1. | 全般コード化情報の収集状況 |
報告対象期間 | : | 平成16年4〜9月 |
報告事例総数 | : | 88,601件(前回13,443件) |
2. | 分析方針 |
1) | 収集した事例について、頻度を単純集計した。 |
2) | 収集した事例について、項目間の相互関係を把握するため、それらのクロス集計を行った。 |
3) | 報告事例の多い「処方・与薬」「ドレーン・チューブ類の使用・管理」「療養上の世話、療養生活の場面」および影響度の大きい事例の割合が高い「医療機器の使用・管理」「輸血」については、該当するデータを抽出のうえ、単純集計および項目間のクロス集計を行った。 |
3. | 分析項目 |
<単純集計>
以下の項目について単純集計を行った。
・ | 発生月(A) |
・ | 発生曜日(B) |
・ | 発生時間帯(C) |
・ | 発生場所(D) |
・ | 患者の性別(E) |
・ | 患者の年齢(F) |
・ | 患者の心身状態(G;多重回答) |
・ | 発見者(H) |
・ | 当事者の職種(I;多重回答) |
・ | 当事者の職種経験年数(J) |
・ | 当事者の部署配属年数(K) |
・ | ヒヤリ・ハット事例が発生した場面(L) |
・ | ヒヤリ・ハット事例の発生内容(M) |
・ | ヒヤリ・ハット事例が発生した要因(N;多重回答) |
・ | 間違いの実施の有無および事例の影響度(O) |
<クロス集計>
以下の項目間のクロス集計をおこなった。

4. | 分析結果 |
1) | 全事例【88601事例】 |
6月にピークがある。平成15年の発生月ピークは7月で、1月〜3月は減少傾向にある。4月採用新人看護師の馴れが生じる6月、7月にヒヤリハット発生ピークがあるのかもしれない。
○発生時間帯【図1−3】
これまでと同様、6〜7時台になると増加し、10〜11時台にほぼピークとなり、12〜19時まで次第に減少し深夜帯の発生は少ないという日内変動を示している。
○患者の性別【図1−5】
これまでと同様、男性患者に発生したヒヤリハットの件数が女性患者よりも多く、約1.27倍となっている。患者調査によると、入院患者数、外来患者数ともに女性のほうが多いので、男性患者には何らかのリスク要因があることが示唆される。
○患者年齢【図1−6】
これまでと同様、71〜80歳、61〜70歳、51〜60歳の順に多く、この3区分で約6割を占めており、中高齢患者のリスク要因が高い可能性がある。また、0〜10歳も7.5%程度発生しており、小児も何らかのリスク要因を有する可能性がある。
○発見者【図1−8】
これまでと同様、当事者本人が発見する事例が最も多く、次いで同職種者、他職種者となっている。
○職種経験年数、部署配属年数【図1−10、1−11】
職種経験年数、部署配属年数ともに年数0年によるヒヤリハットが最も多く、年数がたつにつれて件数も減少している。ただ、今回の集計では職種経験年数0年目が1年目に比べて1.18倍と、平成15年の1.66倍に比べて0年のヒヤリハットが減少しているのが観察された。理由は不明。
○発生場面【図1−12】
これまでと同様、高頻度群として処方・与薬(24418例、27%)、ドレーン・チューブ類の使用・管理(13602例、15%)、その他の療養生活の場面(10825例、12%)となっており、これらで全体の半数以上を占めている。
○発生要因【図1−13、表1−1】
これまでと同様、「確認」「観察」「心理的状況」「勤務状況」「判断」が発生要因として多く挙げられている。具体的には「確認が不十分であった」「観察が不十分であった」「判断に誤りがあった」「多忙であった」などが上位に挙げられている。
○影響度【図1−14】
間違いが実施された事例の割合が73%に達した。実施前に発見されたが、仮に実施されたとしたら生命に影響しうる例が791例(0.9%)あった。
2) | 処方・与薬 |
従来と同様二峰性で、8〜9時台および16時〜17時台に発生頻度がピークとなっている。
○患者の性別【図2−5】
男性12820例(52%)、女性10096例(41%)と、男性が女性の1.27倍多い。
○発見者【図2−8】
従来同様、当事者本人による発見よりも同職種者が発見するケースの方が多い。全事例では当事者本人による発見が多いので、処方・与薬の発見者における特徴といえる。同職種者による発見が多いということは、職種間でのチェックの仕組みが機能している結果とも考えられる。
○影響度【図2−13】
間違いが実施された事例が20038例、82%となっており、未然に防止しにくい。
