労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東急バス 
事件番号  東京高裁平成22年(行コ)第94号 
甲事件控訴人・甲事件被控訴人・乙事件被控訴人国補助参加人  東急バス株式会社 
乙事件控訴人・甲事件被控訴人国補助参加人  全労協全国一般東京労働組合 
甲事件被控訴人・乙事件被控訴人・甲事件控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
判決年月日  平成22年11月24日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Y会社が、①X組合の分会の組合員(以下「分会員」という。)に対する残業扱いとなる乗務の割当て(以下「残業割当て」という。)がないこと、②職場協議に会社が応じないこと、③郵便物の取次ぎ等の便宜供与及び職場内情宣活動を会社が認めないこと、④添乗調査の運用及び乗務状況報告書への押印問題について会社が団体交渉に応じないこと、⑤乗務状況報告書に押印しないことを理由として分会員に対し懲戒処分を行ったこと及び同処分について団体交渉に応じないことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、①残業割当てに関する差別的取扱いの禁止、②郵便物等の取次ぎに関する差別的取扱いの禁止、③便宜供与に関する誠実協議応諾、④添乗調査の頻度等の運用等に関する誠実団体交渉応諾、⑤文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
 Y会社及びX組合はこれを不服として、それぞれ再審査を申し立てたところ、中労委は初審命令主文を一部変更して、①残業割当てに関する差別的取扱いの禁止、②分会員5名に対する残業外しによる不利益分の支払、③便宜供与に関する誠実協議応諾、④添乗調査の運用等に関する誠実団体交渉応諾、⑤文書掲示を命じ、その余の各再審査申立てを棄却した。
 これに対し、Y会社及びX組合はこれを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、分会員5名に対する残業手当相当額の支払のうち、1名について取り消し、その余のY会社及びX組合の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、Y会社及びX組合がそれぞれ東京高裁に控訴し、中労委も民事訴訟法45条の規定に基づき、X組合の控訴に伴い控訴人となったものであるが、同高裁はいずれの控訴も棄却した。 
判決主文  1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、各自の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、甲事件請求(Y会社提訴)は原判決が認容する限度で理由があり、その余の請求は理由がなく、乙事件請求(X組合提訴。中労委に対する裁決の義務付けに係る部分を除く。)は理由がないものと判断する。その理由は、下記2に残業割当てに関する論点について当裁判所の判断を補足するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当裁判所の判断の補足
(1) 残業割当てにおける不当労働行為について
 ア 分会員5名の残業時間が、平成13年3月ないし5月を境に激減したことについては、Y会社が、乗務員に対して残業の割当てをする際に、人為的な操作をしたものと推認されるが、そのような操作をする合理的な理由は何らうかがわれない。
 Y会社は、X組合と厳しく対立する状態に至っていたところ、5名がX組合に所属していることから、これを理由として、同人らに経済的不利益を与え、これにより、X組合や分会の弱体化を図ろうと考えて、同人らに対する残業割当てをしないよう操作し、もって、分会員をZ組合組合員らと差別する取扱いをしたものと認めるのが相当である。
 したがって、Y会社の5名に対する残業割当ての差別は、不利益取扱い(労組法7条1号)及び支配介入(同条3号)の不当労働行為に当たる。
 イ Y会社の各営業所では、乗務員の残業がなければ、全ダイヤのバスの運行をすることができないため、あらかじめ乗務員の残業を組み込んだ運行ダイヤを組む体制となっており、また、残業を希望する乗務員にとっても、あらかじめ組み込まれた残業を日常的に行い、その残業手当は、予定された収入として生計の一部としていたのであるから、残業割当て事務を円滑に遂行するとともに、乗務員に対する公平な取扱いを維持するため、一定の残業割当ての方法が確立されていたとみるのが自然であって、残業を命ずる一定のルールやシステムがないとのY会社の主張は、不自然である。
 また、仮に明確なルールがなかったとしても、バスの運行について欠便を出さないためには、日常的に乗務員に対し相当量の残業を割り当てなければならないわけであるから、その際に人為的操作をすることは可能であり、明確なルールがないというだけでは、残業割当ての人為的操作を否定する理由にはならない。
(2) 上記(1)の不当労働行為の救済方法等について
 ア 救済命令の特定性は、命令主文と理由を含めた命令全体から判断されるべきであるところ、(中労委の)本件命令Ⅰの1は、本件命令の理由と併せれば、分会員に対し、刷込残業、休日出勤等の残業を割り当てないという取扱いを止め、残業の割当てについて、分会員以外の乗務員と同じように取り扱うことを命じていることが明らかである。
 したがって、本件命令Ⅰの1が特定を欠いて、不適法ということはできない。
 イ 労働委員会には、救済方法の選択について裁量権が与えられており、不当労働行為の態様、労使双方の実情、使用者側の態度、今後の労使関係の見通し等諸般の事情を考慮して、当該不当労働行為によって生じた労使関係のゆがみを是正し、その正常化を図るために最も適切と考える救済命令を発令することができるところ、Y会社のX1、X2、X3及びX4に対する残業割当て差別による不利益分の算定については、Y会社が各営業所の1人当たり平均残業時間等の資料を一切提出しないため、X組合の調査資料(A営業所における平成17年11月から3か月間の各月ごとの総残業時間を同営業所の各月の在籍乗務員数で除した数値の平均値)を使用し、また、差別開始後の労働時間制度の変更、分会員らの営業所間異動等の要因が残業時間に与える影響が少なくなるように配慮し、各分会員ら各人の平均月間残業時間の減少分と、営業所1人当たり平均月間残業時間のうち、より少ない方をもって差別により失われた残業時間と算定されたものである。
 そうすると、上記算定方法は、不確定の要素を含む中で、諸般の具体的事情を可能な限り考慮することで、最小限度において、残業差別による不利益分を算出しようとしたものであって、適切かつ妥当なものということができる。
 したがって、労働委員会の裁量権の逸脱や濫用は認められない。
 ウ X組合は、X5、X6及びX7に対する残業割当ての差別があり、同人らは救済されるべきであると主張する。
 しかし、本件命令Ⅰの2のうち、X5に対する金銭支払を命じた部分は、欠勤期間を救済の対象として不利益分を算出した点に、裁量権の逸脱があったと認められるから、その救済命令は取り消されるべきである。また、本件命令の一部を取り消すことは、労働委員会の裁量権を制約することになり、許されない。
 また、X6については、分会加入前から刷込残業等の割当てがなく、X7については、残業に応じていなかったにもかかわらず、突如、自己の希望する日、時間帯だけ残業させるよう要求するものであるから、同人らに対する残業割当てがなかったことが、X組合の組合員であることを理由とする不利益な取扱いとまで断定することはできない。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成13年(不)第96号・平成14年(不)第9号・平成15年(不)第115号 一部救済 平成17年5月10日
中労委平成17年(不再)第40号・第43号 一部変更 平成20年1月9日
東京地裁平成20年(行ウ)第113号・第478号 一部取消 平成22年2月22日
最高裁平成23年(行ヒ)第88号、第89号 上告不受理 平成23年9月30日
中労委平成23年(不再)第68号(旧事件平成17年(不再)40・43号) 一部変更 平成24年7月4日
東京地裁平成24年(行ウ)第532号 棄却 平成25年9月11日
東京高裁平成25年(行コ)第354号 棄却 平成26年2月6日
 
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