労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 東急バス
事件番号 中労委平成17年(不再)第40号・第43号
再審査申立人 (40号)東急バス株式会社・(43号)全労協全国一般東京労働組合
再審査被申立人 (40号)全労協全国一般東京労働組合・(43号)東急バス株式会社
命令年月日 平成20年1月9日
命令区分 一部変更
重要度  
事件概要  本件は、会社が、(1)組合員に対する残業の割当てがないこと、(2)職場協議に会社が応じないこと、(3)便宜供与及び職場内情宣活動を会社が認めないこと、(4)添乗調査及び乗務状況報告書へのへの押印問題について会社が団体交渉に応じないこと、(5)乗務状況報告書に押印しないことを理由として組合員に対し懲戒処分を行ったこと及び同処分について団体交渉に応じないことが不当労働行為に当たるとして申立てがあった事件である。
 東京都労委は、(1)残業割当てに関する差別的取扱いの禁止、(2)郵便物等に関する差別的取扱いの禁止、(3)便宜供与に関する誠実協議応諾、(4)添乗調査の頻度等の運用等に関する誠実団体交渉応諾、(5)文書掲示を命じその余の申立てを棄却したところ、会社及び組合はこれを不服として、それぞれ再審査を申し立てたものである。

命令主文 初審命令主文を一部変更して、(1)残業割当てに関する差別的取扱いの禁止、(2)組合員5名に対する残業外しによる不利益分の支払い、(3)便宜供与に関する誠実協議応諾、(4)添乗調査の運用等に関する誠実団体交渉応諾、(5)文書掲示を命じ、その余の各再審査申立てを棄却する。
判断の要旨 (1) 残業の割当てについて
[1]  組合の組合員X1らに対する残業差別の有無について
 X1らの月間残業時間をみると、13年3~5月以降大きく低下しており、それ以前の平均と比較すると、例えば、X1は19時間から10時間に、X2は56時間から6時間に減少している。また、13年9月の週休2日制導入による労働時間制度変更後に設けられた公休日の出勤は、総残業時間に占めるその割合が3割を超えており、毎月約半数の乗務員に割り当てられていた。しかし、X1らの中で公休日の出勤が付いたのは、約3年半の中でX3の2ヶ月分だけで、不自然な格差が認められる。
 さらに、毎月3人に1人以上の乗務員が30時間以上の残業を行っており、X1らも13年3~5月までは30時間以上の残業を行うことがあったが、同時期以降は、同人らに対し、約4年の長期にわたり、30時間以上の残業が割り当てられておらず、不自然といわざるを得ない。
 X1らに残業が割り当てられなくなったのは、分会結成後約半年が経過した13年3~5月ころに集中しているが、それまでの間に、本社前での抗議行動等、労使関係は悪化しており、会社の組合嫌悪は推認できる。また、複数の営業所長が、別組合の組合員でないことを理由としてX1らの残業を外した旨発言しており、会社の差別的意図が推認できる。加えて、30時間以上の残業を行う者が固定していないにもかかわらず、X1らが30時間以上の残業を行ったことがなく、その残業時間が0~20時間に固定していたことを会社が認識していたことからすると、X1らにはあまり残業させないという会社の差別的意図を推認せざると得ない。
 したがって、会社が、残業の割当てにおいて、組合の組合員であることを理由としてX1らを不利益に取扱い、かつ、同人らの家計に打撃を与えることにより組合組織の弱体化を図ったものと認められ、会社の当該行為は不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に当たる。

[2]  X4とX5に対する残業差別の有無について
 X4については、X4に残業の割当てがされなくなったのは分会結成の1年近く前であること等を考慮すると、残業差別を認めることはできない。
 次に、X5については、平成8年以降は残業に応じておらず、かつ、13年に申し出た残業希望は、基本的に残業せず、都合の良い日だけ指定して残業したいというものであった。残業は業務の必要に応じて命じられるものであるところ、過去数年間残業に応じず、自らの指定日のみの残業を申し出てきたX5に係る残業差別を認めることはできない。
[3]  組合の被救済利益について
 X2は退職しているが、組合を脱退してはおらず、同人が残業外しによる不利益につき回復の利益を放棄したとする事情は認められないから、組合にはなお同人に係る救済申立てを維持する利益が存在するというべきである。
 また、会社は、民事裁判で確定した残業差別等に係る損害賠償金50万円を組合に支払っているものの、当該賠償金は、会社の行った諸々の不当労働行為によって組合が受けた無形損害に対するものであり、これをもって、残業差別に係る不当労働行為の救済がなされたとはいえず、組合の被救済利益は消滅していない。
(2) 便宜供与について
 同一企業内に複数の労働組合が存在する場合、使用者は、各組合に対して中立的な態度を保持し、併存組合を合理的な範囲で平等に取り扱うべきところ、会社は、別組合に対しては、組合には認めない各種の便宜供与を行っている。一方、会社は、組合の便宜供与要求に対し、都労委における審査の確定結果を待つと回答するのみで、便宜供与に応じない具体的理由を何ら説明せず、内部的検討すら行っていなかった。そうすると、便宜供与に関する上記会社の対応は、中立保持義務に違反し、支配介入に当たるといわざるを得ない。

(3) 添乗調査に関する団体交渉について
 添乗調査の結果に基づく評価は査定に影響し、査定の結果は賃金にも影響し得る。また、押印しなければ懲戒処分の対象となる。そのため、添乗調査の評価基準や押印問題は組合員の労働条件に密接に関連する事項であり、これらについて団体交渉に応じないことは、団体交渉拒否の不当労働行為に当たる。
(4) 懲戒処分について
 覆面調査員による添乗調査制度自体は、乗務員を徒らに監視する等、違法・不当な態様で行われない限り、的確な運行確保、サービス向上、職務遂行状況把握という業務上の必要から行われる合理的なものといえる。したがって、乗務員に乗務状況報告書への押印を求め、押印しない者に対し就業規則所定の懲戒処分とすることも、処分の程度及び手続が相当性を欠いていたり、組合を弱体化させる等の不当な動機・目的があるなど特段の事情がない限り問題とされるものではない。
 確かに、会社が添乗調査について団体交渉に応じないことに合理的理由がないことは前記判断のとおりであるが、業務上必要な指導が行えなくなる可能性があるため、団体交渉が行われなければ組合員に押印させないという組合の方針を会社が認めず、組合員に対して押印するよう会社が業務命令を行ったとしても不当とまではいいがたい。また、押印は、従前から行われており、押印しない乗務員は組合の組合員以外にもいたのであるから、会社が押印拒否に対する対応を厳しくしたことをもって、組合弱体化を意図したとはいえない。そして、本件処分の程度も譴責処分に止まっており、かつ、会社は、警告を行った上で処分しており、手続き的に不備はない。したがって、押印拒否を理由とする組合の組合員への懲戒処分が、支配介入及び不利益取扱いの不当労働行為に当たるとはいえない。

掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成13年(不)第96号・平成14年(不)第9号・平成15年(不)第115号 一部救済 平成17年5月10日
東京地裁平成20年(行ウ)第113号・第478号 一部取消 平成22年2月22日
東京高裁平成22年(行コ)第94号 棄却 平成22年11月24日
最高裁平成23年(行ヒ)第88号、第89号 上告不受理 平成23年9月30日
中労委平成23年(不再)第68号(旧事件平成17年(不再)40・43号) 一部変更 平成24年7月4日
東京地裁平成24年(行ウ)第532号 棄却 平成25年9月11日
東京高裁平成25年(行コ)第354号 棄却 平成26年2月6日
 
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