労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  大阪府・大阪府(23年度任用) 
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第876号(甲事件)・同地裁平成25年(行ウ)第16号(乙事件) 
原告  大阪府 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  大阪教育合同労働組合 
判決年月日  平成25年10月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、大阪府が、組合からされた府公立学校の常勤講師、非常勤講師又は学力向上支援員である組合員18名の平成22年度の任用の保障(雇用の継続)を、また、常勤講師、非常勤講師である組合員15名の平成23年度の任用の保障(雇用の継続)を議題とする各団体交渉(本件団交)の申入れに応じなかった等として、救済を申し立てた。
2 初審大阪府労委は、組合の各申立てを却下又は棄却した。組合は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、各初審命令主文中、本件団交申入れについて、救済申立てを棄却した部分を取り消し、本件団交申入れに応じなかったことに関する文書手交を命じた。
3 会社は、これを不服として、東京地裁に取消訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用も含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)(組合は、本件労組法適用組合員に関する問題について、労組法7条の救済命令の申立人適格を有するか。)について
(1) 組合は、教職員等を中心に結成され、地公法53条1項により、大阪府人事委員会から職員団体としての登録を受けた団体であるところ、現在、地公法適用組合員と労組法適用組合員により構成される混合組合であるとの組織実態がある。
(2) 労組法7条の不当労働行為救済命令の申立人適格を有する労働団体は、労組法上の労働組合に限られ(労組法5条1項)、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体をいう(同法2条)。
 ILO87号条約の批准に伴い、昭和40年8月、地方公営企業等の労働関係に関する法律の一部を改正する法律(昭和40年法律第70号)及び地公法の一部を改正する法律(昭和40年法律第71号)が公布施行され、職員でなければ職員の労働組合の組合員又は役員となることができないとの規定や、職員団体の構成員は当該地方公共団体の職員でなければならないとの規定が削除されたとの経緯が認められる。加えて、地公法は、登録された職員団体となる場合を除き、職員団体の構成員を地公法が適用される一般職の地方公務員に限定する旨の規定を置いておらず、地公法及び労組法は、一般職の地方公務員が労働団体に加入することを制限する旨の規定を置いていないことからすれば、現行法は、混合組合の存在を許容しているものと解することができる。
 そして、混合組合が地公法適用組合員と労組法適用組合員とにより構成されているとの組織実態があることに鑑みれば、混合組合は、代表される組合員に対し適用される法律の区別に従い、地公法の職員団体及び労組法上の労働組合としての複合的な法的性格を有すると解するのが自然かつ合理的である(複合性格説・二元適用論)。
 憲法28条は、労働者の団結権及び団体交渉権を保障するところ、これを受けた労組法7条の不当労働行為救済制度は、労働者の上記権利を具体的かつ実質的に保障するものである。この点、地方公務員も一般職、特別職の別に関わらず、憲法28条にいう「勤労者」であることに変わりはなく、かかる地方公務員等によって組織された混合組合も、その構成員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを目的とする団体である点において、実質的には労働組合としての性格を有するのであり、ただ、一般職の地方公務員については、その職務の性質に鑑み、例外として労組法の適用が排除されているにすぎない。複合性格説・二元適用論によれば、混合組合に加入した労組法適用組合員は、自らの労働条件について、当該混合組合を通じて、労組法上の使用者に対する団体交渉を行うことができることになるのであり、このように解することは、憲法28条や労組法7条の不当労働行為救済制度の趣旨にも合致するものといえる。
