概要情報
事件名 |
オリエンタルモーター(賃金差別) |
事件番号 |
東京高裁平成14年(行コ)第150号
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控訴人兼被控訴人(1審原告) |
オリエンタルモーター株式会社 |
被控訴人兼控訴人(1審被告) |
中央労働委員会 |
控訴人(1審参加人) |
全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部 個人12名 |
判決年月日 |
平成15年12月17日 |
判決区分 |
一審判決の一部取消し |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が組合員9名に対し、組合活動を理由として他の従業員と仕事上及び賃金上の差別的取扱いをしたことが、不当労働行為であるとして争われた事件である。 千葉地労委は、会社に対し、各組合員の等級、昇給及び賞与の是正並びに差別取扱いの禁止、ポスト・ノーティス等を命じ、中労委は、会社の再審査申立てに対し、初審命令を一部変更し、その余の再審査申立てを棄却した。会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合員X2に対する不当労働行為の成立を否定し、その他の組合員についても不当労働行為の成立する範囲を限定し、中労委命令のうち賃金等の是正に関する命令の一部及びポスト・ノーティス命令を取り消した。 これに対し、会社並びに中労委及び組合は東京高裁に控訴を提起したが、同高裁は、原判決中、組合員の賃金等の是正命令を取り消した部分の一部及びポスト・ノーティス命令を取り消した部分を取り消し、会社の控訴を棄却した。 |
判決主文 |
1 1審被告の本件控訴に基づき、
(1)原判決主文第1項(1)のうち、(亡)X3、控訴人(1審参加人)X4,同X5、同X6及び同X7に関する部分、
(2)原判決主文第1項(2)、
をいずれも取り消す。
2 前項による取消しに係る1審原告の請求を棄却する。
3 1審被告のその余の本件控訴を棄却する。
4 1審原告の本件控訴を棄却する。
5 参加人組合及び控訴人(1審参加人)らの本件控訴をいずれも却下する。
6 訴訟費用(略)
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判決の要旨 |
1202 考課査定による差別
等級、昇給及び賞与に関する不利益取扱いを主張する者は、当該組合員に対する低査定の事実のほかに、組合員以外の者と能力、勤務成績において同等であることを主張・立証することを要するが、当該組合員が自己の把握し得る限りにおいて、組合員以外の者と能力、勤務実績において劣らないことを立証すれば、同等であると推認することが許されるが、これを判断するに当たっては、不当労働行為が継続的、あるいは繰返し行われており、当該不当労働行為によって通常生ずるであろう影響により組合員の能力が正当に評価されず、勤務実績を積む機会を与えられなかった結果、勤務実績が悪化した場合には、その影響を除外する必要があるとされた例。
1202 考課査定による差別
再審査命令は、組合員に対する賃金上の差別を「不利益取扱」と認定するに当たり、組合員と組合員以外の者とを比較して能力、勤務実績が同等であるとの判断を捨象したものではないかとの疑問を生じさせるおそれがあるが、要は、上記の立証がされているかの問題に帰着するといえ、本件命令の文言をとらえ、直ちに取り消すべきであるとする会社の主張は認められないとした原判決は相当であるとされた例。
4838 申立ての承継
死亡した申立人の等級、昇給及び賞与についての不利益是正を求める利益は、経済上の不利益是正を求めるものであることから、同人の一身専属的なものとはいえず、相続の対象となり、同人の相続人に救済利益が認められるとした原判決は相当であるとされた例。
6221 不利益取扱い
本件において、会社は、組合及び組合員各個人に対し終始一貫して長期間にわたり嫌悪、敵視し、組合公然化後、本件組合員各個人に対し、仕事上の差別的取扱い等の極めて違法な不当労働行為を継続ないし繰返し行い、組合の弱体化等の政策を遂行してきたのであるから、特段の事情がないかぎり、それと密接な関係のある組合員の人事評価、査定においても、当然差別的取扱いをする意図が存在したものと認めるのが相当であり、このような場合、当該組合員が自己の把握し得る限りにおいて具体的事実を挙げて組合員以外の者と能力、勤務成績において劣らないことを立証した場合、会社から、当該組合員の能力、勤務成績が組合員以外の者より劣ることの具体的な反証がされない限り、低評価は、組合員であることを理由とする差別的動機に基づくものであり、当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であると事実上推定することができると言うべきであることから、本件の事実関係の下においては、審理過程における事実上の証明の必要性を会社側に負担させることは不当ではないとされた例。
6221 不利益取扱い
本件会社の立証は、本件組合員の低評価を基礎付ける悪しき勤務態度、仕事上のミス、欠勤等の事由について立証しようとするものであって、人事評価において不可欠な他の従業員との具体的な比較、標準分布上の位置付け等について個別的な立証を欠いているが、本件新賃金制度は、Dを標準分布の下から5%、Cをその次の15%とする等の相対的評価を旨とする制度であるところ、会社から組合員固有の低評価の事由及び他の従業員との比較における低評価、処遇等の事由が個別具体的に明らかにされない場合には、会社の組合及び組合活動に対する一貫した嫌悪、敵視政策の遂行と相まって、組合員に対する評価は差別的取扱いに基づくものであって合理的理由を欠くものと判断することになるとされた例。
1202 考課査定による差別
1302 就業上の差別
上記により本件組合員9名の人事考課の正当性等について判断すると、組合員X2を除くその余の者については、不利益取扱い及び支配介入を認めることができ、組合員X2については、賃金上の差別的取扱いによる不当労働行為は認めることができないものの、仕事上の差別的取扱いの限りでは、X2及び組合に対する不当労働行為を認めることができるとされた例。
6226 救済方法の適法性
本件組合員についてみると、賃金差別については、その事実が認められない者やその範囲が本件命令とは異なる者も存するが、仕事上の差別的取扱いは全組合員につき認められ、本件命令のポスト・ノーティスの文言のうち、「賃金等につき差別的取扱いをしてきましたが」という部分が右記認定と整合性を欠く文言であるとまではいえず、本件ポスト・ノーティス命令が、中労委の裁量の範囲を逸脱したものとはいえないことから、ポスト・ノーティス命令を取り消した原判決を取り消した例。
6226 救済方法の適法性
会社による仕事上の差別的取扱い及び賃金差別が認められ、会社が終始一貫して組合及び組合活動を嫌悪、敵視してきたことからすれば、本件命令で維持された仕事上及び賃金上の差別取扱いに関する不作為命令が裁量の範囲を逸脱したものものとはいえないとし、原判決を維持した例。
6320 労委の裁量権と司法審査の範囲
上記により本件組合員に対する等級、昇給、賞与の是正及びこれに基づく賃金差額の支払等を命じた本件命令について、その適否、労委の裁量の範囲等について判断し、原判決が取り消した命令の一部について取り消した例。
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業種・規模 |
電気機械器具製造業 |
掲載文献 |
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評釈等情報 |
中央労働時報 2004年5月10日 1028号 71頁 
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