労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  熊谷海事(くまがいかいじ)工業(移管前) 
事件番号  広島地裁平成19年(行ウ)第5号(第1事件)・平成20年(行ウ)第1号(第2事件) 
第1事件及び第2事件原告  熊谷海事工業株式会社 
第1事件原告補助参加人  個人Z 
第1事件及び第2事件被告  国(処分行政庁:中国船員地方労働委員会) 
第1事件及び第2事件被告補助参加人  全日本海員組合 
判決年月日  平成20年9月3日 
判決区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要  1 第1事件については、(1)Y会社がZとの間でY会社所有の船舶である飛竜丸及び八雲丸に関する裸傭船契約及び定期傭船契約の締結を行った(Y会社が船体のみをZに賃貸し、その上で、Y会社がZから船体と船員(非X組合組合員)を賃借した。)ことが、労組法7条3号の不当労働行為に、(2)Y会社がX組合との間での飛竜丸、八雲丸等の運行等に関する団体交渉を拒否したことが、労組法7条2号の不当労働行為に、また、第2事件については、(3)Y会社がX組合との労働協約の更新を拒否したことが、労組法7条3号の不当労働行為に、(4)Y会社が、その所有する船舶である八代丸を十分に稼働させず、同船の乗組員に精神的・経済的な不利益を与えたことが、労組法7条1号の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 中国船員地労委は、第1事件については、①飛竜丸及び八雲丸の使用にはX組合組合員を乗組員とすること、②団体交渉に誠実に応じること、③文書手交、④履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(平成18年12月22日、平成18年第1号命令。以下「本件1号命令」という。)。また、同地労委は、第2事件については、①労働協約締結に関する実質的かつ公正な団体交渉が行われ、具体的な結論が出されるまでは、従前の労働協約に従って、X組合との労使関係を営むこと、②バックペイ、③バックペイの対象となる八代丸の乗組員が原職復帰できるよう真摯に団体交渉を行うべきこと、④文書手交、⑤履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(平成19年12月11日、平成18年第2号命令。以下「本件2号命令」という。)。
 本件は、これらを不服として、Y会社が広島地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、第2事件に係る(3)の取消しを求める部分については、X1及びX2がY会社を退職したことにより、Y会社に対する拘束力は失われ、訴えの利益が欠けるとして却下し、その余の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の訴えのうち、中国船員地方労働委員会が、中国船地労委平成18年第2号不当労働行為事件について平成19年12月11日付けでなした命令のうち主文第3項の取消しを求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 訴えの利益について
(1) 本件では、救済命令が発せられた後に、八代丸の乗組員が全員退職するに至ったという事情変更があった。上記事情変更に伴い、使用者が救済命令の内容を履行する余地がおよそなくなったり、救済命令の内容を履行したとしても侵害状態が是正される余地がなくなったりして、救済命令が救済の手段方法としての意味を失ったといえる場合には、使用者に対する救済命令の拘束力が失われ、結果として、使用者が当該救済命令の取消しを求める訴えの利益が欠けることになると解される。
(2) この観点から見るに、本件2号命令の主文第3項は、Y会社に対し、X1及びX2が八代丸で稼働すること等に関する団体交渉を行うことを命じるものであるが、X1及びX2が既に退職した以上、この救済命令は無意味となった。すると、上記救済命令主文の、使用者たるY会社に対する拘束力は失われたといえ、上記主文の取消しを求める訴えの利益は欠けることになったと解すべきである。
 一方、その余の各命令の各主文については、X1及びX2の退職により、救済命令としての意味が失われたとはいえないから、その余の各主文の取消しを求める訴えの利益が欠けることにはならない。
2 各争点に対する判断
(1) 飛竜丸についての裸傭船契約等の締結及び八代丸乗組員に対する不利益取扱いの不当労働行為該当性について
 Y会社は、特段の事情がないにもかかわらず、八代丸乗組員にとっての新たな職場とされるべき飛竜丸を、第三者であるZに傭船した上、Zが雇い入れた非組合員に、組合員にさせるのと同様の形態の作業を行わせ、その結果、八代丸乗組員が担うタグ作業を激減させた。
 これは、組合員の職域を実質的に減少させる一方で、新船舶を非組合員の職域としている点で、ユニオンショップ協定の趣旨を実質的に潜脱する行為であると同時に、組合員である八代丸乗組員に合理的な理由のない不利益を与える意味を持つ行為でもある。そして、Y会社代表者は、自身の行為が上記のような意味を持つことを十分に認識した上で裸傭船契約等の締結に及んだと認められる。
 したがって、Y会社がZとの間で飛竜丸に関する裸傭船契約等を締結し、飛竜丸を非組合員の職域とした行為は、八代丸乗組員に対する不利益取扱いに当たるとともに、X組合に対する不当な支配介入に該当する。
(2) 八雲丸乗組員への脱退慫慂及び同船についての裸傭船契約等の締結等の不当労働行為該当性について
 ア Zが、少人数の事業体であり労務管理の手間や人件費を軽視できないにもかかわらず、あえて飛竜丸の乗組員4名に加え八雲丸の乗組員4名を雇い入れたことに合理的な理由があるとはいいがたい。
 加えて、Zは、Y会社が飛竜丸を裸傭船に出すことが八代丸乗組員も重大な不利益に結びつくことを認識しつつ、飛竜丸の裸傭船契約等の当事者となったと認められ、さらに、Zは、飛竜丸に加えて八雲丸までが裸傭船に出された場合、Y会社のもとに残る組合船は八代丸のみとなり、Y会社におけるX組合組合員の職域が大幅に制約され、ひいては、Y会社に対するX組合の労働組合としての影響力が大きく低下することも認識していたと認めるのが相当である。
