厚生労働省

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平成21年9月30日
厚生労働省食品安全部
加地 監視安全課長
担当:日田,高田(内4241,4242)


平成20年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について

我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成20年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。

平成20年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、0.92±0.42pgTEQ/kgbw/日(0.13〜1.90pgTEQ/kgbw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました。

なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。








本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)「ダイオキシン類等の有害化学物質による食品汚染実態の把握に関する研究」(主任研究者 堤智昭 国立医薬品食品衛生研究所食品部主任研究官)においてダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン等による食品汚染実態の把握並びに分析の迅速化等を目的として実施されたものです。









平成20年度ダイオキシン類等の有害化学物質による
食品汚染実態の把握に関する研究(概要)

主任研究者 堤智昭 国立医薬品食品衛生研究所食品部主任研究官

1 目的

ダイオキシン類の人への主な曝露経路の一つと考えられる食品について

(1)平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること

(2)個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

2 方法

(1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)

全国7地域の9機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成14年度国民栄養調査並びに平成15、16年度国民健康・栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類の測定方法ガイドライン」(平成20年厚生労働省医薬食品局食品安全部)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。

なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。

(2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究

個別食品として、国内産及び輸入食品合計45試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。

3 ダイオキシン類の調査項目

従来通り、世界保健機構(WHO)が1997年に毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種の合計29種。

4 結果の概要

(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)

食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、0.92±0.42pgTEQ/kgbw/日(0.13〜1.90pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、平成18、19年度の調査結果(0.90、0.93pgTEQ/kgbw/日:WHO 2005 TEFで換算)と比べ、ほとんど同レベルであり、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。

なお、同一機関で調製した試料であっても、魚介類、肉類、卵類、乳及び乳製品類として採取した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類の摂取量には約1.8〜6.4倍の差が生じることが分かった。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>

(5年間の調査結果)

平成16年度+ 平成17年度+ 平成18年度+ 平成19年度+ 平成20年度※
 一日摂取量
(pgTEQ/日)
70.47
(23.83〜146.60)
60.16
(23.40〜178.15)
52.23
(18.85〜97.20)
55.30
(21.18〜166.24)
45.76
(6.65〜94.92)
体重1kg当たりの一日摂取量
(pgTEQ/kgbw/日)
1.41
(0.48〜2.93)
1.20
(0.47〜3.56)
1.04
(0.38〜1.94)
1.11
(0.42〜3.32)
0.92
(0.13〜1.90)
0.90※ 0.93※

数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50kgとして計算している。ただし、+はWHO 1998 TEFにより計算、※はWHO 2005 TEFにより計算。

〈表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移〉

(単位:pgTEQ/kgbw/日)

地域 北海道地方 東北地方 関東地方 中部地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B 中部C
平成10年度 2.77 1.26 2.06 2.14 2.00 1.87 2.03
平成11年度 1.29 1.47 1.65 4.04 1.59 1.68 1.53 1.57 2.42
平成12年度 0.84 1.10 1.92 1.30 1.72 1.48 1.44 1.41 1.80
平成13年度 0.67 2.02 1.08 1.99 1.42 1.65 1.53
平成14年度 0.88 1.16 1.46 1.34 0.90 1.40 0.62
0.94 1.46 2.01 2.33 1.17 1.67 0.68
1.44 2.05 2.76 3.40 1.51 1.93 1.28
平成15年度 0.84 0.72 0.78 0.90 1.02 1.34 0.58
1.03 0.84 1.86 1.01 1.06 1.48 1.15
1.33 1.35 3.05 2.93 2.05 1.86 1.50
平成16年度 0.48 0.48 1.64 1.05 0.72 0.64
1.03 0.80 1.80 1.75 0.91 0.71
2.48 2.93 1.87 2.34 1.83 2.03
平成17年度 0.67 0.64 0.55 0.70 0.69 0.47
1.80 1.15 0.87 1.33 0.80 0.60
3.56 1.57 1.26 2.03 1.40 1.86
平成18年度 0.38 0.53 0.60 0.79 0.67 0.46
0.45 1.06 0.94 1.00 0.87 0.70
1.71 1.85 1.47 1.38 1.00 1.24
平成19年度 1.07 0.45 0.81 0.82 0.80 0.43
1.56 0.70 1.01 1.00 0.91 0.55
1.60 0.79 1.34 3.32 1.38 1.70
平成20年度 1.05 0.13 0.48 0.61 0.60 0.63
1.22 0.75 1.24 0.78 0.96 0.69
1.90 0.85 1.70 1.10 1.11 1.69
地域 関西地方 中国四国地方 九州地方
関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度 2.72 1.22 1.99
平成11年度 7.01 1.79 1.89 3.59 1.48 1.84 1.19
平成12年度 2.01 1.43 2.01 0.98 1.40 1.55 0.86
平成13年度 1.33 2.00 0.88 1.60 3.40
平成14年度 0.96 1.40 0.79 0.73 0.57
1.39 1.78 0.98 1.54 1.18
2.75 2.02 1.22 2.12 1.81
平成15年度 0.77 0.62 1.03 0.85
1.15 1.22 1.51 1.04
1.58 1.56 2.05 1.83
平成16年度 1.32 1.19 0.61
1.86 1.35 0.99
2.25 1.72 1.27
平成17年度 0.67 1.20 0.66
0.82 1.57 1.05
1.42 1.72 1.44
平成18年度 0.98 0.93 0.61
1.50 1.08 0.65
1.76 1.94 1.65
平成19年度 0.74 0.79 0.42
0.96 1.07 1.24
1.25 1.34 1.81
平成20年度 0.57 0.61 0.54
0.61 0.64 0.60
1.16 1.11 1.37

