労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  新国立劇場
事件番号  最高裁平成21年(行ヒ)第226号・第227号
平成21年(行ヒ)第226号上告人・同第227号被上告人  国(処分行政庁:中央労働委員会)
平成21年(行ヒ)第226号上告参加人・同第227号上告人  日本音楽家ユニオン
平成21年(行ヒ)第226号被上告人・同第227号被上告参加人  財団法人新国立劇場運営財団
判決年月日  平成23年4月12日
判決区分  破棄差戻し
重要度   
事件概要  1 財団法人新国立劇場運営財団(以下「財団」という。)が、①日本音楽家ユニオン(以下「組合」という。)の組合員X1に対し、合唱団員の契約メンバーとして不合格措置を行ったこと、②組合が申し入れたX1の次期シーズンの契約更新に関する団体交渉に、X1と雇用関係にないとの理由で応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、①X1の不合格措置(第2事件)については不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し、②団体交渉拒否(第1事件)については不当労働行為に該当するとして、団交応諾、文書交付及び履行報告を命じた。
 財団及び組合は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、初審命令を維持し、財団及び組合の各再審査申立てを棄却した。
 これに対し、財団及び組合は、これを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分を取り消し、組合の請求を棄却するとの判決を言い渡した。
 同地裁判決を不服として、組合及び中労委はそれぞれ東京高裁に控訴を提起したが、同高裁は、組合及び中労委の各控訴を棄却した。
 このため、同高裁判決を不服として、組合及び中労委はそれぞれ最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったところ、各上告は棄却されたが、各上告受理申立てについては受理決定され、本件において、最高裁は、原判決を破棄し、高裁に差し戻すこととした。
判決主文  原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
判決の要旨  1 原審の判断を是認することができない理由
(1) 出演基本契約は、財団が、試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を、原則として年間シーズンの全てのオペラ公演に出演可能である契約メンバーとして確保することにより、各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていたものといえるから、契約メンバーは、各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として財団の組織に組み入れられていたというべきである。
(2) また、①契約メンバーは、出演基本契約の締結の際、財団から全ての個別公演に出演するため可能な限りの調整を要望されていること、②出演基本契約におけるオペラ公演出演の依頼及び承諾、個別公演への出演、稽古等への参加等に関する記載、③出演基本契約書の別紙「出演公演一覧」における年間シーズンの公演名、公演時期、上演回数及び当該契約メンバーの出演の有無等に関する記載などに照らせば、出演基本契約書の条項に個別公演出演契約の締結を義務付ける旨明示する規定がなく、契約メンバーが個別公演への出演辞退を理由に財団から再契約における不利な取扱いや制裁を課されることがなかったとしても、直ちに契約メンバーが何らの理由もなく自由に辞退できたということはできず、むしろ④個別公演への出演辞退例は、出産、育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていたことにも鑑みると、各当事者の認識や契約の実際の運用においては、契約メンバーは、基本的に財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあったとみるのが相当である。
(3) しかも、契約メンバーと財団との間で締結されていた出演基本契約の内容は、財団により一方的に決定され、契約メンバーがいかなる態様で歌唱の労務を提供するかについても、専ら財団が、年間シーズンの公演の件数、演目、日程及び上演回数、稽古の日程、その演目の合唱団の構成等を一方的に決定していたのであり、これらの事項につき、契約メンバーの側に交渉の余地があったということはできない。
(4) そして、契約メンバーは、財団により決定された公演日程等に従い、各個別公演及び稽古につき、財団の指定する日時、場所において、その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供していたのであり、歌唱技能の提供方法や提供すべき歌唱の内容については財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け、稽古への参加状況については財団の監督を受けていたのであるから、契約メンバーは、財団の指揮監督下において歌唱の労務を提供していたというべきである。
(5) なお、公演や稽古の日時、場所等は、専ら財団が一方的に決定しており、契約メンバーであるX1が公演への出演や稽古への参加のため劇場に行った日数は、平成14年8月から15年7月までのシーズンにおいて約230日であったから、契約メンバーは時間的にも場所的にも一定の拘束を受けていたということができる。
(6) さらに、契約メンバーは、財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に、出演基本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受けていたのであり、予定時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当も支払われており、X1に支払われていた報酬(上記手当を含む。)の金額の合計は年間約300万円であったから、その報酬は、歌唱の労務の提供それ自体の対価とみるのが相当である。
(7) 以上の諸事情を総合考慮すれば、契約メンバーであるX1は、財団との関係において労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。
2 本件不合格措置及び本件団交拒否についての不当労働行為該当性
 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そこで、X1が財団との関係において労組法上の労働者に当たることを前提とした上で、財団が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成15年(不)第56号 一部救済  平成17年 5月10日 
中労委平成17年(不再)第41号・第42号 棄却  平成18年 6月 7日 
東京地裁平成18年(行ウ)第459号(第1事件)・第499号(第2事件) 一部取消・棄却  平成20年 7月31日 
東京高裁平成20年(行コ)第303号 棄却  平成21年 3月25日 
最高裁平成21年(行ツ)第191号・第192号 上告棄却 平成23年1月25日
最高裁平成21年(行ヒ)第226号・第227号 上告受理 平成23年1月25日
東京高裁平成23年(行コ)第138号 一部取消・棄却 平成24年6月28日
 
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