労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ビクターサービスエンジニアリング(差戻控訴審)  
事件番号  東京高裁平成24年(行コ)第82号  
控訴人   国(処分行政庁:中央労働委員会)  
控訴人補助参加人   全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部
全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会  
被控訴人   ビクターサービスエンジニアリング株式会社  
判決年月日   平成25年1月23日  
判決区分   原判決全部取消  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 会社との業務委託契約に基づき親会社製音響製品等の修理等業務に従事する個人代行店が、組合の分会を結成し、組合の地方本部及び支部とともに会社に対して団体交渉を申し入れたところ、会社が、個人代行店は独立した自営業者であり、労働者に該当しないことなどを理由として、団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、会社に対し、①地方本部及び分会との団交応諾、②地方本部及び分会への文書手交を命じるとともに、支部については団交当事者としての資格を有しないとして、支部の申立てを却下した。
 会社及び支部は、これを不服としてそれぞれ再審査を申し立てたが、中労委は会社及び支部の各再審査申立てをいずれも棄却した。
 これに対し、会社は、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は中労委の命令を取り消した。
 中労委は、同地裁判決を不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は控訴を棄却した。
 このため、中労委は、同高裁判決を不服として、最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったところ、最高裁は、上告は棄却する一方、上告受理申立てについては受理決定し、その後、最高裁は、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。
 本件は、差し戻し後の東京高裁において、原判決を取り消し、会社の請求を棄却したものである。
判決主文  1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1審、差戻前の控訴審、上告審及び差戻後の控訴審を通じ、参加によって生じた費用を含めて、被控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 個人代行店は労組法上の労働者に当たるか(個人代行店の修理業務の内容、当該個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるか)
(1) ①会社は、自ら選抜し、会社が実施する研修を了した個人代行店に出張修理業務の多くを担当させている上、出張修理業務については、会社が1日当たりの受注可能件数を原則8件と定め、各個人代行店と営業日及び業務担当地域ごとの業務量を調整して割り振っているから、個人代行店は、会社の上記事業の遂行に必要な労働力として、基本的にその恒常的な確保のために会社の組織に組み入れられているとみることができる。
 加えて、②契約の内容は、会社の作成した統一書式に基づく業務委託に関する契約書及び覚書により画一的に定められ、業務の内容や条件等について個人代行店側で個別に交渉する余地はないから、会社が個人代行店間の契約内容を一方的に決定しているといえる。
 さらに、③個人代行店に支払われる委託料は、形式的には出来高払に類する方式が採られているものの、個人代行店は1日当たり通常5件ないし8件の出張修理業務を行い、最終の顧客訪問時間は午後6時ないし7時頃になることが多く、修理工料等が修理する機器や修理内容に応じて著しく異なることからこれを専ら仕事完成に対する対価とみざるを得ないといった事情が特段うかがわれないことからすると、本件では、実質的には労務提供の対価として支払われているとみることができる。
 また、④個人代行店は、特別な事情のない限り会社により割り振られた出張修理業務を全て受注すべきとされている上、契約の存続期間は1年間で会社から申出があれば更新されないとされていること等にも照らすと、各当事者の認識や契約の実際の運用では、個人代行店は、基本的に会社による個別の出張修理業務の依頼に応ずべき関係にあるとみるのが相当である。
 しかも、⑤個人代行店は、原則として営業日には毎朝業務開始前に会社のサービスセンターに出向き出張訪問カードを受け取り、会社指定の業務担当地域に所在する顧客宅に順次赴き、会社の親会社作成のサービスマニュアルに従い出張修理業務を行い、その際、親会社のロゴマーク入り制服及び名札を着用した上、会社名が印刷された名刺を携行し、毎夕の業務終了後も原則としてサービスセンターに戻り、伝票処理や当日の修理進捗状況等の入力作業を行っているから、個人代行店は、基本的に、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務提供を行い、かつ、その業務について場所的にも時間的にも相応の拘束を受けているといえる。
(2) 上記(1)の諸事情に鑑みると、本件における出張修理業務を行う個人代行店については、他社製品の修理業務の受注割合、修理業務における従業員の関与の態様、法人等代行店の業務やその契約内容との等質性などにおいて、独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り、労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。
 そこで、以下特段の事情の有無につき検討する。
(3) 個人代行店の業務内容について
 前記のとおり、個人代行店に支払われる委託料は、実質的には労務提供の対価として支払われているとみられ、個人代行店の中に通常の従業員よりも高額の報酬を得ていた者があったとしても、この判断は左右されない。また、個人代行店の業務担当地域がその住所地又はその付近とされていても、個人代行店は会社の出張修理業務の遂行に必要な労働力の恒常的な確保のために会社の組織に組み入れられ、基本的に、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務提供を行い、かつ、その業務について場所的にも時間的にも相応の拘束を受けている。
 したがって、個人代行店が自らの独立した経営判断に基づきその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているとは認め難く、直ちに個人代行店が独立の事業者としての実態を備えているとはいえない。
