概要情報
事件番号・通称事件名 |
仙台高裁令和4年(行コ)第13号
山形大学不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人(1審被告) |
山形県(代表者兼処分行政庁 山形県労働委員会) |
控訴人補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
被控訴人(1審原告) |
国立大学法人Y(「法人」) |
判決年月日 |
令和5年7月19日 |
判決区分 |
全部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が、55歳超の教職員の昇給抑制、1号俸の昇給抑制及び給与制度の見直しによる賃金の引下げに係る団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)において、不誠実な態度で交渉を行ったことが、不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件である。
2 山形県労委は、法人に対し、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 法人は、これを不服として、山形地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件救済命令(以下「本件命令」という。)は違法であるとして取り消した。
4 山形県労委は、これを不服として、仙台高裁に控訴したが、同高裁は、山形県労委の控訴を棄却した。
5 山形県労委は、これを不服として、最高裁に上告提起及び上告受理申立てを行った。最高裁は、山形県労委の上告を棄却したが、上告受理申立てを受理する決定を行い、控訴審判決を破棄し、仙台高裁に差し戻した。
6 仙台高裁は、原判決を取り消し、法人の請求を棄却した。
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判決主文 |
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1審、差戻し前の控訴審、上告審及び差戻し後の控訴審を通じ、補助参加によって生じた費用を含め、全て被控訴人の負担とする。
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判決の要旨 |
1 判断の要旨
当裁判所は、①法人が本件団体交渉において十分な説明や資料の提示をしたとは認められず、法人には不当労働行為となる誠実交渉義務違反があるところ、②これに対して発出された誠実交渉命令である本件命令の本件認容部分は法人において遂行可能なものであって、これが労働委員会である処分行政庁の裁量権の行使として是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものであるとは認められないから、本件認容部分が違法であるとはいえないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
2 争点⑴(誠実交渉義務違反の不当労働行為の有無)に対する判断
(1) 法人は、本件団体交渉において十分な説明や資料の提示をして誠実交渉義務を尽くしており、法人に誠実交渉義務違反があるとして発令された本件命令の本件認容部分は違法であると主張する。
(2) 国立大学法人の教職員の給与については、一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与等のほか、民間企業の従業員の給与等、当該国立大学法人の業務の実績並びに教職員の職務の特性及び雇用形態その他の事情をも考慮して支給基準を定めた上で(現行の国立大学法人法35条、独立行政法人通則法50条の10第3項参照)、各大学法人が自主的、自律的に決定すべきものである。
そして、本件各交渉事項は、教職員の昇給抑制や賃金引下げに係るものであり、これが賃金額ないし退職金額という労働者の重大な利害に関係し、その有無だけではなくその程度も重要な関心事項であることなどからすれば、法人が本件団体交渉においてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するに当たっては、単に人件費削減のために昇給抑制や賃金引下げの必要がある旨の説明や資料の提示をしたり、人事院勧告に倣って昇給抑制や賃金引下げをする旨の説明をしたりするだけでは足りず、必要となる昇給抑制や賃金引下げの程度に関連して、昇給抑制の対象年齢を引き上げる余地はないのか、賃金引下げの額を減額する余地はないのか、それぞれの実施時期を繰り延べる余地はないのかなども含めて十分な説明をするとともに、その裏付けとなる資料の提示をしなければならないというべきである。
しかるに、法人は、人事院勧告に倣って本件昇給抑制や本件賃金引下げをする必要があるとして申し入れた本件団体交渉において、基本的に、法人の財政状況からすれば平成24年度や平成26年度の人事院勧告に倣って昇給抑制や給与制度の見直しをしなければならない旨の説明を繰り返すにとどまり、昇給抑制や賃金引下げの程度を人事院勧告と同水準にしなければならないことについて十分な説明をしたとは認められない。
法人が本件団体交渉において提示した「平成26年1月に55歳を超える職員に対して昇給抑制を実施しなかった場合の影響額」や「人件費削減の必要性と削減案」を見ても、前者は平成24年度の人事院勧告に倣った昇給抑制を実施しなかった場合の影響額を試算するものにすぎないし、後者は法人の収入の相当部分を占める運営費交付金が毎年度約1億円減少しており、その補填のため人件費を削減する必要があるなどとするものにすぎず、他の収入増大策や支出削減策の有無やその程度等を踏まえ、人事院勧告より低い水準の昇給抑制や賃金引下げで足りないか等につき明らかにするに十分な資料であるとはいえない。
(3) 以上からすれば、法人が本件団体交渉において十分な説明や資料の提示をしたとはいえず、法人には不当労働行為となる誠実交渉義務違反があるというべきである。
3 争点⑵(裁量違反の有無)に対する判断
法人は、誠実交渉命令である本件認容部分は法人において遂行不可能な内容となっており、労働委員会の裁量権を逸脱するものとして違法であると主張する。
しかし、上記2(2)及び(3)のとおり、法人は、誠実交渉義務として、組合との団体交渉において、その主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示すべきものであり、団体交渉に係る事項につきその実施から相当期間が経過するなどして同事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合であっても、使用者が事後的に十分な説明や資料の提供をするなどして誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかである。
したがって、本件認容部分が事実上又は法律上遂行不可能なことを命ずるものであるとはいえず、これが労働委員会である処分行政庁の裁量権の行使として是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものであるとは認められない。
4 結論
以上のとおりであるから、本件命令の本件認容部分が違法であるとはいえない。法人がその他主張するところを検討しても、この判断は変わらない。
5 結語
よって、法人の請求を認容した原判決は相当ではなく、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、法人の請求を棄却する。
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その他 |
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