労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ビクターサービスエンジニアリング 
事件番号  東京高裁平成21年(行コ)第294号 
控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
控訴人補助参加人  全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部
全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会 
被控訴人  ビクターサービスエンジニアリング株式会社 
判決年月日  平成22年8月26日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1 Y会社との業務委託契約に基づきY会社製音響製品等の修理等業務に従事する個人代行店が、X労働組合の分会を結成し、X組合の地方本部及び支部とともにY会社に対して団体交渉を申し入れたところ、Y会社が、個人代行店は独立した自営業者であり、労働者に該当しないことなどを理由として、団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、Y会社に対し、①地方本部及び分会との団交応諾、②地方本部及び分会への文書手交を命じるとともに、支部については団交当事者としての資格を有しないとして、支部の申立てを却下した。
 Y会社及び支部は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委はY会社及び支部の各再審査申立てをいずれも棄却した。
 これに対し、Y会社は、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は中労委の命令を取り消した。
 本件は、同地裁判決を不服として、中労委が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし、補助参加によって生じた費用は控訴人補助参加人らの負担とする。
判決の要旨  1 当裁判所も、Y会社の請求は理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は、2のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 個人代行店の労働者性について
(1) 労組法上の労働者性について
 労組法上の労働者は、同法の目的に照らして使用者と賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、労働契約、請負契約等の契約の形式いかんを問わず、労働契約上の被用者と同程度に、労働条件等について使用者に現実的かつ具体的に支配、決定される地位にあり、その指揮監督の下に労務を提供し、その提供する労務の対価として報酬を受ける者をいうと解するのが相当である。
 そして、同法の労働者に該当するか否かは、具体的には、労務提供者に業務の依頼に対する許諾の自由があるか、労務提供者が時間的・場所的に拘束を受けているか、労務提供者が業務遂行について使用者の具体的な指揮監督を受けているかなどについて、その有無ないし程度、報酬が労務の提供の対価として支払われているかなどを総合考慮して判断すべきものと解される。
 業務委託契約を締結して受託者が業務に従事する場合、委託者の必要に応じて受託業務に従事する以上、委託内容により拘束、指揮監督と評価できる面があるのが、通常であるから、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかによって労働者性を即断するのは事柄の性質上相当でなく、委託契約に基づく委託者と受託者の関係を全体的に見て、上記の労組法の目的に照らし、使用者による現実的かつ具体的な支配関係が認められるか否かという観点に立って判断すべきものと考えられる。
(2) Y会社と個人代行店との契約内容、個人代行店の業務の実態について
 ① 出張修理業務については、個人代行店とY会社で決定される営業日、営業時間数、受注可能件数の枠内では、特段の事情がない限り、Y会社により割り振られた出張修理業務を拒否することはできないが、その範囲外では、拒否する自由があり、そのことが債務不履行になることはない。
 そして、本件委託契約においては、個人代行店が他の企業から同種の業務を受託することは何ら制限されていないから、同代行店は、Y会社からだけ修理業務等を受注する営業をすることも、そうでない営業をすることもできる。
 ② 個人代行店は、Y会社の従業員と異なり、Y会社の就業規則の適用はなく、出勤義務はなく、出退勤管理を受けていない。個人代行店のうち出張訪問カードに関する処理をファックスやイスデン回線を通じた通信によって行っている一部の個人代行店を除く者は、営業日に各業務担当地域に設置されたサービスセンターに出向いているが、これはY会社から出張修理業務を受注する手続の一環として、また、受託した出張修理業務の処理の報告等のためであると認められる。