(3) これに対し、府は、単一性格説・一元適用論によるべき理由として、現行法体系が、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合とを峻別し、それぞれの法的性格に応じて根拠法令を定め、それぞれの労働団体に付与される法律上の権能を定めていることなどからすれば、複合性格説・二元適用論は、現行法体系上許容されないものであると主張する。
 しかし、現行法体系が混合組合の存在を許容しているものと解されることは前記のとおりであり、混合組合が、地公法上の職員団体と労組法上の労働組合のいずれかの法的性格を単一的に有するとの前提自体が存在するか疑問がある上、混合組合の法的性格を地公法上の職員団体と労組法上の労働組合のいずれかに一元的に決定すべき実際上の必要性があるかについてもなお疑問があるといわざるを得ない。したがって、混合組合の地公法上の職員団体と労組法上の労働組合との間に法規制上の区別が存在することから、複合性格説・二元適用論が現行法体系上許容されないことにはならないというべきであるから、上記の点に関する府の主張は、採用することができない。
(4) 府が主張する単一性格説・一元適用論による場合には、組合員の量的割合の変動により、当該混合組合の法的性格が変動することとなるなどの理論上ないし実際上の問題点が存在することや、混合組合において地公法適用組合員が少数派となった場合、当該混合組合の法的性格が労働組合と判断される結果、地公法適用組合員は、当該混合組合を通じて交渉(地公法55条)を行うことができないこととなり、不利益取扱の禁止(地公法56条)など、地公法上の保護を受けられないのみならず、地公法58条1項により労組法の適用が排除される結果、労組法上も全く保護されないという不都合が生じることは否定できない。
(5) また、府が主張する単一性格説・一元適用論によると、当該混合組合の法的性格が地公法上の職員団体と判断される場合には、労組法適用組合員が、当該混合組合を通じて、自らの労働条件を労組法上の使用者に対する団体交渉により解決することができないこととなり、不当労働行為救済制度の趣旨である労働者の団結権及び団体交渉権の保障という観点からみて、極めて不当な結果となる。
 これに対し、府は、ILO87号条約は、労働者の労働団体設立、加入の自由を要請するにとどまり、それ以上に、労働団体の組織形態いかんにかかわらず、労働者が設立、加入する全ての労働団体に、国内法の創設した特定の労働団体に付与される権利・利益(救済命令の申立人適格)を等しく付与することまで要請するものではなく、混合組合の労組法適用組合員は、地公法上の職員団体とされる混合組合に加入した場合には、当該職員団体に課せられた団結権及び団体行動権の制約を受けることとなるのはやむを得ないと主張する。しかし、ILO87条約は、労働者の労働団体設立、加入の自由を要請するところ、上記の労働者の権利を実質化するために、労働者が設立、加入した労働団体がその法的性格に関わりなく団結権及び団体行動権を保障されることも要請するものと解される。労組法適用組合員である特別職の地方公務員が、当該地方公共団体において地公法が適用される一般職の地方公務員により既に結成されている地公法上の職員団体に加入することは自然なことであり、他方で、特別職の地方公務員が単独で労働組合を結成し、これを維持することは現実的に困難であるという実情があることが認められる点に鑑みれば、混合組合の労組法適用組合員である特別職の地方公務員が、労働組合加入の自由という権利を行使して、地公法上の職員団体に加入したことにより、団結権及び団体交渉権が制約されることとなってもやむを得ないなどとする府の主張は、特別職の地方公務員の権利を軽視するものといわざるを得ない。
(6) 以上の検討によれば、混合組合の法的性格については、複合性格説・二元適用論によるべきであり、混合組合である組合は、地公法上の職員団体及び労組法上の労働組合としての複合的な法的性格を有し、労組法適用組合員に関する問題については、労働組合として、労組法上の権利を行使することができるというべきであるから、労組法7条各号の別を問わず、救済命令の申立人適格を有するものと解するのが相当である。
2 争点(2)(府が本件各団交申入れを拒否したことが、正当な理由のない団体交渉拒否(労組法7条2号)に当たるか。)について
