左から、人事部人財いきいき推進室の北迫さん、国枝さん、法務部 法務室の小野さん、人事部人財いきいき推進室の鶴谷さん。
大成建設に学ぶ「制度を使える職場」づくり
制度が整っていても、それを安心して利用できるかどうかは職場の理解や風土に左右される。前編では、令和7年(2025年)に施行された改正育児・介護休業法のねらいと、“働き続けられる職場”の考え方について説明しました。後編で訪ねたのは、男性の育児休業取得率100%を7年続け、国の基準を超える休暇制度を整えてきた大成建設株式会社(東京都新宿区)です。管理本部人事部 人財いきいき推進室の北迫泰行室長、鶴谷和久次長、国枝愛奈課長代理、そして育児休業を取得した法務部 法務室の小野響太課長代理に、制度運用の工夫と率直な難しさを伺いました。
建設現場ならではの、両立の難しさ
大成建設は、男性の育児休業取得率100%を7年連続で達成し、介護についても国の基準を超える休暇制度を整えています。
一方で、建設業ならではの難しさもあります。同社の社員は約9,500人(2026年3月末時点)のうち、約47%は「作業所」と呼ばれる工事現場で働いています。工期を守るために多数の協力会社と連携する建設現場では、専門資格保有者の配置の都合もあり、担当者が急に離れるのは難しく、業務を代替できる社員の数も限られます。
「鉄道なら鉄道専用、土木なら土木専用と専門資格が細分化されていることもあり、育児や介護で離れざるを得なくなっても、すぐに代替要員を派遣できません」(国枝さん)
工事現場ごとに働く場所が変わり、関係者との信頼関係を一から築き上げる建設業では、制度利用のために早めの相談と準備が欠かせません。
制度を使って見えた、支えと課題
小野さんに子どもが生まれたのは、2024年の夏。育児休業は、子どもの成長を直に感じたいと考え、2025年に約3週間ずつ2回に分けて取得しました。
「年次有給休暇とは別に付与される子の看護等休暇も活用しています。子どもと妻が感染症にかかった際には、午前中を子の看護等休暇、午後をテレワークとし、柔軟に対応できました」(小野さん)
「最初は育児休業と育児休暇の違いも知りませんでした」。当事者になって初めて、社内制度の充実を実感したと小野さんは話します。
建設現場ならではの事情もあります。工事現場で働く事務系社員は、各作業所に1人か2人程。離れてしまうと内部を把握できる社員がいなくなります。「現場について深く把握している人となると、代わりとなる社員をすぐに見つけることは難しい。そのため、かつて作業所で働いていた経験からも、育児休業などで長期間離れるのは心苦しいという気持ちはわかります」(小野さん)。
それでも、前もって会社に相談していれば制度の利用時期は調整できるといいます。「上司から『育児休業はいつ取りたいの』と聞いてもらえました。こういったフォローの雰囲気があることで、安心して取得することができました」(小野さん)
「言い出せない」をどう減らすか
北迫さん自身も、介護の当事者です。
父親の様子が変わり始めたのは2019年ごろ。当時すでに介護制度を担当していましたが、『介護休暇を使っていいのだろうか』と迷い、上司に相談したところ、『貴方が使わないで誰が使うんだ』と言ってもらえて、介護休暇を利用しながら父親を支え、現在も母親の通院に付き添っています。自身も介護の経験があるからこそ、北迫さんは社員が制度利用を「言い出せない」状況をなくしたいと考えています。
北迫さんは人事と管理職の両方を経験している立場から、制度を利用する社員と業務を代替する社員の公平性も課題の一つだと言います。
「育児休業を取る人の業務を代替する社員へのフォローをどうするかが、課題感としては大きい。有効な手立てはなかなかできていません」
「介護はプライベートなことだから、会社には言わない方がいいと思う人もいるかもしれませんが、上司に相談してほしいです」。制度づくり、管理職、介護当事者という三つの立場を持つ北迫さんの実感です。
介護は育児以上に社員の状況を会社が把握しにくいといいます。会社では社員に対して一人で抱え込まず相談してほしいと呼びかけていますが、会社に相談できていない社員も少なくないと思います。
「介護に関わっているけれど、実は会社には言っていないんです、という人を正確に把握できていません」(鶴谷さん)
そのため、経営トップも繰り返し情報発信を続けています。2023年の社内報では、相川善郎社長が「家族の介護をがんばっている社員が仕事を辞めずに働き続けられる環境を整えることは会社の責務です」と呼びかけました。
「こういったことを社内に広く伝えていくことが、制度利用のハードルを下げるのだと思います」(鶴谷さん)
