川副氏:
本日は、個人の働き方にまずは焦点を当て、その上で、受発注の協働関係や地域におけるこれからの働き方についてディスカッションしていきたいと思います。
初めに、企業として従業員のワーク・エンゲイジメントの向上や自律的なキャリア形成に向けて、取り組んでいること、もしくはこれから取り組もうとしていることがあれば、具体的なお話しをお伺いできますか。
山下氏:
キャリア形成に向けて、まずは会社が社員へキャリアゴールを示すこと、そしてその中で社員が自身の立ち位置を知ることが大切だと考えています。
当社としては、キャリアローテーション制度(自分の適性を見極めるために開発・運用業務を一定期間でローテーションする仕組み)、スキル認定制度(プロジェクトマネージャー等の9つの人材モデルとシステム開発の33の専門分野をもとに年に一度診断・認定を行う仕組み)、管理系職種の複線化(技術系の管理職のキャリアを加え、スキル認定制度と連動した仕組み)を整備しています。
さらに、今後自身のキャリアを考える場としてセミナー等の開催も検討していく予定です。
田邊氏:
従業員のワーク・エンゲイジメント向上等の前提として、まずは会社がやろうとしていることを示し、それに対する社員の考えと擦り合わせを行うことが重要だと思います。
当社で来年度から予定している代表的な施策の一つに、目標管理シートの導入があります。
「業務貢献」「自己啓発」「システム安定化」等のカテゴリ毎にそれぞれ半期・年度でどのような取組を行っていくか目標を設定し、その達成状況を確認します。
確認に関しては、経営職階によるレビューも行います。社員のプロセスを評価しながら社員の承認欲求を上げるために経営層・社員の双方で目標を把握し、目標達成に向けたサポートを社内で取り組んでいきます。
透明性のある人事評価へ繋げる狙いもあります。
川副氏:
ITの世界では技術の進展が早く、技術のキャッチアップも大変かと思いますが、先端技術のキャッチアップにはどういった取組が企業や個人に求められるでしょうか。
梶氏:
技術を学ぶことに対して個人のモチベーションが高いことがまず重要です。色々なツール・サービスを使えば新しい技術を学べる場はたくさんあります。
しかし、技術は学ぶだけでなく実践することが大切です。
そうした実践の場を企業として提供することが重要だと思います。
企業として現在の仕事を請け負うことは勿論重要ですが、先端技術を使った新しいビジネスをお客様に提案することも重要ではないでしょうか。
また、企業だけでなく行政としても、新しい技術を活用したプロジェクトを立ち上げることで優秀なエンジニアを集め、地域発の技術発信を行っていくことも期待されるところだと思います。
川副氏:
従業員のワーク・エンゲイジメント向上や自律的なキャリア形成への取組の前提として、円滑なプロジェクト運営や発注者・受注者の良好な関係も大切になると思います。
先ほどの事例紹介ではプロジェクト運営で取引先と工夫している取組も伺いましたが、そうした取組をお客様と上手く連携して進めるポイントや、逆に苦労している点があればお聞かせいただけますか。
田邊氏:
お客様とシステム構築のゴールを共有するといった取組の中で課題は大きく2つあります。
1つ目は、ステークホルダが多岐にわたることからお客様の社内での意思統一がなかなか出来ないということです。
2つ目は、同じゴール目標を共有しPoC等でイメージアップしたとしても、開発を進めるにつれてお客様の中でイメージが変わってくることです。
後者に関してはある程度仕方ないところもありますので、お客様と密にコミュニケーションを取りながら、出来るだけ早いタイミングで我々が察知する必要があります。
お客様への丁寧な説明を行い、お客様のご要望をきちんと受け止めていくことが、最終的には一番の近道かもしれません。
阿久津氏:
当社ではプロジェクトマネジメントの標準化に取り組み、プロジェクトメンバー全員に展開し共有を図っています。
