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企業の取組

「技術は人を幸せにするためにある」
AIとナラティブで挑む物流現場の働き方改革

有限会社石田運輸商会(秋田県大館市)

有限会社石田運輸商会(秋田県大館市)は、秋田県産の農産物の首都圏への輸送などを担う物流会社だ。往復約1,200キロを超える長距離輸送はドライバーへの身体的負担が大きく、過労死リスクと隣り合わせの環境にあった。

石田運輸

「2024年問題」を契機としたトップダウンの改革

石田義光社長は、時間外労働の上限規制が強化される「物流の2024年問題」を見据え、2019年ごろから改革に着手した。「運べなくなったら困る。まずは自分たちの運行状態を把握しなければならない。」と考え、GPSを活用した動態管理システムを導入した。

「中小企業では現場からDX化をやりたいと声が上がるわけではなく、トップダウンで進めるしかなかった。荷主が何か改善してくれるのを待っていたら始められないので、まずは自分たちでできることからスタートした。」と石田社長は振り返る。

元エンジニアで自らシステムを開発した石田義光社長

元エンジニアで自らシステムを開発した石田義光社長

元エンジニアの社長自らがシステムをプログラミング

同社の運行管理者はわずか2人。限られた人員で日々の労務管理を徹底するため、石田社長は「社内Gメン'24」というプロジェクトを立ち上げ、自社独自の運行管理システムを構築していった。

この改革において大きな強みとなったのが、石田社長自身の経歴だ。石田社長は元電機メーカーのエンジニアという異色の背景を持つ。その専門知識とノウハウを生かし、市販のシステムをそのまま導入するのではなく、自らプログラミングを行って独自のシステムを開発した。

構築されたAI解析支援システム「ロボG」は、動態管理システムから得られる膨大なデータから、運転時間や拘束時間、休憩時間、深夜時間などを自動で集計する。そして、法令基準に照らし合わせて「◎・〇・△・▲・×」の5段階で評価し、運行状況を瞬時に客観化する仕組みを完成させた。

AIが語りかける「なられぽ」でドライバーの意識を変革

石田社長が開発したシステムの画面

石田社長が開発したシステムの画面

しかし、導入当初は現場からの反発もあった。入社33年目で事務を担当する米沢孝子さんは、「最初はアラート情報を基に『ここを改善してください』と直接指摘していましたが、どうしても『怒られている』『注意されている』と受け止められがちでした。『なんでダメなんだ』『おまんま食い上げになる』と言われたこともあります。」と苦労を明かす。

そこで石田社長は、エンジニアの視点からさらにシステムを改良し、AIによる解析結果を物語的な表現に変換して伝える「ナラティブ運行レポート(通称・なられぽ)」を開発した。

石田社長はAIに対し、「あなたは運行管理者です。まずはねぎらい、良いところを褒めてから改善点を指摘しなさい。」と細かくプロンプト(指示)を設定した。「なられぽちゃん」や「告示くん」といった親しみやすいキャラクターを通すことで、「怒られている」から「安全に働くための改善」へと、ドライバーの受け止め方は劇的に変化した。

「監視」ではなく「見守り」。自発的な休息へ

事務を担当する米沢孝子さん

事務を担当する米沢孝子さん

事務担当の米沢さんは現場の変化について、「以前は『次、どこで休めばいい?』といちいち電話がかかってきていましたが、今ではドライバー自身が自分で判断して休憩を取れるようになり、そういった電話は一切なくなりました。会社に帰ってきた時も、以前のような疲労困憊(こんぱい)した顔ではなく、ニコニコと明るい表情で帰ってくる場面が増えました。」と笑顔で語る。

石田社長も「ドライバーに『監視されている』と思われたら嫌ですよね。これは健康で無事に帰ってくるための『見守り』のシステムなんです。」と強調する。

「エントロピー」の概念を応用した独自の疲労指標

同社の改革のユニークな点は、石田社長が学生時代やエンジニア時代に学んだ熱力学の「エントロピー(乱雑さ)増大の法則」を運行管理に応用していることだ。石田社長は「何もしなければ世の中はどんどん散らかっていく。物流現場も同じで、運行管理を怠ればスケジュールは乱れ、疲労が蓄積し、いずれ重大な事故につながる。乱れる前に手直しをすることが重要だ。」と説明する。

この考え方に基づき、運行の安定感や疲労の度合いを客観的な数値として可視化する独自の指標「ForceScore(フォーススコア)」を自作した。人がきちんと関与して修正が効いている状態をスコア化することで、ドライバーの過剰な頑張りや運行の乱れを未然に防ぎ、3年連続の無事故・無違反という成果につなげている。

エビデンスを武器にした荷主との対等な交渉

システムによって得られた客観的なデータ(エビデンス)は、荷主との交渉においても強力な武器となっている。「夜中に荷下ろしをすると法令違反になるため、順番を入れ替えて朝に下ろせるようにしてほしい。」といった具体的な改善案を、データを示しながら提案する。

石田社長は「最初は『なぜそんなことをするのか』と不思議がられますが、データを使って理由を説明すれば、荷主も理解して協力してくれます。運送会社だけの努力ではなく、荷主も含めて改善していくことが不可欠です。」と語る。

石田運輸商会のトラック

石田運輸商会のトラック

「技術は人を幸せにするためにある」

地方の中小物流企業でありながら、元エンジニアの技術と独自のアイデアを駆使して働き方改革を推進する石田運輸商会。その根底には「技術は、人を幸せにするためにある。」という確固たる理念がある。

「ドライバーを疲れさせず、無理な運行をさせずに、長く健康に働き続けてもらうことが一番の目的です。このクリーンな労働環境を広く発信し、新たな人材の確保につなげていきたい。」と石田社長は先を見据える。

過労死を防ぎ、地方物流を持続可能なものにするための「人にやさしいAI運行管理」の挑戦は、これからも続いていく。

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