労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  熊谷海事(くまがいかいじ)工業(差戻し審) 
事件番号  広島高裁平成24年(行コ)第9号 
控訴人  熊谷海事工業株式会社 
被控訴人  広島県(処分行政庁・広島県労働委員会) 
被控訴人補助参加人  全日本海員組合 
被控訴人訴訟参加人  国土交通大臣 
判決年月日  平成25年4月18日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件の、第1事件は、(1)会社(Y)がY2との間でY会社所有の船舶である飛竜丸及び八雲丸に関する裸傭船契約及び定期傭船契約の締結(Y会社が船体のみをY2に賃貸し、その上で、Y会社がY2から船体と船員(非X組合組合員)を賃借)したことが労組法7条3号に、(2)Y会社がX組合との間での飛竜丸、八雲丸等の運行等に関する団体交渉を拒否したことが労組法7条2号に該当するか、第2事件は、(3)Y会社が組合(X)との労働協約の更新を拒否したことが労組法7条3号に、(4)Y会社が、その所有する船舶である八代丸を十分に稼働させず、同船の乗組員に精神的・経済的な不利益を与えたことが労組法7条1号に該当するかが争われた事案である。
2 中国船員地労委は、第1事件については、①飛竜丸及び八雲丸の使用にはX組合組合員を乗組員とすること、②団体交渉に誠実に応じること、③文書手交、④履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(1号命令)。また、第2事件については、①労働協約締結に関する実質的かつ公正な団体交渉が行われ、具体的な結論が出されるまでは、従前の労働協約に従って、X組合との労使関係を営むこと、②バックペイ、③バックペイの対象となる八代丸の乗組員が原職復帰できるよう真摯に団交を行うべきこと、④文書手交、⑤履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(2号命令)。Y会社は取消訴訟を提起したが、広島地裁は、2号命令③については、X1及びX2がY会社を退職したことにより、Y会社に対する拘束力は失われ、訴えの利益が欠けるとして却下し、その余の請求を棄却した。
3 Y会社は、一審判決を不服として、控訴を提起したところ、差戻し前の控訴審は、Y会社が本件各命令の取消しを求める訴えの利益は失われたとして、原判決を取り消しY会社の訴えをいずれも却下した。これに対し広島県が上告受理申立てをしたところ、最高裁は上告審として受理する決定をし、Y会社が1号命令及び2号命令の取消しを求める訴えの利益は失われていないとして、差戻し前の控訴審判決中、2号命令③の取消しを求める部分を除く部分を破棄し、破棄部分を広島高裁に差し戻す判決を言い渡した。
4 本件は、差戻し後の控訴審判決である。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(上告審の訴訟費用も含む。)は、控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 本件各命令の違法性判断の基準時
 本件各命令は行政処分であるところ、行政処分の取消しを求める訴えにおいて、裁判所が判断するのは、行政処分がなされた時点を基準として、これが違法であるか否かの点であって、弁論終結時において、裁判所が行政庁の立場に立って、いかなる処分が正当であるかを判断するものではない。したがって、本件各命令発出後の事情変更を基礎として本件各命令の違法性判断を行うことはできない。
2 飛竜丸の裸傭船契約等の締結及び八雲丸の裸傭船契約等の締結の不当労働行為該当性
 飛竜丸及び八雲丸の各裸傭船契約及び定期傭船契約は、経済的な合理性はなく、Y会社とY2が、ユニオンショップ協定があるにもかかわらず、これを潜脱するため、意を通じ、これらの乗組員をX組合の組合員以外の者とさせる目的で行った一連の行為と認めるのが相当である。そうすると、Y2の八雲丸乗組員への働きかけも、Y会社の意思に基づくものであって、Y2からの脱退慫慂に当たり、X組合の組合員である八代丸乗組員に対しても、X組合の組合員であることを理由として、不利益を及ぼしたものというべきである。したがって、Y会社の行った飛竜丸の裸傭船契約及び定期傭船契約の締結並びに八雲丸の裸傭船契約及び定期傭船契約の締結は、本件協約を潜脱して、X組合をY会社の職場から排除するものであって、X組合に対する支配介入というべきである。