標準化の対象はマネジメントだけでなく、内部設計やコーディングも含みます。
これにより、パートナー会社様は当社の仕様書に基づく工数見積がしやすくなる、見積の精度が高まる効果があると考えています。
当社では全てのプロジェクトが開発のやり方を統一しているため、規模の大小に関わらず計画的なマンパワーコントロールが可能になります。
さらに、標準化によって品質が安定するため、例えテスト工程でプログラムの修正が発生しても、それが大きな負荷とはならず計画通りに完遂出来ていると思います。
川副氏:
本事業を通じて、熊本県のWGでは、契約書や覚書に発注者・受注者の双方の働き方に配慮する旨を記載する仕組みを作り、発注者・受注者が一体となって働き方改革を推進していく意識付けの第一歩にしてはどうかと議論を重ねている最中です。
宮城県では働き方に関する地域特有の課題や発注者・受注者での取組の方向性として議論していることはありますでしょうか。
梶氏:
宮城県特有の課題ではないかもしれませんが、県内の大学を卒業した学生の中には首都圏の企業へ就職する学生が多くいます。
若い人が地元に残る仕組みとして、行政等が地域の魅力をPRすることも重要ですし、企業は面白い仕事・先端的な仕事を用意することも重要だと思います。
ある企業では、数名の有能なスタッフを既存業務とは切り離し最先端の技術動向の調査やスキル習得にあてることで、自社の新規ビジネスの見極めを行っていると聞きます。
川副氏:
IT業界においては、先端技術でDXを推進する人材から、社会基盤である既存システムを改善・運営する人材まで、質と量の両面での人材不足が深刻な問題になっています。
テレワークの進展により時間・場所にとらわれない柔軟な働き方が可能になる一方で、首都圏大手企業はフルリモートを前提に地域エンジニアの獲得に乗り出す動きもあり、地域企業における人材の獲得競争が一層激化する可能性もあります。
本日最後の論点になりますが、人材の獲得や定着に向けて、多様な働き方やダイバーシティなどを企業や地域としてどのように捉え、今後どのような働き方を目指していくべきとお考えでしょうか。
阿久津氏:
Z世代と呼ばれるような若い世代の仕事の価値観に関する調査結果では、「ワークライフバランスの充実」「企業の安定性」「楽しく働きたい」等のキーワードが上位に位置付けられていました。
しかし、これらの価値観・視点は10年前も20年前も変わらないものだったのではないでしょうか。
現在はSNSの発展により、企業情報へのアクセス・入手が容易になっていますので、情報をオープンにして入社前に認識のギャップを無くすことが人材の離職防止に繋がると思います。
また、働き方が多様化する中で労務管理に関する管理職の負担は大きくなっていると思いますが、ギグワーカー等今後働き方の多様化はますます加速することと思いますので、そのような中できちんと多様な働き方を受け入れられる企業でありたいと思っています。
田邊氏:
企業が働き方を強要することにより、個々人のパフォーマンスや社会貢献欲が低下することはあってはならないと思っています。
社員には与えられた働き方に従うのではなく、色々な働き方改革の施策がある中で、自分にとって最適な働き方はどういうものか模索するような行動様式を身に付け、自律した働き方を実現してほしいと考えています。
川副氏:
昨今の新型コロナウイルスの感染拡大が、これからの働き方を考える契機になりました。
企業は制度・ルールを整備して社員の柔軟な働き方をサポートし、個人は自身のキャリアをしっかり考えてキャリアアップしながら企業・社会に貢献していくといった、それぞれのベクトルが上手く噛み合うと企業にも個人にもハッピーな状態が生まれると思います。
働き方改革に関する議論に特効薬は無く、ケースバイケースで議論の積み重ねが必要です。
誰かがやってくれる・与えてくれるという観点では問題は解決せず、一人一人が行動を起こし、企業全体としてのムーブメントに繋がっていくことが重要だと思います。