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専門委員会報告においては、出自を知る権利について、「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子は、成人後、当該提供者に関する個人情報のうち、当該提供者を特定することができないものについて、当該提供者がその子に開示することを承認した範囲内で知ることができる。」とされていた。
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こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、提供者の個人情報を知ることは提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子のアイデンティティの確立などのために重要なものではあるが、(1)提供者が開示を希望しない情報についても開示することとすれば、提供者のプライバシーを守ることができなくなること、(2)提供者を特定できる情報を開示することを認めると、生まれた子や提供者の家族関係等に悪影響を与える等の弊害の発生が予想されること、(3)個人情報を広範に開示すると、精子・卵子・胚の提供の減少を招きかねず、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないこと等を挙げている。
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本部会においては、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子が知ることができる提供者の個人情報の範囲について、子が希望すれば提供者を特定できる情報を含め開示するのか、あるいは、開示する範囲は提供者が決めることができることとするのかといった論点を中心に等について数回にわたる慎重な検討がなされた結果、当該生殖補助医療によって生まれた子は提供者を特定できる内容を含め開示請求ができることとするとの結論に至った。
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本部会における結論は専門委員会の結論と異なるものであるが、本部会においては、次のような考え方により、こうした結論に至ったものである。
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自己が提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子であるかについての確認を行い、当該生殖補助医療により生まれた子が、その子に係る精子・卵子・胚を提供した人に関する個人情報を知ることは、アイデンティティの確立などのために重要なものと考えられるが、子の福祉の観点から考えた場合、このような重要な権利が提供者の意思によって左右され、提供者を特定することができる子とできない子が生まれることは適当ではない。
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生まれた子が開示請求ができる年齢を超え、かつ、開示に伴って起こりうる様々な問題点について十分な説明を受けた上で、それでもなお、提供者を特定できる個人情報を知りたいと望んだ場合、その意思を尊重する必要がある。
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提供は提供者の自由意思によって行われるものであり、提供者が特定されることを望まない者は提供者にならないことができる。
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開示の内容に提供者を特定することができる情報を含めることにより、精子・卵子・胚の提供数が減少するとの意見もあるが、減少するとしても子の福祉の観点からやむを得ない。
ただし、国民一般への意識調査の結果からは、提供者を特定することができる情報を含めて生まれる子に開示するとしても、一定の提供者が現れることが期待される。 |
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なお、現在のAIDについては、精子の提供は匿名で行われるのが一般的であり、この出自を知る権利の適用について過去に遡って適用することは、提供の際には予期しなかった事態が起こることとなるため、上記の結論については一定の制度整備がなされた後に実施されるべきものと考える。
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開示請求できる者の条件についてであるが、アイデンティティの確立のためには、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子であるかどうかを含めて確認することが重要であることから、開示請求ができる者については、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれたとわかっている者に限定せず、自らが当該生殖補助医療によって生まれたかもしれないと考えている者についても対象に含めた。
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開示請求ができる年齢については、自己が精子・卵子・胚の提供により生まれてきたこと又は提供者に関する個人情報を知ることによる影響を十分に判断できる年齢であることが必要であるが、アイデンティティクライシスへの対応という観点から思春期から開示を認めることが重要であること、民法における代諾養子や遺言能力については15歳を区切りとしていること等を踏まえ、15歳とした。
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開示請求は、書面により開示範囲を指定して行うこととし、開示は書面により行われることとする。
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本部会においては、上記のように出自を知る権利を認めることとしたが、精子・卵子・胚の提供を受けることを希望する夫婦及び提供を希望する者が、出自を知る権利や予想される開示に伴う影響について、あらかじめ了解した上で提供を受け、あるいは、提供することとしなければ、不測の事態が生ずることになるため、こうした事項についてインフォームド・コンセントを行うこととする。
また、出自を知る権利については提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子のアイデンティティの確立などのため重要なものであるが、生まれた子が出自を知る権利を行使することができるためには、親が子に対して提供により生まれた子であることを告知することが重要であるので、その旨インフォームド・コンセントを行うこととする。
なお、実際に出自に関する告知をいつ、どのような形で行うのかは一義的には提供を受けた夫婦の判断に任せられるものであり、このインフォームド・コンセントは当該夫婦に対して出自の告知を一律に強制する趣旨のものではない。
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精子・卵子・胚の提供者に関する個人情報の開示は、自らのアイデンティティに関わる重要な問題であり、開示請求があった場合に機械的に開示するという対応では、開示請求者の抱える問題をより複雑化させる場合も生ずると考えられる。
このため、開示の請求を求めてきた者に対し、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせることとする。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は、その事案の性質上、特段の配慮がなされる必要があると考える。
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なお、出自を知る権利については、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療により生まれた子が、提供者に関する情報を知るものであるが、提供者については、希望した場合、提供を行った結果子どもが生まれたかどうかだけを、公的管理運営機関から知ることことができることとする。これは、匿名性が守られる限り、提供者と提供を受ける夫婦や生まれた子の間に何らかの問題が生じることは想定されないためである。 |