厚生労働省の外へ出てわかる多様な視点・考え方 薬系技官座談会cross talk
  • 安川 孝志
    医薬局
    医薬安全対策課 課長
    安川 孝志YASUKAWA Takashi

    平成9(1997)年入省。医薬局総務課での薬剤師・薬局政策、保険局医療課での診療報酬・薬価改定、PMDAでの新薬審査業務を経て、令和7(2025)年7月より医薬品・医療機器等の安全対策を担当する現職。

  • 西方 修馬
    医薬局
    医薬品審査管理課 主査
    西方 修馬NISHIKATA Shuma

    令和2年入省。医政局研究開発振興課で臨床研究法に関する業務を担当。その後、復興庁を経て、福島国際研究教育機構に出向し、組織の立ち上げ等に関する業務に従事。令和7年4月より現職。

  • 高 健太
    社会保険診療報酬支払基金
    情報化推進部 医薬専門職
    高 健太KO Kenta

    令和2年入省。医薬・生活衛生局総務課での局内調整・取りまとめ業務ののち、内閣官房・内閣府(医薬品を含むサプライチェーンの強靱化)への出向を経て、令和6年7月より現職。医療DX施策の実装部隊として業務に従事。

  • 小川 はるか
    医薬局
    医薬品審査管理課 企画調整専門官
    小川 はるかOGAWA Haruka

    平成31年入省。入省時は医薬局医薬安全対策課で一般用医薬品等の市販後安全対策を担当。その後医薬局総務課、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課、医政局医薬産業振興・医療情報企画課を経て、令和7年7月より現職。

