インタビュー

米田功さん

「こころは重要な要素。こころを中心に練習や日常生活を送る」

アテネオリンピック金メダリスト
元体操選手 米田 功 さん

体操を始めたきっかけは、喘息予防
Q1:
体操を始めたきっかけは、どんなことだったのですか? 当時の目標などはありましたか。
A:
生まれてから喘息(ぜんそく)で、幼稚園の前半は通園できないくらいカラダが弱かったんです。
このままだと小学校に入ってからいじめにあうのではないかと、母親は心配していたそうですが、道端で側転をする子どもたちを見た母親は、「これや!」と思ったそうです。

側転をできるようになったら、カラダが強くなっていじめにはあわないだろうと、私を近所の体操教室に入れました(笑)。
それまで母親は体操に興味があったというわけでもなく、ほんとに偶然。
ですから自分では気づいたら体操を始めていて、カラダが強くなっていたという感じなんです。
7歳のときに体操の練習を始めてから不思議なことに、喘息発作で苦しむことがほとんどなくなりました。
病気と向き合う力
Q2:
喘息で運動を続けるのは大変だったと思いますが、喘息とどのように付きあったのか、もう少し詳しく聞かせてください。
A:
喘息というのは、呼吸ができなくなるくらい苦しいし、大変な病気なんです。
たとえば呼吸が苦しくなってきたときにパニックに陥ってしまうと余計に呼吸がつらくなるので、自分を落ち着かせるようにしていました。

「どうやって呼吸したら楽になるんだろう」

と、子どもの頃からそのことばっかりを考えていました。 喘息と向き合うしかないわけですからね。
とくに困ったのは、体操の遠征中でした。みんなと同じ部屋で寝るので、寝静まると喘息特有のヒーヒーという自分の呼吸音がみんなに聞かれるのが恥ずかしくて、夜中ずっと一人でトイレへ入っていたなんていうこともありました。
当時は必死でしたが、体操を通してカラダを鍛えたことで、喘息という病気と向き合えるようになった気がします。
喘息は精神的に強くなれる力をつけてくれたと思います。
ひとりで自分探しをする時間が好き
Q3:
ご自分は、どんな性格だと思いますか。友達とはどんなつきあい方をしていましたか。
A:
米田功さん ちょっとしたことでも、気にしたり傷ついてしまったりするほうです。
反対に、自分の物言いが相手を傷つけたんじゃないかなと気になったりします。 また、教室で友達同士が楽しそうにしゃべったりしているのを見ると、他人からどう見られているのかが気になります。

対人関係では繊細なところがあって、周囲には気を遣って接しているように思います。
プライベートでは、みんなとワイワイとやるというより、ひとりで自分探しをしている時間が結構好きな性格ですね。
練習が大キライな中高生だった!?
Q4:
中学生・高校生の頃から全国大会に出場するなど大舞台での競技も多かったと思いますが、どんな気持ちで練習し、本番を迎えていましたか?
A:
小学校の中学年から体操の名門クラブに通い、全国中学生大会では個人総合優勝。
基礎をみっちり指導してもらったので、いつの間にか体操が上達していた感じでした。

高校時代はインターハイで個人総合2位。
自分の中では2位でもすごい! と思うんですけれど、優勝しないと先生から叱られるんです。
先生は強くなってほしくて「優勝しろ、練習しろ」と言うのかもしれませんが、どうしてこんなに大変な思いをして練習しなきゃいけないんだろうと思えてきて。練習がキライでした。

だから練習せずに強くなるにはどうしたらいいんだろうということをいつも考えていました。
たとえば、体操は6種目あるので、思い切り集中して6本30分の練習で終わろう! なんて……。

基礎ができていたため、練習をそれほどしなくてもある程度の結果を出せたんです。でも、練習をしない者を誰も助けてくれないし、チームの輪が乱れていきます。そうして、シドニーオリンピックには出場出来ませんでした。
こころをメインに考えると、失敗もこわくない!
Q5:
2004年アテネオリンピックでは、日本男子体操のキャプテンとして団体で金メダルを獲得されました。
プレッシャーのかかる場面で自分の力を発揮するには、どのようにこころをコントロールしているのですか。
A:
スポーツ選手にとって、こころとどう向き合い、コントロールするかというのはとても重要な課題だと思います。
多くの選手は、試合でプレッシャーがかかると、緊張から失敗してしまった経験をもっているでしょう。

でも、体操競技で技を決めようとするときに、こころにブレーキをかけるものは
「もしかしたら失敗するんじゃないか」、
「これを決めれば勝てるんじゃないか」
という「気持ち(こころ)」なんです。
だから試合で失敗しないように、何とかこころをコントロールしようと、長時間にわたって技を磨く練習をするわけです。
でも、試合で失敗すると、「緊張して失敗した。もうだめだ」とやる気を失っていくことも多いと思います。

