概要情報
事件名 |
新国立劇場 |
事件番号 |
東京高裁平成20年(行コ)第303号 |
控訴人・控訴人国参加人(原審第2事件原告・第1事件参加人) |
日本音楽家ユニオン |
控訴人・被控訴人(原審第1事件・第2事件各被告) |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被控訴人(原審第1事件原告・第2事件参加人) |
財団法人新国立劇場運営財団 |
判決年月日 |
平成21年3月25日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、財団法人新国立劇場運営財団(以下「財団」)が、①日本音楽家ユニオン(以下「組合」)の組合員X1に対し、合唱団員の不合格措置を行ったこと、②組合が申し入れた、X1の次期シーズンの契約更新に関する団体交渉に、X1と雇用関係にないとの理由で応じなかったことが不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
初審東京都労委は、X1の不合格措置については不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し、団体交渉拒否については不当労働行為に該当するとして、団交応諾及び文書交付等を命じた。
これを不服として、財団及び組合が再審査を申し立てたが、中労委は、初審命令を維持し、財団及び組合の各再審査申立てを棄却した。
財団及び組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分を取り消し、組合の請求を棄却するとの判決を言い渡した。
これを不服として、組合及び中労委は、東京高裁に控訴を提起したが、同高裁は、組合及び中労委の控訴を棄却した。
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判決主文 |
本件各控訴をいずれも棄却する。 |
判決要旨 |
1 X1の労働者性について
(1) 控訴人らの主張を改めて検討してみても、X1の労働者性を否定するのが相当であり、その理由は、おおむね原判決のとおりである(なお、原判決は、大要、①契約メンバーは、財団と契約しても自由に契約外音楽活動を行うことができ、個別公演への出演を辞退したことを理由に不利な取扱いを受けた者はいないから、契約メンバーに労務ないし業務を提供することの諾否の自由がなかったとはいえない、②稽古への参加や歌唱技能の提供の方法等に関する指揮監督は、契約メンバーが個別公演出演契約を締結することにより初めて生じるものであり、オペラ公演が多人数の演奏、歌唱及び演舞等により構築される集団的舞台芸術であることにより生じるものであるから、本件基本契約のみによって上記のような指揮監督関係が生じるとはいえない、③契約メンバーは、本件基本契約を締結しただけでは報酬の支払を受けることができず、その一方で、本件基本契約において出演することとされた公演以外に財団から出演を求められることはなかったから、本件基本契約により生じる財団と契約メンバーとの間の指揮命令、支配監督関係は相当に希薄である、④財団は、本件基本契約の内容を一方的に決定していたが、一方当事者が契約の内容を決定することは労働契約に特有のことではないから、このような事情は直ちに法的な指揮命令関係の有無に関係するものではない、⑤以上の事情によれば、X1は、財団との間で、労務ないし業務の処分について財団から指揮命令、支配監督を受ける関係にあったとは認められない、などとして、X1の労働者性を否定した。)
(2) 控訴人組合及び中労委の補充的主張について
ア 組合は、労働者性を判断するに当たり重視すべき指揮監督関係は、労働力の配置・利用における指揮命令権能であって、労務提供の諾否の自由を重視すべきではない旨主張するが、使用者と労働者の間の指揮監督関係を判断するに当たり、その一部の要素のみを取り出して論ずるのは相当ではないし、組合が主張する労働力の配置・利用の意味において検討しても、契約メンバーによる歌唱技能の提供はその持ち場によって自ずと決まり、財団に契約メンバーの労働力を配置利用する裁量の余地があるとは考えられない。
イ 中労委は、契約関係の内容及び効果のみならず、契約内容の一方的決定の有無、報酬の額・計算方法、拘束時間の多寡・長短及び歌唱技能の提供の対償として得られる収入への依存の程度等の要素を総合的に考慮して労働者性を判断すべきであると主張するが、契約メンバーが個別公演出演契約を締結する自由を有している本件においては、個別公演出演契約を締結した後に初めて受ける契約上の制約ないし拘束に比して、個別公演を区切りとした具体的契約関係に入るか否か自体の判断を契約メンバーが留保していることは格段に大きい要素というべきであり、中労委が労働者性の判断要素として主張する諸要素は、オペラ公演の本質に由来する性質のもの、あるいは契約メンバーが自由な意思で個別公演出演契約を締結する過程で考慮される一要素にすぎないから、中労委が主張する諸々の関係を広く考察しても、中労委が主張する結論に至るものではない。
(3) 労務提供の諾否の自由について
中労委は、基本契約に解約条項が含まれていることから、契約メンバーは個別公演への出演を法的に義務づけられており、労務の提供に関する諾否の自由を有していなかった旨主張するが、中労委が指摘する解約条項は、その体裁からみて、基本契約の不履行に力点を置いたものか疑問が残る上、財団によるスケジュールの提示、傷害保険契約の締結、契約メンバーによる資料提供、欠席時の連絡等の付随的義務違反が債務不履行として問題となり得ることを念頭におきつつ、念のため基本契約の不履行にも言及したものと解することも十分可能であるし、他の契約事項について周到に規定が設けられているにもかかわらず、個別公演への出演義務を謳い込む明示的な義務付条項もないから、中労委の前記解釈は不合理なものといわざるを得ない。また、契約メンバーが自己都合により個別公演に出演しなかった場合でも法的責任の追及を受けたことがなく、事実上の不利益を被ったこともないという契約関係の運用ないし実態に照らしても、中労委の解釈は失当である。
2 以上によれば、X1は労組法上の労働者に該当するものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、組合及び中労委の主張は失当である。
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