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企業の取組

若手活躍の環境整備とICT活用による
建設業の働き方改革取組事例

成友興業株式会社(東京都あきる野市)

成友興業

今年で創立50年を迎えた成友興業は、公共工事などの建設事業のほか、工事現場から発生する産業廃棄物の処理・リサイクルといった環境事業も行っている。約25年前には10人だった従業員数が現在は216人(令和6年9月現在)、グループ全体で500人を超え、大きな成長を遂げている。当時弱冠29歳で先代から引き継いだ社長が打ち出した「若手の人材確保・育成」方針により、技術者の平均年齢が同業他社と比べても非常に若いのが特徴。建設業界の中でも比較的早くから取り組んできた働き方改革も、背景には社長の若手職員に対する深い愛情があった。

改革のきっかけは若手退職のショック

社長に就任した後、「これからは若手の人材確保・育成が必要」という信念から新卒採用に力を入れたが、平成22年頃は6人採用すれば5人が1年以内に退職するような危機的状態だった。愛情と期待をかけて採用した従業員が、現場に出ると従来の建設業の価値観の下で育てられ、耐えきれずに退職する。社長は「採用した子たちは全員自分の子どものようなもの。次々に辞めていくのは、内臓が引きちぎられるような思いで、非常にショックを受けました。」と振り返る。

「若手職員は会社の宝」と熱を込める社長

「若手職員は会社の宝」と熱を込める社長

問題視したのは「時間で稼ぐ」という建設業界の“当たり前”だった。「当時の中小の建築会社は、技術力による差別化があまり図られておらず、長時間労働や土日祝日に働くことで稼ぐという“アナログな生産性”を持つ業種・業界でした。私からみても、若い子たちが楽しいと思える仕事環境だとは思えませんでした」。働きやすい環境を整備すべく、建設業界の常識に切り込み、改革に着手した。

まず取り組んだのが週休2日制への取り組みだ。「土曜日は仕事」が常識の建設業界で、他社に先駆けて週休2日を導入、いまでは4週8休が当たり前になっている。当然、現場では天候やトラブルによってどうしても勤務しなければならない日もあれば、逆に休まざるを得ない日もある。

「下請け工事の仕事であれば、お客様の要望で難しい場合も当然あります。それでも、なるべくこちらで運営をグリップできる労働環境の中で仕事をしていきたいと思っています。代休ではなくて、計画的に休めないと意味がないんです。代休だと、旅行やイベントなどにも行けないじゃないですか。」と社長は力を込める。

休暇制度の改革はほかにもある。令和3年には柔軟に休みが取れるよう、時間有給制度を整備し、それまで入社6カ月後に付与していた有給休暇を入社時のタイミングに変更した。令和2年度には9.4日だった有給休暇の平均取得数は、令和6年度には12日と大幅に増え、名実ともに休みやすい環境が整った。

本腰を入れた働き方改革
「分業制」で労働時間削減

働き方改革の取り組みを本格的にスタートさせたのは平成26年。一番の問題は労働時間の管理ができていないことだった。職種ごとに基準となる労働時間を設け、上回りそうな職員が出た場合、管理部門からシステムを通じてアラートとメールが職員・上長に届くようにした。マネジメント層へのフォローも徹底して、過重労働を防いでいる。

さらに、労働時間そのものの短縮も目指した。着目したのは現場仕事の後にオフィスに戻ってから行う事務作業だ。1人でできる仕事量は決まっているので、労働時間を減らすには分業制にするしかない。これまで技術者自身が行っていた事務作業をバックオフィスの職員が担当することにした。はじめは「そんなの無理だ」という声も上がったが、きちんとした教育の成果もあり、いまでは「彼女らがいなければ仕事が回らない」と社長は胸を張る。このような取組の結果、令和6年度の平均残業時間は20時間と非常に短くなっている。

「休みます」と言える職場環境作りを支える制度

改革が進むにつれ、現場で働く職員の意識も変わった。長年現場で働いてきた建設事業部長は次のように語る。

「私も長らく“時間で稼ぐ”タイプで、『休みが無くても構わない』と思ってきました。段々と視野が広がり、『若手を辞めさせない』ことが会社にとっても非常に重要であると腹落ちしました。また、私自身が、結婚して子どもができて『運動会くらいは行きたいな』と思ったときに、効率よく現場の運営をして、しっかり土日に休めるようにしていかないといけない、若い子たちも堂々と『休みます』と言える会社になっていかなければならないと思いました。」

会社の風土の変化を感じたという建設事業部長

会社の風土の変化を感じたという建設事業部長

大きな変化を感じるのは「出産予定日なので休みます。」と言う若手の男性職員が増えてきたことだという。「私の時代からすると『そういうことが普通に言える環境になったんだ』と驚きますが、みんなが普通に休める環境を会社がきちんと担保できていることの証しだと思います。あと、ゴールデンウイーク明けなどに若い子たちがお土産を持ってきてくれたときに『ちゃんと休めたんだな』とわかって、ほっこりとした気持ちになります。」と笑った。

社長は「今の世代の子は適応能力が高く、心から納得すれば自分で深掘りして結果を出してくれる。大事なのは経営層が自分たちと異なる今の価値観に寄り添えるかどうかです。」と話す。若手でも休みをきちんと申し出ることができる環境の裏には、若手が働きやすい職場作りのための制度がある。年の近い職員に相談できるメンター・エルダー制度を整備しているほか、「若手職員は会社の宝」と言う社長自ら、若手とのコミュニケーションを積極的に図り、風通しの良い職場環境作りに努めている。

社長自ら若手の悩み相談にも乗り、密なコミュニケーションを取る

社長自ら若手の悩み相談にも乗り、密なコミュニケーションを取る

地道な改革の成果は数字にも表れている。同社の建設事業における平成29年4月入社の離職率は29%だったが、令和5年には10%まで低下し、「若手が次々に辞めていく」状況は過去のものとなった。それが明るくて活気のある企業イメージにつながっていると社長は実感している。

安全性にも寄与するICT活用
これからの建設業に込める期待

成友興業ではICTの活用も他社に先駆けて進めてきた。ドローンを使った3次元測量により、作業時間が40~50%ほど削減されたという。さらに、ICTの活用には労働災害の防止という面での利点もあると社長は強調する。作業効率・安全性の両面で、「重機の遠隔操作ができるシステムなども今後取り入れていきたい。」と語り、今後の建設業におけるロボティクス化など、技術革新に期待を込める。

「きつい」「苦しい」「休めない」とネガティブイメージの強かった建設業だが、国民の安心安全を守るインフラの根幹を形作る、社会貢献性の高い事業であるという社長の信念は変わらない。

「建設業はこれからもっと価値が高まっていく仕事だと思っています。その中で、活力、明るさ、風通し、イメージ……そのようなものを高めて、今働いている若手職員たちにはこれから入ってくる職員たちにとって輝かしくてまぶしい存在になってもらいたい。彼らが働きやすい環境を整備することが、私たち経営層の責務だと思っています。」と社長は語った。

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