(注)平成20年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。
表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県、横浜市、中部地方:石川県、名古屋市、関西地方:大阪府、中国四国地方:香川県、九州地方:福岡県
なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量であり、WHO 1998 TEF(平成10〜19年度)、WHO 2005 TEF(平成20年度)を用いて算出されたものである。

(2)個別食品中のダイオキシン類等濃度調査
個別食品のダイオキシン類の測定結果は表3のとおりであった。

〈表3 平成20年度 食品中のダイオキシン類の濃度 (pgTEQ/g)〉

食品 産地等1) ダイオキシン類 (pgTEQ/g)2)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
魚介 サンマ
サンマ
サンマ
サンマ
サンマ
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
0.016
0.015
0.016
0.019
0.050
0.11
0.10
0.092
0.14
0.25    
0.13
0.12
0.11
0.16
0.30    
カツオ
カツオ
カツオ
カツオ
カツオ    
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
国産(天然)
0.047
0.064
0.032
0.052
0.017    
0.28
0.31
0.20
0.29
0.17    
0.33
0.38
0.24
0.35
0.19    
イカ
イカ
イカ
イカ
イカ
国産(天然)
国産(天然)
輸入(天然)
輸入(天然)
国産(天然)
0.0010
0.033
0
0
0.15
0.010
0.045
0.000060
0.000030
0.21
0.011
0.077
0.000060
0.000030
0.37
タコ
タコ
タコ
タコ
タコ
国産
輸入
国産
輸入
国産
0.20
0
0.12
0.073
0.041
0.072
0.00065
0.14
0.047
0.055
0.27
0.00065
0.26
0.12
0.096
食肉 牛肉
牛肉
牛肉
輸入
輸入
輸入
0.000054
0.0049
0.00041
0.00018
0.010
0.000090
0.00023
0.015
0.00050
豚肉
豚肉
豚肉
国産
国産
国産
0.0020
0.00040
0.00029
0.00024
0.00036
0.018
0.0023
0.00076
0.018
鶏肉
鶏肉
鶏肉
国産
国産
国産
0.00032
0.000027
0.000033
0.00060
0.0021
0.00039
0.00092
0.0021
0.00042
チーズ チーズ
チーズ
チーズ
輸入
国産
国産
0
0.055
0.033
0.00042
0.021
0.031
0.00042
0.076
0.064


国産
国産
国産
0.029
0.0093
0.027
0.011
0.032
0.12
0.040
0.041
0.14
健康食品 鮫肝油
魚油
鮫肝油
鮫肝油
鮫肝油

輸入



0.0023
0.10
0.87
0
0.028
0.50
1.1
4.7
0.86
0.30
0.51
1.2
5.5
0.86
0.33
卵黄油
卵黄油
卵黄油
卵黄油
卵黄油




0.0086
0.051
0.0024
0.0029
0.027
0.073
0.073
0.00024
0.00030
0.084
0.081
0.12
0.0027
0.0032
0.11

(注) 1)産地等の欄における「−」は「不明又は該当せず」を表す。

2)WHO 2005 TEFにより計算


【用語説明】

ダイオキシン類:

ダイオキシン及びコプラナーPCB

ダイオキシン:

ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)

ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB):

PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ:

通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF(毒性等価係数):

ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は2005年にWHOで再評価されたTEFを用いている。

TEQ(毒性等量):

ダイオキシン類は通常、毒性強度が異なる同族体の混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の量は、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):

長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。


厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)
総 括 研 究 報 告 書

ダイオキシン類等の有害化学物質による食品汚染実態の把握に関する研究

研究代表者 堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部主任研究官

研究要旨

本研究では、ダイオキシン類を中心に難分解性・蓄積性の高い有害化学物質について、食品汚染実態の把握及び分析の迅速化を目的として、研究を実施した。
(1-1)トータルダイエット方式による塩素化ダイオキシン類の摂取量調査では、全国9機関で調製したトータルダイエット試料を分析した。その結果、食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均が0.92 pg TEQ/kg bw/dayであり、耐容一日摂取量の約1/4であることを明らかにした。(PDF:236KB))