地道な取組も続けています。40歳を迎える社員には、誕生日を迎える前月に、メールだけでは見落とされないよう、あえて冊子の「介護のしおり」を送付。管理職研修では、「家族の介護は大丈夫ですか」と上司から声をかけるよう促しています。
「どこまで見るかわかりませんが、頭の片隅に置いてくれればいいんです」(鶴谷さん)
法改正に基づく意向聴取に当たり、アンケートフォームやPower Automate等のデジタルツールを活用した業務フローを構築しています。また、制度説明動画の配信や説明会の開催など、社員が必要な制度を理解し、安心して利用できるよう情報提供の充実にも取り組んでいます。
「意向聴取に当たり、どれぐらいの期間育児休業を取りたいか、復職後はどういう働き方をしたいか。社員の皆さんの声を集めています」(国枝さん)
本人が希望すれば、回答内容は上司や人事にも共有され、その後の面談につながります。
誰かが休んでも回る職場へ
工夫は、制度利用者だけのためではありません。北迫さんが基本に挙げるのは、情報の共有と可視化です。業務を一人で抱え込まず、進捗を見える化することで、育児休業でも突発的な介護でも周囲がフォローできる体制を作ることが大切とのことです。
国枝さんは、メールのCCに関係者を入れることを徹底しています。急に休むことになっても、過去のやり取りをたどれば業務を引き継げます。
鶴谷さんは、共用サーバーで業務データを共有しています。
「急に1週間仕事に来られなくなっても、共用ファイルを見れば最低限のものは保存されています。部署内でデータを共有しておけば何とかなります」
こうした情報共有は、育児や介護に限らず、日頃から役立つ取組だといいます。
「両親は80代半ばです。すぐに介護が必要な状況ではありませんが、そろそろだなと感じています」。介護支援の実務を担う鶴谷さん自身も、介護の入り口に立っています。
大成建設の取組の出発点は女性活躍の推進でした。平成19年(2007年)に他社に先駆けて設立した「女性活躍推進室」が女性社員にキャリアについて聞いたところ、家族の介護を不安視する声が挙がりました。翌年に男性社員へヒアリングした際も、同様の声が寄せられたといいます。
そこから支援の対象を全社員へ広げ、現在の「人財いきいき推進室」へとつながっています。
制度を使える風土をつくる
男性の育児休業取得率100%は7年連続となったものの、次の課題は、休業期間の長い人と短い人の二極化です。目標は30日以上取得する社員を50%に増やすこと。2024年度出生では20.9%でしたが、2025年度出生では38.6%(2026年6月時点)と伸びています。「みんなが取るのは当たり前、1カ月は絶対当たり前で、もっと取れるよね、というところへ意識を変えていきたい」と国枝さんは話します。
「制度は、あるだけでなく、ちゃんと使っていただくことが一番大事です」。育児支援を担当する国枝さんは、誰もが安心して休める職場づくりに取り組んでいます。
制度を利用した小野さんは、早めに会社に相談することと、休む人を職場全体で支えることの大切さを実感したといいます。
「急に風邪をひくのと同じで、子どものお世話や家族のサポートが必要になることはある。育児・介護に限らず、みんなでフォローし合っていくのが大事です」(小野さん)
大成建設でも、育児や介護を一人で抱え込まず、「お互い様」の気持ちで支え合う職場づくりを進めています。鶴谷さんは、「相談してよかった」と思ってもらえる対応を続けたいと話します。
そして北迫さんが何より重要だと強調するのが、「制度を使える風土」です。
「制度は頑張って作っていますが、スタートラインでしかありません。もっと大事なのは、それが使える風土を上司などがつくること。制度を作って終わりじゃないんです」
会社は社員が相談してくれれば支援できる。周囲への感謝も忘れないでほしい。制度をつくり、部下を持ち、自らも介護を担う人の言葉です。
まとめ
大成建設の取り組みから見えてきたのは、各種制度の先にある風土の話でした。情報を共有する。早めに伝える。カバーし合う。あなたの職場でも、次の一言から始められます。部下や同僚に「大丈夫ですか」と声をかけること。それが、働き続けられる職場の第一歩です。
◾️もっと知りたい方へ
- 育児・介護休業法について:育児・介護休業法について|厚生労働省
- 仕事と介護の両立支援について:仕事と介護の両立支援について|厚生労働省
- ダイバーシティ,エクイティ&インクルージョン(ワーク・ライフ・バランス): ダイバーシティ,エクイティ&インクルージョン(ワーク・ライフ・バランス)|大成建設株式会社
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