(4) 他社製品の修理業務の受注割合について
 他社製品の修理業務を受注し、その収入が会社の業務に比して大きい個人代行店が存在したとしても、それは会社の承諾の下に業務受注量や拘束時間を調整した結果であって、個人代行店が会社の承諾を得ることなく他社製品の修理業務を受注することは困難であると推認されるから、そのことから直ちに個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるとは認められない。
(5) 修理業務における従業員の関与の態様
 契約上個人代行店が従業員を雇用して修理業務を行わせることは禁じられていないが、少なくとも分会員の中に、実際に従業員を雇用している者はいない。したがって、従業員の関与という点から個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるとは認められない。
(6) 法人等代行店の業務やその契約内容との等質性について
 会社と法人等代行店との契約内容は一律ではなく、Aとの契約内容は、有償修理代金についてはAの使用する規定に基づき顧客に請求でき、修理期間についても所定期間内ではAの裁量により定められるなど、個人代行店に比べてより独立した経営判断に基づき業務内容を差配して収益管理を行う機会が確保され、また、Bの業務実態は、独自の店舗を構え、従業員を雇用し、他社からの業務委託とともに一般からの家電修理その他の業務を受けているなど、独立した経営判断に基づき業務内容を差配して収益管理を行う機会が確保されていることが認められる。
 したがって、法人等代行店の業務やその契約内容との等質性の観点からみても、個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるとは認められない。
(7) その他個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるとは認められない。したがって、個人代行店は労組法上の労働者に当たる。
2 会社が団体交渉の申入れに応じなかったことは不当労働行為に当たるか
(1) 分会の組合規約具備について
 労働者集団が労組法2条の労働組合に該当するものとして団体交渉権の保護を受けるためには、団体運営に必要な規約を備えていることが必要であるが、その規約は組合員の権利義務、機関、役員、統制、会計など組織運営の基本的要素を備えたものであれば足りると解される。
 分会では、平成17年1月29日の結成大会までに分会規約の作成が組合支部の主導により進められ、結成大会では、規約案が配布説明され、その中には組合員の権利義務、機関、役員、統制、会計など組織運営の基本的要素の記載がされており、参加者から異議はなかったが、その規約案は一部手書きの部分があるなど完成したものではなかったため、いったん回収されたこと、その後役員等の間で規約案の内容が検討修正された上、18年1月22日の臨時大会で分会規約が決議されたことが認められる。結成大会で配布されたレジュメには規約説明の項目があり、同大会の2日後には地方本部役員から支部役員あてに修正された規約案がメールで送信されたこと等からすると、分会結成大会で、組合規約として必要とされる基本的要素を備えた規約案が構成員に承認されたと認められるから、団体交渉申入れ当時、分会は労組法上の労働組合として保護されるために必要な規約を具備していたというべきである。
(2) 分会らに支部を加えた団体交渉申入れの拒絶について
 共同団体交渉を求められた使用者は、その当事者となる労働組合の一部に団体交渉権がないとする場合、その旨を労働組合側に伝えて団体交渉権のない者を団体交渉から除くことを求めることができ、労働組合側はこれに応じないときには全体としての団体交渉に応ずべき義務はない。しかし、使用者が共同団体交渉を求める労働組合の一部に団体交渉権がないと判断したからといって、それを労働組合側に告げず、その排除を求めることもせずに、直ちに全面的に団体交渉を拒否することは、そのような対応ができない特段の事情がない限り、許されない。
 本件において、会社は、団体交渉申入れに対し、分会が会社の雇用する労働者をもって結成された労働組合とは解されないことなどを理由として、分会が出席する交渉及び個人代行店に関する事項についての交渉には応じられない旨を回答し、併せて、交渉人数は5名程度とし、団体交渉での遵守事項を申し入れていたことが認められる。しかし、会社が支部の団体交渉権に疑義を有していたとしても、その旨を分会ら及び支部に伝え、支部を団体交渉から除くよう求めることができなかった特段の事情は認められないから、会社がこのような対応をせずに団体交渉申入れに応じなかったことに正当な理由があるとはいえない。
(3) 本件要求事項の義務的団体交渉事項該当性について
 労働基準法上の労働者に該当しない労働者であっても、労組法上の労働者として組合員の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものに関して団体交渉を求めることができ、その際労働基準法の定める基準を参照して待遇改善を求めることは違法不当ではなく、使用者はそのような団体交渉に応じる義務がある。
 本件要求事項は、最低保障賃金、1日の就労時間、年間総休日数、社会保険及び労働保険への加入、業務の遂行上必要な経費の会社の全額負担、その他については労働基準法に準拠すること等をいうもので、労働基準法の定める基準を参照して個人代行店の待遇改善を要求するものであるから、義務的団体交渉事項に該当する。
3 以上によれば、会社が団体交渉の申入れに応じなかったことは不当労働行為に当たるとした本件命令は正当であって、会社の請求は理由がないから棄却すべきであり、これと異なる第1審判決は相当でない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成17年(不)第11号 一部救済 平成18年11月17日
中労委平成18年(不再)第68号・第69号 棄却 平成20年2月20日
東京地裁平成20年(行ウ)第236号 全部取消 平成21年8月6日
東京地裁平成20年(行ク)第242号 緊急命令申立ての却下 平成21年8月6日
東京高裁平成21年(行コ)第294号 棄却 平成22年8月26日
最高裁平成22年(行ツ)第454号、平成22年(行ヒ)第489号 上告棄却(22年(行ツ)454号)、上告受理(22年(行ヒ)489号) 平成23年12月6日
最高裁平成22年(行ヒ)第489号 破棄差戻し 平成24年2月21日
最高裁平成25年(行ツ)第179号・平成25年(行ヒ)第213号 上告棄却・上告不受理 平成26年2月20日
 
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