 そして、Y会社は、個人代行店の業務終了後の報告等により、修理依頼等が確実に履行されているか否かを確認する他に、同代行店の業務内容や業務遂行時間以外の行動等について関知する関係にないのであって、Y会社が出張修理業務に関して個人代行店を時間的・場所的に拘束しているとみることはできない。
 ③ 出張修理業務について場所的に制約があるのは、修理を依頼する顧客の所在地と個人代行店の所在地との関係で生ずる制約であるに過ぎず、業務遂行時間以外についてY会社から所在場所を指定されることはないのであって、Y会社が業務担当地域の指定・変更権を有していることをもって、Y会社が個人代行店を場所的に拘束しているとみることはできない。
 ④ 個人代行店は、営業日ごとにY会社が作成する出張訪問カードにより個別の出張修理業務を受注し、修理代金を修理日の翌日にY会社に入金することなどの義務を負っているが、出張訪問カードによる受注は、個別の出張修理業務を発注する手続の一環としてされているものであり、また、修理代金の入金処理等、個人代行店が修理業務の受託に付随するものとして本件受託契約上その義務を負っているに過ぎず、これらの事実をもってY会社が個人代行店に労務管理上の指揮監督をしているとみることはできない。
 また、個人代行店は、業務委託であることの性質上、Y会社から貸与された制服の着用やY会社の社名が記載された名刺の携行、各種マニュアルに基づく業務の遂行が求められているものの、受注した修理業務等を実際にいかなる方法で行うかは個人代行店の裁量にゆだねられているものと認められる。
 なお、サービスセンター長と個人代行店とのミーティングにおける業務の遂行上必要な情報の伝達をもって、直ちに労働者性を基礎付ける指揮命令がされていると評価するのは適切でない。
 ⑤ 個人代行店は、本件委託契約上、第三者に対してY会社から受注した修理業務を再委託することを禁止されているものの、同契約を締結している他の代行店に再委託することは禁止されておらず、その意味で、Y会社から受注した修理業務を自ら行うことは契約の要件とされていない。また、個人代行店は、修理に要する部品を有償支給ないし貸与される。そして、同代行店は、貸与された部品について管理及び棚卸の責任を負い、差損を負担するものとされており、有償支給の一種とみることができる。さらに、個人代行店は、工具等を自前で用意することを合意しており、実際に自己の費用で購入して使用しており、出張業務を行うについては、自家用車を使い、当該自動車に係るガソリン代等の費用を自ら負担している。
 ⑥ 個人代行店が受注した修繕業務を行った場合には出来高に応じて報酬が支払われ、最低保証はない。この報酬は、修理に要した時間の長短ではなく、修理する機器、修理内容に応じて決まるものである。そして、委託料についてY会社による源泉徴収や社会保険料等の控除は行われず、個人代行店には委託料全額とこれに対する消費税を加えたものが支払われ、したがって、同代行店は、自営業者として営業届を提出するものとされ、その税務申告は、個人事業者として行われている。
 以上の諸点を総合考慮するに、本件委託契約に基づくY会社と個人代行店との関係には拘束、指揮監督とみられる部分があるが、全体として見れば、個人代行店は、一定の制約はあるものの基本的にはY会社からの業務の依頼に対し許諾の自由を有し、業務に関し、時間的・場所的な拘束を受けず、業務の遂行についてY会社から個々に具体的な指揮監督を受けることがなく、また、報酬は行った業務内容に応じた出来高で支払われているということができる。したがって、同代行店は、自己の計算と危険の下に業務に従事する独立の自営業者の実態を備えた者として、Y会社から業務を受注する外注先と認めるのが相当である。
(3) 以上から、個人代行店がY会社との関係で労組法上の労働者に当たるということはできない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成17年(不)第11号 一部救済 平成18年11月17日
中労委平成18年(不再)第68号・第69号 棄却 平成20年2月20日
東京地裁平成20年(行ウ)第236号 全部取消 平成21年8月6日
東京地裁平成20年(行ク)第242号 緊急命令申立ての却下 平成21年8月6日
最高裁平成22年(行ツ)第454号、平成22年(行ヒ)第489号 上告棄却(22年(行ツ)454号)、上告受理(22年(行ヒ)489号) 平成23年12月6日
最高裁平成22年(行ヒ)第489号 破棄差戻し 平成24年2月21日
東京高裁平成24年(行コ)第82号 原判決全部取消 平成25年1月23日
最高裁平成25年(行ツ)第179号・平成25年(行ヒ)第213号 上告棄却・上告不受理 平成26年2月20日
 
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