労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東急バス(審査再開) 
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第532号 
原告  東急バス株式会社  
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  全労協全国一般東京労働組合 
判決年月日  平成25年9月11日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、組合員X1らに対し残業扱いとなる乗務の割当て(以下「残業割当て」)を行わなかったこと等が不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済を申し立てた。
2 東京都労委は、残業割当てを行わなかったこと等が不当労働行為に当たると認めて、差別取扱いの禁止及び文書掲示を命じたところ、会社及び組合は、これらを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、不当労働行為の成否に関する初審の判断を支持し、東京都労委の救済に加えX1らに対するバックペイを命じた。
4 会社及び組合はこれを不服として東京地裁に取消訴訟を提起した。東京地裁は、中労委命令がX1に関するバックペイを命じた部分について、同人の4か月間の欠勤期間を除外しなかったことが裁量を逸脱したとして、X1へのバックペイ命令部分を取り消し、その余の会社の請求及び組合の請求をいずれも棄却した。
5 組合及び会社は、これを不服として東京高裁に控訴を提起したが、東京高裁は、組合及び会社の控訴をいずれも棄却した。
6 組合及び会社が最高裁に上告受理の申立てを行ったが、最高裁は上告不受理決定をした。
7 中労委は、確定判決で取り消された部分について審査を再開し、X1の欠勤期間を除いて算出したバックペイを命じた(以下「本件命令」)。
8 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件である。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本案前の争点(信義則違反による本件訴えの却下の可否)について
(1) 中労委は、本件訴えが、審査再開前の前訴の実質的な蒸し返しであり、信義則に照らして許されず、却下されるべき旨主張する。
(2) しかしながら、本件訴えは、前回再審査命令のうち前回バックペイ部分を取り消す旨の前訴第一審判決が確定した後、改めてされた別の救済命令(本件命令)についての取消しを求める訴えであるところ、会社は、本件命令の違法事由として、〔前訴と同様の〕争点だけではなく、本件命令に係る中労委の再審査手続において主張制限がなされたことの是非や、中労委による事実認定方法の是非についても違法事由として主張している。
(3) 本件訴え自体について、前訴の実質的な蒸し返しにすぎず信義則に反し、不適法であるとまではいうことはできず、中労委の本案前の主張は採用できない。
2 本案の争点①(再開後の再審査手続における主張制限の適法性)について
(1) 再開後の再審査手続において、会社が改めてX1に対する残業割当ての差別的取扱いに係る不当労働行為の成立を争う主張をすることは、前訴において既に確定した前訴確定判決の理由中における認定判断を誤りとして、前訴と同一の争点を実質的に蒸し返すものであるということができる。会社の上記主張は、再開後の再審査手続において他方当事者として対応を迫られる組合に無用の負担を強いるものであり、何より、当初の救済申立てから10年近くの歳月をかけた前訴最高裁決定に至る経緯をいたずらに軽視するものである。したがって、会社の上記主張が信義則に反するものとして許されないとする中労委の判断に違法性はないというべきである。
(2) 会社は、中労委の上記判断につき、取消判決における民訴法上の既判力の客観的範囲や行訴法上の拘束力の範囲、労組法及び労委規則の規定内容の解釈・適用を誤り、会社の公正な再審査を受ける権利(憲法31条)を不当に侵害するものと主張する。
 しかし、会社の挙示するこれらの法令規定が、本件の再開後の再審査手続における主張制限につき、前述のように解することと矛盾抵触するものとは解されない。また、審査の再開に至るまでの前述の経緯に照らして、会社の公正な再審査を受ける権利を不当に侵害するものともいえない。
