概要情報
事件名 |
オリエンタルモーター(賃金差別) |
事件番号 |
東京地裁平成10年(行ウ)第197号
|
原告 |
オリエンタルモーター株式会社 |
被告 |
中央労働委員会 |
被告参加人 |
全日本金属情報機器労働組合千葉地方本部オリエンタルモーター支部 |
被告参加人 |
個人12名 |
判決年月日 |
平成14年 4月24日 |
判決区分 |
救済命令の一部取消し |
重要度 |
|
事件概要 |
会社が、組合員9名に対し、組合活動を理由として他の従業員と仕事上及び賃金上の差別的取扱をしたのは不当労働行為であるとして組合が千葉地労委に救済申立てを行い、同地労委は救済命令を発した(ただし、一部は棄却)。会社は、中労委に再審査を申し立てたが、中労委は初審命令の一部を変更しその余の再審査申立てを棄却する命令を発した。会社はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起していたが、同地裁は、救済命令の一部を取り消した。 |
判決主文 |
1(1) 中労委が、中労委平成5年(不再)第17号、同第18号事件について、平成10年8月5日付けでした命令の主文第Ⅰ項中、会社に対し、支部の組合員〔8名に関し、各年度の昇給及び賞与(うち3名については等級を含む。)について、計算し直し、是正に基づく賃金額と既払い賃金額との差額に年5分の利息を付して支払うこと(うち1名については退職金の差額支払を含む。)を命じた部分〕、をいずれも取り消す。 (2) 同命令中、主文第Ⅱ項を取り消す。 2 会社のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用(略) |
判決の要旨 |
1202 考課査定による差別
企業における人事考課は、年功序列的に行われ、経歴や職務内容を同じくする従業員であれば、一定年齢に達することにより同等の評価がなされる場合もなくはないが、一般には、人事考課は多かれ少なかれ能力主義的に行われ、経歴や職務内容を同じくする従業員であっても、その能力、勤務実績に応じて考課がされ、その結果として格差が生じる場合も少なくないから、労働組合の組合員と経歴や職務内容を同じくする組合員以外の者との間に人事考課に基づく格差が生じているからといって、それが当然に組合員に対する不利益取扱いであるとはいえない。 したがって、労働組合の組合員と組合員以外の者との間に人事考課に基づく等級格差、昇給及び賞与の格差が生じている場合には、当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績が同等であるのに当該組合員に対する査定結果が組合員以外の者の査定結果と比べて低いといえる場合であって初めて、当該組合員に対する「不利益取扱」があるといえるから、この「不利益取扱」を主張する者は、当該組合員に対する低査定の事実のほかに、当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であることを主張し、立証することを要するものというべきである。 この「当該組合が組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であること」の立証については、人事考課が年功序列的に行われている場合には、経歴や職務内容を同じくする従業員であれば、一定年齢に達することにより同等の考課がなされるものであるから、特段の事情がない限り、「当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等である」と推認でき、反証のない限り、「当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であること」の立証があったものと認めることができる。これに対し、人事考課が能力主義的に行われている場合には、そのように推認することはできないから、「当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であること」を直接立証する必要がある。
1202 考課査定による差別
「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成したことの故をもって使用者が当該労働者に対し不利益取扱をしたこと」は、使用者が、当該労働者が労働組合の組合員であること等の事実を認識し、そのことの故に当該労働者に「不利益取扱」をしようと意欲し、これを実現することであるから、使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたこと、当該不利益取扱いが労働組合の組織や活動に打撃を与えていることが立証できれば、当該労働者が労働組合の組合員であることないしは組合活動をしたことの故に当該不利益取扱いをしようとしたとの使用者の意欲を推認することができる。したがって、使用者は、これに対する反証として、当該労働者に対する人事考課が正当であるなど、当該労働者が不利益に取り扱われるだけの合理的理由が存することを主張、立証し、この「不利益取扱」が当該労働者が労働組合の組合員であること等の故ではないことを主張、立証する必要があるものである。したがって、使用者がこの反証をしないとき、又は、この反証に十分な理由がないときは、そのことと相まって、当該不利益取扱いは、当該労働者が労働組合の組合員であることないし組合活動をしたことの故であると認めることができる。
4302 組合員資格喪失者(含組合脱退・死亡)
救済申立てをした当該労働者が死亡した場合の承継手続きが定められていること(労働委員会規則三四条一項七号)からすれば、当該労働者の救済を求める利益は、それが当該労働者の一身専属的なものでない限り、その相続人によって承継することができるものと解するのが相当である。等級、昇給及び賞与についての不利益是正を求める利益は、経済上の不利益是正を求めるもので、経済的利益といえるから(いかなる等級に位置付けられるかによりその給与も異なるのであるから、等級是正を求める利益も経済的利益ということができる。)、一身専属的とはいえず、相続の対象と解するのが相当である。
1202 考課査定による差別
6355 その他
本件命令のこれらの救済方法は、本件命令が本件組合員について認定、判断した原告の不当労働行為の有無、程度を前提としていること、すなわち、本件命令が本件組合員に対する原告の人事考課が全て正当とはいえないと認定、判断したことを踏まえて本件組合員に対する救済方法を検討していることは、その説示に照らし明らかである。 しかし、原告が本件組合員にした人事考考課には不当といえない部分も相当あるのであるから、これら原告の本件組合員にした人事考課が一律に不当であることを前提としてされた本件命令の具体的救済方法(X1に対するものを除く)は、その前提を誤り、救済方法として過ぎたものであると言わざるを得ない。
1202 考課査定による差別
6352 ポスト・ノーティス、文書交付命令
本件命令のポストノーティス、文書交付については、X1を除く本件組合員について不当労働行為が認められるのであるから、被告が原告に命じた文書手交の全ての部分が根拠を欠くとはいえないが、被告は本件組合員全員についてその全てが不当労働行為にあたることを前提として文書の手交・掲示を命じたと解されるから、これを取り消すのが相当であり、この取消を求める原告の請求には理由がある。
|
業種・規模 |
電気機械器具製造業 |
掲載文献 |
労働委員会関係裁判例集37集354頁 |
評釈等情報 |
労働判例 831号 43頁 
|