労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ビクターサービスエンジニアリング 
事件番号  最高裁平成22年(行ヒ)第489号 
上告人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
同補助参加人  全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部
全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会 
被上告人  ビクターサービスエンジニアリング株式会社  
判決年月日  平成24年2月21日 
判決区分  破棄差戻し 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 Y会社との業務委託契約に基づきY会社製音響製品等の修理等業務に従事する個人代行店が、X組合の分会を結成し、X組合の地方本部及び支部とともにY会社に対して団体交渉を申し入れたところ、Y会社が、個人代行店は独立した自営業者であり、労働者に該当しないことなどを理由として、団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、Y会社に対し、①地方本部及び分会との団交応諾、②地方本部及び分会への文書手交を命じるとともに、支部については団交当事者としての資格を有しないとして、支部の申立てを却下した。
 Y会社及び支部は、これを不服としてそれぞれ再審査を申し立てたが、中労委はY会社及び支部の各再審査申立てをいずれも棄却した。
 これに対し、Y会社は、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は中労委の命令を取り消した。
 中労委は、同地裁判決を不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は控訴を棄却した。
 このため、中労委は、同高裁判決を不服として、最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったところ、最高裁は、平成23年12月6日付けで、上告を棄却する一方、上告受理申立てについては受理決定し、本件において、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻すこととした。
判決主文  原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。  
判決の要旨  1 原審の判断を是認することができない理由
(1) ①出張修理業務のうちY会社の従業員によって行われる部分は一部で、Y会社は、Y会社が実施する研修を了した個人代行店に出張修理業務のうち多くの割合の業務を担当させている上、個人代行店が担当する各営業日ごとの出張修理業務について、Y会社が1日当たりの受注可能件数を原則8件と定め、各個人代行店と営業日及び業務担当地域ごとの業務量を調整して割り振っているから、個人代行店は、Y会社の上記事業の遂行に必要な労働力として、基本的にその恒常的な確保のためにY会社の組織に組み入れられているとみることができる。
 加えて、②本件契約の内容は、Y会社作成の統一書式に基づく業務委託に関する契約書及び覚書によって画一的に定められ、業務の内容や条件等について個人代行店の側で個別に交渉する余地がないことは明らかだから、Y会社が個人代行店間の契約内容を一方的に決定しているといえる。
 さらに、③個人代行店に支払われる委託料は、形式的には出来高払に類する方式が採られているものの、個人代行店は1日当たり通常5件ないし8件の出張修理業務を行い、最終の顧客訪問時間は午後6時ないし7時頃になることが多いという業務遂行状況に鑑みると、修理工料等が修理機器や修理内容に応じて著しく異なりこれを専ら仕事完成に対する対価とみざるを得ない事情が特段うかがわれない本件では、実質的には労務提供の対価としての性質を有するとみるのがより実態に即しているといえる。
 また、④個人代行店は、特別な事情のない限りY会社によって割り振られた出張修理業務を全て受注すべきとされている上、本件契約の存続期間は1年間でY会社から申出があれば更新されないとされていること等にも照らすと、各当事者の認識や本件契約の実際の運用では、個人代行店は、基本的にY会社による個別の出張修理業務の依頼に応ずべき関係にあるとみるのが相当である。
 しかも、⑤個人代行店は、原則として営業日には毎朝業務開始前にY会社のサービスセンターに出向いて出張訪問カードを受け取り、Y会社指定の業務担当地域に所在する顧客宅に順次赴き、Y会社の親会社作成のサービスマニュアルに従い出張修理業務を行い、その際、親会社のロゴマーク入り制服及び名札を着用した上、Y会社名が印刷された名刺を携行し、毎夕の業務終了後も原則としてサービスセンターに戻り、当日の修理進捗状況等の入力作業等を行っているから、上記の通常の業務に費やされる時間及び態様も考慮すれば、個人代行店は、基本的に、Y会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務提供を行い、かつ、その業務について場所的にも時間的にも相応の拘束を受けているといえる(このことは、サービスセンターとのやり取りをファックス等を通じた通信により行っている一部の個人代行店についても同様である。)。
(2) 上記(1)の諸事情に鑑みると、本件出張修理業務を行う個人代行店は、他社製品の修理業務の受注割合、修理業務における従業員の関与の態様、法人等代行店の業務やその契約内容との等質性などにおいて、独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り、労組法上の労働者としての性質を肯定すべきと解するのが相当であり、上記特段の事情があるか否かが問題となる。
 しかしながら、①親会社製品以外の製品の修理業務を行う個人代行店が2店存在する一方で、その業務の内容や割合等は明らかではなく、また、②個人代行店はその従業員を修理業務に従事させることが禁止されていないものの、その従業員の有無及びその従業員が行っている業務の内容が日常的に補助的業務の範囲を超えているか否か等は明らかではなく、さらに、③Y会社は法人等代行店とも業務委託契約を締結しているところ、法人等代行店の業務の実態やその契約の内容等の詳細は明らかではない。
 このように、個人代行店が自らの独立した経営判断に基づきその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているか否かは必ずしも明らかであるとはいえず、個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な諸点についての審理が十分に尽くされていない。
 なお、個人代行店は、出張業務に自ら保有する自動車を用い、その諸費用を自ら負担しているが、一方で高価で特殊な計測機器等はY会社から無償貸与されるなどの事実にも鑑みれば、それだけでは上記の機会が確保されていると認めるには足りない。
 また、個人代行店がY会社から支払われる委託料から源泉徴収や社会保険料等の控除を受けず、自ら確定申告を行っている点についても、実態に即して客観的に決せられるべき労組法上の労働者としての性質がそのような事情によって直ちに左右されるとはいえない。
2 以上によれば、前記1(1)の諸事情があるにもかかわらず、出張修理業務を行う個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な上記の諸点について十分に審理を尽くすことなく、個人代行店はY会社との関係において労組法上の労働者に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり、原判決は破棄を免れない。
 そこで、前記1(1)の諸事情がある以上、出張修理業務を行う個人代行店は独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情のない限りY会社との関係において労組法上の労働者に当たると解すべきことを前提とした上で、①X組合らに加入する個人代行店の修理業務の内容、②当該個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるか否か、③仮に当該個人代行店が労組法上の労働者に当たると解される場合においてY会社が本件要求事項に係る団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否か等の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成17年(不)第11号 一部救済 平成18年11月17日
中労委平成18年(不再)第68号・第69号 棄却 平成20年2月20日
東京地裁平成20年(行ウ)第236号 全部取消 平成21年8月6日
東京地裁平成20年(行ク)第242号 緊急命令申立ての却下 平成21年8月6日
東京高裁平成21年(行コ)第294号 棄却 平成22年8月26日
最高裁平成22年(行ツ)第454号、平成22年(行ヒ)第489号 上告棄却(22年(行ツ)454号)、上告受理(22年(行ヒ)489号) 平成23年12月6日
東京高裁平成24年(行コ)第82号 原判決全部取消 平成25年1月23日
最高裁平成25年(行ツ)第179号・平成25年(行ヒ)第213号 上告棄却・上告不受理 平成26年2月20日
 
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