労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  仙台高裁令和2年(行コ)第8号山形大学不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  山形県(同代表者兼処分行政庁 山形県労働委員会) 
控訴人補助参加人  Z職員組合 
被控訴人  国立大学法人Y 
判決年月日  令和3年3月23日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、55歳超の教職員の昇給抑制、1号俸の昇給抑制及び給与制度の見直しによる賃金の引下げに係る団体交渉において、不誠実な態度で交渉を行ったことが、不当働行為に当たるとして救済申立てがあった事案である。
2 山形県労委は、法人に対し、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した(本件救済命令)。
3 法人は、これを不服として、山形地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件救済命令は違法であるとして、救済命令を取り消した。
4 山形県労委は、これを不服として、仙台高裁に控訴したが、同高裁は、山形県労委の控訴を棄却した。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、補助参加によって生じたものを補助参加人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も、法人の請求を認容するのが相当であると判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 争点(1)(救済命令の内容の適法性)について、各交渉事項に係る昇給抑制及び賃金引下げは、平成27年に既に実施済みであるところ、それだけであれば、各交渉事項について更に団交を進め、そこで成立した合意に従って、改めて規程改正をすれば足りるから、規程改正により昇給抑制及び賃金引下げが実施済みであるからといって、法律上、各交渉事項について改めて団交をして一定の合意を成立させることが不可能になるものではない。また、組合が、昇給抑制及び賃金引下げの実行に際し、法人との間で、各交渉事項に関する団交を終了させる旨合意した事実を認めるべき証拠もない。
 しかし、各交渉事項については、新たな合意をする場合、それを実現するには法人の予算の裏付けが必要であるところ、救済命令が発された平成31年においては、各交渉事項に係る昇給抑制又は賃金引下げの実行から4年前後を経過し、その間、平成29年度までの会計年度が終了するとともに、給与の性質上、関係職員全員について上記昇給抑制及び賃金引下げを踏まえた法律関係が積み重ねられてきた。そして、教育機関であるという法人の性質上、法人は、自己収入のみでは事業を運営することはできず、役職員の人件費を含む事業運営に要する経費の約3割を国からの運営費交付金に依存せざるを得ない実情にあるところ、当時、国からの運営費交付金については、国の厳しい財政事情を踏まえ減額が続いており、また、法人の役職員の退職金は国からの運営費交付金によって賄われていたところ、人事院勧告に準拠して給与水準を改定しなければ上記交付金と実際の退職金との間に差額が生じ、これを法人が負担しなければならなくなることがあったため、法人においては、以前から、職員の給与水準の改定を巡り組合との厳しい折衝を余儀なくされていた事実が認められる。以上のような諸事情からすると、各交渉事項に係る昇給抑制又は賃金引下げの実施から4年前後を経過した平成31年の時点において、各交渉事項について法人と組合とが改めて団交をしても、組合にとって有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと推認することができ、このような推認を覆すに足りる証拠はない。
 そうすると、仮に、法人と組合との各交渉事項を巡る団交において法人に救済命令が指摘するような不当労働行為があったとしても、救済命令が、平成31年の時点において、法人に対し、各交渉事項について、組合と更なる団交をするように命じたことは、労働委員会規則33条1項6号の趣旨にも照らし、裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
3 上記2の認定判断は、一般に、使用者が一方的に団交を打ち切って交渉事項に係る就業規則を使用者の意図どおりに改正すれば、労働委員会は使用者に不当労働行為が認められても更なる団交を命ずることができなくなるとするものではなく、本件に現れた具体的な事情により、団交の目的達成が事実上不可能になったと認められることによるものである。また、正常な集団的労使秩序の回復は不当労働行為救済制度の目的とするところではあるが、団交が最終的には労使間の一定の合意の成立を目的とするものであることからすると、使用者に対し、事実上、労働組合にとって有意な合意の成立が不可能となった事項に関して労働組合との団交を命ずることは、目的を達成する可能性がない団交を強いるもので行き過ぎといわざるを得ないし、このような命令によらなくとも、いわゆるポスト・ノーティス命令によって正常な集団的労使秩序の回復を図ることも考えられ、それが効果として不十分であるともいい難い。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山形県労委平成27年(不)第1号 一部救済 平成31年1月15日
山形地裁平成31年(行ウ)第2号 全部取消 令和2年5月26日
最高裁令和3年(行ツ)第135号 棄却 令和3年12月24日
最高裁令和3年(行ヒ)第171号 破棄差戻し 令和4年3月18日
 
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