労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  神奈川都市交通 
事件番号  東京高裁平成23年(行コ)第194号 
控訴人  個人X2
都市交通労働組合 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  神奈川都市交通株式会社 
判決年月日  平成23年11月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 ハイヤー・タクシー業を営む会社が、①組合支部長X1をスピード違反等を理由に諭旨解雇したこと、②当時の組合執行委員長X2に対し満62歳以降の雇用契約の更新を拒絶したこと(以下「本件雇止め」という。)が、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審神奈川県労委は、会社に対し、組合支部長X1の原職復帰とバックペイ及び文書交付を命じ、X2の本件雇止めに関する申立ては棄却した。
 X2及び組合は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 これに対し、X2及び組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はX2及び組合の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、X2及び組合が、東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人らの負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人らの請求は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人らの補充主張に対する判断を後記2に加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 X2の満60歳以降の雇用について
(1)ア 控訴人らは、平成7年5月16日改訂の就業規則においては、満62歳時に準社員として採用される旨定められていたところ、平成9年4月16日改訂の準社員取扱規定1条1号の定め(「定年に達したる社員にして会社が必要とし、且本人が引続き勤務を希望する者は、所属長の申請により、審査の上採用する。」)により、満60歳時以降は準社員として満62歳時の区切りなく6箇月ごとに契約の更新が行われるものに改訂されており、X2は60歳に達した後に6箇月ごとに雇用が更新されるという既得権を得ていたとして、①満60歳時以降の期間6箇月の有期雇用契約は、更新が重ねられ期間の定めのない契約と同視できる状態に至っていたから、同契約の更新拒絶には合理的理由が必要とされる、②仮に期間の定めのない契約と同視できないとしても、X2は、会社から健康で意欲があれば誰もがいつまでも雇用を継続されるとの説明を受けており、雇用継続に対するX2の期待利益には合理性が認められるから、解雇権濫用法理の類推により、更新拒絶には合理的理由が必要であると主張する。
 イ しかしながら、平成15年9月16日改正の就業規則50条の1において、「社員の定年は、満60才に達したときとし、その日をもって退職とする。定年に達した社員にして、本人の希望により、6ヶ月毎更新し、満62才まで雇用延長することがある。満62才に達した社員にして、特に会社が必要とする者及び本人の希望により、会社が認めた者は別に定める準社員規定により採用することがある。」と定め、平成7年5月16日改正の就業規則64条3号においても同旨の定めがあり、平成9年4月16日の準社員取扱規定の改正前後を問わず、満60歳時の定年以降、満62歳までの雇用延長と、満62歳以降の準社員としての採用を区別して規定し、満62歳以降の者を準社員として採用するか否かについては、特に会社が必要とする者及び本人の希望により会社が認めた者は、別に定める準社員取扱規定により採用することがある旨を定めている。
 このような就業規則の定めに照らせば、満60歳から満62歳までの雇用延長と満62歳時に準社員としての採用を定める就業規則の内容が、平成9年4月16日改正の準社員取扱規定により、定年である満60歳以降について、準社員として満62歳時の区切りなく6箇月ごとに契約の更新が行われる内容のものに変更されたとの控訴人らの前記主張は、採用できない。
 ウ 控訴人らは、X2について、満60歳時に期間6箇月の有期雇用契約を締結し、3回にわたり更新してきたが、いずれの契約書にも「準社員」と記載されているから、平成9年4月16日改正の準社員取扱規定の適用により、満60歳時に満62歳で区切られることなく6箇月ごとに契約の更新が行われる準社員として採用されたと主張する。
