【特集】戦没者慰霊

令和8年度の全国戦没者追悼式の準備を担う厚生労働省の原田蒼汰さん(左)と、昨年度まで担当していた同省の大野孔明さん。先輩から後輩へとバトンが受け渡される。

戦没者慰霊

前編

「忘れない」をつなぐ——全国戦没者追悼式

特集
2026.08.03

毎年8月15日、日本武道館で行われる全国戦没者追悼式。天皇皇后両陛下御臨席のもと、ご遺族をはじめ約4,500名超が参列し、先の大戦で亡くなられた方々を悼む国の式典です。厚生労働省によれば、令和7年には約3,830名のご遺族(付添含む)をはじめ、来賓ら約700名が参列されました。昭和38年(1963年)以来、一度も途切れることなく続いてきた式典。戦没者慰霊特集の前編では、今年度から式典を担当する原田さんと、昨年度まで担当した大野さんに、準備の現場と式典に込める思いを聞きました。

正午の黙とう、その瞬間を支えるもの

8月15日、正午。日本武道館に集まった参列者が立ち上がり、1分間の黙とうを捧げます。中継やライブ配信を通じて、この瞬間に思いを重ねる人々も全国にいます。

全国戦没者追悼式は、昭和38年に始まり、昭和57年(1982年)に閣議決定された「戦没者を追悼し平和を祈念する日について」に基づく国の式典です。会場には天皇皇后両陛下が御臨席されます。ご遺族、来賓ら約4,500名超が一堂に会します。11時51分の開式からおよそ1時間で閉式を迎える短い時間を支えるために、厚生労働省の担当者は前年度末から準備を開始し、3か月前から式典実施に向けた準備に集中します。


天皇皇后両陛下が標柱の前にお立ちになり、参列者全員で正午から1分間の黙祷。

全国戦没者追悼式に込める思い

「昭和38年から長く続いている式典です。天皇皇后両陛下をはじめ4,500名超の方が集う、ここまで大規模な式典を毎年やっているところは他にないと思います。」

そう振り返るのは、昨年度までの2年間、全国戦没者追悼式を担当した、厚生労働省の大野孔明さんです。現在は、政府が各地に建立した慰霊碑の維持管理や、海外から帰還した戦没者のご遺骨の引渡式を担当しています。式典担当への異動が決まったとき、率直に「責任の重い係へ配属になった」とプレッシャーを感じたといいます。

厚生労働省 社会・援護局 事業課 調査係長 大野孔明さん 厚生労働省 社会・援護局 事業課 調査係長 大野孔明さん

「厚生労働省だけでは決して成り立たない式典です。天皇皇后両陛下の御臨席にかかる宮内庁、警備で協力いただく警察——たくさんの関係機関にご協力いただいて成り立っています。」昨年度まで式典を担当した、厚生労働省 社会・援護局 事業課 調査係長 大野孔明さん。

今年度から式典を担当する原田蒼汰さんは、別の角度から責任を受け止めました。

「この式典は私が生まれる前から続いてきたものです。先輩方が私たちの世代までつないできたこの式典を、今後、これから生まれてくる世代へもしっかりとつないでいくために、目の前の式典の準備に全力で取り組みたいと強く感じました」(原田さん)

全国戦没者追悼式の流れ 全国戦没者追悼式の流れ

式次第では、国歌斉唱、内閣総理大臣の式辞に続き、正午の黙とう。そして天皇陛下のおことば、衆議院議長・参議院議長・最高裁判所長官・遺族代表1名による追悼の辞、献花、閉式へと進むことが予定されています。「秒刻みで進行される」と大野さんが語るなかで、最大の山場が正午の1分間の黙とうです。

「私は式典中、司会の近くに控えて式進行を注視していますが、とくに正午の時報までは、かなり緊張して臨みました」と大野さんは話します。

多くの国民の皆様が見守る式典です。「テレビ中継も行われており、参列されているご遺族や来賓の皆様は、式典が滞りなく挙行されることを当然の前提として考えられていると思います。そうした中、絶対に失敗がないよう万全を期して準備を進めました。」と振り返ります。


