労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  山形県労委平成27年(不)第1号
山形大学不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  国立大学法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成31年1月15日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人法人が、申立人組合との間の「平成27年1月1日からの55歳超の教職員の昇給抑制」、「平成27年1月1日からの1号俸の昇給抑制」及び「平成27年4月からの給与制度の見直しによる賃金の引下げ」に係る交渉において、不利益変更の必要性(高度の合理性)を説明しないこと、不利益変更に係る代償措置や激変緩和措置をほとんど、又は全く講じない上に、法人側の予定や結論ありきの交渉を行い、同じ回答のみを繰り返したりするなど、不誠実な態度で交渉を行ったことが、不当働行為であるとして救済申立てがあった事件で、山形県労働委員会は、法人に対し、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文 
1 被申立人は、申立人との間の下記に係る団体交渉について、どの程度昇給を抑制し、どの程度賃金を引き下げる必要があるのかに関する適切な財務情報や将来予測資料を提示するなどして、自らの主張に固執することなく、誠実に応じなければならない。

(1) 平成27年1月1日からの55歳超の教職員の昇給抑制
(2) 平成27年4月1日からの給与制度の見直しによる賃金引下げ

2 申立人のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(平成27年1月1日からの55歳超の教職員の昇給抑制に係る団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。)について
(1) 争点1ア(団体交渉において、法人は、不利益変更の必要性についての具体的かつ十分な説明、及び交渉にとって必要と考えられる資料の提示をしたか。)について
 昇給抑制の必要性について、法人から一応の説明がなされている。
 しかしながら、昇給抑制について、法人提示の線まで抑制しなければならない理由について、法人は、人事院勧告に依拠すると主張するのみである。
 法人は、昇給抑制の程度の合理性については、「平成26年1月に55歳を超える職員に対して昇給抑制を実施しなかった場合の影響額」と題する資料に示された試算以外に具体的な説明を行っていないが、当該資料の読み取り方について十分な説明がなされたとはいえない。
 また、当該資料からは、55歳超の教職員の昇給抑制を実施しなかった場合に、法人の財政にどのような影響を与えるか等を読み取ることは困難であると言わざるを得ず、適切で十分な資料が開示されたとはいえない。
 そもそも、昇給抑制の程度の合理性について、十分な説明をするためには、当該抑制度を何通りかに変化させたシミュレーションを行い、それらを比較することによって初めて過不足のない抑制度が判明するはずであるから、そのような作業が法人には求められていたというべきである。
 これらのことからすると、法人は、自己の主張の根拠としては、必要かつ十分な説明を尽くしたとはいえず、また、交渉にとって必要かつ十分と考えられる資料を提供したともいえないから、法人の交渉態度は不誠実であるといわざるを得ない。
 したがって、平成27年1月1日からの55歳超の教職員の昇給抑制に関する平成25年11月12日及び12月3日並びに平成26年12月19日の各団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
(2) 争点1イ(団体交渉において、法人には、自らの立場に固執せず、譲歩の可能性を示す姿勢があったか。)について
 法人が、国立大学法人の教職員の給与水準は、人事院勧告に従って改定された国家公務員の給与水準に準拠すべきとの見解に基づいて定められるべきものであることを当然の前提として本件団体交渉に臨み、それに基づく主張を繰り返したことは、自らの独自の見解に固執したものといわざるを得ず、団体交渉における誠実な態度とは認められない。
 組合は、他大学で行っている昇給停止年齢の引上げなどを引き合いに出し、法人として代償措置をとるよう求めたが、法人は、それを真摯に受け止め、検討しようとする姿勢が認められず、その交渉態度は頑なである。
 法人が、昇給抑制の実施を1年間遅らせ、平成27年1月1日からとする措置を提案し、実施したことは、国家公務員の給与抑制の実施が平成26年1月1日からであることに鑑みると、組合に対する一定の譲歩と評価できなくもないが、法人は、実施を遅らせた期間がなぜ1年なのか等についての説明をしていない。そうすると、法人は、昇給抑制の実施時期について、組合に説明することなく、自らの立場に固執していることに帰着するから、当該激変緩和措置によって、法人の態度が頑なであったとの結論が左右されることはない。
 したがって、(1)の各団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