(1-2)個別食品の汚染実態調査では、魚介類、食肉、チーズ、卵、健康食品の計45試料について、塩素化ダイオキシン類を分析し汚染実態を明らかにした。また、肝臓を原料とする食品であるイカ塩辛および蟹みそ、牛・鶏肝臓などの計21試料について、有機フッ素化合物濃度(PFOA及びPFOS)を調査した。さらに、蓄積してきた個別食品汚染データを用いて一般人における塩素化ダイオキシン類摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。その結果、摂取量の平均値は51.45 pg TEQ/day(1.03 pg TEQ/kg bw/day)と推計された。(PDF:326KB))

(2-1)芳香族炭化水素レセプター(AhR)レポータージーンアッセイの高感度化を検討した。レポーターベクターには高感度化を図るため、ダイオキシン応答配列(DRE)を多く含むベクターを使用した。ルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL7.3(12DREを含む)を遺伝子導入した安定発現細胞株では、低濃度の2,3,7,8-TCDD (10 pM)により誘導されるルシフェラーゼ活性が、pGL7.1(4DREを含む)を導入した細胞株と比較し、2倍以上に上昇した。また、緑色蛍光タンパク質レポーターベクターであるpZs7.5(20DREを含む)を導入した細胞株では、pZs7.1(4DREを含む)を導入した細胞株と比較し、2,3,7,8-TCDD(10 pM)に対する蛍光強度が約4倍上昇した。(PDF:246KB))

(2-2) ダイオキシン類の迅速測定法(バイオアッセイ)の信頼性確保に関する基礎的検討を目的に、食品試料のAhR結合活性(ダイオキシン様活性)について実態調査を行った。プロポリス抽出物含有試料ではヘキサン分画物、他の試料では酢酸エチル分画物において、いずれも高濃度領域(1〜10 mg/mL)で2,3,7,8-TCDDと同等のAhR活性が認められた。(1〜6ページ(PDF:292KB)、 7〜12ページ(PDF:321KB)、全体版(PDF:921KB))

(2-3)食品試料中ダイオキシン類及びポリ塩化ビフェニル(PCBs)の一斉迅速分析法の開発を行った。本分析法は、高速溶媒抽出法、カラムクロマトグラフィー及びゲル浸透クロマトグラフィーによる試料精製、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計による異性体別定量の各工程から構成される。魚介類試料を用いて全試験操作を試行したところ、PCBs内部標準物質の添加回収率は40〜120%となり、良好であった。また繰り返し試験による定量値と回収率の再現性も良好であった。(1〜10ページ(PDF:458KB)、 11〜14ページ(PDF:363KB)、全体版(PDF:1,100KB))

(2-4)魚介類中のベンゾトリアゾール類の迅速測定法を開発することを目的とし、脂肪のアルカリ分解方法として19年度に提案した抽出液KOH分解法について、魚種による分解条件を決定した。また、分解液中の分析妨害物の除去方法として4種類のカートリッジ精製方法を検討し、NH2カートリッジを用いる精製の条件を決定した。さらに、LC/MS/MS分析条件を決定し、実サンプルでの検出下限濃度と定量下限濃度を算出した。(PDF:494KB))

(3)臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物として、臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)、臭素化ビフェニル(PBBs)、コプラナー塩素・臭素化ビフェニル(Co-PXBs)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)及び4臭素化ビスフェノールA (TBBPA)について、魚介類の汚染調査及び国内2地域における摂取量調査(トータルダイエット調査)を行った。魚試料の調査では、アナゴから4臭素化ダイオキシンが微量に検出された。PBDEsはすべての魚から検出され、PBBsでは7件中5件の魚から検出された。Co-PXBsは検出されなかった。HBCDs及びTBBPAは16件中13件から検出された。トータルダイエット試料を分析した結果、一日摂取量は臭素系ダイオキシン類が平均0.000073 pg TEQ/kg bw/day、PBDEsが平均2.98 ng/kg bw/day、PBBsが平均0.00546 ng/kg bw/dayであった(ND=0として算出)。Co-PXBsはいずれの試料からも検出されなかった。HBCDsの摂取量は2.1 ng/kgbw/day(ND=0)、TBBPAの平均摂取量は1.7 ng/kg bw/day(ND=0)となった。(1〜17ページ(PDF:435KB)、 18〜33ページ(PDF:397KB)、全体版(PDF:1,165KB))

研究分担者

松田りえ子国立医薬品食品衛生研究所

食品部長

堤 智昭国立医薬品食品衛生研究所

食品部主任研究官

中川礼子福岡県保健環境研究所

生活化学課長

A.研究目的

 ダイオキシン類に代表される難分解性かつ高蓄積性の有害化学物質は、一旦、環境中に排出されると長期間にわたり残留する。また、高蓄積性であるため食物連鎖を経て食品中に濃縮された結果、食品中に高濃度に残留し、人の健康に影響を及ぼす危険性がある。そこで、これら有害化学物質の人体への影響を評価するためには、食品汚染状況の把握が重要である。さらに、汚染調査を効率的に行うために、食品中の有害化学物質を迅速に測定できる分析法の開発が必要とされる。
 本研究の目的は、ダイオキシン類(塩素化、臭素化、塩素・臭素化混合物)を中心に、臭素化難燃剤及び有機フッ素化合物について、トータルダイエット調査及び個別食品の汚染調査を行い食品からの摂取量を推定する。また、食品中のダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、及びベンゾトリアゾール類を対象に、バイオアッセイや

