毎朝工場内で開かれる全体朝礼。指差し唱和が、現場の一日を始める合図となる。
“休業災害ゼロ”に挑む北日本電線の取り組み
働く人の命と健康を守るため、毎年7月1日から7日まで実施される「全国安全週間」。昭和3年に始まり、今年で99回目を迎えます。労働災害発生状況を見ると、死亡災害は減少傾向にあり、令和7年の死亡災害は過去最少となりました。休業4日以上の死傷災害は、令和7年には前年と比べてわずかに減少したものの増加傾向が続いています。
前編では、令和7年度の厚生労働大臣表彰(優良賞)を受賞した北日本電線株式会社 槻木事業所(宮城県柴田町)の25年以上にわたる取り組みを紹介します。
「全国安全週間」——昭和3年から続く安全への誓い
全国安全週間は、「人命尊重」を基本理念に昭和3年に始まり、今年で99回目を迎えます。令和8年度のスローガンは「多様な人材 全員参加 みんなで育てる安全職場」。職場では、外国人労働者や高年齢労働者、個人事業者など様々な方々が働いていますが、全ての働く方が安心して安全に働くことができる職場環境が求められています。
厚生労働省では、第14次労働災害防止計画を策定し、数値目標を設定して取り組みを進めています。近年の労働災害の傾向を見ると、死亡災害は減少傾向にあるものの、休業4日以上の死傷災害は増加傾向が続いています。その要因の一つとして、高年齢労働者の増加を背景に、転倒や腰痛など作業行動に起因する災害の増加が挙げられています。
このような中、昨年優良賞を受賞した北日本電線株式会社では、過去25年にわたり休業災害が発生しておりません。その背景について、伺ってみました。
25年続く“休業災害ゼロ”
北日本電線株式会社は1946年、当時不足していた戦後復興資材である電線を北海道・東北地域に供給するために創業しました。現在は、東北電力ネットワークと住友電気工業を主要株主とし、電線・光デバイス・融雪用のロードヒータなど幅広い製品を手掛けています。
宮城県柴田町の槻木事業所は2000年8月に開設。撤去電線のリサイクル、電力向け工事機材の組み立て、光スプリッタなどの光デバイス製造と、扱う仕事は多岐にわたります。社員63名を含む117名が在籍し、約4割強が現場作業に従事しています。
多様な工場が集まる槻木事業所。工程ごとに異なる危険と隣り合わせの現場でもある(北日本電線株式会社提供)
現場には、回転機械への巻き込まれ、フォークリフトとの接触、ガラス材の飛散、紫外線照射光による目の損傷など、見過ごせないリスクが潜みます。
それでも槻木事業所は、開設以来、休業を伴う労働災害(休業災害)を一件も発生させていません。軽微な災害は皆無ではないものの、休業災害をゼロのまま25年間維持してきたことが、評価につながりました。
「役員からも長年の取り組みが認められたとして大変嬉しいというコメントがあり、社員全員で喜びを共有しました。産業団体や自治体の広報誌でも取り上げていただき、社員の意識がさらに高まったと感じています」と、総務部の齋藤敏也さんは反響を振り返ります。表彰までの道のりは、大河原労働基準監督署による、3年連続の工場視察とヒアリングを経ての推薦でした。「思ってもいなかった一番上の優良賞でした」と、齋藤さんは語ります。
現場を支える“安全の仕組み”
槻木事業所の現場には、安全を支える仕掛けが幾重にも張り巡らされています。
毎月第一営業日の全体朝礼では、安全衛生基本方針を一般職が輪番で読み上げ、続いて管理職が輪番で全員の前に立ち指差し唱和を実演します。各部門では毎朝の朝礼でKY(危険予知)活動を行い、その日の作業に潜む危険を洗い出して共有しています。
各部門が年間計画を立てて自主的に動く「ゼロ災グループ活動」も基盤の一つです。月1回の安全衛生委員会で各グループが活動を報告し合い、好事例は他部門へ横展開されます。
データによる見える化も特徴です。全社の災害データを1999年度から、月別・曜日別・時間帯別・災害内容別・年代別・経験年数別に記録・グラフ化し、槻木事業所でも掲示・活用してきました。「9月が多い」「月曜日が多い」「入社3年以内が多い」といった傾向が浮かび上がるたびに、毎年9月、労使一体でビラを作成して全社員に配布し、注意を促しています。