 以上のとおり、Zの脱退勧誘行為は、自身の経営上の合理的な理由もなく、むしろX組合の団結を侵害する意思のもとに行われたといえるから、社会的相当性を欠く脱退慫慂行為と評価すべきである。
 イ 一方、Y会社については、①X組合に対する支配介入としての性格を持つ飛竜丸についての裸傭船契約等の締結から1か月も経たない時期に、同一当事者間で同じ方式により八雲丸についての契約も締結された事実は、八雲丸について裸傭船契約等を締結した趣旨が飛竜丸の場合と同様であることを推認させること、②八雲丸について裸傭船契約等の締結によりY会社から組合船が一隻もなくなることが、組合員の職域確保を目的とするユニオンショップ協定との関係で重大な意味を持つことは明白にもかかわらず、Y会社代表者らは、八雲丸の裸傭船契約等の締結に先立ってX組合に何の連絡もしない等、明らかに一方的かつ反組合的な態度に出ていたことにかんがみれば、Y会社代表者は、Zが八雲丸乗組員の退職を働きかけるに当たりX組合の団結を侵害する意思を有していたことも認識しつつ、Zと意を通じた上で裸傭船契約等の締結を行うことで、Zに積極的に協力したといえる。
 ウ 以上によれば、Zは、社会的相当性を逸脱したX組合からの脱退慫慂を行い、Y会社はZの行動の趣旨を理解した上で、これに積極的に協力する形で裸傭船契約等の締結に応じたといえる。
 したがって、結論として、Zの脱退慫慂行為についてもY会社に帰責できることとなり、Y会社が、脱退慫慂及び裸傭船契約締結等の支配介入行為を行ったと評価されるべきこととなる。
(3) 団体交渉拒否の不当労働行為該当性について
 ア 本件では、飛竜丸につき裸傭船契約等を締結するという営業方針の変更により、八代丸の乗組員の就業状況に実質的に大きな影響が生じるから、〔営業方針の変更等により組合員の雇用に影響が起きる場合の組合との協議について定める〕労働協約8条の趣旨にかんがみ、飛竜丸の取扱いは義務的団交事項に当たるといえる。
 イ 八雲丸は、X組合の組合員が乗船してきた組合船であるところ、裸傭船に出されれば、Y会社には組合船は1隻もなくなることとなり、このような事態は、ユニオンショップ協定を維持し、X組合がY会社に対して労働組合としての影響力を保っていく上で、重大な事態といえる。
 すると、八雲丸に係る裸傭船契約等の締結を単なる経営判断事項と見ることはできず、この点も、義務的団交事項に当たるといえる。
 ウ Y会社は、飛竜丸及び八雲丸がX組合と無関係な船舶であるとの前提を崩すことなく、一連の団体交渉に臨んだものであるが、労働協約8条及びユニオンショップ協定の趣旨にかんがみると、かかるY会社の態度は誠実性を欠く。
 よって、Y会社は、飛竜丸及び八雲丸に関する団体交渉を拒否したものであり、不当労働行為に該当する。
(4) 協約更新拒否の不当労働行為該当性について
 Y会社の一連の態度を勘案すると、Y会社は、合理的な理由もなく、むしろ反組合的動機をもって、従前、一度も更新拒否されることなく更新が続けられてきた労働協約の更新を拒否したといえる。よって、労働協約の更新を拒否したY会社の行為は、不当労働行為に該当する。
(5) 救済命令の内容の違法性について
 ア まず、Y会社らは、本件1号命令及び本件2号命令の発令時に、労働協約が失効していたにもかかわらず、失効したユニオンショップ協定の内容に即した救済命令を出すことは違法である旨主張するが、かかる主張は失当であって採用できない。その理由は、下記のとおりである。
 不当労働行為に対する救済命令において命じることができる内容は、必ずしも私法上適法な内容に限られるものではなく、不当労働行為を事実上是正するという制度目的に照らして必要かつ相当な範囲のものであれば足りる。
 本件においては、Y会社による労働協約の更新拒否が不当労働行為に当たる以上、中国船員地労委が、当該不当労働行為を是正するために、Y会社とX組合間において従前の労働協約が更新されたのと同様の状態を保つことを志向する内容の命令を発することは、必要かつ相当と評価できる。
 イ 次に、Y会社らは、本件1号命令及び本件2号命令がいずれも発令された後に、八代丸の乗組員が全員退職し、Y会社に在籍する組合員が一人もいなくなったという事情変更により、本件1号命令及び本件2号命令の内容はいずれも違法なものとなる旨主張する。
 しかしながら、救済命令の違法性を判断する基準時は、取消訴訟の事実審における口頭弁論終結時ではなく、処分時(命令時)であるから、Y会社が指摘する事情変更により、本件1号命令及び本件2号命令の違法性に影響が生じる余地はなく、Y会社の主張は失当である。
3 結論
 以上によれば、Y会社の訴えのうち、本件2号命令の主文第3項の取消しを求める部分については訴えの利益がなく不適法であり、また、本件1号命令及び本件2号命令のその余の部分について何らの違法も認められない。
 したがって、本件におけるY会社の訴えのうち、本件2号命令の主文第3項の取消しを求める部分を却下し、Y会社のその余の請求をいずれも棄却する。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中国船員地労委平成18年第1号 一部救済 平成18年12月22日
中国船員地労委平成18年第2号 一部救済 平成19年12月11日
広島高裁平成20年(行コ)第24号 全部取消・却下 平成21年9月29日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 上告受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ツ)第45号・平成22年(行ヒ)第45号 上告棄却・上告不受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 一部破棄差戻し 平成24年4月27日
広島高裁平成24年(行コ)第9号 棄却 平成25年4月18日
最高裁平成25年(行ヒ)第313号 上告不受理 平成25年9月19日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約338KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。