出向先で活かされた
薬系技官のスキル

安川安川
本日は厚生労働省以外の組織に出向経験のある皆さんにお集まりいただいたので、出向をテーマに皆さんとお話したいと思います。厚生労働省に採用されても他の組織に異動(出向)して業務を行う機会が多いですが、出向先でどのような業務をしたか、薬系技官としてのバッググラウンドがどういったことに活かされたかについて、お話しいただけますか。
小川小川
私は文部科学省に出向経験があり、ライフサイエンスや医学系の研究を支援する予算事業を担当していました。具体的には、専門家へのヒアリングを踏まえて支援すべき研究を検討するといったことをやっていました。支援の対象となる研究の内容は生命科学や薬学、医学の内容であり、学生時代に行っていたような研究もありましたし、バックグラウンドを活かせると思います。
安川安川
厚生労働省も色々な研究支援を行っていますけど、文部科学省はどんな視点が厚生労働省と違っていましたか。
小川小川
厚生労働省の研究は行政とつながっています。つまり、研究をどう政策に活かすかという視点が強いように感じました。文部科学省の研究支援は基礎研究などの学術的なものが多く、世にどう出るか分からない新しい分野の研究も対象にしています。
安川安川
薬系技官であれば元々持っている知識をもとに研究内容の妥当性や優劣の決め方などに活用できますね。
高
私は厚生労働省から出向をして2つのポストを経験しています。1つ目が内閣府の経済安全保障担当というところです。厚生労働省とともに、医薬品原料の国産化のプロジェクトに取り組んでいました。海外に原薬を依存していると、供給が低下した時に、国内で臨床上必要な薬を使えなくなる可能性があります。国内の医薬品を安定供給できるように国として何ができるかを考えていました。まさに薬の工場を作るというプロジェクトでした。「医薬品がどのように作られるのか」を薬系技官であればある程度想像できますが、内閣府では他省庁からの出向者が多いため、知らない人の方が多いです。そこで必要な説明をし、理解を得ながら政策を進めていく際には薬系技官のバックグラウンドが非常に役に立ったなと思います。
安川安川
経済安全保障って最近の動きだと思うのですが、高さんが出向したときは、法律ができて実運用を始める段階でしたよね。
高
そうですね。まさに法律が施行されるというタイミングであったので、適切な法令を作る必要性がありました。2019年にセファゾリンという薬が供給不足になってしまったことを受け、経済安全保障の観点からも必要性が議論されていた中で業務に取り組めたので充実していました。
2つ目の出向先は社会保険診療報酬支払基金です。ここは医療機関や薬局からの診療報酬の請求を審査し支払をする組織です。さらに、医療機関等の窓口で健康保険の情報などがリアルタイムに確認できる仕組みであるオンライン資格確認をはじめ、医療DX施策の基盤となるシステムの構築や運営を担っています。私は、例えば電子処方箋や電子カルテの情報を共有する仕組みを実現・運用するところで薬系技官としての知識を活かし、現場を想像しながらどのようなシステムがいいかを考えています。
安川安川
薬の供給不安は医療現場で非常に大きな課題であり、厚生労働省としても経済安全保障の制度により国内で安定供給ができることはとても有益です。電子処方箋は医療DXを厚生労働省で推進している中でのツールの一つですが、実際の処方箋データを管理する支払基金の立場で厚生労働省の担当部署と連携しながら様々な実務的なことを考えているわけですね。
高
そうですね。現場を意識しながら、また将来的な理想像も考えながら対応をしています。
西方西方
私は復興庁に出向し、更にそこから福島国際研究教育機構(F-REI)という外部機関に出向しました。F-REIは令和5年度に設立された新しい研究機関で、ここでは組織の立ち上げに関する様々な業務に携わりました。具体的には、研究実施体制や研究施設について検討したり、研究委託事業の審査体系や評価体系を整備したりと、これ以外にも多岐にわたる業務に関わっていました。
安川安川
福島にこういう研究機関を作ることが政府の方針として決まっていて、立ち上げるにあたって医療分野や医薬品開発などが分かる人材が求められたということですかね。
西方西方
そうですね。F-REIの研究開発には、①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信の5分野があり、私は放射線科学・創薬医療の部分を担当していました。放射性医薬品の研究開発をするということで、有識者と議論を重ねながら、最近の研究開発のトレンドなども踏まえて、新たな研究機関として何を狙っていくべきなのかを考えていました。
安川安川
それを活かすにはしっかり専門的なことがわかる人が必要だと思うのですが、出向する前は研究開発関連の部署ですか。
西方西方
出向前は医政局研究開発政策課で臨床研究法という法律に関わる業務を担当していました。そこでの経験も考慮されて、研究開発のことがわかる人ということで、声がかかったと聞いています。
安川安川
出向する時には目的を伝えられたのですね。転居を伴う異動になりますが、事前にこういうことはわかっていたのですか。
西方西方
復興庁に出向する時点で、福島に行くことが前提であることも知らされていました。トータルとしては長い出向期間になったので、私は厚生労働省にいる期間の方がむしろ短いくらいです。

出向先で感じたこと

安川安川
自分が出向することを聞いたときにどう思ったのか、実際に仕事をしてみてどう感じたかを教えてください。
小川小川
私は研究支援に携わりたく、もともと行きたかった部署でしたので、前向きでした。
実際に出向中は研究者の人との会議に参加したりして充実していました。
高
私は厚生労働省で学んだ仕事の仕方が外でも通用するのか試してみたかったので、出向には前向きでした。内閣府は出向者が多く集まる組織なので、各府省の色がそれぞれ出ていて、仕事の進め方もすり合わせが必要でした。このすり合わせは勉強になったなと思います。厚生労働省は規制行政が多いですが、内閣府での仕事は推進していく内容だったので、考え方が180度違う点も勉強になったと思います。当然、周りの人たちは厚生労働省が出身ではないので、組織内であっても若手のうちから自分の軸を持ってしっかり厚生労働省の代表として説明できないといけないわけですが、省外でないとなかなか経験できないことだと思います。
安川安川
出向すると、「厚生労働省としてはどう考えるのか」と当たり前に聞かれるので、薬系技官ではなく厚生労働省の立場で答えられる必要があると思います。厚生労働省だと自分の部署の範囲の仕事を進めますが、出向すると厚生労働省の動きを客観的に見ることになるので急に視界が広がる印象があります。周りの期待に応える必要があり、立場が違う様々な方からの質問や相談があるので、大変だと思います。
高
私も労働関係行政について知らないことが多いですけども、厚生労働省内のつてをたどって担当を紹介してもらったり、聞きに行ったりなどは業務としてありますので、そういった知識・経験が自分の糧になっています。自分の立場は弁えながら、でも意外と大胆な仕事できるということも出向先の魅力だと思います。
西方西方
私も出向や転居にあまり抵抗感はなかったので、事前の意向調査では前向きですと書いていました。とはいえ、若手のうちは出向ポストがそれほど多くはないので、出向の話を聞いたときは、かなり驚きました。新設のポストだったため、事前情報もなく不安がありましたが、行けば都で楽しかったです。