3 団体交渉拒否の不当労働行為該当性
(1) 組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものは義務的団体交渉事項となるものと解されるところ、飛竜丸及び八雲丸の裸傭船契約、定期傭船契約は、いずれも、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、これらについての説明を行うことはY会社に可能であるから、義務的団体交渉事項に当たる。
(2) ところが、Y会社は、16年12月に、X組合から飛竜丸の取扱いの協議の申し入れがあったのに対し、17年1月9日、飛竜丸の件についてY2に一任している旨を述べ、また、飛竜丸はX組合と無関係な船舶であると主張し、飛竜丸を裸傭船し定期傭船を受けた理由を説明することはなく、その後の団体交渉でも、同様の主張を続け、それ以上の説明をすることがなかった。また、Y会社は、同年2月14日のX組合からの飛竜丸に関する協議申入れに対しては返答せず、同年3月7日の交渉では、Y会社は、八雲丸の件について、乗組員が退職により運航に支障を来すことからY2と裸傭船契約を締結したのであり、X組合と無関係である旨の説明を行い、その後も同様の説明をするのみであり、それ以上の説明をしようとすることがなかった。このように、Y会社は、飛竜丸及び八雲丸がX組合とは関係がないとの前提で一連の団体交渉に臨み、そのような態度を変えることはなく、十分な説明を行わなかったことは、誠実性を著しく欠くものであるといわざるを得ないから、団体交渉拒否(不誠実団交)の不当労働行為に該当する。
4 本件協約更新拒否の不当労働行為該当性
(1) 労働協約を締結するかどうか、更新するかどうかは、労使双方の当事者の自由であって締結義務があるわけではないから、本件協約の更新を拒否したというだけで支配介入に該当することにはならないが、本件協約の更新拒否が、X組合を弱体化させる目的でなされた場合には、支配介入の不当労働行為に該当する。
(2) Y会社は、①新造船である飛竜丸の導入を機に、Y会社の主たる事業を担う飛竜丸と八雲丸の乗組員8名全てを非組合員とすることにより、Y会社におけるX組合の影響力を排除することを企図して、飛竜丸及び八雲丸の裸傭船契約、定期傭船契約を締結したこと、②それまで36年もの間、本件協約の更新を続けて、平成16年までX組合との間で良好な労使関係を営んでいたのに、18年2月になって突然、何ら理由を説明しないまま、ユニオンショップ協定の廃止というX組合にとって受け入れ難い提案を行い、その後も、八雲丸の乗組員が退職したことでユニオンショップ協定が失効したなどと不合理な理由を述べるばかりで合理的な理由を説明することはなく、またユニオンショップ協定の廃止を本件協約更新の条件として譲らず、その後、X組合が協議を求めているにもかかわらず、わずか1か月余の団体交渉を行ったのみで、十分な交渉をすることがないまま、一方的に交渉を打ち切り、18年4月1日に本件協約の失効を宣言したことの経緯に照らせば、Y会社が本件協約の更新を拒否したのは、X組合の弱体化を目的としたものというほかなく、それ以外にY会社がユニオンショップ協定の廃止や本件協約の更新を拒否する合理的な理由は考えられない。
(3) 以上によれば、Y会社の本件協約の更新拒否は、X組合に対する支配介入の不当労働行為に該当する。
5 本件各命令発令時点において本件協約が失効していたことが救済命令に及ぼす影響
(1) 救済命令は、不当労働行為による被害の救済としての性質をもつものでなければならず、このことから導かれる一定の限界を超えることはできないが、労組法が労働委員会に広い裁量権を与えた上記趣旨に徴すると、労働委員会の裁量権の行使が上記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない。
(2) 確かに、本件協約はY会社の更新拒否により失効したものであるが、救済命令は、不当労働行為を事実上是正するために行う行政処分であるから、労働委員会は、将来の良好な労使関係構築に向けて不当労働行為を是正するため、事案に応じた適切な措置を命じ得るのであって、これにより作出される事実上の状態が私法上の法律関係と必ずしも一致する必要はない。そして、本件では、Y会社の本件協約更新拒否が不当労働行為に該当する以上、地労委が、当該不当労働行為を是正するために、Y会社に対し、Y会社とX組合との間において従前の労働協約が更新されたのと同様の事実状態とすることを命ずることは、当該不当労働行為を是正するための適切な措置であるというべきであり、地労委の裁量権の行使が法の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるということはできない。
