労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 ビクターサービスエンジニアリング
事件番号 東京地裁平成20年(行ウ)第236号
原告 ビクターサービスエンジニアリング株式会社
被告 国(処分行政庁 中央労働委員会)
被告補助参加人 全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部
全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会
判決年月日 平成21年8月6日
判決区分 全部取消
重要度 重要命令に係る判決 
事件概要  Y会社と委託契約を締結し、ビクター製音響製品等の修理業務を行う個人代行店が、X労働組合の分会を結成し、X組合の地方本部及び支部とともにY会社に対して団体交渉を申し入れたところ、Y会社が、個人代行店は独立した自営業者であり、労働者に該当しないことなどを理由として、団体交渉を拒否したことが不当労働行為であるとして争われた事件である。
 初審大阪府労働委員会は、Y会社に対し、①地方本部及び分会との団交応諾、②地方本部及び分会への文書手交を命じるとともに、支部については団交当事者としての資格を有しないとして、支部の申立てを却下した。
 Y会社及び支部は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は、本件再審査申立てを棄却した。
 本件は、Y会社が、中労委に再審査を棄却する旨の命令をされたことから、個人代行店は労組法上の労働者に当たらないなどと主張して、同命令の取消しを東京地裁に求めた事案である。
判決主文 1 中央労働委員会が中労委平成18年(不再)第68号事件に ついて平成20年2月20日付けでした再審査申立てを棄却す る旨の命令を取り消す。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人 らの負担とし、その余の費用は被告の負担とする。
判決要旨 1 争点1(個人代行店の労組法上の労働者性)について
(1) 労組法3条は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準じる収入によって生活する者をいう。」と規定している。一般に労働者とは、労働契約上の被用者をいうものであるが、労働者が使用者と交渉する際に対等の地位に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させ、労働者の団結権、団体交渉権を擁護することなどを目的とし、団結権の侵害に当たる使用者の一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復する制度を設けている労組法の目的、趣旨にかんがみると、労務を提供する者が、労働契約上の被用者でなくとも、労務提供を受ける者から、被用者と同視できる程度に、その労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定されている地位にあると認められ、かつ、当該労務提供の対値として収入を得ていると認められる場合には、当該労務提供者は、同条の労働者に当たるものと解するのが相当である。
(2) 個人代行店が、Y会社の修理業務にとって不可欠な労働力として、恒常的にY会社の組織に組み込まれているという被告の主張について
   代行店が本件委託契約に基づいて処理する修理業務がY会社の業務計画を構成する一部分となること、及び、代行店が処理した修理業務に係る売上げがY会社の経営計画を構成する一部分となることは本件委託契約及びその業務の内容上当然のことである。そして、この関係は、本件委託契約関係を継続する限り続くものである。
   また、修理業務における顧客との関係について、代理店がY会社名義の領収書等を用いることについては、本件委託契約書及び覚書において約定事項にもなっている。
   さらに、代行店がY会社から委託を受けて行う修理業はY会社が顧客から依頼された修理業務であるから、代行店が修理業務を行うに当たっては、その質及び水準がY会社による修理業務の質及び水準に相応するものであることが要請されるべきというべきである。そのために、Y会社は、代理店になる者について、Y会社による研修を受け、これを了することを要件とし、本委託契約でも、代行店に対し、修理業務の実施に際してY会社が定める品質基準を守り適正な処理を行うこと及び修理業務遂行の必要な技術力を保有することを求めているのであり、Y会社の代理店に対する要請事項を確保するためのものと解するのが相当である。