   機器分析による迅速測定法を開発する。これらの目的のために、次の研究を実施した。

(1)食品からの塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の摂取量調査

(1-1)塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

(1-2)塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

(2)食品中のダイオキシン類等の有害化学物質に対する迅速測定法の開発

(2-1) ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

(2-2) 食品試料の芳香族炭化水素レセプター結合活性の調査

(2-3) 食品中ダイオキシン類およびPCBsの迅速一斉分析法の検討

(2-4) 食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

(3)食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

B.研究方法

(1-1)塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

トータルダイエット試料は、全国7地区の9機関で調製した。厚生労働省の平成14年度国民

栄養調査並びに平成15、16年度国民健康・栄養調査の各地区における食品別摂取量表に基づいて、それぞれ食品を購入し、それらの食品を計量し、そのまま、または調理した後、13群に大別して、混合均一化したものを試料とした。さらに第14群として飲料水を試料とした。第10群(魚介)、11群(肉・卵)及び12群(乳・乳製品)は、各機関で魚種、産地、メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した。これらについて、「食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し、一日摂取量を算出した。なお、第10、11及び12群を除く食品群試料は9機関で調製した試料を各群毎に5ブロックに分け、複数機関の試料を混合して分析を行った。

(1-2) 塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

魚介類(20試料)、食肉(9試料)、チーズ(3試料)、卵(3試料)、魚油及び卵黄を使用した健康食品(10製品)について、「食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン」に従って塩素化ダイオキシン類を分析した。また、魚介の内臓を原料とする食品としてイカ塩辛(4試料)および蟹みそ(4試料)、牛肝臓(4試料)、鶏肝臓(4試料)、魚肝油を原料とする健康食品(5試料)中の有機フッ素化合物濃度(PFOA及びPFOS)を調査した。PFOA及びPFOSの分析にはLC/MS/MSを使用し、安定同位体による内標準法により定量した。

さらに、国民健康・栄養調査結果を用い、一般的な国民の魚介類からのダイオキシン摂取量分布をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。食品の摂取量は、国民健康・栄養調査結果を食品別に集計した結果(平成16-18年度の平均)を用いた。ダイオキシン類濃度データは、平成10〜19年度に行われた魚介類の個別食品汚染調査結果中の魚介類データを用いた。

(2-1)ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

芳香族炭化水素レセプター(AhR)結合レポ

  

ータージーンアッセイの高感度化を検討した。高感度化を図るため、ダイオキシン類応答性DNA領域(DRE)を多く含むベクターを用いて、安定発現細胞株を作製した。レポーター遺伝子にホタルルシフェラーゼを用いたベクターとしてpGL7.1(4DREを含む)、pGL7.3(12DREを含む)、又はpGL7.5(20DREを含む)をマウス培養細胞株(Hepa1c1c7)に遺伝子導入した。さらに、より迅速なアッセイの開発を目的に、レポーター遺伝子に緑色蛍光タンパク質(サンゴ由来のZsGreen1)を用いたベクターとして、pZs7.1(4DREを含む)、pZs7.3(12DREを含む)、又はpZs7.5(20DREを含む)をラット培養細胞株(H4IIE)に遺伝子導入した。2,3,7,8- tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)に対する応答性を指標に安定発現細胞株のスクリーニングを行い、最終的なクローンのTCDD応答性を解析した。

(2-2)食品試料のAhR結合活性の調査

ダイオキシン類の迅速測定法(バイオアッセイ)の信頼性確保に関する基礎的検討を目的に、食品試料のAhR結合活性(ダイオキシン様活性)について実態調査を行った。19年度の調査でAhR活性が認められた天然物濃縮加工食品(大豆、ゴマ、プロポリス抽出物を含有する8試料)について、含有AhR活性物質を検討するために各分画物(ヘキサン、酢酸エチル、水分画)を調製し、それらのAhR活性をレポータージーンアッセイ(ダイオキシン類とAhRとの結合をルシフェラーゼ活性により検出するバイオアッセイ)により評価した。

(2-3)食品中ダイオキシン類およびPCBsの迅速一斉分析法の検討

食品試料中ダイオキシン類及びPCBsの一斉迅速分析法の開発を行った。本分析法は、高速溶媒抽出法(ASE)による自動迅速抽出、カラムクロマトグラフィー及びゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による試料精製、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計(HRGC/HRMS)による異性体別定量の各工程から構成される。ASEで調製した粉末ミルクの抽出液を用い、精製工程の条件を検討した。またHRGC/HRMSの測定条件の