6 本件1号命令主文第1項の内容の適法性
(1) 確かに、飛竜丸及び八雲丸は、Y2に裸傭船され、Y会社に定期傭船されているものであることからすれば、その乗組員を誰にするのかについて、Y会社に決定権限はないのではないかとも考えられる。また、上記裸傭船契約等の契約期間は21年2月ころまでと定められており、契約期間は、1号命令発出時点である18年12月22日時点で2年余、2号命令発出時点である19年12月11日時点で1年余、残っていたのであるから、その間は上記裸備船契約等を解消することはできないのではないかとも考えられ、本件各命令発出時点において、Y会社が、飛竜丸及び八雲丸にX組合組合員を乗り組ませることは、事実上不可能ではなかったのかが問題となる。
(2) しかし、Y2は、実質的には、独立して自らの事業を行っているというよりも、Y会社と一体となって行動し、飛竜丸及び八雲丸の裸傭船・定期傭船契約を締結したものと認められるのであり、Y会社としては、Y2に対し、飛竜丸及び八雲丸の裸傭船・定期傭船契約の内容を変更するよう働きかける等の方法により、1号命令発出時点で残っていたX9船長及びX7を、飛竜丸及び八雲丸に乗り組ませることは十分に可能であった。現に、Y会社とY2は、19年7月、Y2と雇用関係がないX9船長を、Y2が裸傭船している飛竜丸に乗り組ませてセメントタンカーの接岸作業に従事させたことがあるのであり、このことからも、Y2と雇用関係のないX組合の組合員であるX9船長やX7を飛竜丸及び八雲丸に乗り組ませることが事実上不可能であったとは考えられない。
(3) 以上によれば、Y会社がY会社の曳船・給水等の運行業務に飛竜丸及び八雲丸を使用する場合は、X組合所属の組合員の乗り組んでいる飛竜丸及び八雲丸を使用することを命ずる1号命令主文①は、その発令時点において、事実上不可能な事項を命ずるものとはいえない。  
7 本件命令の適法性
(1) 1号命令の適法性
ア 以上のとおり、Y会社がY2との間でY会社所有船舶である飛竜丸について裸傭船契約及び定期傭船契約の締結を行ったこと、Y会社がY2との間でY会社所有船舶である八雲丸について裸傭船契約及び定期傭船契約の締結を行ったことは、支配介入の不当労働行為に該当し、Y会社がX組合との間での飛竜丸、八雲丸等の運航等に関する団体交渉において不誠実な交渉態度に終始したことは、団交拒否(不誠実団交)の不当労働行為に該当する。
イ 本件1号命令の内容はいずれも適正であり、地労委の権限の逸脱、濫用があるとは認められない。
(2) 2号命令(ただし、主文③を除く)の適法性
ア Y会社が、18年に本件協約の更新を拒否したことは、X組合に対する支配介入の不当労働行為に該当し、Y会社が、飛竜丸の裸傭船契約等締結の後、X組合の組合員である八代丸の乗組員に精神的・経済的な不利益を与えたことは、不利益取扱いの不当労働行為に該当する。
イ 2号命令(ただし、主文③を除く)の内容はいずれも適正であり、地労委の権限の逸脱、濫用があるとは認められない。
(3) 2号命令主文③の取消しを求める訴えが不適法であることは、原判決が判示するとおりである。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中国船員地労委平成18年第1号 一部救済 平成18年12月22日
中国船員地労委平成18年第2号 一部救済 平成19年12月11日
広島地裁平成19年(行ウ)第5号(第1事件)・平成20年(行ウ)第1号(第2事件) 棄却・却下 平成20年9月3日
広島高裁平成20年(行コ)第24号 全部取消・却下 平成21年9月29日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 上告受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ツ)第45号・平成22年(行ヒ)第45号 上告棄却・上告不受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 一部破棄差戻し 平成24年4月27日
最高裁平成25年(行ヒ)第313号 上告不受理 平成25年9月19日
 
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