労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 INAXメンテナンス
事件番号 東京高裁平成21年(行コ)第192号
控訴人 株式会社INAXメンテナンス
被控訴人 国(裁決行政庁 中央労働委員会)
被控訴人補助参加人 全日本建設交運一般労働組合大阪府本部
全日本建設交運一般労働組合建設一般合同支部
判決年月日 平成21年9月16日
判決区分 全部取消
重要度 重要命令に係る判決
事件概要  本件は、Y会社が個人業務委託契約を締結して親会社の製品である住宅設備機器の修理等の業務に従事するCE(カスタマーエンジニア)が加入するX組合本部、X組合支部及びX組合支部分会(以下、本部、支部及び分会を併せて「X組合ら」という。)からの平成16年9月6日付け、同月17日付け、同月28日付け及び同年11月17日付け各団体交渉申入れ(以下、これらを併せて「本件各団体交渉申入れ」という。)に対し、CEは個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてこれに応じなかったことが不当労働行為であるとして、X組合本部及び同支部が救済を申し立てた事件である。
 初審大阪府労委は、Y会社に対し、CEはY会社との関係において労組法上の労働者と認めるのが相当であり、Y会社がX組合本部及び同支部との団体交渉に応じなかったことは同法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、Y会社に対し、①団体交渉応諾、②文書手交を命じたところ、これを不服としてY会社から再審査の申立てがなされ、中労委は、初審命令を維持し、Y会社の再審査申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)。
 Y会社は、本件命令を不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、中労委の発した同命令を支持し、Y会社の請求を棄却した。
 Y会社は、これを不服として、同地裁判決の取消しを求めて、東京高裁に控訴したところ、同裁判所は、原判決を取り消した。
判決主文  原判決を取り消す。
 中央労働委員会が中央労働委員会平成18年(不再)第47号事件につき平成19年10月3日付けでした命令を取り消す。
 訴訟費用の総費用は、補助参加によって生じた費用は各被控訴人補助参加人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。
判決の要旨 1 労組法上の労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのを相当ということができる。そして、同法における労働者に該当するか否かは、法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素、すなわち、労務提供者の業務の依頼に対する諾否の自由があるか、労務提供者が時間的・場所的拘束を受けているか、労務提供者が業務遂行について具体的指揮監督を受けているか、報酬が業務の対価として支払われているかなどの有無・程度を総合判断するのが相当というべきである。
  なお、業務委託契約が締結された場合、委託者と受託者の間には法的な使用従属関係はないが、何らかの業務を受託する以上委託内容によって拘束あるいは指揮監督関係と評価できる面が認められることがあるのが通常である。したがって、上記の法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素の存否の評価に当たっては、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかなどの局部視点で判断するのは事柄の性質上適当ではなく、両者の関係を全体的に俯瞰して労働組合法が予定する使用従属関係が認められるかの視点に立って判断すべきである。
2 本件のCEはY会社との間で基本的業務委託契約を締結しているものであるが、個別の業務はY会社からの発注を承諾するという個別的業務委託契約の締結によって行っていること、CEはサービスセンターから電話で連絡を受けたり、修理依頼データを送信されたりする方法で個別的業務委託契約の申込みを受けた際、これを自らが事業者として修理補修等の業務を行うとの事情の存在を理由に拒絶することが認められているということ、CEが上記の申込みを拒絶した場合、それがいかなる理由による拒絶であってもY会社は基本的業務委託契約の債務不履行に該当するとは解しておらず、 CEをその拒絶によって不利益に扱うことはないことなどの業務の依頼に対する諾否の自由を有している事実を指摘することができる。
  また、各事実からCEは、業務遂行に当たり時間的場所的拘束を受けず、業務遂行についてY会社から具体的な指揮監督を受けることはなく、報酬は行った業務に応じて出来高として支払われているというべきであり、その基本的性格はY会社の業務受託者であり、いわゆる外注先とみるのが実体に合致して相当というべきである。
  なお、修理依頼データを受信後直ちに承諾拒否を連絡しなければ受諾してものとみなされること、制服の着用や名刺の携行、各種マニュアルに基づく業務の遂行が求められ、各種の報告をしなけらばならず、その他研修や会議の出席が求められることなど、これだけを取り上げれば拘束性があるとか指揮監督関係にあると評価できなくはない。
  しかし、これらはいずれも、Y会社が委託する修理補修業務が、水回りに関する住宅設備機器の修理補修等という連絡効率性、迅速性、確実性が求められ、かつ全国一律一定以上の技術水準を求められるという本件における基本的業務委託の委託内容による制約にすぎないというべきである。
  そうすると、上記の事情の存在をもって、Y会社受CE との関係がその基本部分において法的に使用従属関係にあ ると評価することは困難であり、相当ではないというべき である。
3 CEは労組法上の労働者に該当するという被控訴人らの主張は、Y会社との間に締結された業務委託契約に基づく法律関係の実体に対する全体的あるいは合理的考察を欠き、部分的あるいは表面的であっても指揮監督関係や拘束性について肯定的に評価できるものがあれば、契約内容のその余について考察を遮断し、これをもってY会社とCEとの間に使用従属関係を基礎付ける指揮監督関係や拘束性の存在を認め労働者性を肯定しようというものであって、社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解というほかなく、採用の限りではない。
4 以上の次第であるから、CEはY会社との関係において労組法上の労働者に当たるということができず、Y会社が団体交渉に応じなかったとしても、これをもって労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するということはできない。そうすると、Y会社の団体交渉拒否を不当労働行為に該当するとして、Y会社に団交応諾、文書手交を命じた本件命令は不当であって取り消されるべきである。
  よって、以上と異なる原判決は相当でないからこれを取り消すこととする。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成17年(不)第2号 全部救済 平成18年7月21日
中労委平成18年(不再)第47号 棄却 平成19年10月3日
東京地裁平成19年(行ク)第44号 緊急命令申立ての認容 平成21年4月22日
東京地裁平成19年(行ウ)第721号 棄却 平成21年4月22日
東京高裁平成21年(行タ)第38号 救済命令の執行停止 平成21年9月16日
最高裁平成21年(行ツ)第362号・平成21年(行ヒ)第473号 上告棄却、上告受理 平成23年2月1日
最高裁平成21年(行ヒ)第473号 破棄自判 平成23年4月12日
 
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