労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 INAXメンテナンス
事件番号 東京地裁平成19年(行ウ)第721号
原告 株式会社INAXメンテナンス
被告 国(裁決行政庁 中央労働委員会)
被告補助参加人 全日本建設交運一般労働組合大阪府本部
被告補助参加人 全日本建設交運一般労働組合建設一般合同支部
判決年月日 平成21年4月22日
判決区分 棄却
重要度 重要命令に係る判決
事件概要  本件は、Y会社が個人業務委託契約を締結して親会社の製品である住宅設備機器の修理等の業務に従事するCE(カスタマーエンジニア)が加入するX組合本部、X組合支部及びX組合支部分会(以下、本部、支部及び分会を併せて「X組合ら」という。)からの平成16年9月6日付け、同月17日付け、同月28日付け及び同年11月17日付け各団体交渉申入れ(以下、これらを併せて「本件各団体交渉申入れ」という。)に対し、CEは個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてこれに応じなかったことが不当労働行為であるとして、X組合本部及び同支部が救済を申し立てた事件である。
 初審大阪府労委は、Y会社に対し、CEはY会社との関係において労組法上の労働者と認めるのが相当であり、Y会社がX組合本部及び同支部との団体交渉に応じなかったことは同法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、Y会社に対し、①団体交渉応諾、②文書手交を命じた。
 Y会社はこれを不服として中労委に再審査を申立てところ、中労委は、初審命令を維持し、Y会社の再審査申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)。
 Y会社は、本件命令を不服として、その取消しを求めて東京地裁に行政訴訟を提起した。
判決主文 Y会社(原告)の請求を棄却する。
判決要旨  (理由)
1 CEが労組法上の労働者に当たるか
  労組法上の労働者は、労働組合運動の主体となる地位にあるものであり、単に雇用契約によって使用される者に限定されず、他人(使用者) との間において使用従属の関係に立ち、その指揮監督のもとに労務に服し、労働の対価としての報酬を受け、これによって生活する者を指すと解するのが相当である。そして、この労組法上の「労働者」に該当するか否かの具体的の判断は、労務提供者とその相手方との間の業務に関する合意内容及び業務遂行の実態における、法的な従属関係を基礎づける諸要素の有無程度等を総合的に考慮して決すべきである。
  この判断は、上記のとおり、種々の事情の総合判断であって、一つの要素が満たされたとしても直ちに上記従属関係を認めるべきことにはならないし、また、一つの要素が欠けたとしても直ちに上記従属関係を否定すべきことにはならないと解される。 
(1)業務の依頼に対する諾否の自由について
  ア CEとしてY会社に採用された者は、Y会社との間で覚書を締結し、その4条3項は、Y会社の受付センター及びY会社の代行者から所定の方法により発注を受けた「CEは、善良なる管理者の注意をもって業務を直ちに遂行するものとする。なお、業務を遂行できないときは、その旨及び理由を直ちにIMT(会社)に通知しなければならない。」として、Y会社からの業務の依頼に対する原則的な受諾義務を定めている。
    これについてY会社は、CEがY会社の業務依頼を拒否する場合が相当数あるため、CEには業務の依頼に対する諾否の自由がある旨主張する。
    しかし、CEの依頼拒否の事実があったとしてもCEに対する業務依頼のうち、おおよそ90パーセント程度は受付センターから連絡を受けたCEから拒否されることなく受諾され、業務が遂行されていることが窺われる上に、CEが業務依頼を拒否した場合の拒否理由には、他の業務との重複等、相当な理由に基づくものがかなりの割合を占めていることが窺えるのであるから、CEが会社の業務の依頼に対して、諾否の自由を有するというような実態にあったと認めることはできない。確かに、CEの拒否理由の中には、専ら自己の都合によるものが存在することも窺えるが、これは1か月7万件前後という修理依頼件数に対する拒否件数のうちの、さらにごく一部にすぎない。したがって、Y会社がCEに対し、その必要に応じて業務の依頼を行い、CEがこれを原則的に受諾する義務があるという基本的な契約関係を前提としつつ、ただ、個々の場合に業務の不都合等を理由に業務依頼を受諾しないことがあっても契約違反とならないとの趣旨の下に本件覚書4条3項が定められていると解するのが相当であるから、Y会社の主張は採用できない。
