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自治体の取組

教職員の過重労働防止対策事例

埼玉県教育委員会(さいたま市浦和区)

教育委員会

働き方改革に取り組む埼玉県教育委員会。「日本一働きやすい」教育現場を目指す

公立の小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校に約4万人が勤務する埼玉県。県教育委員会は令和元年度に「学校における働き方改革基本方針」を策定し、教員の業務負担を減らすことで長時間勤務を解消する取り組みを進めてきた。文部科学省が規定した公立学校教師の勤務時間の上限に関するガイドラインに則して、在校等時間の超過勤務の上限を、「原則月45時間以内、年360時間以内」とする目標を掲げたが、計画最終年となる令和3年度までに達成できなかった。

小中学校教員の6割超が
月45時間以上の「超過勤務」状態

県教育委員会が実施した勤務実態調査によると、令和3年6月の時間外在校等時間(いわゆる超過勤務に相当)が月45時間を超えた教員の割合は、小学校61.8%、中学校69.3%、高等学校41.1%、特別支援学校24.3%。平成28年6月と比べると、それぞれ10~19ポイント減り一定の改善はみられたものの、小・中学校では依然6割を超える状況が明らかになった。

調査内容から見えた超過勤務が起きる要因について県教育委員会の教育長は4点を挙げる。「一つ目は授業準備や部活動が勤務時間外にならざるを得ないこと。二つ目は書類作成や調査回答など授業と直接関係のない作業が多く存在すること。三つ目は小・中学校と特別支援学校では週当たりの授業時間数が多いことです。授業時間が教員一人当たり週25時間を超えるケースもあるため日中に授業のない時間がなく、残業して書類作成などをしている。そして4つ目は週休日の部活動です」

教育長

県立高等学校長の教育現場を経て令和5年6月に就任した教育長

そうした実態を踏まえて県教育委員会は、「学校における働き方改革基本方針」を改定。引き続き働き方改革を推進し、学校教育の質の維持向上を図ることを目的に、令和4年度から3か年の目標として、時間外在校等時間について「月45時間以内、年360時間以内の教員数の割合を令和6年度末までに100%に」を掲げた。加えて、「『日本一働きやすい』『埼玉の先生になりたい』と言われる埼玉県を目指す」ことを宣言。前基本方針にはなかった100%の数値目標と、「日本一」といったわかりやすいメッセージを新たに打ち出した。

その意図を教育長はこう語る。「県教育委員会として働き方改革に取り組む決意を表すためです。基本方針を改定した前教育長も本気度を示そうと言われていました。現場の先生方はいろいろな役職を抱え、効率的に仕事ができない悩みを持ちながら結果として長時間勤務になっている。その改善には具体的な取り組みとともに、トップリーダーが強い姿勢を見せることがとても大事だと思います」。加えて改革は、将来の人材獲得においても重要だと話す。

新基本方針では、この目標達成に向けて県と市町村、学校が一体となって取り組む「4つの視点」を挙げている。
①教職員の負担軽減のための条件整備、②教職員の専門性を踏まえた総業務量の削減、③教職員の健康を意識した働き方の推進、④保護者や地域の理解と連携の促進とあり、中でも①と②に重点を置くこととした。4つの視点で進める具体的取組は、小・中学校で56項目、高等学校と特別支援学校で65項目に上る。これらの取組は県教育委員会の各課長らでつくる「フォローアップ委員会」で議論してとりまとめた。「働き方改革への意識を組織全体で共有するため、ボトムアップ体制で臨んだ」と教育長は話す。

中学校は朝練原則中止、
高校はデジタル対応を推進、
県からの調査本数25%削減も

その具体的な取組のうち、超過勤務者の割合が最も多い中学校で期待するのは、部活動の朝練習の原則取りやめだ。令和4年度から市町村教育委員会に協力を働きかけた結果、令和5年2月時点で約75%の中学校が中止または中止の方向で動いている。また、中学校の部活動指導員を令和4年度の84人から令和5年度は108人に増員する。小学校では、学級の枠を超えて特定教科の授業を行う専科非常勤講師を新設するなどして担任教員の持ち時間数の削減を図っている。さらに小・中学校で教員の事務作業を支援する教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)を拡充。令和4年度の417校から令和5年度は435校に配置を増やす予定で、小・中学校では人的支援を中心とした対策に取り組んでいる。