最適化を行った。さらに実際の魚介類試料を用いて全試験操作を試行し、目的物質の定量値と標準品添加回収率を求め、良好な結果が得られるか確認した。

(2-4)食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

平成19年度の研究より魚種を増やし抽出液KOH分解法を行い、方法の妥当性の判定を行った後、文献から脂肪含有率で魚種を2グループに分け、各グループについて分解条件を決定した。次に、NH2カートリッジ、PS-2カートリッジ、及びフロリジルとシリカゲルカートリッジを組み合わせて、溶出液のUV-HPLCでの妨害ピークの数と大きさを比較し、精製方法を選定した。さらに、標準液分析による感度の比較からイオン化法と移動相の選択を行い、実サンプルのマトリックス効果などを確認することによって、LC/MS/MSの分析条件を決定した。

(3)食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

魚介類の汚染調査には、九州、中部、中国・四国地方で購入した魚介類を用いた。ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)については東北地方で捕獲された魚4件についても分析した。摂取量調査には、関東(埼玉)及び関西(大阪)の機関で調製したマーケットバスケット試料の第1群から13群の食品群別試料用いた。臭素系ダイオキシン類(PBDD/DFs、 MoBrPCDD/DFs)、臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)、臭素化ビフェニル(PBBs)、コプラナー塩素・臭素化ビフェニル(Co-PXBs)の分析は高速溶媒抽出を行い、硫酸処理、シリカゲルカラムで精製した後、フロリジルカラムで分画(第一画分:PBDEs、PBBs及びCo-PXBs画分、第2画分:PBDD/DFs 、MoBrPCDD/DFs)した後、第1画分はDMSO分配で、第2画分は活性炭カラムで精製を行い、HRGC/HRMSで測定した。HBCDsは、メタノール、10%ジクロロロメタン/ヘキサン混液、10% ジクロロメタン/ヘキサンで抽出した後、5% NaCl水溶液で洗浄した。抽出液をGPCで精製し、さらに44%硫酸シリカゲルクロマトグラフィーで精製した後、LC/MS/MSで測定した。テトラ

  

ブロモビスフェノールA(TBBPA)はメタノールを加えて高速ホモジナイザー抽出し、ヘキサン分配で脂肪分を除去した後、5%NaCl水溶液 を加えて、ジクロロメタンで抽出した。脱水し、乾固させた後、ジエチル硫酸で誘導体化した。誘導体化した試料をアルカリ分解した後、精製水を加えて、ヘキサンで抽出した。さらにフロリジルカラムで精製した後、GC/MSで分析した。

C.結果及び考察

(1-1)塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

ダイオキシン類の国民平均一日摂取量は0.92 ± 0.42 pg TEQ/kgbw/day(範囲0.13〜1.90 pg TEQ/kgbw/day)あった。平均摂取量は日本の耐容一日摂取量(TDI)である4 pg TEQ/kg bw/dayの約1/4であった。また、本年度の平均摂取量は、平成10年度以降(平成10〜20年度)の調査結果の中で2番目に低い値であった。ダイオキシン類摂取量に対する寄与率が高い食品群は、10群94.3%、11群4.3%、12群0.8%であり、これら3群で全体の99.5%を占めた。なお、同一機関で調製した試料であってもダイオキシン類摂取量には6倍程度の差が認められた。

(1-2) 塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

鮮魚中のダイオキシン類濃度の平均値は、サンマが0.16 pg TEQ/g、カツオが0.30 pg TEQ/g、イカが0.092 pg TEQ/g、タコが0.15 pg TEQ/gであった。肉類中のダイオキシン類濃度平均値は魚介より2オーダー低いレベルであった。チーズ及び卵は、魚介と肉類の中間のレベルであった。魚油を使用した健康食品では、0.33〜5.5 pg TEQ/gのダイオキシン類が検出された。卵黄を原材料とする健康食品には、0.0027〜0.12 pg TEQ/gのダイオキシン類が検出され、魚油を原料とする製品より低い結果となった。

有機フッ素化合物は全ての蟹みそから検出され、2試料から0.4〜0.8 ng/gのPFOAが、4試料から0.8〜2.2 ng/gのPFOSが検出された。牛

肝臓では1試料から0.2 ng/gのPFOAが、2試料から0.2〜0.9 ng/gのPFOSが検出された。鶏肝臓では1試料から0.3 ng/gのPFOAが、2試料から0.3 ng/gのPFOSが検出された。イカ塩辛及び健康食品からは有機フッ素化合物は検出されなかった。

現在までに蓄積されている個別食品の塩素化ダイオキシン類汚染データ(平成10〜19年度)を基に、一般人におけるダイオキシン類摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。その結果、摂取量の平均値は51.45 pg TEQ/day(1.03 pg TEQ/kg bw/day)と推計され、トータルダイエット試料による結果と同程度となった。摂取量の内訳は平均PCDD/Fs摂取量が18.20 pg TEQ/day、平均Co-PCBs摂取量が36.43 pg TEQ/dayと推定された。摂取量の90パーセンタイル値は129.6 pg TEQ/dayと推定された。

