労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 東日本旅客鉄道(千葉動労不登用)
事件番号 中労委平成5年(不再)第31号
再審査申立人 東日本旅客鉄道株式会社
再審査被申立人 国鉄千葉動力車労働組合
命令年月日 平成18年7月19日
命令区分 全部取消
重要度  
事件概要 1  本件は、会社が、国鉄において運転士資格を取得した組合の組合員ら19名を運転士に発令しないことが不当労働行為であるとして、平成2年3月30日組合が千葉県労委に救済を申し立てた事件である。 
2  初審千葉県労委は、会社が組合の組合員19名を運転士に発令しないことは、労組法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、組合員19名全員を元年11月30日付けで運転士に発令したものとして取り扱い、運転士として就労させることとする命令を交付した。
 会社は、上記救済命令を不服として、再審査を申し立てたものである。 

命令主文 (1)  初審命令主文を取り消す。 
(2)  再審査被申立人の救済申立てを棄却する。 
判断の要旨 (1)  業務移管等について
 国鉄民営化直前の61年3月及び11月のダイヤ改正時に、国鉄は千葉局が管轄していた約15,800kmを東京三局に業務移管し、さらに会社設立後、会社は、3年3月のダイヤ改正において、津田沼運転区担当乗務の一部を東京地域本社に移管するとともに、津田沼運転区を廃止し、習志野運輸区を新設した。
 組合は、この業務移管及び津田沼運転区廃止等は、千葉支社における運転系統の主力を占める組合の影響力を封じ、組織の解体を狙ったものであると主張する。
 しかしながら、国鉄時代に行われた業務移管について会社が責任を負う謂われはないし、3年3月のダイヤ改正に併せて行われた業務移管は、余力人員対策の一環として、会社が経営判断により東京支社等複数の支社に対してなされた全社的な施策であり、千葉支社のみを対象として行ったものではない。また、津田沼運転区廃止等も、運転士と車掌との連携を強化するために、全社的に順次運転区と車掌区を統合し運輸区を設置している施策の一環であり、組合対策を目的としてなされたものとは認められない。これらの施策は、経営政策としてそれなりに合理性があり、理解できるものである。
 したがって、業務移管及び津田沼運転区廃止等は組合が主張するような組合の弱体化を企図して行われたとみることはできず、組合の主張は採用できない。 
(2)  57年予科生に対するハンドル訓練について
 会社は、国鉄においてハンドル訓練を受けることができず、運転士資格を得られなかった57年予科生に対し、63年3月1日から3名、同年4月4日から残り約10名にハンドル訓練を実施した。組合はこのハンドル訓練に関し、会社が組合を脱退した者ら3名に対し先行して同訓練を実施し、その後組合の抗議によって残り約10名に対しても同訓練を実施したことは、組合差別であると主張する。


 しかしながら、会社は、国鉄の民営化に伴い、動力車操縦者の運転免許に関する経過措置がとられたことから、ハンドル訓練未実施者に運転免許を取得させようとしてハンドル訓練を実施したもので、実施可能な運転区等から順次実施したものと認められ、1か月の訓練開始時期が遅れたとはいえ、対象者全員に対し同訓練を実施しているのであるから、組合の組合員を差別したものとは認められない。 
(3)  車掌発令について 
ⅰ ア  千葉支社は、京葉線暫定開業、同全線開業、成田空港線開業等による車掌及び運転士の需給逼迫から63年及び元年における車掌登用について、昇進基準に基づく車掌試験に代わる措置として、本件予科生の中から選考して車掌養成(補完教育)を行い、車掌に登用することとした。
 千葉支社はこの方針に基づき、現業職に従事している本件予科生全員に現場長による個人面談を実施し、車掌になる意思表示をした者について、運転適性検査等を実施した上で面談を行い車掌養成者(補完教育対象者)を決定した。
 現場長による個人面談の際、組合の組合員らの中で車掌になる意思表示を行った者は63年には皆無であり、元年に6名が車掌になる意思を示し、他の組合員らは車掌になる意思を示していない。 
イ  会社は、設立後昇進基準を定め、運転士になるためには車掌試験を経なければならないこととし、組合に対しても昇進基準の説明を行っており、組合も承知していたものと考えられる。 
ウ  千葉支社としては、現場長面談では、車掌登用について本件予科生に対し平等な機会を与えていたものと認められ、車掌登用を希望した者に対しては、個人面談を行い、適性検査の結果や普段の勤務成績を勘案して総合的に判断するという手続を踏んでいる。

元年の車掌養成(補完教育)者の中には組合の組合員2名も含まれている。 
 したがって、これらの事情を総合すると、本件予科生の63年及び元年の車掌登用において千葉支社が組合員らを差別して取り扱ったとは認められない。
ⅱ  組合は、組合員である57年予科生のX1が、2年度実施と思料される車掌試験を受験したい旨を再三、駅長に申し出たにもかかわらず、会社は合理的理由なく、X1が組合の組合員であることを理由として同人の受験を認めなかったと主張する。


 しかしながら、X1は運転士資格を取得しており、あらためて車掌試験を受験することは昇進上意味がない。また、X1が受験を申し出た2年の時点では、車掌試験により養成された車掌が発令される等、車掌の要員に余裕が出てきた時期であり、それ以前の63年、元年時のように運転士資格のある予科生から補完教育を行って車掌に登用する必要がなくなっていたものである。したがって、会社がX1に対し2年に車掌登用を申し出なかったからといって、組合員を差別したとは言えない。 
(4)  運転士発令について
 本件予科生の車掌登用は、全員に平等な機会を与え、車掌登用を希望する者の中から選考した者に車掌養成(補完教育)を行い車掌に登用したものと認められるが、その結果、車掌経験を経た者を運転士に発令しており、元年、2年の運転士発令の時点では車掌登用者に組合の組合員はいないのであり、また3年以降は昇進基準に則り、新基準による運転士資格者から運転士を発令しているのであるから、車掌経験を有しない組合の組合員19名が運転士に発令されなかったことに特段の問題はない。
 会社が、設立後昇進基準を定め、運転士に発令するには車掌を経ることを必須条件とし、千葉支社は昇進基準に従って運転士発令を行っていることが認められ、組合の組合員を差別的に取り扱ったと判断することはできない。  
(5)  結論
 以上のとおり、会社は、京葉線、成田空港線開業等による乗務員の需要に応じるため、本件予科生に対して車掌登用の機会を与え、その上で運転士の発令を行ったものと認められる。したがって、会社がX2ら19名を運転士に発令しないことは、車掌登用の意思を示さなかったか、車掌登用のための補完教育対象者の選考において対象者とされなかった結果であり、組合弱体化を企図したものとはいえないから、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認めることはできない。よって、初審命令の判断は相当ではなく、取消しを免れない。 

掲載文献 不当労働行為事件命令集135集《18年5月~8月》949頁

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
千葉地労委平成2年(不)第4号 全部救済 平成5年6月1日
東京地裁平成18年(行ウ)第646号 棄却 平成20年3月3日
東京高裁平成20年(行コ)第150号 全部取消 平成21年9月30日
最高裁平成22年(行ツ)第51号 上告棄却 平成23年11月24日
最高裁平成22年(行ヒ)第52号 上告受理 平成23年11月24日
最高裁平成22年(行ヒ)第52号 破棄自判 平成24年2月23日
 
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