出向先から見た厚生労働省

安川安川
実際に厚生労働省から離れて仕事をした時に、それが故に厚生労働省の今の仕事が見えることもあると思うのですが、みなさんは何を感じましたか?
小川小川
私が文部科学省で行っていた業務は、どちらかというと1つのことをじっくり考えるような仕事でした。一方、厚生労働省は1人の人が幅広い範囲の業務に取り組んでいて、結構違うなと思いました。
安川安川
文部科学省だと研究開発を行う部局があるのですか。
小川小川
はい。私がいたのは研究振興局という部局で、その中でも分野で課が分かれていました。ライフサイエンス課という課にいたので、ライフサイエンス分野に特化したことについて真剣に考えられました。
高
出向先から見ると、手広く業務を行っている人が厚生労働省の方は多いかなと思います。
西方西方
出向先ではその組織のことを中心に考えていましたが、厚生労働省にいたときにはもっと俯瞰的に考えるべきことが多かったなとスケールの違いを感じました。
安川安川
薬系技官がメインで対応する薬事行政は厚生労働省だけではなく、製薬企業に対する様々な許認可や、製造所の立入調査、薬局・医薬品販売業等の許認可は自治体が運用しているものが多いです。厚生労働省で決めたルールは自治体が適切に上手く運用して機能する仕組みになっています。私は茨城県庁薬務課に出向したことがあり、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)で医薬品製造所の製造・品質管理を確認したり、書類を確認して許可を出す仕事をしたりしていました。そこで感じたのは、厚生労働省は運用方針を都道府県に示すのですが、その内容だけだとわかりにくかったり、現場の運用では合わなかったりということもありました。それは厚生労働省にいるだけでは気づきません。自治体だったらこう動くことがわかったので、薬事行政に戻った時に、都道府県の業務をイメージして現場が困らないような運用を考えることができるようになりました。国家公務員は様々なルールを作るのですが、「誰がルールを使いこなすか」ということは出向などの様々な経験を通じて初めて気づくと思います。