(2-1)ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

DREを多く含むpGL7.3あるいはpGL7.5を遺伝子導入した細胞株では、低濃度のTCDD(10 pM)により誘導されるルシフェラーゼ活性が、pGL7.1を導入した細胞株と比較し、2倍以上に上昇した。また、ルシフェラーゼ活性誘導倍率(各TCDD濃度における活性/TCDDを含まないブランクの活性)を算出したところ、pGL7.3を遺伝子導入した細胞株が最も高い倍率を示した。

緑色蛍光タンパク質をレポーター遺伝子に用いたベクターとして、pZs7.1(4DREを含む)、pZs7.3(12DREを含む)、又はpZs7.5(20DREを含む)を作製し、各ベクターを培養細胞株(H4IIE)に遺伝子導入した。DREを最も多く含むpZs7.5を導入した細胞株では、低濃度のTCDD(10 pM)に対する蛍光強度が、pZs7.1を導入した細胞株と比較し約4倍上昇した。また、GFP誘導倍率についてもpZs7.1を導入した細胞株と比較し、3倍程度高い値が得られた。

本レポータージーンアッセイは高感度であるため、食品などを対象にしたダイオキシン類のスクリーニング法として期待できる。

(2-2)食品試料のAhR結合活性の調査

  

プロポリス抽出物含有試料ではヘキサン分画物、他の試料では酢酸エチル分画物において、いずれも高濃度領域(1〜10 mg/mL)でTCDDと同等のAhR活性が認められた。本アッセイに影響を及ぼす化合物としてイソフラボン類があげられるため、各試料中のイソフラボン類(daidzein、glycitein、genistein、daidzin、glycitin、genistin)の分布をHPLCにより検討した。その結果、いずれの試料においてもイソフラボン類の検出が認められ、これらを含有する特に大豆関連製品において本バイオアッセイを使用する際には、その影響も考慮したデータの慎重な解釈が必要であることが考察された。

(2-3)食品中ダイオキシン類およびPCBsの迅速一斉分析法の検討

HRGC/HRMSによるPCBs全異性体の測定条件を検討した。GCオーブンの初期温度を100℃に設定した場合、ピーク割れの無い良好なクロマトグラムを得ることができた。さらに測定条件を最適化し、約30分の計測時間で全てのPCBs異性体を測定できる条件を確立した。

精製方法の検討では、多層シリカゲルカラム精製におけるPCBsの吸着・損失を防ぐために充填剤量の少量化を検討した。その結果、充填剤の量をガイドライン記載の重量に対して1/3とし、溶出溶媒を10%ジクロロメタン含有ヘキサンとすることで良好な精製効果と回収率を得た。GPC精製における条件検討では、粉末ミルク由来抽出物を装置に注入し、注入開始から22分までの溶出液を捨て、22〜32分までをPCBs測定試料として回収し測定した。その結果、PCBsの1〜10塩素化物について妨害物の影響の無い良好なクロマトグラムが得られた。

魚介類試料を用いて全試験操作を試行したところ、PCB内部標準物質の26化合物の添加回収率は総じて40〜120%となり、良好であった。また繰り返し試験による定量値と回収率の再現性も良好であった。

(2-4)食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

抽出液のKOH分解条件:反応温度40℃、抽出液濃縮液量/魚=5 mL/g-wet、KOH添加量/

魚=5 mmol/g-wetの条件で、反応時間1時間では脂肪含有率21%で分解十分、33%で分解不十分、2時間では脂肪含有率50%でも分解十分であったため、脂質含有率20%未満と考えられる魚種については、前記条件で1時間、20%以上となり得る特定の魚種については2時間とすることとした。

KOH分解液の精製方法:NH2とPS-2カートリッジの溶出液は、UV-HPLCクロマトグラムは同等であったが、転溶時析出物がPS-2の方が多かった。NH2の後、さらにフロリジルもしくはシリカゲルカートリッジを通してもほとんど効果がなったことから、精製はNH2カートリッジのみで行うこととした。

LC/MS/MS分析条件:標準液分析では、ESIポジティブ法(移動相:メタノール/5 mM酢酸アンモニウム溶液 99/1)の方がAPCIポジティブ法(移動相:メタノール/水 99/1)より感度が高かったが、前者では実サンプルで共存物によるマトリックス効果が大きく、実用困難であった。一方、後者ではマトリックス効果が小さく、実用可能であったので、検出下限濃度と定量下限濃度を明らかにした。

