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企業の取組

エリア保健師などの積極的関わりによる
従業員の健康保持対策事例

ニチレイ(東京都中央区)

ニチレイ

冷凍食品最大手のニチレイグループでは、チャーハンなどおなじみの冷凍食品の製造・販売のみならず、低温物流や素材調達、バイオサイエンスなど、幅広い事業を展開し、国内約300の拠点を持ち、海外にも進出している。従業員数は1万6385人(令和6年3月末現在)に上り、同社では「従業員の現役死亡をゼロにする」を目標に掲げ、多様な労働環境に寄り添った健康推進の施策を行っている。

経営層も従業員の健康管理を重要視し、体制強化

「働きがいの向上」は従業員の健康がベースにある――。平成17年に持株会社体制に移行したニチレイグループでは、平成27年ごろにはがんや生活習慣病で亡くなる従業員が増加傾向で、従業員の血圧、血糖、脂質の有所見率も高かった。こうした状況を経営層が重く受け止め、「健康経営」を重要な経営課題として捉え、専任部署として人事総務部内に「健康推進グループ」を新設。翌年には「『おいしい瞬間を届けたい』、その想いを大切に、ニチレイグループで働く一人ひとりの健康づくりに取り組みます」とする「ニチレイグループ健康宣言」を制定し、社内外に発信を始めた。持株会社に最高健康推進責任者、グループ内の各事業会社に健康推進責任者・担当者を任命し、全社を挙げて健康管理を取り組む体制を整えた。

平成30年には「健康推進グループ」を「ニチレイ健康推進センター」に改組。令和6年度からは保健師7人と事務職員7人を擁す「ウェルビーイング経営推進室」と名前を変え、さらに体制を強化した。室長は「事業会社ごとに業種もカラーが違うが、横断的に『健康経営』に取り組む必要がある」と強調する。

経営推進室長

「健康経営が重要」と語るウェルビーイング経営推進室長

「エリア保健師」で全国の従業員を切れ目なく支援

国内に約300もの拠点があるため、規模も労働環境もさまざまだ。産業医専任義務のある大規模な事業所や工場だけでなく、数人で構成される拠点も多い。そのため、地方の小規模な職場でも、保健師のケアが行き届く「エリア保健師」の仕組みを作った。室長は「全国どこでも同レベルの健康推進サービスを受けられるようにしたい」と力を込める。

現在は7エリアのうち、東北、関西、九州に「エリア保健師」(首都圏は、本社の保健師が担当)がおり、今後、すべてのエリアに保健師を配置することを目指している。保健師は、従業員との面談や、高ストレス者や復帰復職者への対応、生活習慣改善や卒煙などの保健指導などを行う。同室の統括保健師は「ドライバーや工場のライン勤務、研究職など職種が多様で、働き方も違い、事業所ごとに健康課題が異なる。地域によっても、食生活や塩分量、飲酒習慣や通勤方法も違うので、エリアごとに保健師がいることで、状況に応じたアドバイスを届けやすい」と話す。

地方の小規模な事業所では、健康診断でハイリスクと診断されなかった従業員も含めた「全員面談」を行うこともある。生活習慣病の重症化を防ぐ面談だけでなく、子育てと仕事のバランスのとりかたや、不妊治療の相談なども寄せられる。面談を受けた女性従業員は「初めて職場で悩みを話すことができた」と話している。

保健師と面談する従業員

保健師と面談する従業員

「ニチレイ健康塾」でヘルスリテラシー向上

また、生活習慣病予防や、従業員の健康作りを目的に、平成28年から体験型健康支援プログラム「ニチレイ健康塾」を開催している。従業員の健康に関する悩みや困り事に基づくテーマも設定し、健康への意識向上を促す。

例えば、24時間稼働している低温(冷凍)の物流倉庫などでは、交代勤務で従業員が働いている。そのため、深夜に働く人に向けた健康塾を企画し、1日3回、30分のみのオンライン講座を開くことで、業務の合間に参加しやすい形にした。

保健師と面談する従業員

ニチレイ・アイスの大泉アイスプラント(山梨県)で開かれた「ニチレイ健康塾」

健康塾では、血糖値などに響きにくい食事の仕方やタイミング、睡眠の質を高める工夫などを学べる。「仕事前にしっかり食べ、仕事の後はお鍋などのヘルシーな料理を食べる」「(深夜働いた後)日中に帰宅するときはサングラスをかける」など日常に取り入れやすい具体的な行動を伝えているという。参加者は「仮眠をとることの重要性が理解できた。座ってできるストレッチの時間は有意義だった」などと振り返る。

