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自治体の取組

多様な教育現場でのアクションプラン推進による
教職員の働き方改革事例

北海道教育庁(北海道札幌市)

北海道庁のレンガ庁舎

北海道庁のレンガ庁舎

北海道教育庁は、14管内計1400校以上の小中高、特別支援学校を所管し、各管内は他の都府県並の広大な地域に多様な規模の学校が点在する。少子高齢化、教育内容の多様化、そして社会全体のデジタルシフトなど、教育現場の変革は待ったなしの状況の中、北海道教育庁においては、平成30年から「学校における働き方改革アクションプラン」を策定し、教職員の労働環境改善に取り組んできた。

「勤務時間の客観的な計測」から段階的にアプローチ

「勤務時間を見える化していくことから始めた」と振り返る働き方改革担当課長

「勤務時間を見える化していくことから始めた」と振り返る働き方改革担当課長

教職員課の働き方改革担当課長は「学校現場を取り巻く環境が急激に変化し、教員に求められる役割や守備範囲が広がってきている。」と、働き方改革の必要性を説明する。教科指導に加え、いじめや不登校、発達障害支援、親の貧困問題など、福祉的機能まで求められるようになった結果、教員の業務は増加の一途をたどっているという。

改革の第一歩は「勤務時間の客観的な計測」から始まった。課長は「率直に言えば、そもそも勤務時間管理を徹底する意識が希薄だったかもしれない。」と語る。「子どものためであれば何でもやる。」という教職の精神が、長時間労働を常態化させていた実態が浮き彫りになる。「物理的・客観的に見える化していくことから始めた。」と振り返る。

第1期アクションプランでは、定時退勤日や学校閉庁日(年間9日以上)の設定、部活動休養日の導入、夕方5時半以降の電話対応の留守番電話化など、基本的な労働時間管理の仕組みを導入した。特に学校閉庁日の設定は100%達成という成果を上げた。これにより教職員は「休みが取りやすくなった」「働き方の選択肢が広がった」と実感し始めたという。

「チームとしての学校」への変革と多様な地域特性への対応

続く第2期では、「個の気付き、チームの対話、地域との協働」を副題に掲げ、より本質的な学校経営への変革を目指した。課長は「働き方改革はカリキュラム・マネジメントそのものであり、学校経営をするためには働き方改革を実装しなければならない。」と改革の意義を強調する。

この時期に特に力を入れたのが、学校種別ごとの「働き方改革の手引き書」の作成だ。主に執筆を担当したのは、2人の働き方改革担当主幹である。退職した校長の中から働き方改革のマネジメントに優れた人材として任用した職員である。「学校が自走できるようにすること」を目的とし、「働き方改革を実現するための8つの基準」を示すことで、各学校が主体的に改革を進めるための道筋を示した。

また、取組の一つとして実施したスクールロイヤー制度の導入は大きな評判を呼んだ。学校に対する法的なアドバイスを早期に受けることで、「初期対応でつまずくことがなく、精神的にも安定して問題に取り組める」と教職員からの評価も高いという。

そして現在の第3期では、「働きやすさ」に加え、「働きがい」の両立を重視している。課長は「働きやすさばかりを追求しても、働きがいという面では先生たちの満足度が損なわれる可能性がある。」と警鐘を鳴らす。ストレスチェックに働きがいを測る指標を取り入れるなど、定量的・定性的な評価にも目を向け、教員一人ひとりが「変わってきたと実感できる働き方改革」を追求している。さらに、長時間勤務となっている副校長・教頭の業務縮減にも重点的に取り組むこととして、「副校長・教頭マネジメント支援員」を試行的に配置。元校長などが教頭等を補佐し、他の教員の育成や指導に注力できる体制整備を検証している。

「北海道の中に日本がある」と取組の特徴を語る働き方改革担当課長補佐

「北海道の中に日本がある」と取組の特徴を語る働き方改革担当課長補佐

北海道教育庁の取り組みの最大の特徴は、北海道の広大さと多様な地域特性への配慮だ。働き方改革担当の課長補佐は「北海道の中に日本があるという表現をすることもあります。」と語り、「都市部の学校から全校生徒が5人程度の極小規模校まであるので、地域の実情に合わせたきめ細かな支援が必要。」と強調する。今年から設置された「働き方改革支援チーム」は、支援が必要な学校に直接赴き、個別の課題解決に取り組むなど、「他の自治体にはあまりない機動的な体制」で対応している。

