労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  新国立劇場 
事件番号  東京高裁平成23年(行コ)第138号 
控訴人・控訴人国参加人(原審第2事件原告・同第1事件参加人)  日本音楽家ユニオン 
控訴人・被控訴人(原審第1事件、同第2事件各被告)  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人・被控訴人国参加人(原審第1事件原告・同第2事件参加人)  財団法人新国立劇場運営財団 
判決年月日  平成24年6月28日 
判決区分  一部取消・棄却 
重要度   
事件概要  1 財団法人新国立劇場運営財団(以下「財団」という。)が、①日本音楽家ユニオン(以下「組合」という。)の組合員X1に対し、合唱団員の契約メンバーとして不合格措置を行ったこと、②組合が申し入れたX1の次期シーズンの契約更新に関する団体交渉に、X1と雇用関係にないとの理由で応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、①X1の不合格措置(第2事件)については不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し、②団体交渉拒否(第1事件)については不当労働行為に該当するとして、団交応諾、文書交付及び履行報告を命じた。
 財団及び組合は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、初審命令を維持し、財団及び組合の各再審査申立てを棄却した。
 これに対し、財団及び組合は、これを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分を取り消し、組合の請求を棄却するとの判決を言い渡した。
 同地裁判決を不服として、組合及び中労委はそれぞれ東京高裁に控訴を提起したが、同高裁は、組合及び中労委の各控訴を棄却した。
 このため、同高裁判決を不服として、組合及び中労委はそれぞれ最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったところ、最高裁は、各上告は棄却したが、各上告受理申立てについては受理決定し、その後、最高裁は、原判決を破棄し、高裁に差し戻すこととした。
 本件は、差し戻し後の東京高裁において、原判決の一部(東京地裁が、中労委命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分を取り消した部分)を取り消し、財団の請求を棄却するとともに、組合の控訴を棄却したものである。
判決主文  1 控訴人国の控訴に基づき原判決主文第1項を取り消す。
2 被控訴人〔財団〕の請求を棄却する。
3 控訴人ユニオンの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、原審、差戻前の控訴審、上告審及び当審を通じてこれを2分し、その1を控訴人ユニオンの、その余を被控訴人の各負担とし、参加に要した費用は各参加人の負担とする。  
判決の要旨  1 不合格措置の不当労働行為該当性
(1) 組合は、不合格措置が不当労働行為に当たる前提として、財団が契約メンバーと締結する出演基本契約は更新されるのが原則であると主張し、他方、国及び財団は、いずれもこれを否定する。
 ①平成11年度から締結された年間を通じる出演基本契約書では、財団が、次期シーズンも出演基本契約を再締結する意思がある場合は、出演業務遂行期間満了日の3か月前までに契約メンバーにその旨を通知しメンバーの意思を確認すると定められているだけで、それ以外に契約の更新に関する定めはないこと、②試聴会が開催されて3年目の13年度の出演基本契約書では、同様の再契約に関する意思確認の規定が置かれた上、契約メンバーは、財団が試聴会を行い技能審査して再契約の申し出をするか否かを決定する手続を行うことに異議を述べないとされ、それ以外に契約の更新に関する定めはないこと、以後の出演基本契約でも同様の契約書が用いられていること、③試聴会が行われた11年度から不合格措置が採られた15年度までの間に、不合格者が出なかったのは12年度のみであることが認められる。
 これによると、出演基本契約の当事者間で更新が原則との合意がされたとすることはできない。