(3)食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

魚介類の調査結果は臭素系ダイオキシン類の分析では7検体中1検体から4臭素化体が低濃度で検出された。PBDEsは全ての魚介類試料から検出された(最高値は0.818 ng/g ww)。PBBsは、7検体中5検体から検出された(最高値は2.24 pg/g ww)。Co-PXBsはいずれの魚介類からも検出されなかった。検出された臭素系ダイオキシン類濃度は0.09 pg/g ww(0.009 pgTEQ/g ww)と極めて低く、摂取しても問題がないと考えられた。ΣPBDEs及びΣPBBs濃度は脂肪含量が比較的高い魚で高い傾向であった。HBCDsは 16検体中13検体で検出された(最高値は36.9 ng/g)。HBCDs異性体ではα-HBCDが高濃度で検出される場合が多く、ついでγ-HBCDであり、β-HBCDはほとんど検出されなかった。TBBPAは13検体で検出された(最高値は0.31 ng/g)。HBCDsは脂肪含量が多いほど濃度が高い傾向がみられたが、

  

TBBPAに明瞭な相関関係は認められなかった。

摂取量調査では、臭素系ダイオキシン類の一日摂取量は、ND=0とした場合は平均0.00073 pgTEQ/kg bw/day、ND=1/2LODとした場合は平均1.59 pgTEQ/kg bw/dayであった。これらの結果より、塩素化ダイオキシン類の摂取量に、臭素系ダイオキシン類の摂取量を足し合わせた場合も、我が国のTDIの4 pg TEQ/kg bw/dayを下回ると推察された。PBDEsの一日摂取量は平均2.98 ng/kg bw/day(ND=0)、平均3.03 ng/kg bw/day (ND=1/2LOD)であった。現在報告されているMRL(最小リスクレベル)やLOAEL(最小毒性発現量)よりも極めて低いレベルであった。PBBsの一日摂取量は平均0.00546 ng/kg bw/day(ND=0)、平均0.0620 ng/kg bw/day(ND=1/2LOD)であった。PBBsについても現在の一日摂取量は極めて低いと考えられた。Co-PXBsは検出されなかったため、一日摂取量はND=0とした場合は0 であった。ND=1/2LODとした場合は平均0.24 pg TEQ/kg bw/day(暫定的にCo-PCBsに定められたTEFを用いた場合)となった。

HBCDsの一日摂取量は平均2.1 ng/kg bw/day(ND=0)、3.2 ng/kg bw/day(ND=1/2LOD)と計算された。今回の調査結果は以前の結果(平成18年度)とほぼ同程度の値であった。TBBPAの一日摂取量は、平均1.7 ng/kg bw/day(ND=0)、1.8 ng/kg bw/day(ND=1/2LOD)と計算され、以前の結果(平成18年度)の倍に相当した。地域や年度、試料調整時に選択した食品種の差異もあり、ある程度の期間観察する必要がある。HBCDs、TBBPAのいずれも現在報告されているNOAEL(無毒性量)と比較すると極めて低いが、摂取量の推移には今後も注意する必要がある。

D.結論

1. トータルダイエットによる摂取量調査の結果、塩素化ダイオキシン類の一日摂取量は、0.92 ± 0.42 pg TEQ/kgbw/day(範囲0.13〜1.90 pg TEQ/kgbw/day)であり、TDIを下回って

いた。

2.魚介類、食肉、チーズ、卵、魚油及び卵黄を使用した健康食品について、塩素化ダイオキシン類濃度を調査した。ダイオキシン類汚染濃度は過去の調査と比較すると、比較的低いレベルであった。

3. 食品試料21種類中の有機フッ素化合物濃度を調査した。蟹みそ4試料中全試料から有機フッ素化合物が検出された。牛肝臓では4試料中2試料から、鶏肝臓では4試料中1試料から有機フッ素化合物が検出された。イカ塩辛4試料及び鮫肝油5試料からは有機フッ素化合物は検出されなかった。

4. 一般人におけるダイオキシン類摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した結果、摂取量の平均値は51.45 pg TEQ/day(1.03 pg TEQ/kg bw/day)と推計された。

5. DREを多く含むレポーターベクターを遺伝子導入し、TCDDに高応答性を有するレポータージーンアッセイを開発した。レポーター遺伝子にルシフェラーゼを使用したアッセイの他、より簡便な方法として緑色蛍光タンパク質を使用したレポータージーンアッセイも開発した。

6. 天然物濃縮加工食品の分画物を調製し、AhR活性を評価した結果、プロポリス抽出物含有試料ではヘキサン分画物、他の試料においては酢酸エチル分画物のいずれも高濃度領域で、TCDDと同等のAhR活性を示した。イソフラボン類の影響が示唆されるため、逆相HPLCによるイソフラボン類の分布を検討したところ、プロポリス抽出物以外の製品においてそれらの検出が認められた。

7. 本分析方法によって魚介類から調製した測定試料をHRGC/HRMSで分析したところ、良好なクロマトグラムが得られ、また全試験操作におけるPCBsの標準品添加回収率と定量値の再現性は良好であった。このことから食品中のダイオキシン類・PCBsの迅速一斉分析法として、ASEの応用が可能と考えられた。

8. 新規に提案した抽出液のKOHによる脂肪等分解法に関して、魚種を2つに分け、それぞれに適した分解条件を決定した。また、KOH分

  