一方、高等学校と特別支援学校では、「デジタル機器の活用で業務負担軽減を図っています」(教育長)。協力校の高等学校に対し、定期テストの答案をスキャンして採点する「デジタル採点システム」を試験的に導入するほか、紙の文書を電子化して一元管理する「ペーパーレス支援ソフト」を、令和5年度内に全ての県立学校の教員に配布 。文書類の回覧や決裁を効率化し、共有や保管作業の負担軽減につなげる。また、「超過勤務を減らすためには実態の数字をしっかりと『見える化』することが大事」と教育長。すべての校種でICカードなどを使って出退勤時刻を記録しているが、県立高等学校と特別支援学校については県教委も出退勤データが閲覧でき、超過勤務者の多い学校については校長への助言などを行っている。

業務改善

取組効果をわかりやすく集約した「業務改善スタンダード」の小学校(右)と中学校版

県教育委員会が主体となった取組としては調査本数の削減がある。県教育委員会各課が各学校へ依頼する年間の調査本数を、令和6年度までに令和3年度比で25%減らす目標を盛り込んだ。各課でどのような調査を行っているか洗い出して整理し、廃止や統合、回答の簡略化による効率的な調査方法に変えている。この取組は前基本方針にもあったが、調査回答に要する「所要時間を減らす」としていた。そこを具体的な削減割合を示して実効性のあるものに改定。全校種への調査本数は令和3年度232本だったのに対し、令和4年度は1割減の209本に抑えた。

新基本方針では、何から取り組めば良いかを現場にわかりやすく伝える工夫もした。小・中学校で56項目、高等学校と特別支援学校で65項目の取組それぞれに、1つ星(☆)から3つ星(☆☆☆)を付け、勤務時間を縮減する効果の高さを、星の数の多さで示して見せた。加えて、「県が推奨する10の取組」を紹介したリーフレット「埼玉県業務改善スタンダード」を校種別に作成、管理職に配布した。効果が高い10の取組について、実践するとどれだけ業務時間が縮減できたかを具体的なエビデンスを示して推奨する。

町や学校も独自に推進、
時間外の留守電導入、
PTAの組織改革で業務軽減

県教育委員会の方針を受け、各市町村の小・中学校でも取り組みを進めている。生徒数約680人、教職員約50人の杉戸町立杉戸中学校では令和元年度に、朝7時半から30分間行っていた部活動の朝練習を、大会までの2週間以外は中止にした。また、すべての部活動を主担当と副担当による2人顧問制にして負荷を軽減し、交替で休める環境をつくった。時間管理も徹底し、原則8時から16時半の勤務時間のところ、多忙で20時を過ぎそうな日は事前に管理職に声をかける決まりにした。

杉戸町教育委員会が主体となって導入したのは、町内9つの小・中学校への留守番電話の機能だ。18時から翌朝7時半までの緊急連絡先を町教育委員会の電話に一本化することで、時間外の電話に応じていた教員の負担軽減を図る。杉戸中学校の校長は「保護者からの相談などで18時以降の電話は1日数十件ありました」。町教育委員会が保護者に向けたリーフレットを作成し、緊急連絡先の周知と教職員の働き方改革への理解を促した結果、「変更への問い合わせや不満の声はほとんどありません」(杉戸町教育委員会)という。

校長と教頭

杉戸町教育委員会と連携して改革を進める杉戸中学校の校長(左)と教頭

教員の負担軽減につながった杉戸中学校独自の取り組みもある。PTAの組織改革だ。PTA会長、副会長以外の役職と、運営や生活安全などの委員会組織を廃止。保護者は年に1回はどれかの学校支援活動に参加する形に変えた。組織改革はPTAからの提案を受けて学校も連携して取り組み、令和4年度から新体制になった。保護者は役員決めの負担感がなくなったことを歓迎し、学校も「各委員会活動に担当教員が付いて打ち合わせや作業にあたっていた時間がなくなりました」(教頭)。令和5年春の除草作業には100人を超える保護者が参加。改革がPTA活動の活性化にもつながっているという。

教員の負担軽減に関する一連の取り組みを通じて、校長はこう話す。「仕事とプライベートのバランスをしっかりと取ることで先生方は心身の健康が保てます。それが授業の質向上や指導力を高めることになる。教員の働き方改革は、子どもたちにより良い教育を行うためにあると考えています」

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