 12年度の試聴会に際し配布された試聴会書面及びその後の運用からは、出演の実績及び試聴会による技能審査の結果が選抜の重要な要素とされ、また、財団がオペラ公演の質を維持するためには、合唱団メンバーの水準を保っておく必要があり、出演基本契約の締結に当たり、技能審査が重視されるのは、容易に理解されるところであって、試聴会書面をもって、更新が原則と表明したとみることはできない。そして、その後の試聴会による技能審査の運用及び出演基本契約締結の実情に基づいても、黙示的に更新が原則との合意がされたとみることもできない。
 もっとも、X1は、11年度以降、4回の出演基本契約を締結してきており、不合格措置は5回目の契約の締結をしなかったものであるから、これに対する不利益取扱いについては労組法7条1号が適用されることもあり得るので、同人に対する選抜の過程について以下に検討する。
(2) 組合は、試聴会では審査の公平及び適正が担保されておらず、評価方法及び採点方法も恣意的と主張する。
 合唱団の契約メンバーとしての水準に達する歌唱力を有しているか、オペラ公演への出演に適するかの判断は、専門的・技術的な性質を有する事柄であるばかりでなく、芸術的評価を伴うもので、しかも、既に相当の技量を備える者の間で行われる評価であるから、第三者に客観的に認識し得る明確な基準を定立することは困難である。そして、合否の最終的な判断は、審査員の芸術感や感性によっても影響を受けるから、審査員の裁量に委ねざるを得ない。この点は、判断基準ばかりでなく、判断のための技能評価の方法についても同様であり、評価方法や採点方法が決まっていないことのみをもって、試聴会の審査結果が不合理とするのは相当でない。
 また、組合は、15年度に審査員を務めたY1とY2のX1に対する評価には矛盾があると指摘する。
 しかし、Y1は合唱指揮者、Y2は合唱団の運営に関わっていない外部審査員であり、立場に違いがあるけれども、両名ともオペラに関する専門家であり、その資質及び専門的知見に関しては、審査員としての適性に欠けることをうかがわせる事情は見当たらない。そして、評価の方法が異なることのみをもって不合理とすることができないことは前判示のとおりであるばかりでなく、両名の評価に決定的な違いがあり、これによる選抜が不合理であるとするほどの矛盾があるとすることもできない。
 なお、組合は、X1の歌唱の技量が優れており、合唱団員の中での力量は平均以上であったことを強調するが、他方、X1は、13年度の試聴会でいったんは不合格とされており、その評価は様々なものがあると推測され、同人の実績や自ら述べる技量のみをもって、15年度の審査の当否を論ずることはできない。
 すると、Y1とY2は、それぞれ芸術家としての自己の判断基準に基づき、専門家としての裁量に基づき契約メンバーの技能を評価したもので、その他、X1に対する試聴会での審査方法が社会通念上不相当であり、その結果に合理性がないとみるべき事情は認められないから、これによる選抜の結果を不合理とすることもできない。
(3) 組合は、Y1の合唱団員に対する発言を取り上げて、不当労働行為意思が表れたものと主張する。
 Y1は、15年度の試聴会の数日後、合唱団員に対し、試聴会は毎年行う、組合が突っ突かなければチェックする必要もなかった、今回のようなチェックはもうしない、さらに、ヨーロッパのオペラ劇場は定年制や組合などがあって、著しく労働意欲や実力が低下した者でも簡単には首が切れないなどと発言したことが認められる。
 しかし、Y1の発言は、13年度の試聴会で歌唱技能が水準に達しないとして不合格となった7名が、手続上の理由により不合格が撤回されたことに関し、不満を述べる個人的な発言と解され、このことをもって組合やX1の組合活動を嫌悪していたと推認するのは困難であり、不合格措置との関連性も明らかでない。
(4) 組合は、財団が組合に対して嫌悪感を持って団体交渉の申入れを拒否するなどしていたことから、財団を批判するX1に対しても不当労働行為意思をもって不合格措置を採った旨主張する。
 しかし、財団は、X1を含む合唱団員との間には雇用関係がなく、労働者ではないとして、団体交渉には応じられないとの姿勢を示していたと認められるけれども、合唱団員の労働者性について司法判断が確定していない状況において、財団が上記見解の下に団体交渉を拒否し、組合と対立したとしても、そのことのみから直ちにX1に対する不合格措置が組合員であるX1を嫌悪してされたとすることは困難であり、この点で不合格措置における不当労働行為意思も認めることはできない。
 また、組合は、組合活動をするX1を嫌悪し、同人を排除するため不合格措置を行ったと主張する。