ここで重要なのは練習よりも「こころ」をメインに考えることだと思います。
すると練習の仕方も変わってきます。本当の試合だと思って、普段の練習をするんです。
すると、本番の試合でもなんとかできるようになりますし、
「試合で緊張しても、できればいいじゃない」、
「やる気を失わなければ、失敗してもいいじゃない」
と思えれば、失敗を怖がらなくてすむようになります。
失敗はダメじゃない!
Q6:
失敗をこわがらなくてすむようにするのに、どんなふうにこころのメンテナンスをしていたのですか?
A:
「失敗したからだめ」、「失敗したからやる気がなくなった」と考える人が多いと思いますが、失敗してもだめではありません。
本来、「失敗」は「だめ」につながりません。失敗しても、やる気を失わない人もいますから。
こころをメインにすると、「次はできるようになろう」とやる気を失わないでいければ、「失敗してもいい」と考えられます。

また、「できない」ことは「よくないこと」と考える人も多いですね。
でも、こころをメインに考えると「できないことを、できるようにやっていくところ」が楽しいんだと思います。
そこを達成していく課程が魅力的だと思います。
日々のことを周囲の人に話そう
Q7:
こころに悩みをもっている人に対して、どうしたら解決の道が見えるのか、米田さんから先輩としてのアドバイスをお願いします。
A:
頭の中で考えているだけでは、整理されないので、どんなことで悩んでいるのか自分でもわからないことが多いです。
悩んでいる自分はダメだと否定するんじゃなくて、悩みと向き合うことが大事だと思います。
それにはふだん起こっていることを口に出して、友達や親に話してみると効果があります。
すると、悩みが明確になり、前にすすめるようになります。

単純な悩みなら、話すだけでも気持ちが浄化されてすっきりしていくと思っています。
もし話せる人がいないなら、この機会に話せる人を上手に見つけてみるといいと思います。
また、僕の場合は丿ートに「なりたいこと」「練習したいこと」などを書いてきました。

悩みを話したり書いたりすることで、次にどう行動したらよいか、見えてくるものですよ。
カウンセリングは恥ずかしいことじゃない!
Q8:
カウンセリングを受けたことがあるそうですが、どんなことを聞かれたり話したりするのですか。
A:
アテネオリンピックの後に、度重なる手術を乗り越えた経験があります。
そんなときメンタルトレーニングやカウンセリングで救われました。

カウンセラーには日常あったことを話します。
競技の話はしないで日常のできごとを話して、もやもやしているものを吐き出しただけ。
カウンセラーは、僕の話にじっと耳を傾けてくれてました。
すると、こころが浄化されてスッキリした気分で帰ることができましたね。

カウンセリングを受けることは、悪いことでも恥ずかしいことでもないんです。
前に進もうとしている人にとっては、カウンセラーはパートナーのような存在だと思います。
相談されたら、だまって話を聞いてあげて!
Q9:
相談を受けたときに、どんな対応をとるのが望ましいのでしょうか。メンタルトレーナーの立場からアドバイスをお願いします。
A:
話をするとき、話し手はただ聞いてほしいだけ。
ただ聞いてあげるのが一番なんですが、親に話すと「こうしてほしい!」と指示がとんできますよね。
すると、自分のことをわかってもらえないと思い、徐々に相談しなくなると思うんです。

こうした会話はカウンセリングと同じだと思います。
話をじっと聞くことが大切。どんな悩みをもっているのか、どう感じているのかを引き出しながら聞いてあげて、しっかり理解してあげることが大事だと思います。
アドバイスは、ほんのひと言くらいで、ちょうどいいと思っています。
つり輪 床運動 跳馬

©徳洲会体操クラブ

写真左より、つり輪、床、跳馬で活躍する体操選手時代の米田さん。
米田功さん
サイン
●プロフィール
米田功(よねだ・いさお)さん

1977年大阪府生まれ。アイデアヒューマンサポートサービス所属。
7歳から体操を始めて、全国中学生大会で個人総合優勝。
高校時代にインターハイで個人総合2位、大学時代は全日本学生選手権個人総合優勝など。

2004年のアテネオリンピックでは日本男子体操のキャプテンとして団体で金メダル、個人の鉄棒では銅メダルを獲得。
2008年に現役を引退し、2009年からはメンタルトレーナーとしての活動をスタートし、中学・高校から講演会の依頼も多数受けている。

2012年の米田功体操クラブ設立に向けて準備中。