また、ニチレイは平成元年にカロリーや塩分の量などに配慮し、当時の国の成分基準をクリアした「糖尿病食」の販売を始めた歴史がある。現在はそのノウハウを応用して、主菜と3~4種の副菜で300キロカロリー以下、塩分2グラム以下で、野菜100グラム以上を使用した冷凍おかずセットを展開しており、このセットを活用した健康塾も開いている。ウェルビーイング経営推進室のアシスタントリーダーは「食べる量や品数、味の薄さを感じない味付けや調理の工夫などについて管理栄養士に説明してもらっています」と話す。

健康宣言後、ニチレイグループでは、定期健康診断の受診率100%を達成した。健康診断では、結核の早期発見のためのレントゲン検診や、健康保険組合とのコラボヘルスでがん検診も同時に実施している。その結果、令和4年度の健診結果では、糖尿病で健康管理をきちんとしていない人の割合が1.8%から1.3%に低下、高血圧コントロール良好者の割合は40.6%から47.6%に改善するなど、従業員のヘルスリテラシーも向上した。

一方、健康診断で異常の所見が見られた従業員に対する「事後措置」を重視し、病院の受診をメールや電話などで積極的に促すようになったが、就業制限の検討が必要なE判定の社員が少なくなかった。そのため、令和3年から治療最優先の職場環境に変えようと、ハイリスク者に対し、「時間外労働、休日労働、出張」禁止の基準が設けられた。同室の統括保健師は「その結果、E判定者の早期受診率が上昇するなど、改善がみられた」と強調。室長は「今後は、ハイリスクになる手前の健康状態の従業員(健康診断でC、D判定)にも深くアプローチしていきたい」と話す。

海外駐在員、女性従業員…きめ細やかで多様な健康推進施策

ニチレイグループでは海外進出を進めており、現在では約90人の社員が海外で働く。今後、さらに海外展開を拡げる計画だ。そのため、保健師による赴任前、帰任時面談に加え、赴任中のオンライン面談を年1回行い、海外勤務ならではの健康課題の把握につとめている。昨年は、保健師らが「ホームドクター」制で医療にかかりにくいとされるオランダの事業所に訪問した。

メンタルヘルス対策としては、役職者約1600人を対象に「ラインケア研修」を必修化し、事例検討やロールプレイングを行っている。また、役職者間の横のつながりを持たせる取り組みや、eラーニングによるセルフケア教育の強化にも取り組んでいる。

女性の健康作りにも力を入れており、月経や更年期についてのセミナーを年4回開催するほか、婦人科医のオンライン診療が受けられ、診療後に必要な薬が自宅に送られてくる仕組みを導入している。この取り組みを通じ、従来の健康施策ではカバーしきれていなかった女性従業員のニーズに応えることができるようになったという。利用した若手女性従業員は「健康経営に関する施策は、BMIの高い中高年の男性に向けられているものが大半で、自分事になっていなかったが、(オンライン診療などで)助けてもらえたので、健康経営が初めて自分事になった」と語る。

従業員の健康維持に取り組むウェルビーイング経営推進室のアシスタントリーダーと統括保健師

従業員の健康維持に取り組むウェルビーイング経営推進室のアシスタントリーダーと統括保健師

室長は「ニチレイグループでは、女性の管理職比率30%を目指している。『女性が体調に左右されずに仕事の成果を出せる』あり方を目標として設定したが、自ら(体調について)相談したり、対処できたりする人が増えた」と手応えを感じている。

病院への受診や、体調に配慮した働き方、健康塾への参加などは、職場や上司の理解も不可欠だ。そのため、保健師やウェルビーイング経営推進室のスタッフなどが、当該従業員が働く職場の理解が得られるよう、環境を整える役割も果たしている。また、経営層の従業員への情報発信も活発で、社内向けポータルサイトでは、役員が自身の健康維持に向けた取り組みをつづるコラムを連載している。室長は「食と健康を支える企業として、従業員が年齢や性別にかかわらず心身ともに健康で生き生きと働ける状態を目指しています」と力を込めた。

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