   以上によれば、これらのことは、労組法上の労働者性を基礎付けるに足りるような個人代行店の企業組織への組込みを根拠付けるものであるとはいえず、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 個人代理店の修理業務の内容がY会社から一方的に決定されており、この点は、個人代行店の労働者性を判断する上で重要な要素であるという被告の主張について
   本件委託契約は、個人代行店に限らず、法人等代行店についてもY会社が作成した統一書式の本件委託契約書及び委託料等の関する覚書を取り交わして締結されていることが認められる、この事実は、Y会社と代行店が委託料等に関する事項について合意したことを示すものであり、他方、代行店がY会社から当該内容の本件委託契約の締結を強制されたなどとの特段の事情の存在はうかがわれない。そうすると、本件委託契約書及び覚書のいずれもがY会社において作成されたものであっても、これについて代行店が合意しており、その意思が反映されたものとなっている以上、本件委託契約の内容及びそれに基づく修理業務の内容がY会社により一方的に決定されたものということはできない。
(4) 個人代行店がY会社の指揮監督を受けて出張修理業務を行っていると評価できるとの被告(国)の主張について
  ア 個人代行店の業務量がY会社によって決められていたとの事実関係は認めることはできず、個人代行店が特別の事情がない限りY会社からの発注を拒めないのは、個人代行店が掲示している受注枠の発注がされていることによるものと解されるものであり、個人代行店に受注の諾否の自由がないことによるものとはいえない。
  イ 個人代行店は、Y会社の従業員と異なり、就業規則の適用がなく、出勤義務はなく、出退管理もされていないこと、一部の個人代行店は出張訪問カードに関する処理をFAX等の通信で行っており、出張報告等のためにサービスセンターに出向くことはないことが認められる。したがって、出張業務に関して時間拘束を受けているとはいえない。
  ウ 個人代行店の休業日は、個人代行店が自ら設定しているものということができる。
  エ 個人代行店の業務担当地域は、Y会社において代行店を必要とする地域と代行店との所在地との相互関係により規整され、Y会社においても、自由にその指定又は変更ができるというものではないと解される。そうすると、個人代行店の業務担当地域の指定、変更がY会社に任されるのは、代理店制度上、当然に予定されたものというべきであり、出張業務に関して個人代行店を場所的拘束しているというのは相当でない。
  オ 個人代行店は、修理代金の回収又は入金処理に当たり例外的な事項が発生した場合には、Y会社の指示を受けるものとされていることが認められる。しかし、出張訪問カードに関することについてのY会社の指示及び修理代金の入金に関することについては、委託業務事務の適切な履行の確保の趣旨を超えて、Y会社による労務管理上の指揮監督であると評価し得る事情はうかがえない。また、修理代金回収等に当たっての例外的な事項のY会社の本委託契約の約定事項による指示は、例外的事象が生じた場合の対処方法を定めるものであり、個人代行店に対する労務管理上の指揮監督とは異質なものというべきある。
  カ Y会社の代行店に対するサービスマニュアル等の配布は、修理業務の品質保持の観点から行われているものと解されるのであり、代行店に対する労務管理上の指揮監督と当たるものとは言い難い。
  キ 以上によれば、被告の上記主張は採用することはできず、本件全証拠によっても、Y会社と個人代行店との間において本件委託契約の内容及びそれに基づく業務の性質上当然に必要と考えられるものを超えた労務管理上の個別的、具体的な指揮監督とみることのできる事情等はうかがえない。
(5) 本件委託契約における個人代行店の報酬は、労務提供そのものに対する対価としての性格を有する旨被告が主張することについて
   本件委託契約に基づく代行店の報酬の内容は、委託料として支払われるものであるところ、委託料の最低保証はなく、委託料の額は、Y会社が定めた修理料金規程に基づいており、その算定方法はいわゆる出来高方式である。この方式では、修理する機器が同じであれば、修理に掛かる時間の長短にかかわらず、委託料も同じであり、修理する機器が異なれば、修理する時間が同じであっても委託料は異なることになる。また、部品の売り上げ、開発商品の販売、物件の紹介という成果があって初めて発生する委託料も支払われており、出張修理業務を担当するY会社の従業員と報酬体系とも全く異なるものであることが認められる。
   以上のような委託料は、正に当該修理業務等を完成した結果に対する対値としての性質を有するものというべきであり、労務の提供そのものに対する対値としての性格は希薄であるといわざるを得ない。
(6) 個人代行店は、営業日における業務時間のほとんどを本件委託契約に基づきY会社から受注する業務を行うため費やしており、Y会社の専属性が相当に高いという被告の主張について