 しかし、不合格措置は、試聴会の審査の結果であって、その審査結果を不合理とか、恣意的とすることができないことは前判示のとおりであり、他に財団のX1に対する嫌悪感が不合格措置に影響したとの事情も認められないから、この点で不当労働行為意思があったとすることはできない。
 さらに、組合は、X1の財団に対する批判的な記事の掲載や報告書の提出との関連を指摘するが、これらは13年のことであり、不合格措置とは時間的にも隔たっており、具体的な因果関係を認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば、不合格措置は、財団が不当労働行為意思をもって行ったとは認められず、不当労働行為に当たらない。
2 団交申入れへの対応の不当労働行為該当性
(1) 合唱団の契約メンバーは、財団との関係で労組法上の労働者に当たるから、財団は、X1が労働者でないことを理由に団交申入れを拒否することはできない。
(2) 団交申入れで提示された「X1の次期シーズンの契約について」との団体交渉事項は、その文言だけに照らして解釈すると、X1の15年度の出演基本契約について、同人が試聴会による審査の結果、不合格措置を採られたことを直接に取り上げて交渉したい旨の申入れのようにもみられる。
 この点、財団とX1との間の出演基本契約は、更新を原則とするものではなく、毎年試聴会による選抜を経て合格者と締結されること、15年度の試聴会による選抜の結果財団により採られた不合格措置が不当労働行為に当たらないことは前判示のとおりであるから、財団は上記契約の締結につき特別の制限を受けるものではない。したがって、財団には不合格措置を撤回又は変更する義務はなく、これによって同措置に係る次期シーズンにおけるX1の処遇は確定しており、団体交渉でこれを取り上げる余地はない。
 すると、財団には不合格措置の撤回や変更を求める団体交渉申入れに応諾する義務はないので、組合が専ら不合格措置の撤回や変更を求めて団体交渉を求めるのであれば、財団においてこれを拒否することには正当な理由がある。
 しかし、組合と財団との間では、従前から、試聴会の在り方を含む契約メンバーの選抜について継続して話合いが持たれているところ、前判示のとおり、契約メンバーは労働者であり、毎年試聴会による選抜を経て契約を締結するという実態がある以上、上記問題は、労働者の処遇に関する事項に含まれる。
 すると、団交申入れは、不合格措置を契機として行われたものであり、その対象がX1の次期シーズンにおける契約とされているけれども、その契約締結の前提として選抜方法が問題となる以上、従前と同様に、協議内容が試聴会の在り方、審査の方法や判定方法等の合唱団員の処遇に及ぶことは両者にとって推測できる。そして、その結果が、次期シーズンに向けての出演基本契約締結の手続として合唱団の処遇に影響することになるから、この問題は、財団にとっても義務的団交事項となる。
 したがって、これにつき財団には団体交渉応諾義務があり、団体交渉事項が具体的でないとして拒否することには正当な理由はない。
(3) 以上によれば、財団には団交申入れにつき、その交渉事項を上記のとおりとした上で応諾義務がある。
3 よって、原審第1事件における財団の請求は理由がないので、これを認容した原判決は失当であり、国の控訴は理由があるから、国の控訴に基づき原判決主文第1項を取り消した上、財団の請求を棄却し、また、原審第2事件における組合の請求は理由がないので、これを棄却した原判決は相当であり、組合の控訴は理由がないから、これを棄却する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成15年(不)第56号 一部救済  平成17年 5月10日 
中労委平成17年(不再)第41号・第42号 棄却  平成18年 6月 7日 
東京地裁平成18年(行ウ)第459号(第1事件)・第499号(第2事件) 一部取消・棄却  平成20年 7月31日 
東京高裁平成20年(行コ)第303号 棄却  平成21年 3月25日 
最高裁平成21年(行ツ)第191号・第192号 上告棄却 平成23年1月25日
最高裁平成21年(行ヒ)第226号・第227号 上告受理 平成23年1月25日
最高裁平成21年(行ヒ)第226号・第227号 破棄差戻し 平成23年4月12日
 
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