出向の経験を厚生労働省の業務に活かす

安川安川
出向した経験を活かし、今後どのような仕事をしたいか、皆さん考えはありますか。
小川小川
高さんからのお話にもありましたが、厚生労働省から出向すると周りに厚生労働省の人がいません。職場には大学病院や自治体から出向されているので、そういう方たちとの相談から、現場の目線が培われました。これは厚生労働省の業務に活かせると思います。
高
思考の仕方が出向前とは大きく異なり、厚生労働省の中で最初に経験したことだけでは考えられなかったことに触れられているのかなと思います。
安川安川
確かに公務員の仕事は、自分だけでやる仕事ではないので、一緒に仕事をする人たちがどのような思考で仕事を進めようとしているのかと感じるだけでも全然違ってきますね。厚生労働省以外の分野を経験して、どのような判断要素で物事が進んでいるか理解できていると、厚生労働省に戻った時に、出向経験をもとにして政策を考えることができます。
西方西方
私が出向していたF-REIには、省庁や自治体、大学などのさまざまな組織からの出向者が集まっていましたが、そんな環境の中で「復興」という共通の目標に向かって一緒に仕事ができたのは本当に貴重な経験だったと思います。元々はそれぞれが違う立場で異なる視点をもって仕事をしてきたわけなので、うまく噛み合わないことも当然ながらありましたが、多様な考え方があることを理解して、その上でうまく調整していく必要があるのだと実感しました。この経験は今後の厚生労働省での業務にも通じる部分があると思います。
安川安川
他の立場の人たちがどう考えて仕事を進めているかを厚生労働省以外の組織で経験して知る事はすごく大事なことで、薬系技官としての仕事のような線引きはすべきではないと思います。薬系技官は医薬品・食品・化学物質などのモノを中心に専門性を活かすという職種ではあると思うのですが、国家公務員だったら垣根をわざわざ自分で作る必要はなく、全然違う仕事でも取り組むと何かしらの経験になるのではないかと思います。私が採用業務に携わったとき、「ある特定の仕事をずっとやりたいです」と言う学生もいました。専門性を活かしたいという気持ちはよくわかるのですが、様々な仕事を経験してキャリアを重ねていく国家公務員ではその考え方は向かないなと思います。
今日は海外へ出向した人はいないですが、私はインドネシアの大使館に外交官として出向して、当時世界的に課題となっていた鳥インフルエンザの感染症対策のほか、水道・廃棄物処理のインフラ整備、厚生労働省が担当する援護行政として先の世界大戦でお亡くなりになった方々の遺骨収集業務に携わったことがあります。国内で薬系技官として業務をしていたら経験できない様々な仕事があり、正直インドネシアに行くまでは想像がつきませんでしたが、特に援護行政はこれまでの様々歴史に基づく業務であり、すごく印象的な出来事だったので、経験できて本当によかったと感じています。このように、出向は色々な経験ができることがすごく大きなことだと思いますね。希望通りでない出向もあるかもしれませんが、それをどう受け止めるかも大事です。この経験をチャンスと捉えて力を発揮してもらいたいです。

出向で大変だったこと

安川安川
皆さんは出向関係で大変だったことはありますか?
小川小川
「文部科学省に聞きたいのだけど、これわかる?」「担当者につないでくれない?」と厚生労働省からよく聞かれました。適切な文部科学省の部署を探すのが大変でした。
安川安川
その省庁のことは出向者にまず連絡することが多いですよね。不思議なことに、出向時に接点があった人と思いもよらぬところで再会することがあります。みんなが同じ頻度で異動しているので、偶然巡りあうことがあり、「前一緒だったよね」ということがあるのですが、こういう経験をすることはすごく大きいですし、知っている人だと仕事がやりやすくなります。なので、どんな些細なことでも積極的に対応することが大事だと思います。
西方西方
出向で大変だったことはやはり引っ越しです。仕事を継続しながら、引越し業者を見つけて、家財をまとめて、転居先での生活基盤を整えてと諸々の準備を進めないといけず、そうこうしているうちに新天地での業務が始まりました。このときはかなり慌ただしかった記憶があります。

将来の薬系技官を希望する方へメッセージ

安川安川
就職活動をしている学生に話を聞くと、採用後の転勤を気にする方がいます。薬系技官では、職員に意向調査を毎年行っていて転居を伴う異動の可否を聞いています。ご家庭の事情で転居が無理であれば、意向調査にその旨を記載いただくと転居を伴う出向を控えるようにしていますので、そちらの心配は不要です。今日は出向時の経験を皆さんに話してもらいましたが、国家公務員として就職する以上、厚生労働省だけの仕事、薬系技官だけの仕事以外の仕事にも携わることが多くあります。その経験は確実にその後の仕事の糧になります。色々な部署を経験できるのは国家公務員の魅力です。このような業務を学生の皆さんに知っていただきたいです。専門性を活かしつつ色々な部署を経験できるという贅沢な仕事ができるこの職場で、薬系技官として働きたい方は是非説明会に来てください。一緒に働くことができることを楽しみにしています。