全社の災害データを1999年度から多角的に分析。「9月が多い」「入社3年以内が多い」といった傾向を踏まえ、注意喚起や新人教育にもつなげています。
災害が起きたあとの掘り下げも徹底しています。軽微な災害でも、発生時には必ず「なぜなぜ分析」を実施。「なぜ」を5回繰り返して真の原因にたどり着く手法で、社内には教育資料も整備されています。「事象に対してのアクションではなく、災害の本当の真の原因を突き止めて、それにアクションを起こす」と齋藤さんは話します。
「労働災害ゼロの特効薬はありません。マンネリ化と言われるかもしれませんが、継続と刷り込みこそが重要だと考えています」と、齋藤さんは話します。
安全文化を育てる取り組み
これらの仕組みは、平坦な道のりの果てに生まれたものではありません。「安全の日」は、2007年と2008年に全社的に労働災害が相次ぎ、経営層から緊急メッセージが出された危機を機に他の企業の安全活動も参考に制定されたものです。
安全の日は年1回、全工場の操業を止めて実施します。社長訓示で始まり、ゼロ災グループ活動報告会、外部講師の講演と続きます。昨年はエイジフレンドリーをテーマに、体力測定プログラムも組み込まれました。終了後はアンケートで振り返り、結果は翌年に反映。マンネリ化を防ぐため、毎年プログラムを更新しています。
エイジフレンドリーをテーマに開いた2025年の「安全の日」。社員が映像に合わせて体を動かし、加齢による身体機能の変化を補うエクササイズに取り組んだ(北日本電線株式会社提供)
経営層の関与も継続的です。年明け仕事初めの日に「安全の誓い」、4月1日には「安全宣言」が発信され、経営層と組合代表で構成する中央安全衛生委員会で方針を定め、経営会議で決定する体制が敷かれています。
年明け初日に開く「ゼロ災集会」。経営層による「安全の誓い」を全社員で共有し、一年の無災害への決意を新たにする(北日本電線株式会社提供)
現場で近年進められているのが「1・2・3運動」です。①挨拶をする、②お礼を言う、③さん付けで呼ぶ。日常の小さなコミュニケーションを土台に、危険に気づいた人が誰でもすぐ「危ないよ」と声を出せる職場をつくる試みです。
「現場では『ご安全に』という声かけが、昔に比べると聞こえるようになってきました。お互いに声をかけ合える職場環境をつくることが、安全への一番のポイントだと思っています」と、齋藤さんは語ります。
安全を支える日々の積み重ね
厚生労働大臣表彰は、安全衛生の水準が特に優秀で他の模範と認められる事業場・団体・個人を顕彰する制度です。各労働局や関係団体の推薦を受け、省内での審査を経て決まります。槻木事業所が評価されたのは、25年にわたる休業災害ゼロの実績だけではありません。労使合同パトロール、リスクアセスメント、安全教育、5Sを地道に続けてきた姿勢そのものが、模範として認められました。
労使が合同で工場内を巡視し、危険箇所を洗い出す「労使合同パトロール」。リスクアセスメントや安全教育とともに、地道に積み重ねてきた取り組みの一つ(北日本電線株式会社提供)
全国安全週間は、6月を準備期間、7月1日から7日までを本週間と位置づけています。とはいえ、安全はこの1週間で実現するものではなく、年間を通じた日常の積み重ねに支えられます。事業場や働く一人ひとりが職場の安全の当事者として意識し、安全管理体制の確立やリスクアセスメントを継続することが大切です。
「継続は大事です。力になります」と、齋藤さんは語ります。
後編では、同じく令和7年度の厚生労働大臣表彰(優良賞)を受賞した古林工業株式会社の取り組みを紹介します。
まとめ
槻木事業所の25年は、特別な秘策ではなく、地道な継続から生まれました。安全は週間中だけでなく、日々の職場から育てていくもの——そのことを、この取り組みは教えてくれます。
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