2 争点2(平成27年4月1日からの給与制度の見直しによる賃金引下げに係る団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。)について
(1) 争点2ア(団体交渉において、法人は、不利益変更の必要性についての具体的かつ十分な説明、及び交渉にとって必要と考えられる資料の提示をしたか。)について
 賃金引下げの必要性について一応の説明がなされている。
 しかしながら、賃金引下げについて、法人提示の線まで引き下げなければならない理由の説明として人事院勧告に依拠すると主張するのみである。
 賃金引下げの程度の合理性の説明については、人事院勧告の内容を解説した資料を除けば、「人件費削減の必要性と削減案」と題する資料に基づく説明だけである。
 組合は、当該資料では、過去の年度のデータが決算額ではなく当該過去の年度の予算額で表記されており、全く納得できない旨主張するとともに、組合員が納得できるような、できるだけ細かい客観的なデータを提供するよう要求したことが認められるが、当該データが提供されることはなかったと認められる。
 当該資料について検討すれば、人件費の推移については決算書(損益計算書)の数字を用いながら、収入及び支出については予算の数字を用いており、過去の実績の推移が不明であり、将来の法人の財政状況を予測することは困難であること等が認められる。
 そもそも、賃金引下げの程度の合理性について、十分な説明をするためには、当該引下率を何通りかに変化させたシミュレーションを行い、それらを比較することによって初めて過不足のない引下率が判明するはずであるから、そのような作業を行わないのは、不誠実である。
 さらに、法人は、組合員を含む教職員各自への具体的な影響額とその算出方法すら明示しておらず、この点をとってみても、明らかに不誠実な態度というべきである。
 これらの点を踏まえると、当該賃金引下げの必要性について、一応の説明はなされていると認められるものの、当該賃金引下げの程度の合理性についての法人の説明は不十分といわざるを得ない。
 そうしてみると、法人は、組合の求める資料提供に応じず、その具体的な説明すらしてこなかったものであり、およそ不利益変更の高度の必要性と内容の合理性に関する説明がなされたと評価することはできない。
 したがって、平成27年4月1日からの給与制度の見直しによる賃金引下げに関する平成26年11月26日、平成27年2月9日及び27日並びに3月10日の各団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号に該当する。
(2) 争点2イ(団体交渉において、法人には、自らの立場に固執せず、譲歩の可能性を示す姿勢があったか。)について
 国立大学法人の教職員の給与水準は、人事院勧告に従って改定された国家公務員の給与水準に準拠すべきとの見解に基づいて定められるべきものであることを当然の前提として交渉に臨み、それに基づく主張を繰り返す法人の態度は、自らの独自の見解に固執したものといわざるを得ず、団体交渉における誠実な態度とは認めらない。
 組合が求めているのは人事院勧告にプラスされる別の措置である。法人の講じた代償措置及び激変緩和措置は人事院勧告に準拠したものであるから、法人が、独自に財政状況等を検討して組合との妥協点を求めたものとは認められない。そうすると、代償措置等によって、法人の交渉態度が頑なであったとの結論が左右されることはない。
 したがって、(1)の各団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
(3) 争点2ウ(団体交渉において、法人は、時間、回数など交渉の機会を十分確保したか。)について
 法人が、組合の理解を得るために十分な時間をかけ、協議を重ねたとは認められないから、この点においても(1)の各団体交渉における法人の交渉態度は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山形地裁平成31年(行ウ)第2号山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件 全部取消 令和2年5月26日
仙台高裁令和2年(行コ)第8号山形大学不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 棄却 令和3年3月23日
最高裁令和3年(行ツ)第135号 棄却 令和3年12月24日
最高裁令和3年(行ヒ)第171号 破棄差戻し 令和4年3月18日
 
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