高校生が広げる献血の輪
岡山県のおかやま山陽高等学校では、1982年から44年間、卒業を控えた3年生による「卒業記念献血」を続けています。「人生最初の社会貢献」として学校全体で取り組むこの伝統は、若年層の献血デビューを後押しし、継続的な献血者を生み出してきました。こうした経験をきっかけに、献血の理解を深め骨髄バンク説明員の資格を取得し、全国の高校へ活動の輪を広げる生徒も登場しています。後編では、高校生が主体となって、献血をはじめとする社会課題解決に取り組む活動を紹介します。
献血は「命のバトン」──44年続く高校の挑戦
前編では、若年層の献血者数の減少と、将来の需給ギャップへの懸念を紹介しました。この課題に対し、高校生自身が主体となって解決に取り組む学校があります。1982年から44年間、「卒業記念献血」を続けてきたおかやま山陽高等学校です。
「命のバトンはあなたから。献血してみよう」。これは同校でさまざまな社会課題解決に挑むユネスコ部が、あるイベントで掲げたメッセージです。この部に所属する特別進学コース3年の長岡舞桜さんは、そこに込めた想いを語ります。「みんなが『一度献血してみよう』、『骨髄バンクに登録してみよう』という勇気を出したら、それが巡り巡って自分のためになるかもしれない。多くの人が健康で幸せになる未来につながっていくと思います」
おかやま山陽高等学校 長岡舞桜さん
同じく3年の吉村瑠美さんも、献血の重要性を語ります。「いつ怪我をしたり、輸血が必要になったりするか、未来のことはわかりません。自分が誰かのために貢献することで、もし自分が助けられる側になったときに、その意味が分かると思います」
おかやま山陽高等学校 吉村瑠美さん
卒業記念献血を通して、地域で活躍する人材を育てる
おかやま山陽高等学校は、令和5年に創立100周年を迎えた伝統校です。普通科のほか、機械科、自動車科、調理科、製菓科といった専門学科を持ち、地域社会の発展に貢献できる人材を育成しています。
3年生が3学期に行う「卒業記念献血」が始まったのは1982年。当時は専門学科が中心で、就職する生徒が多かったことから、社会に出る前の「第一歩」として献血が始まりました。ユネスコ部顧問の木戸聡先生は、その意義をこう説明します。「社会の一員として地域で活躍してほしい。その基盤づくりとして、ボランティア活動に携わり、自分が人のために役立つという経験をしてもらいたい。社会人としての自覚を持つ第一歩になればと考えています」
おかやま山陽高等学校進学担当課長 特別進学コース主任 主幹教諭 木戸 聡 先生
献血が40年以上続いてきた背景には、社会との関わりを日常の学びとして位置付けてきた学校全体での取り組みがあります。1年生ではがん教育、2年生では闘病されている方のお話を聞く機会を設け、段階的に献血への理解を深めます。製菓科の生徒が献血啓発クッキーを製作するなど、学科を横断した協力体制も整っています。
毎年1月に実施される卒業記念献血の様子。学校に献血バスが来るため、生徒たちは気軽に参加できる(写真提供:おかやま山陽高等学校)
ユネスコ部では、2013年度から骨髄バンクドナー登録会も卒業記念献血と併行実施しています。部員たちは「骨髄バンク説明員」の資格を取得し、校内の登録希望者への説明を行います。令和6年度は、高校生説明員14名が説明を行い、当日28名が登録しました。
製菓科の生徒が製作した献血啓発クッキー(1枚目)。生徒たちは骨髄バンク説明員養成研修を受けて説明員となり、登録者を募った(2・3枚目)(写真提供:おかやま山陽高等学校)
「誰かのためになりたい」──生徒たちが活動を続ける理由
ユネスコ部に入部した理由を尋ねると、吉村さんは「人に頼られることが好きで、誰かのためになることをしたい」、長岡さんは「中学校の時から人のためになる活動がしたかったけれど機会がなかった」と、それぞれの思いを語ります。
長岡さんは高校生だからこそできることに意義を感じています。「献血や骨髄バンクの課題は、若い人の参加が少ないこと。同世代の私たちが啓発することで、より身近にその課題を感じてもらえると思います」
ユネスコ部の生徒たちは、卒業記念献血の前に自作のポスターを全クラスに掲示し、岡山県赤十字血液センターの担当者を招いた講演会で献血の必要性を呼びかけるほか、ショッピングセンターや大学の学園祭など、学校の外でも献血を呼びかける活動を行っています。
ショッピングセンターや大学の学園祭で献血を呼びかける生徒たち。同世代だからこそ伝えられるメッセージがある(写真提供:おかやま山陽高等学校)
吉村さんはがん患者支援の活動への参加が印象に残っていると振り返ります。「患者さんから『献血を呼びかけてくださる方がいるから、私はいま生きています』という言葉をいただきました。自分たちの活動が人の役に立っていると実感できた瞬間でした」
献血デビューに最適な理由
卒業記念献血の実績は、コロナ禍を除くと年々増加傾向にあり令和6年度には400ml献血が93名に達しました。
なぜ卒業記念献血が献血デビューとして効果的なのでしょうか。長岡さんは「学校に献血バスが来るので、自分から出向く必要がなく体験できます」と参加しやすさを挙げます。吉村さんは「高校のうちに経験しておくと『案外簡単』と心理的ハードルが下がり、大人になっても『献血ルームがあるから行ってみよう』というきっかけになります」と継続性を説明します。
おかやま山陽高等学校の献血実績は、コロナ禍を経て回復傾向にある。令和6年度は400ml献血が93名に達した(出典:おかやま山陽高等学校提供資料)
全国へ広がる輪──生徒主体の啓発が他校を動かす
生徒たちの活動は、全国に広がっています。「高校生ボランティア・アワード」(公益財団法人 風に立つライオン基金 主催)に4年連続出場し、2024年度は「国境なき医師団賞」を受賞しました。
大会では、卒業記念献血を始めたい学校への支援も行っています。生徒たちは献血実施の手引きをまとめたチラシを作成して配布したところ、実際に他県の高校から問い合わせがあり、オンラインで生徒同士が交流する機会も生まれました。
「高校生ボランティア・アワード」での啓蒙活動の様子(写真提供:おかやま山陽高等学校)
受け継がれる想い──後輩たちへ、そして未来へ
木戸先生は、ユネスコ部の生徒たちの成長をこう語ります。「一番の変化は、相手の立場に立てるようになったこと。自分に置き換えて考え、それを試している。本当に主体的に動いてくれます」
長岡さん、吉村さんたちのさまざまな挑戦を見てきた後輩の部員たちも、「みんなと一緒ならできる」「自分がチャレンジしたくなる活動をしたい」「いろんなことにチャレンジできる機会を作っていきたい」と、今後の意気込みを語っていました。
卒業後も献血の大切さを伝えていきたいという二人。
長岡さんは、次のようにメッセージを送ります。「正しい情報を提供できれば、若い世代の方たちも耳を傾けてくれると思いますので、しっかりと発信していきたいです。みなさんには、まず調べるところから始めていただきたいです」
吉村さんは、献血感謝の集いで100回献血を達成した方に出会ったエピソードから、こう決意を語ります。「大人の方がこれだけやっているから、救える命がある。私たち若い世代が献血を続けていくことで、救える命があると実感しました。私も大人になっても続けていきたいです」
まとめ
若年層の献血者確保が課題となるなか、「今しかできないことがある」と行動する高校生たちがいます。卒業記念献血のような取り組みが全国に広がることで、継続的な献血者を生み出し、未来の医療を支える力となるでしょう。みんなで命のバトンをつないでいきましょう。
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