回復へのマイ・ステップ

目標を立てて少しずつステップアップしていきたい
Mさん (男性・35歳)
【統合失調症 発症時期:中学 現在:一般雇用にて就労】

発症は中学3年のときでした。夜2階の部屋で受験勉強していたんです。
そしたら自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきて、外のほうから。
それで、窓を開けたんです。だけど誰もいなくて。
それが幻聴の始まりでした。聞こえないものが聞こえるんです。

幻聴に悩まされる日々

最初に幻聴が聞こえてからは頻繁でした。1日に多いときは4回とか5回ですよね。
学校で誰かが立ち話していたら、それが自分のことを言っているように思えるんです。「何なんだ、あいつ」と噂されているような、悪口言われているような。
声は男性だったり女性だったり。もう、いやでした。

高校に入って電車で通学しているときも、みんなが自分のことを言っているような気がして。追い込まれますよ。世の中みんな敵だと思っちゃうんです。
幻聴と認識できれば楽ですよね。でもできないんです。本当に言っているんじゃないかと思ってました。

中学から受験勉強のストレスは感じてました。
勉強、結構やってきたんで、そのストレスのせいかなって思っていたんですけど。
でも高校に入っても幻聴はとれないし。俺も結構、上を目指していたんで、受験校に入ったんですね。みんな勉強の話をしているんだろうけど、それが自分のことを言っているように聞こえて。しまいには、眠れなくなってきて。
親の手前、我慢して学校は通ってたんですけど、さすがに母親も気づき出して。「ちょっとおかしいんじゃないの?」と。
一緒に歩いていても、人の声が聞こえて、急に振り返ったりしてましたからね。

高校に入学して3カ月ぐらいでもう学校は行けなくなってましたね。
ただ、僕、中学からずっと野球をやっていたので、高校でも野球部に入ったんですね。
担任の先生がたまたま野球部の顧問で、その先生から「部活だけでも来い」って言われて。部活だけは参加するみたいな。でも授業には出られなかったです。

 

病院の話をされたとき、「俺は病気じゃない」と言い張った

自分の先のことを考えると不安になってきて、留年もするだろうと。
体の不調は相変わらずだし、幻聴が聞こえるのはやまない。それで、親に相談したんですよね、そのとき、初めて。
そしたら親父の知り合いに精神科の先生がいて、その先生から紹介されて、今のクリニックに通い出したんです。15、16歳のときですね。

親から病院の話をされたときは「俺は病気じゃないからやめてくれ、そんなこと」って言い張りましたね。そういう病気があるってことも知らなかったし。
でも、「とりあえず一緒に来て」って言われて、ついて行って。先生にいろいろ聞かれるけど、何を話していいかわからないし……。
病院に行くこと自体苦痛でした。当時は今より偏見が強かったじゃないですか。自分でも受け入れられないところがあって。

最初、薬が合わなかったんですよね。病院なんか行ったのが間違いだったんだって思ってた。
親が毎日ついて来てました。今は2週間に1度なんですけど、当時は3日に1度。多いときは2日に1度とか来ていました。外出は病院だけ。それ以外は家から出なかったです。
眠れない。2日眠れないで、2日眠っちゃうという感じでした。
そういう状態が高1から1年半ぐらい続きました。高校は中退しました。

 

大検をとって大学、就職へ

それから少しずつ落ち着いてきたんですよね。
先生の言ったことを守ったんです。注射も4週間に1度打って、薬も必ず飲むように心がけたので眠れるようになって。
そうすると人間って不思議なもので、ステップアップしたくなるんですよ。今のままじゃダメになると思って。
考えたのが、また高校へ行くことでした。でも「今から行くのも厳しいか、みんなに遅れをとってるしなあ」と。
そこで、大学検定というのがあるのを知って、それを受けたらもしかしたら元の道に戻れるんじゃないかと思ったんです。

それから勉強して大検を取りました。ただ、大学検定というのは高校卒業の資格ではないんですよ。それだけ取っても意味がない。だったら次は大学に行くしかないなと。
18歳のとき大学受験したんですけど、2、3校受けて全部落ちたんです。これはやばいと思って、予備校に通いました。
ものすごく勉強しましたよ。もう24時間、寝る時間以外ほぼ勉強ですよね。トイレでも、風呂でも単語帳を読んでました。
16校ぐらい受験して、結局10校ぐらい受かったんです。

大学生活はもう楽しくて。高校生活がなかったのを取り戻すみたいに。
仲間とバーベキューをやったり。サークル活動もやったし。楽しかったです。
高校を中退しているってこと話したらわかってくれる人はいっぱいいました。
ただ病気の話はしてないんです。薬は隠れて飲んでましたね。飲み会のときとか、誰も見てないところで飲んだり。

電車で大学通うとき、ヘッドホンで音楽を聴いていたんです。外の声が聞こえなくなるように。それをずっと続けているうちに、いつの間にかヘッドホンを外しても変な言葉というのが聞こえなくなってたんですよね、それ以降、聞こえてないです。

卒業して就職しましたが、転職は3回ぐらいしてます。
医療関係の営業もやったりもしましたが、それも1年半ぐらいしか続かなかったです。
20代は転職ばかりでした。辞めるたびに自信がなくなって……。
4週間に1度注射を打つんですけど、打った次の日は起きるのもしんどい。かといって会社に休みをくれなんて言えないし。つらかったです。

30歳前に現在の仕事を始めて6年続いてます。管理業務です。定時勤務だし、休みも週2日しっかりあるんで身体的には楽ですね。給料は安いんですけど。

 

目標をもって、一歩ずつ歩む

結婚したのは、今の仕事について1年目ぐらいですかね。30歳か31歳ですね。
結婚直前まで病気のことは言えなかったんですけど、話したとき、「え、そんな病気もっていたの?そうは見えなかった」って。
うちの妻も、医療関係で働いていた人なんで、わかってくれたんです。
今でも薬の管理は嫁がやってくれているんです、全部。

娘がいます。1歳2カ月です。もうかわいくてしようがないですよ。娘を見ているだけで、なんか幸せですよ。両親も「よくここまでになったね」と言ってくれます。

自分の人生設計、みんなあるんじゃないんですかね、それぞれ。
俺の場合、高校中退っていうのがあったんで、まずは大検を取って、次に大学に入って。
そして就職して、次、結婚だ、子どもだって…。一歩ずつ目標を見てやってました。
今の目標は、娘を20歳まで育てることです。

自分の頑張りによって戻れるところまで戻れるから、やっぱり病気に甘えるということだけはしてほしくないです、それだけは。
打開策は絶対あると思うんです。たとえば病院の先生の言うことを守って薬を飲めば、症状もよくなると思うし……。
目標をもつというのもいいことだと思います。

 

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