阿部氏:
テレワークという働き方を、従業員及び顧客とのエンゲージメント向上や企業業績向上につなげていくためにはどのような工夫が必要でしょうか。
まずは本事業で実施されたアンケート調査から多くのIT企業が課題と指摘した3つの項目、健康管理、人材育成、人材マネジメントに論点を絞り、今後の働き方改革の展望も含め、皆様方よりご意見をいただきたいと思います。
阿部氏:
まずは、健康管理についてお伺いします。
企業が安全配慮義務に抵触しないために、どのような配慮が必要でしょうか。
小鍛冶氏:
長時間労働是正のために企業が尽くすべき具体的な安全配慮義務として、最も重要なことは3つだと思っています。
1つ目は労働時間ないしは労働時間の状況の適切な把握とそれに基づく業務量の調整。
2つ目は上司のラインによるケア。
3つ目は健康診断と事後措置の確実な実施です。
コロナ禍においてテレワークが急速に進展し分散型の業務遂行になっても、この3つは変わらず重要です。
阿部氏:
続いて人材育成についてです。
コロナ禍のOJT研修、特に新入社員への研修とモチベーションアップに悩んでいるという意見を伺います。
対応策についてアドバイスをお願いします。
板矢氏:
今年度は新入社員への研修を完全にリモートで実施しており、カリキュラム自体はオンラインでも問題無く進むのですが、受講している本人の様子や日常のちょっとした変化を把握しづらい状況はありました。
そこで試行的にタレントマネジメントシステムを導入し、日々の気分を毎日5段階でチェックしてもらうようにしました。
気分が落ち込んでいる社員が増えた時期には、意図的にアイスブレイクの時間を長めに取る等研修を工夫していました。
来年度は、リアル・リモートでのパフォーマンスの高まり方を判断しながら、ハイブリッド式の実施方法を検討していきたいと考えています。
阿部氏:
従業員が自らの意志で学ぶ組織風土への変革の必要性も高まっているのでしょうか。
堀之内氏:
社員の意識や組織風土を改革する上で最も重要なことは、経営者自身がまずその意識と行動を変えることです。
新たな時代に向けて自社の経営理念、方針、ビジョンなどを見直し、必要に応じて刷新することも重要です。
そして、これまでの管理型・押し付け型のマネジメントから、いかに自立支援型のマネジメントに変えていくかが重要です。
つまり、社員が成果を出せる環境、あるいは成長できる環境をいかに会社が整備するかということになるかと思います。
阿部氏:
今後の働き方改革の展望についていかがでしょうか。
小鍛冶氏:
従業員の方が実際に健康を害すると、それがきっかけとなり様々な法的リスクが顕在化するのはよくあるケースです。
今後、我々が想像できないような、従来の枠に縛られないさまざまな働き方が出てくると思います。
各企業において、働くシーン、働き方によって従業員の心と身体の健康、特に心の健康が損なわれることのないような施策を常にワンセットで考えていく姿勢が大事だと思います。
堀之内氏:
働き方改革の本質は、仕事が楽になることや賃金・休日などの労働条件が向上することだけではなく、自分が成長したい、仲間との絆を感じたい、社会や組織に貢献したい等の人間の根源的な願いを実現することにあると思います。
そのような願いを叶えられる働き方をIT業界の皆さまがリードしていただけたら、その先に素晴らしい世界があると信じています。
板矢氏:
これから先は、”働きがい”に関しての改革を進めていくべきと考えています。
働き方改革を進めていくと、相反することが出てきているのも事実です。
例えば、安全衛生の観点で時間管理をしっかりと行う一方で、本人が自律して学習する自己研鑽の時間も必要になります。
色々な要素が絡み合うところは、経営層がバランスを取りながら、どれだけ従業員に腹落ちさせて事業運営していくかにかかってくると思います。