3) | ドレーン・チューブ類の使用管理 |
発生曜日は木曜日にピークがみられるが、その理由は不明。また土曜・日曜なども平日と同様の発生状況となっている。
○発生時間帯【図3−3】
前回同様、深夜帯(22〜23時台、0〜1時台)にゆるやかなピークが見られた。
○職種経験年数【図3−10】
職種経験年数が1年目が0年目より報告がやや増えているが、理由は不明
○患者の性別【図3−5】
これまでと同様、男性7933例、女性5097例と、男性のほうが約1.56倍の発生頻度となっている。
○患者の心身状態【図3−7】
床上安静、意識障害の患者で多く発生しており、自己抜去などの原因となっている可能性がある。
○発生要因【図3−12、表3−1】
「観察が不十分であった」がもっとも多く報告されており、リスクのアセスメントと患者観察の充実など、なんらかの対応が求められる。
○影響度【図3−13】
「間違いが実施」が11262例、83%を占める。実施前に発見したが実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われる事例が91例(0.7%)あった。
4) | 医療機器の使用・管理 |
これまでと同様、日勤帯の10時〜11時台と14〜15時台の二峰性を示している。
○患者の性別【図4−5】
男性1420例(50%)、女性1019例(36%)と、男性は女性の1.4倍の発生頻度だが、その理由は不明。
○職種経験年数【図4−10】
職種経験年数0年より1年の発生が多い。2年目以降は発生頻度は少ないものの、年数による減少傾向は見られず、経験蓄積によるヒヤリハット予防効果があまり見られない。
○影響度【図4−13】
実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われる事例が86件(3.0%)発生している。
5) | 輸血 |
週日中の曜日は火曜日と金曜日に発生頻度が多い。
○発生時間帯【図5−3】
日勤帯に多く発生しているが、その中でも10-11時台と14〜15時台にピークがある。
○患者の性別【図5−5】
男性308件、女性251件と、男が女の1.23倍あった。
○患者の年齢【図5−6】
今回の集計では、71歳〜80歳と0〜10歳にピークが見られた。
○職種経験年数【図5−10】
輸血の職種経験年数の減衰は他のヒヤリハットより少ない傾向がある。職種経験年数にかかわらず発生しているともいえる。
○発生要因【図5−12、表5−1】
発生要因として確認、心理的条件、勤務条件をあげるものが相変わらず多かった。
○影響度【図5−13】
「間違いが実施」が359件(58%)となっており、実施前に発見したが実施されていれば患者への影響は大きい(生命に影響)と思われた事例が44件(7%)あった。
6) | 療養上の世話等 |
曜日、時間帯による発生頻度は土日にやや減少し、6-7時台にやや増加するが、概して発生の週内や日内変動は小さい。
○患者の性別【図6−5】
男性10148件(54%)、女性7844件(42%)となっており、男性が女性の1.29倍多く発生している。
○患者の年齢【図6−6】
前回と同様、71-80歳代にピークがあった。
○患者の心身状態【図6−7】
「歩行障害」「下肢障害」を有する患者による発生が多く、転倒・転落のアセスメントなど十分な対策が求められる。
○発見者【図6−8】
10789件(58%)は「当事者本人」が発見している。
○発生要因【表6−1】
発生要因として「説明が不十分であった」2570件、「患者・家族への理解が不十分であった」が2802件あり、十分な説明と患者の理解促進が期待される。
○影響度【図6−13】
間違いが実施されたケースが13706例(73%)あり、未然の防止がなされにくい。
以上
図表目次
1) | 全事例 |
2) | 処方・与薬 |
3) | ドレーン・チューブ類の使用・管理 |
4) | 医療機器の使用・管理 |
5) | 輸血 |
6) | 療養上の世話等 |
(第12・13回報告事例 88601件)
金井 昌子 | 国立病院機構長野病院 地域医療連携室 主任 | |
戸塚 智子 | (財)国際医学情報センター 研究員 | |
橋本 廸生 | 横浜市立大学医学部医療安全管理学講座 教授 | |
長谷川 友紀 | 東邦大学医学部公衆衛生学講座 助教授 | |
◎ | 武藤 正樹 | 国立病院機構長野病院 副院長 |
山内 豊明 | 名古屋大学医学部基礎看護学講座 教授 | |
山本 実佳 | 東海大学医学部付属病院 診療情報管理課 副主事 | |
(敬称略・五十音順)
◎は班長 |