライバーはバラバラだったため、ドライバーに中継輸送の意義を説明したり、会社が費用を全額負担する免許取得制度を導入し、ドライバーの資格やノウハウを標準化した。
社長は「仕事が属人的になってしまうと有給も取れないようになってくる。また、退職者が出たり、親の介護などで長期離脱したりすると、その代わりの人を育てるのに時間がかかるので、できるだけ仕事をみなで回して、組織力を強化した。それぞれが他の仕事を経験すると相互理解が進んで、個人戦からチーム戦に変わりました。社員同士の関係の質をいかに高めるかということが非常に大事だと思いました」と手応えを語る。現在は、組織力が高まったことにより年次有給休暇も取得しやすい環境が整備されてきた。

積極的に休みを取るようになったというドライバー
業務の効率化を図るだけでなく、社員の関係構築にもIT の積極的な導入が役立った。 社員同士がちょっとした心遣いをしたときに感謝の気持ちを伝える「ありがとうカード」をグループチャットで送ることによって、コミュニケーションの機会を増やすことにつなげている。また、コンサルタントによる健康指導やドライブレコーダーの映像を使った安全運転講習などの動画を制作、e ラーニングのシステムにコンテンツとして掲載し、社員への発信や視聴状況を確認するという試みも行っている。
「どうしてもドライバーはコンビニ食とかに頼りがちなので、健康指導の専門家と契約して、食事の改善を指導してもらっています。運転講習などの研修もなかなか社員を集めて行うのは難しい。動画にすれば荷物の積み下ろしを待っている時など、すき間時間に見られる。人的資本経営という言葉もありますが、会社が社員の健康面も支援してパフォーマンスをいかに高めるかが非常に重要な時代が来ている。車は車検などで不具合があれば修理するのに、人間は健康診断で悪い結果が出てもそこのケアはしていないと思って、日々の運行点検のように社員の健康と安全もチェックしなければと考えています」
こうした働き方改革の効果は、社員の年齢構成の面にも表れている。10年前は20~30代の社員は1人しかいなかったが、いまでは社員の3分の1が20~30代になった。さらに以前は10%以上だった離職率も5%を切っている。「社員のストレスチェックを実施しているが、メンタルに問題があったり、人間関係で会社辞めたりという社員もいなくなり、新入社員の定着も非常にいい」と自信を深めている。
社長は「改革を始めて10年になるが、一つ一つ目の前の課題を解決していくことを積み重ねたのが、線としてつながったように感じている。2024年問題が注目されていることを逆手に取って、こうした取り組みを発信していきたい」と語り、SNSを使って会社のありのままを紹介する動画を公開しながら、さらなる改革を目指している。