毎年8月15日正午、日本武道館で行われる全国戦没者追悼式の様子。

ご遺族をお迎えする工夫も、年々重ねられています。戦後80年以上が過ぎ、参列されるご遺族の高齢化が進むなか、武道館のなかでも階段の少ない座席を案内したり、車椅子を準備したりと、参列の壁を一つずつ取り除く配慮を続けています。「移動に不安があるという理由で式典に参加できない方を極力減らせるよう、配慮した上で、可能な限り参列いただけるように努めています」と大野さん。

原田さんも、年々進む高齢化を意識しています。「戦後80年以上が経つ中で、参列されるご遺族の高齢化も進んでおりますが、皆様が安心して戦没者を追悼できる空間を整えられるよう努めていきたいです」と語る言葉には、単なる引き継ぎではない決意がじみます。

 厚生労働省 社会・援護局 援護企画課 式典係長 原田蒼汰さん  厚生労働省 社会・援護局 援護企画課 式典係長 原田蒼汰さん

「全体の流れは大きくは変わらないものの、毎年少しずつ準備する内容は変化しています。前例のない場面においても、臨機応変にしっかり対応したい」。今年度から式典を担当する、厚生労働省 社会・援護局 援護企画課 式典係長 原田蒼汰さん。

そんな原田さんが、ご遺族の思いの強さを感じた一場面があります。厚生労働省が公開している、海外から帰還したご遺骨をご遺族にお返しする際の動画を見たときのことでした。

「ご遺族にご遺骨を返還した際、ようやくお迎えできて安堵したような、そんなご遺族のお姿がとても印象に残っています。長い年月が経っていても、思いが薄れることなく帰りを待ち続けてこられたのだと感じました。」

一式典として淡々と運営するのではない。ご遺族の長い時間に寄り添う場として整える。原田さんはそう自らに言い聞かせて、初めての本番に向かいます。

戦後81年を超えて

8月15日、武道館の会場に来られる人は限られます。それでも追悼の機会は閉ざされていません。式典はテレビで中継され、YouTubeでもライブ配信が行われています。

ライブ配信は、コロナ禍で式典を縮小開催していた時期に始まりました。外出制限のなかで参列が叶わないご遺族にも、式典に参加してもらえるようにという思いからです。高齢化で武道館まで足を運ぶことが難しくなったご遺族にとっても、自宅で式典に立ち会える手段として今も続いています。

戦没者の慰霊は、8月15日の1日だけにとどまりません。海外に残されたご遺骨の収集も、政府が事業として続けています。大野さんが今、関わっているのも、その帰還されたご遺骨をお迎えし、ご遺族のもとへお返しするための引渡式です。

【全体版】

【ダイジェスト版】

戦後81年。記憶の風化は避けがたい現実として、担当者の前にあります。だからこそ、大野さんは式典の意義を、若い世代にこそ伝えたいと言葉にします。

「戦後81年が経ち、戦争の記憶の風化は避けがたい課題であると感じています。ご遺族の方々から『戦争は決してやってはいけない』とのお話を伺うことがあります。若い世代の方には、過去に戦争があったことを忘れず、今後も戦争をしてはならないという思いを受け継いでいってほしい。そう思っています」

そして、こう続けました。「会場に来られなくても、テレビやYouTubeの中継で見ていただいて、正午にはぜひ黙とうを一緒にしていただきたいです」

まとめ

昭和38年から続く全国戦没者追悼式。その時間を支えるのは、ご遺族の長い時間に寄り添おうとする担当者の思いと、世代を越えてバトンを受け渡す静かな営みです。8月15日の正午、それぞれの場所で1分間、黙とうを。先の大戦で亡くなられた方々と、今もその方々を思い続ける人々のために、そして平和への祈りを込めて。

◾️もっと知りたい方へ

- 全国戦没者追悼式について:戦没者慰霊事業の実施|厚生労働省

- 戦没者遺骨収集事業について:戦没者遺族等への援護 |厚生労働省