  イ 時間的・場所的拘束性について
    CEとY会社との間の本件覚書12条には、「IMT(会社)が、CEに対して委託業務を発注する時間帯は、原則として午前8時30分から午後7時までとする。」と定められ、CEは、予めY会社に届け出た業務日には、午前8時30分から午後7時までの間、常態としてY会社からの業務依頼の連絡に対応している。そして、本件覚書4条3項には、CEが「直ちに」業務を遂行するものとあり、CEは、顧客との訪問日時の調整の際、他の業務や自己の都合等を考慮して訪問日時を決定するところ、顧客からの依頼は、ライフラインに関わるという業務の性格上できるだけ早い対応が必要なことが多く、当日や翌日に訪問する必要があることも多いというのであるから、CEは、その労働力の処分につき時間的拘束を受けているといえる。
    また、CEは、Y会社との関係で担当エリアを定められ、基本的にその範囲内の現場について業務依頼を受け、当該現場に赴いて修理等の作業を行うのであるから、その限度において、場所的拘束を受けているといえる。
  ウ 業務遂行についての具体的指揮監督について
    Y会社が、①CEの業務の具体的な遂行方法について詳細に定めた業務マニュアルを作成していること、②CEを、CEライセンス制度に基づき5つのランクに分け、委託修理技術料及び販売手数料を、そのランクに応じて支払っていること、③本件覚書5条に定められている業務遂行後の経過及び完了報告を遅延したCEに対し、始末書の提出を求めたことがあることからすると、CEは、業務遂行について、Y会社が業務マニュアル等で指定する方法によって行い、これをY会社に報告する義務があり、Y会社は、そのようなCEの業務遂行の状況に応じてCEを評価してこれを管理しているといい得るのであるから、Y会社がCEの業務遂行について具体的指揮監督を及ぼしているといえる。
  エ 報酬の業務対価性について
    CEに対する報酬は、出来高制ではあるものの、Y会社独自の評価基準であるCEライセンス制度に基づくランクに応じて支払われ、同一の業務遂行の結果に対しても、その報酬額が異なるものである。また、CEが、休日や時間外に業務を行ったときは、所定の「その他手数料」が支払われることになる。これらの事情によれば、CEの報酬は、業務の結果に対する対価というよりも、CEの提供した労務に対する対価としての性質を強く有するといえる。
  オ まとめ
    以上検討した前記アないしエの法的な従属関係を基礎付ける要素の存在及び程度を総合的に考慮すれば、CEは、Y会社の事業組織の中に組み入れられており、その労働力の処分につきY会社から支配監督を受け、これに対して対価を受けていると評価することができるから、労組法上の労働者に当たるというべきである。
2 本件各団体交渉申入れに係る議題が義務的団体交渉事項に当 たるか。
  本件各団体交渉申入れに係る議題は、CEが業務に従事する際の労働条件や、CEとY会社の団体的労使関係の運営に関する事項であって、Y会社に処分可能なものであるから、義務的団体交渉事項に当たる。したがって、X組合らからの本件各団体交渉申入れを拒否したY会社の対応は、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であり、これを認めた本件救済命令が違法であるとはいえない。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
大阪府労委平成17年(不)第2号 全部救済 平成18年7月21日
中労委平成18年(不再)第47号 棄却 平成19年10月3日
東京地裁平成19年(行ク)第44号 緊急命令申立ての認容 平成21年4月22日
東京高裁平成21年(行コ)第192号 全部取消 平成21年9月16日
東京高裁平成21年(行タ)第38号 救済命令の執行停止 平成21年9月16日
最高裁平成21年(行ツ)第362号・平成21年(行ヒ)第473号 上告棄却、上告受理 平成23年2月1日
最高裁平成21年(行ヒ)第473号 破棄自判 平成23年4月12日
 
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