概要情報
事件番号・通称事件名 |
最高裁令和3年(行ヒ)第171号
山形大学不当労働行為救済命令取消請求上告受理申立事件 |
上告人 |
山形県(代表者兼山形県労委 山形県労働委員会) |
上告補助参加人 |
Z組合(「組合」) |
被上告人 |
国立大学法人Y大学(「法人」) |
判決年月日 |
令和4年3月18日 |
判決区分 |
破棄差戻し |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が、55歳超の教職員の昇給抑制、1号俸の昇給抑制及び給与制度の見直しによる賃金の引下げに係る団体交渉において、不誠実な態度で交渉を行ったことが、不当働行為に当たるとして救済申立てがあった事件である。
2 山形県労委は、法人に対し、誠実団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した(本件救済命令)。
3 法人は、これを不服として、山形地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件救済命令は違法であるとして、救済命令を取り消した。
4 山形県労委は、これを不服として、仙台高裁に控訴したが、同高裁は、山形県労委の控訴を棄却した。
5 山形県労委は、これを不服として、最高裁に上告及び上告受理申立てを行った。最高裁は、山形県労委の上告を棄却したが、上告受理申立てを受理する決定を行い、控訴審判決を破棄し、仙台高裁に差し戻した。 |
判決主文 |
1 原判決を破棄する。
2 本件を仙台高等裁判所に差し戻す。 |
判決の要旨 |
1 原審は、要旨次のとおり判断し、本件認容部分は違法であるとして、その取消しを求める法人の請求を認容すべきものとした。
本件命令が発せられた当時、昇給の抑制や賃金の引下げの実施から4年前後経過し、関係職員全員についてこれらを踏まえた法律関係が積み重ねられていたこと等からすると、その時点において、本件各交渉事項につき法人と組合とが改めて団体交渉をしても、組合にとって有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと認められるから、仮に法人に本件命令が指摘するような不当労働行為があったとしても、山形県労委が本件各交渉事項についての更なる団体交渉をすることを命じたことは、その裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴ 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁昭和45 年(行ツ)第60 号、第61号同52年2月23日大法廷判決参照)。
労働組合法7条2号は、使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ、使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い、この義務に違反することは、同号の不当労働行為に該当するものと解される。
そして、使用者が誠実交渉義務に違反した場合、労働者は、当該団体交渉に関し、使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができず、誠実な交渉を通じた労働条件等の獲得の機会を失い、正常な集団的労使関係秩序が害されることとなるが、その後使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば、このような侵害状態が除去、是正され得るものといえる。
そうすると、使用者が誠実交渉義務に違反している場合に、これに対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令(以下「誠実交渉命令」という。)を発することは、一般に、労働委員会の裁量権の行使として、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものではないというべきである。
ところで、団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合には、誠実交渉命令を発しても、労働組合が労働条件等の獲得の機会を現実に回復することは期待できないものともいえる。
しかしながら、このような場合であっても、使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは、その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するものというべきである。
そうすると、合意の成立する見込みがないことをもって、誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱するということはできない。
また、上記のような場合であっても、使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかであるから、誠実交渉命令が事実上又は法律上実現可能性のない事項を命ずるものであるとはいえないし、上記のような侵害状態がある以上、救済の必要性がないということもできない。
以上によれば、使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には、当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても、労働委員会は、誠実交渉命令を発することができると解するのが相当である。
⑵ 本件認容部分は、法人が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をしたとして、法人に対して本件各交渉事項につき誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずる誠実交渉命令であるところ、原審は、本件各交渉事項について、法人と組合とが改めて団体交渉をしても一定の内容の合意を成立させることは事実上不可能であったと認められることのみを理由として、本件認容部分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であると判断したものである。
そうすると、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。
3 以上によれば、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件各交渉事項に係る団体交渉における法人の対応が誠実交渉義務に違反するものとして不当労働行為に該当するか否か等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 |
その他 |
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