   本件委託契約は、Y会社だけからの修理業務等を受注することが定められているものではなく、他の企業等からも同種の業務を受託することは何ら制限されていない。個人代行店が営業日の業務時間のほとんどをY会社から受注した修理業務を行うために使っているのは、顧客が時間を指定して出張修理を依頼したものをY会社が受注し、これをY会社が当該個人代行店の受注可能時間及び受注可能件数の枠内で割り振って発注し、個人代行店がその内容で出張修理業務を受注して行っていることの結果にほかならず、これをもって個人代行店がY会社との関係において労組法上の労働者であることを根拠付け得る専属性を有するものとみることはできない。
(7) 労働者性を補強するという被告のその他の主張について
   被告はY会社が、個人代行店にサービスセンター内のパソコン、机、椅子の使用を認めていることや修理業務に使用する特殊で高価な機器を無償で貸与していること、さらには営業に使用する自動車保険や所得補償保険に加入することを義務付けていることを個人代行店の労働者性を補強するものであると主張する。
   しかし、上記パソコン等の使用は、所要の事務処理手続に照らすと、Y会社の個人代行店に対する便宜供与として使用が認められるものと認めるのが相当である。
   特殊で高価な機器の無償貸与も同様である。上記の各保険の加入の義務付けについても、本件委託契約の約定とされているものであり、Y会社が一方的に義務付けたものではなく、個人代行店が同意している事項である。
   したがって、被告が主張する上記事実関係も、個人代行店が労組法上の労働者性を積極的に根拠付ける事実関係とはいえない。
   これに対し、個人代行店について、①独立自営を目的として本件委託契約を締結する要件とされている研修を受けることとされていること、②個人代行店は、本件委託契約上、同契約を締結している他の代行店には再委託することを禁止されておらず、この点は、労働力の処分権を使用者に委ねるという労働契約関係における本質的な要素とは相容れないものといえること、③委託料について源泉徴収及び社会保険料等の控除がされておらず、委託料全額と消費税を加えたものが支払われていること、④個人代行店は、自営業者としての営業届を提出するものとされ、半数近くの者は、個人事業者が利用できる青色申告の承認を得ていること、⑤個人代行店は、出張業務に自家用車を使用し、ガソリン代等の諸費用を自ら負担していることから、これの事実関係は、個人代行店が、独立の事業者としての実態を備え、その立場でY会社と本件委託契約を締結して出張業務を行っていることを根拠付けるものである。
(8) 以上によれば、本件委託契約の内容及びそれに基づく個人代行店の労務提供の実態からみて、個人代行店がその労働条件等についてY会社から現実的かつ具体的に支配、決定されている地位にあるとはいえないし、また、個人代行店が本件委託契約に基づき得る収入が、その労務提供の対値であると認めることはできない。したがって、個人代行店が、Y会社との関係において、労組法上の労働者に当たる者と認めるこ とはできない。
2 争点2(本件団交申入れに対するY会社の対応は団体交渉を正当な理由がなく拒むものであるか。)について
  上記1で説示したとおり、個人代行店がY会社との関係において労組法上の労働者に当たる者であることを認めることはできないから、その待遇の改善を求める本件団体交渉申入れは、いわゆる義務的団交事項について団体交渉を求めるものであるとはいえない。
  したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件団交申入れに応じないY会社の対応が不当労働行為に当たるとし、Y会社の再審査の申立てを棄却した本件命令は違法というべきである。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成17年(不)第11号 一部救済 平成18年11月17日
中労委平成18年(不再)第68号・第69号 棄却 平成20年2月20日
東京地裁平成20年(行ク)第242号 緊急命令申立ての却下 平成21年8月6日
東京高裁平成21年(行コ)第294号 棄却 平成22年8月26日
最高裁平成22年(行ツ)第454号、平成22年(行ヒ)第489号 上告棄却(22年(行ツ)454号)、上告受理(22年(行ヒ)489号) 平成23年12月6日
最高裁平成22年(行ヒ)第489号 破棄差戻し 平成24年2月21日
東京高裁平成24年(行コ)第82号 原判決全部取消 平成25年1月23日
最高裁平成25年(行ツ)第179号・平成25年(行ヒ)第213号 上告棄却・上告不受理 平成26年2月20日
 
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