解液の精製方法として4種類のカートリッジ精製方法を検討し、NH2カートリッジを用いる精製の条件を決定した。さらに、LC/MS/MS分析条件を決定し、実サンプルでの検出下限濃度と定量下限濃度を算出した。

9. 魚試料の汚染調査では、1検体から4臭素化ダイオキシンが微量に検出された(0.09 pg/g ww)。PBDEsではすべての魚から検出され(最高値は0.818 ng/g ww)、PBBsでは7検体中5検体の魚から検出された(最高値は2.24 pg/g ww)。Co-PXBsはいずれの異性体も検出されなかった。HBCDsについては汎用性の高い食品試料の分析法を検討・開発し、その方法を用いて魚試料の汚染調査を実施した結果、16検体中12検体からHBCDsを検出した(最高値は36.9 ng/g)。一方TBBPAは13検体で検出され、最高値は0.31 ng/gであり、総じてHBCDsに比し、1-2桁低汚染であった。

国内2地域の摂取量調査の結果、一日摂取量は臭素系ダイオキシン類が平均0.000073 pgTEQ/kg bw/day(ND=0)、PBDEsが平均3.23 ng/kg bw/day(ND=0)、PBBsが平均0.00547 ng/kg bw/day(ND=0)であった。Co-PXBsは2地域ともいずれの食品群別試料からも検出されなかった。HBCDsは平均2.1 ng/kg bw/day(ND=0)、TBBPAは平均1.7 ng/kg bw/day(ND=0)であった。

E.健康危険情報

なし

F. 研究発表

1. 論文発表

1) Tsutsumi T, Amakura Y, Ashieda K, Okuyama A, Tanioka Y, Sakata K, Kobayashi Y, Sasaki K, Maitani T. PCB 118 and aryl hydrocarbon receptor immunoassays for screening dioxins in retail fish. J. Agric. Food Chem. 2008: 56: 2867-2874.

2) Tsutsumi T, Miyoshi N, Sasaki K, Maitani

T. Biosensor immunoassay for the screening of dioxin-like polychlorinated biphenyls in retail fish. Anal. Chim. Acta. 2008: 617: 177-183.

3) Tsutsumi T, Amakura Y, Yanagi T, Kono Y, Nakamura M, Nomura T, Sasaki K, Maitani T, Matsuda R. Dietary exposure to dioxins in Japan: Nationwide total diet study 2002-2006. Organohalogen Compounds 2008: 70: 2313-2316.

4) Nakagawa R, Murata S, Ashizuka Y, Hori T, Yasutake D, Ujiie A, Sasaki K, Tsutsumi T. Hexabromo-cyclododecane in marine products collected from four regions of Japan. Organohalogen Compounds 2008: 70: 1900- 1903.

5) Amakura Y, Tsutsumi T, Sasaki K, Nakamura M, Yoshida T, Maitani T. Influence of food polyphenols on aryl hydrocarbon receptor-signaling pathway estimated by in vitro bioassay. Phytochemistry 2008: 69: 3117-3130.

6) Amakura Y, Tsutsumi T, Tanno K, Nomura K, Yanagi T, Kono Y, Yoshimura M, Maitani T, Matsuda R, Yoshida T. Dioxin concentrations in commercial health tea materials in Japan. J. Health Sci. 2009: 55: 290-293.

2.学会発表

1) 中川礼子,村田さつき,芦塚由紀,安武大輔,堀 就英,氏家愛子,堤 智昭:国内4地域で採取された魚介食品におけるヘキサブロモシクロドデカンの汚染について. 第17回環境化学討論会(2008.6).

2) 堤 智昭,天倉吉章,柳 俊彦,中村宗知,河野洋一,野村孝一,堀 就英,飛石和大,芦

 

塚由紀,中川礼子,飯田隆雄,佐々木久美子,豊田正武,米谷民雄,松田りえ子:日本における市販食品のダイオキシン類汚染実態 〜厚生労働科学研究による調査結果のまとめ〜. 第45回全国衛生化学技術協議会年会 (2008.11).

3) 芦塚由紀,安武大輔,中川礼子,村田さつき,堀 就英,堤 智昭:魚介類中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の分析.第45回全国衛生化学技術協議会年会 (2008.11).

4) 堤 智昭,石塚菜穂子,松田りえ子,Michael S.Denison:ダイオキシン類に対する高感度CALUXバイオアッセイの開発 −ダイオキシン類応答性領域を多数含むレポーターベクターを利用したアプローチ−.第11回環境ホルモン学会(2008.12)

5) 天倉吉章,堤 智昭,中村昌文,好村守生,米谷民雄,吉田隆志:天然物濃縮加工食品のAhR結合活性について.日本生薬学会第55年会(2008. 9).

6) 堀 就英,安武大輔,中川礼子,堤 智昭:食品中ダイオキシン類・PCBsの一斉迅速分析法の検討−市販内部標準製品中の不純物の同定−.第45回全国衛生化学技術協議会年会(2008.11).

G. 知的財産権の出願、登録

なし

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