これまでの取り組みの成果としては、一定の在校等時間の縮減や年次有給休暇取得率の向上が挙げられる。一方で、依然として精神疾患による休職者が増加しており、精神疾患を起こさないようにするためにどのようにすれば良いか、試行錯誤する状態が続いているという。

推進校・札幌北陵高校の挑戦 最大の難関は「部活動改革」

生徒数約900人の北海道内有数の大規模校である札幌北陵高校は、令和6年から働き方改革に積極的に取り組む「推進校」に指定された。副校長は、「当校では、改革前から長時間労働が常態化しており、保護者からは『部活も頑張ってほしい、進路実現もしてほしい。』という要望が強く、それに応えようとしていた。」と語る。

まず、ICTの活用については改革前からも力を入れてきた取組であり、生徒には1人1台のiPadを導入し、教員間のコミュニケーション、生徒の課題提出、出席管理などをシステムでデジタル化して、「会議の完全ペーパーレス化」を推進してきた。担当の主幹教諭は「印刷機の前に立つことがほとんどなくなり、遥かに楽になった。」と、その効果を実感している。また、テストの採点を支援するシステムの本格導入により、採点業務の効率化も図られている。「非常に便利」と主幹教諭も評価するが、一方で効率的な作業のためには各教員のテスト形式を一定程度統一する必要があるため「全教員がICTを活用できていないため効果が半減している。」といった課題も残る。

「働き方改革の内容はほぼやり尽くした感がある」という副校長

「働き方改革の内容はほぼやり尽くした感がある」という副校長

最も難しい課題として浮上しているのが「部活動」だ。「働き方改革の内容はほぼやり尽くした感があるが、唯一手をつけられていないのが部活動の部分。」と副校長は吐露する。全国大会に出場する部活動も多い北陵高校では、教員の専門性が非常に高く、複数顧問制を導入しても専門知識を持つ顧問に負担が集中しがちだという。外部指導員の活用も進めているが、予算と人材確保の難しさ、そして土日の試合がある際の保護者の期待など課題は山積している。主幹教諭は、「部活動に熱心な教諭は、自分のやっていることに自信をもっているので、なかなか変わらない。」と意識改革の難しさも指摘する。だが、主幹教諭が顧問を務めるバスケットボール部では、複数顧問制を導入、北海道の「部活動の方針」に合わせ平日2時間以内、休日3時間以内の活動時間制限、週1回の活動に留めるといった改革を実施。教えすぎず生徒の自主性を促す指導で、教員負担軽減と指導の両立を実現しているという。

同校では、改革を進めるに当たって、当初「働き方改革推進チーム」を設置したが、副校長は「働き方改革のために新たなチームを作って会議を増やすのは本末転倒ではないか。」と感じ、現在は既存の経営企画会議の中で議論するように変更した。若手教員への支援にも力を入れている。新規採用教員が孤立しないようメンター制度を導入し、先輩教員が相談に乗る体制を整備。「帰りやすい雰囲気作り」にも取り組み、夏季休業期間の学校閉庁日を従来の3日間から5日間に拡大するなど、休暇取得を促進している。教員からは、「ICT活用や採点システムの導入については業務的・意識的に変化を感じている。」という声がある一方で、「働き方改革は本当に進んでいますか?」という声もあったといい、取組は道半ばである。

「採点システムで業務が効率化した」と語る主幹教諭

「採点システムで業務が効率化した」と語る主幹教諭

しかし、「社会全体において働き方改革への理解が進んでいること」は、教育現場の変革を後押ししてくれている。副校長は「勤務時間終了後に苦情電話があった場合でも『緊急でなければ今は対応できません』と伝えると、『働き方改革ですもんね、仕方ないですね』と理解してもらえるようになった」と、社会の意識の変化が現場の負担軽減に繋がっていることを示唆する。

教員の厳しい働き方が国会で取り上げられる現状で、教員を目指す若者を増やすためにも、働き方改革は喫緊の課題だという。北海道教育庁では、教員の使命感と熱意を尊重しつつ、持続可能な働き方を実現するためのバランスを取って、教職員一人一人の「働きがい」と「ウェルビーイング」の追求を続けている。

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