 さらに、会社は、中労委のいう信義則の法的根拠が不明である、再審査手続において当事者双方がいずれも主張していなかった根拠による不意打ち的判断であるなどとも主張するが、対審手続としての構造を有する労働委員会の審査手続においては、当事者の手続行為に対し、民事訴訟(民訴法2条)と同様に、信義則が妥当するものと解するのが相当であるし、再開後の再審査手続において、会社が改めて不当労働行為の成否を争う主張をすることの可否が争点となり、同争点に関し、組合から、審査の再開に至るまでの経緯を理由として会社がX1に対して残業割当てを行わなかったことにつき不当労働行為に当たらないとして争うことはできない旨の主張がされていたことが認められるのであるから、会社に対する特段の不意打ちがあるものともいえない。
 よって、この点に関する会社の主張はいずれも採用できない。
3 本案の争点②(再開後の再審査手続における事実認定方法の適法性)について
 本件命令は、再開後の審査における当事者からの提出証拠によることなく、審査の全趣旨によって、前回初審命令に係る救済申立てから前訴第一審判決の確定に至るまでの経緯を認定し、これらの認定事実及び確定した前訴第一審判決及び前訴控訴審判決の理由に基づく判断を行っていることが認められる。これらの認定事実が、その内容に照らし、前訴確定判決を受けて審査を再開した中労委の立場において、審査の全趣旨から容易に認定できる客観的事実であること、労働委員会の審査手続は、民事訴訟に類似した対審手続としての構造を有する一方で、訴訟手続ではなく、労組法及び労委規則に規定された行政手続であって、これらの規定上、労働委員会の事実認定に際し、厳密に民事訴訟と同様の証拠方法や証拠調べ手続によらねばならないとまでは解されないことからすれば、本件命令の前提となった中労委の事実認定方法に違法な点があるとはいえない。この点に関する会社の主張は採用できない。
4 本案の争点③(不当労働行為の認定及び不利益分の算定についての違法事由の有無)について
 会社は、本件命令では、会社の乗務指示の過程におけるいかなる行為が差別的取扱いに該当するのかが示されておらず、不利益分の金額算定においても、差別開始の前後を通じた期間における会社各営業所における残業の必要性の変化・差異、会社における労働時間制度の変更、各乗務員の毎月の残業時間の変動状況、X1の出勤状況の変化や残業意思の程度等が無視され、年率5分を乗じた金額の付加の法的根拠も示されていないとして、違法事由があると主張する。
 そこで、本件命令における不当労働行為の認定及び不利益分の算定について違法事由が認められるかどうかにつき検討するに、前回再審査命令の内容及びこれに対する前訴確定判決の判示する前述の違法事由の内容(不当労働行為に対する救済方法として支払を命じるべき不利益分の金額算定方法の一部に違法があるとするもの)に照らせば、中労委は、国家機関の最終判断である前訴確定判決の理由中において示された違法事由(X1の欠勤期間である4か月間を不利益分の算定から除外していない点)を除去した上で、前訴確定判決の理由中の認定判断(自らが前回再審査命令において示し、前訴確定判決の理由中においても是認された認定判断及び前訴確定判決の理由中において示された前回再審査命令中の取消部分に係る違法事由についての判断)に従い、再度救済命令を発することが要請される(行訴法33条参照)というべきところ、本件命令は、前訴確定判決が是認したX1に対する残業割当てについての差別的取扱いによる不当労働行為の成立を前提に、これに対する救済方法として、前回再審査命令において算定されたX1の不利益分から、前訴確定判決において算定に当たり除外しなかったことが違法事由に該当するとされた欠勤期間(4か月間)分を除外した上、その余の不利益分の算定方法及び年率5分を乗じた金額を付加する点については、前訴確定判決において妥当であるとされた前回再審査命令と同様の考え方により判断して、改めてX1に対する金銭支払を会社に命じたものであり、前訴確定判決の理由中の認定判断に従って、それに合致するよう発せられた再度の救済命令であることが明らかである。
 したがって、本件命令には違法事由は認められず、会社の主張は失当というべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成13年(不)第96号・平成14年(不)第9号・平成15年(不)第115号 一部救済 平成17年5月10日
中労委平成17年(不再)第40号・第43号 一部変更 平成20年1月9日
東京地裁平成20年(行ウ)第113号・第478号 一部取消 平成22年2月22日
東京高裁平成22年(行コ)第94号 棄却 平成22年11月24日
最高裁平成23年(行ヒ)第88号、第89号 上告不受理 平成23年9月30日
中労委平成23年(不再)第68号(旧事件平成17年(不再)40・43号) 一部変更 平成24年7月4日
東京高裁平成25年(行コ)第354号 棄却 平成26年2月6日
 
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