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企業の取組

時間外労働の上限規制適用猶予業種・業務に係る働き方改革の取組事例

平和建設株式会社(広島県福山市)

平和建設

戦争の惨禍を経て平和建設に改名。200年企業を目指す

明治15(1882)年に岡田組として創業し、141年もの間、広島県福山市内に本社を置き、土木・建築工事業を営んできた平和建設株式会社。社員33人、嘱託とパート・アルバイト8人が勤務する。代表取締役常務(31歳)が働き方の見直しに着手したのは平成29(2017)年、6代目社長の父から指名されたことがきっかけだった。

会社が目指す姿を社員に伝えることから
改革はスタート

「国が進める働き方改革を受けて、社長から社内の改革をやってみろと言われて始めましたが、社員に働き方への意見を募るアンケートを行っただけで、最初の1年間は何もできませんでした」。常務はそう振り返る。働き方を自己管理する職人気質の社員たち。工期に間に合わせるために残業や休日出勤が多い状況など、改善すべき課題は見えていた。だが、組織改編など過去何度かあった「改革」がうまく進まなかったこともあり、「またか」といった空気を社内に感じ、「私も本気になれなかったので、協力者もいなかった」と明かす。

何からどう取り組むべきか悩んだ末に頼ったのが、広島県の支援事業だった。働き方改革に取り組もうとする県内中小企業にコンサルタントを派遣する事業に参加し、平成30(2018)年度の1年間、専門家の助言を得ながら進めることにした。

常務

「働きがい改革」への取組を進めてきた常務

まず取り組んだのは、目指す会社の姿を社員に対し明確に示すことだった。「どんな会社にしようとしているのかわからないという声が上がったので、具体的な改善策に取り組む前に、社是として掲げる『インテグリティ(誠実性)』とはどういうものか、社会やお客様に対して従業員が取るべき行動指針などを小冊子にまとめて配りました」。会社のミッションやビジョンを「見える化」し、朝礼や部会を通して伝え、同じ目標をもつことから始めた。

働き方の見直しの1歩目として、労務管理システムを導入した。机上のパソコンや出先の現場からスマホを使って出勤、退勤時にボタン入力する。それまで出退勤時刻はExcelに入力して毎月提出していたが、提出日近くになって過去にさかのぼって入力する社員も見られたため、労務管理システムで正確な労働時間を把握するようにした。

週休2日を確保する
「チャレンジ現場」、
「Wありがとう制度」の独自策

週休1日がいまだ多く残る建設業界にあって、週休2日を基本とする「チャレンジ現場」にも取り組んだ。休日増で工期が多少長くなることを発注元にも理解してもらい、週休2日を念頭に置いた施工スケジュールを組んでいる。その一方で、現場作業の効率化を推進。黒板を使って工事現場を撮影し報告する作業の手間と時間を減らすため、工事写真の撮影管理専用タブレットを4台導入した。加えて、定年退職後に嘱託社員として再雇用した「マイスター」に土曜日の出勤をお願いして、社員の休日を確保しつつ、工期短縮に努めている。

さらに有給休暇の取得を促す工夫も。1日につき1枚使う「有給休暇チケット」をつくり、各人に5枚配布した。「紙のチケットを渡すことで有給休暇を『見える化』し、使い切る環境をつくろうと思いました」。また、振替休日の取得促進策として社長が命名した「Wありがとう制度」も始めた。休日出勤した後に振替休日を取ったら、3,000円の手当を支給する制度だ。「早い完工を目指して休みの日に働いてくれて『ありがとう』というお客様からの感謝と、健康管理に気を付けて振替休日を取ってくれて『ありがとう』という会社からの感謝を兼ねた制度です」。令和4(2022)年度の振替休日の取得日数は全体で133日、計約40万円の手当を付与した。

こうした取組によって社員の年次有給休暇取得率は、改革前の平成29年度に25%だったのが平成30年度は42%、最新の令和3(2021)年度は44.4%に上昇。月平均の所定外労働時間は平成29年度の30時間から平成30年は6.8時間、令和3年度も11.4時間に抑えられている。

演奏活動

入社5年目の社員(写真左)は仕事と演奏活動を両立させる

平成31(2019)年に入社し、5年目を迎えた社員(23歳)が、良いと感じる社内制度として挙げたのは、Wありがとう制度だ。「社員に対しての厚い配慮を感じるからです」。会社が働き方改革に本格的に取り組み始めたころの入社組。「先に働いていた高校の先輩からも、休日が取りやすいと聞いていました。働き方についても時代の移り変わりに対応している会社だという印象がありました」と話す。

小学2年生から和太鼓を続け、チームで演奏活動をしている。毎週金曜日の夜に集まって練習し、子どもたちにも教えている。「残業が少ないので、毎週休まずに練習に出られます。演奏が続けられる働き方も会社選びのポイントでした」と言う。

「働き方改革」よりもっと大事な
「働きがい改革」

同社は、福山市内の製鉄所内に、所内設備の修理・保全業務にあたる事業所も構える。同事業所に常駐する所長(43歳)は、週休2日の方針に、当初はどう実現させるか悩んだという。事業所勤務の社員は8人。その半数が20代で経験が浅く、一人ではまだ現場を任せられなかった。「会社に増員を求めましたが、すぐに人が採れるわけではない。当時、副所長だった私がサポートに入るなどして週に2日休めるようにしていました」と振り返る。そこから取り組んだのは、一人ひとりが担当以外の業務知識を身に付けることだった。担当者の不在や多忙なときに誰もがカバーできる応援体制を築くことで、全体の残業時間を減らし、休日を確保してきた。

そして、所長の立場で心がけたのは、部下が有給休暇を申し出たとき、「いいよ、休んで」と軽く返す声かけで、若手が言いやすい雰囲気をつくることだという。自らも趣味のオートバイでのツーリングのため平日に有給休暇を取っている。「休みやすい環境のレールを先輩が敷くこと。それが働き方改革には必要だと感じます」

事業所長

「ノンストレスで効率よく」が一番良い働き方と話す事業所長

コンサルタントから助言を得ながら、平成30年度に社内の働き方を見直し、諸制度を作ってきたが、「有給休暇チケット」は最初の1年で終えたという。その年に有給休暇取得率が大きく伸び、その後も定着したことで、上司に休みを切り出しにくい雰囲気が解消できたからだ。「会社が本気で取り組みさえすれば、変化はすぐに表れることがわかりました」と常務は話す。

令和6(2024)年度から建設業にも時間外労働の上限規制が適用される。「働き方改革」というより、「働きがい改革」を目指してきたと話す常務は、これまでの経験から、改革を進めようとする同業者にこうアドバイスする。「休んでください、残業はしないでと言って、新たな働き方を強いるのではなく、働きやすくなった、自分にとってメリットがあったと、みんなが『働きがい』を実感できること。そうした環境をつくることが、社員の協力を得るためにも一番大事なことだと思います」

小冊子

会社が目指す姿を記した常務所有の小冊子。常に携帯している

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