(1) 組合が、本件労組法適用組合員に関する問題について、労組法7条の救済命令の申立人適格を有することは争点(1)における説示のとおりであるところ、府が、組合の本件各団交申入れを拒否したこと及びその経緯は、前提事実のとおりである。
(2) そこで、府が本件各団交申入れを拒否したことが、正当な理由のない団体交渉拒否(労組法7条2号)に当たるかを判断するに際し、まず、本件各団交事項が義務的団交事項に当たるか否かを検討する。 
 府教委は、府公立学校において、講師希望者登録制度を設けており、同登録制度登録者以外の者を常勤講師や非常勤講師に任用することはないところ、府教委においては、一般職の教諭(正規任用教員)の定数を確保できず、毎年度、約3000人の欠員が生じている等の状況にあることから、府としては、府公立学校における教育制度を維持するために、常勤講師及び非常勤講師が不可欠の存在であるとみていたことが認められる。そのことは、府が、講師希望者登録制度の登録有効期間は2年度間であるが、有効期間内に府教委に講師として任用された場合、次の2年度間の登録を自動更新し、以後、同様に自動更新する旨の規定を設けており、同規定が、登録希望者の継続的な雇用を目的とするものと推認されることからも裏付けられる。
 学力向上支援員については、学力向上支援員取扱要領上、任用の更新に関する規定が存在し、非常勤講師については、非常勤講師取扱要綱上、任用の更新に関する規定は存在しないものの、任用の更新を否定する規定も存在しておらず、非常勤講師のうち、若年特別嘱託員等については特別嘱託員取扱要綱等により、任用の更新を予定する規定が存在することからすれば、その他の非常勤講師についても、任命権者である府教委の裁量による任用の更新が予定されていたと解する余地がある。
 そして、組合は、平成6年度以降(平成12年度を除く。)の各年度において、常勤講師等組合員について、次年度の任用を保障するよう申し入れており、平成19年度から平成22年度までの間に、申し入れた組合員については、その職種を問わずほぼ全員が前年度の任用条件と同一又は同一に近い任用条件で任用され、継続して勤務していること、本件労組法適用組合員の常勤講師等への就任歴は、最も短い者でも2年度、最も長い者では31年度にわたって、常勤講師等として繰り返し任用され、会計年度を超えて継続して勤務していることがそれぞれ認められる。
 加えて、常勤講師及び非常勤講師の任用については、各府立学校及び各市町村教委において生じる任用事由及び講師希望者登録者が希望する任用条件が毎年度変動する等の事情があることから、登録者が複数回にわたって任用される場合、調整の結果によって、登録者の希望にかかわらず、従前と同一職種に任用される場合及び従前と異なる職種に任用される場合があったことが認められることに照らせば、本件労組法適用組合員である講師希望者登録者も、そのことを十分に認識した上で、任用職種等の任用条件よりも任用の継続を優先していたとの意思を有していたと推認するのが合理的である。
 以上によれば、本件労組法適用組合員である非常勤講師の任用の実態は、繰り返しの任用によって実質的に勤務が継続する中での任用条件(職種、校種、勤務地等)の変更又は前年度の継続であったと評価することができる。非常勤講師又は学力向上支援員である本件労組法適用組合員の次年度の任用の保障(雇用の継続)との本件各団交事項は、任用の継続を前提とする勤務条件の変更又は継続を求めるものと解されるから、団体交渉を申し入れた労働者の団体である組合の構成員たる本件労組法労働者の勤務条件その他の待遇に関するものであって、使用者である府において処分可能なものといえるから、義務的団交事項に当たるというべきである。
(3) 府は、本件各団交事項が管理運営事項(地公法55条3項)に該当すると主張する。
 しかし、本件労組法適用組合員である非常勤講師の任用の実態が、繰り返しの任用によって実質的に勤務が継続する中での任用条件(職種、校種、勤務地等)の変更又は前年度の継続であったと評価でき、本件各団交事項は、任用の継続を前提とする勤務条件の変更又は継続を求めるものと解されることから、それ自体が直ちに管理運営事項に当たるということができないというべきであり、この点に関する府の主張は、採用することができない。また、地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、交渉の対象とすることができないとの地公法55条3項の規制は、混合組合において、労組法適用組合員である特別職の地方公務員に関する部分にも及ぶと解されるが、地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項であっても職員の勤務条件に関する事項であれば交渉の対象とすることができると解されるところ、上記のとおりの本件労組法適用組合員である非常勤講師の任用の実態及び本件各団交事項の趣旨によれば、本件各団交事項は、府に現に任用されている本件労組法適用組合員である非常勤講師らの勤務条件に関する事項であって、同組合員の勤務条件に重大な影響を及ぼすものということができる。したがって、本件各団交事項に地公法55条3項の規制が及ぶことはないというべきであるから、この点からも府の主張は採用することができない。
