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あさコラム vol.28
感染症エクスプレス@厚労省 2016年11月4日

猪鹿腸

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 去る11月1日、元宇宙飛行士で日本科学未来館長の毛利衛さんを議長にお迎
えし、「薬剤耐性(AMR)対策推進国民啓発会議」が開催されました。
 会議の冒頭、塩崎恭久厚生労働大臣から、本年5月の伊勢志摩サミットや9
月のG7保健大臣会合、さらには国連総会のハイレベルイベントでも世界的課
題として議論された薬剤耐性(AMR)対策について、その重要性を国民の皆様に
知って頂けるよう、啓発普及にしっかり取り組んでいく旨の挨拶がありまし
た。
 2050年には、世界全体において、がんによる死亡者数を超えるとの推計も
ある薬剤耐性(AMR)感染症の問題。
 身近にできる対策としては、手洗い、うがい、マスク、咳エチケットやワ
クチン接種でまずは感染症を防ぐ、感染症にかかったら適切な服薬に努める
などが重要です。
 そして、ヒトに留まらず、動物、農業、環境の分野横断的な「ワンヘルス・
アプローチ」をキーワードに、厚生労働省はもとより、政府が一丸となって、
薬剤耐性(AMR)対策に取り組んでまいります。
 11月は世界保健機関(WHO)が抗菌薬啓発週間(11月14日~20日)を設けて
いるのにあわせ、わが国も「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」として設定いた
しました。
 皆様も、薬剤耐性(AMR)対策にぜひご注目下さい。

 さて、今回はワンヘルスつながりで、イノシシとシカのお話です。
 皆様はイノシシとシカを動物園以外で見たことがありますか?
 私はさすがに生きたイノシシは見たことはありませんが、神奈川県の足柄
峠周辺で、イノシシの皮干しを見たことがあります。
 シカの方は、秋田県能代市周辺の国道7号線沿いに出没したのを見たこと
があります。
 威風堂々と立つシカの姿を見た時は、さすがにビックリしました。

 このようにイノシシもシカも、花札で馴染みがあるように案外と身近に存
在するため、中山間地域などで農林業被害を及ぼす害獣として悩みの種にな
っています。
 しかも、こうした被害は、ますます深刻化・広域化していることから、平
成20(2008年)年2月に「鳥獣による農林水産業等に係る被害防止のための
特別措置に関する法律(鳥獣被害防止特措法)」が施行されました。
 この鳥獣被害防止特措法が平成24年(2012年)3月に改正され、捕獲した
野生鳥獣を食品として利用を図るよう、取組みが進められています。
 いわゆるジビエですね。
 ちなみに、ジビエとはフランス語で、狩猟で捕獲した野生鳥獣の肉や料理
のことを指します。

 ジビエ推進の対象鳥獣としてはイノシシとシカがダントツで、ぼたん鍋
(猪鍋)や鹿肉カレーなど既に普及が進んでいます。
 私もかつてシカの大和煮の缶詰をお土産に頂き、食べてみましたが、意外
と美味しいかった記憶があります。
 しかし、このイノシシ肉やシカ肉を生や加熱不十分で食べると、E型肝炎
や腸管出血性大腸菌、住肉胞子虫やウエステルマン肺吸虫、トキソプラズマ
などの寄生虫に感染するリスクがあるのです。
 ジビエを流通させるなど、業を行うには食品衛生法の規制の対象になりま
すが、業以外の場合でも、狩猟から消費に至るまでのジビエの安全性確保の
ための取組みとして、「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」
を厚生労働省で作成しています。
 また、ジビエ活動が盛んな自治体においても、衛生管理の方法などのガイ
ドラインやマニュアルが用意されています。

 こうしたガイドラインを遵守することが衛生上は大切ですが、何と言って
も、生肉を食べない、肉をしっかり加熱をする、というのが、ジビエでも牛
や豚、鶏など通常の食肉でも、共通する感染症対策の基本です。
 特に妊婦の方は、生肉を食べたことでトキソプラズマに感染し、その結果、
お腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症に感染することもありえます。
 かつては、ユッケや生レバーによる大きな食中毒事件も起き、死亡された
方も出ています。

 食欲の秋深しですが、ジビエを生で食べてお腹を壊し、予期せぬ感染症に
罹患することないよう、ぜひご留意下さい。
 とにかく、加熱を忘れずに。

 では、次回もどうぞよろしくお願いします。


猪鹿腸

 

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