(4) 府は、府が本件各団交事項について本件各団交申入れに応ずることが、常勤講師等の任用手続の公正性・平等性確保及び講師希望者登録制度に対する登録者その他の第三者の信頼確保を害するとも主張する。
 しかし、府の、常勤講師らの任用の枠組みに照らせば、本件各団交事項は、本件労組法適用組合員が、次年度において引き続き継続して雇用されること及びその場合の労働条件(職種、校種、勤務地等)について協議することを求めるものであって、それ以上に、府の任用行為に介入することを求めるものとは解されない。したがって、府も、団体交渉において誠実な対応をすれば足り、組合の要求を受け入れて妥結する義務(任用することを保障すべき義務)までは負っているわけではないから、府が、本件各団交事項について本件各団交申入れに応ずること自体により、常勤講師等の任用手続の公正性・平等性確保及び同制度に対する登録者その他の第三者の信頼確保を害することはないというべきである。
 また、任用の手続経過が平成13年度から平成19年度までの各年度において、組合と府教委との間で行われた団体交渉と類似すること、本件協議の中で、組合が求めた交渉事項は、本件各団交事項と同旨のものである常勤講師等組合員に係る次年度の任用の保障(雇用の継続)という義務的団交事項であったことが認められることからすれば、府と組合との間で、平成20年度及び平成21年度に行われた協議も、その実質において団体交渉であったと認められる。
 このように、府と組合は、平成13年度から平成21年度まで、常勤講師等組合員に係る次年度の任用の保障(雇用の継続)に関して団体交渉を行ったことが認められるところ、その団体交渉において、常勤講師等の任用手続の公正性・平等性確保及び同制度に対する登録者その他の第三者の信頼確保が害されたことを認めるに足りる証拠はなく、本件各団交申入れまでに、組合以外の労働組合から、本件各団交事項と同趣旨を交渉事項とする団交申入れを受けたと認めるに足りる証拠もない。
 これに対し、府は、府と組合との間で、平成13年度から平成21年度まで行われたのは、常勤講師等組合員の次年度の任用保障(雇用の継続)に関して、当該組合員の「希望を伝える場」にすぎず、団体交渉ではなかった等主張する。しかし、労働者と使用者との間で行われた協議が団体交渉に当たるか否かは、手続等の形式的な側面のみならず、協議内容等の実質的な側面を踏まえた検討がされるべきところ、府と組合との間で、平成13年度から平成21年度まで行われた協議が、常勤講師等組合員に係る次年度の任用の保障(雇用の継続)という義務的団交事項を交渉事項とする団体交渉であったと認められることは上記認定のとおりであるから、この点に関する府の主張は、採用することができない。
(5) 以上の検討によれば、府の主張はいずれも採用できないのであって、府が本件各団交申入れを拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否(労組法7条2号)に当たるというべきである。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第29号 却下、棄却 平成23年7月22日
大阪府労委平成23年(不)第18号 却下、棄却 平成24年1月11日
中労委平成23年(不再)第52号 一部変更 平成24年10月17日
中労委平成24年(不再)第2号 一部変更 平成24年11月28日
東京地裁平成24年(行ク)第454号 却下 平成25年2月13日
東京地裁平成25年(行ク)第1号 却下 平成25年2月13日
東京高裁平成25年(行コ)第395号 棄却 平成26年3月18日
最高裁平成26年(行ツ)第274号・平成26年(行ヒ)第287号 上告棄却・上告不受理 平成27年3月31日
 
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