 しかしながら、契約書において「準社員」と記載されていても、就業規則の定めは平成9年4月16日の準社員取扱規定の改正の前後を通じて同じ内容であることに照らせば、X2が満60歳時に締結した有期雇用契約は満62歳時を上限とする雇用延長であって、準社員としての雇用契約ではないと解される。
(2)ア したがって、定年時の満60歳時に締結された期間6箇月の有期雇用契約は、満62歳を区切り(上限)とするものであって、定年後の満62歳時以降の準社員として採用されるためには、就業規則の雇用延長に関する前記定めに従い、満62歳に達した従業員と会社との間で、双方の合意に基づき新たな準社員としての再雇用契約を締結することを必要とするから、満62歳時以降の準社員として採用は、満62歳まで更新されてきた有期雇用契約の更新の問題ではないと解される。
 そして、X2が、会社に対し、62歳時に準社員としての採用を求める権利があるというためには、①就業規則等にその旨の定めがあるか、②これが慣行として黙示の契約内容になっていることを要する。
 イ 上記①につき、就業規則の規定によれば、満62歳以降の者を準社員として採用するに当たり、「特に会社が必要とする者及び本人の希望により会社が認めた者」について採用することがある旨定められていることに照らせば、会社には採否についての裁量権があり、再雇用するものを選別したり、再雇用を拒否することができる。
 ウ 上記②につき、控訴人らは、第一組合の要求に対し、会社が「本人の希望により65才過ぎても雇用延長されており、現在の就業規則に定める雇用延長を継続します。」と回答し、これに基づき、雇用の実態として、健康で意欲のある者であれば、懲戒解雇事由があるような場合を除き、全員について、62歳の区切りなく雇用が継続されていたと主張する。
 しかしながら、会社の回答は、当時の平成7年5月16日改正の就業規則に定める定年及び雇用延長制度を前提としたものであり、同就業規則の定めの内容は前記のとおりであるから、会社の回答をもって、従業員に対して満62歳時に準社員契約を締結する権利を与えたものとは認められない。
 また、62歳に達した多数の従業員が準社員契約を締結し、雇用関係を継続しているというだけでは、就業規則の再雇用に関する前記内容の定めに反し、満62歳時に準社員契約を締結する取扱いが慣行となり、黙示の契約内容になっていると認めることはできない。かえって、①会社は、営業収入や苦情の有無、営業所長の意見等を総合的に判断し、採否を決定していたこと、②乗務員が希望していても、会社が採用しないと判断する場合には、営業所長から乗務員にその旨を伝えて理解を得ていたこと、③実際の在籍人数推移を見ても、平成11年3月末から17年2月末までの62歳の者の対前年比の平均減少率は69.78%で、累計人数でも61歳から62歳にかけての在籍人数が139名から97名に減少し、また、満61歳時から満62歳時にかけて退職者の累計42名のうち16名が満62歳時に退職していることに照らせば、従業員が満62歳に達したときに当然に準社員契約が締結されて雇用が継続されていると見ることはできない。
 エ 以上によれば、X2は、会社に対し、満62歳時において準社員契約の締結を求める権利を有するとはいえない。
3 不当労働行為について
(1) 会社は、62歳に達した従業員を準社員として採用するか否かに当たっては、採否についての裁量権があり、再雇用するものを選別したり、再雇用を拒否することができるが、仮にX2が組合活動家であることをもって62歳時に準社員として採用しなかったのであれば、不利益取扱いあるいは支配介入の不当労働行為に該当する余地がある。
 しかしながら、原判決の「第3 争点に対する判断」中の3に説示するとおり、不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に該当すると認めることはできない。
(2) 控訴人らは、組合の執行委員長であるX2だけが、契約更新を希望していたのに満62歳で雇用を打ち切られており、他の従業員のほぼ全員が雇用されている中でX2だけが雇止めになったのは、X2が執行委員長であったからであり、会社がX2を雇用関係から排除する口実としたのが、①休憩取得指示違反、②就業時間中の組合活動、③制帽着用義務違反、④タコメータの開閉等(勤務時間中の蓋開け行為)である旨主張する。
 しかしながら、会社が満62歳に達した従業員を準社員として採用するか否かに当たって、再雇用するものを選別したり、再雇用を拒否できることに加えて、上記①~④の諸事情は、いずれも乗務員としての適格性に関わるものである。したがって、会社が、これらの事情を考慮することは相当というべきである。
 そして、上記各事情に係るX2の行為に対する評価は、原判決の「第3 争点に対する判断」中の3の(2)~(5)に説示のとおりであり、X2は組合員という立場を離れて見ても、勤務態度が不良であり、X2が組合活動家でなかったならば準社員として採用されたであろうと認めることはできないから、会社が62歳に達したX2を準社員として採用しなかったことをもって、不利益取扱いや支配介入と認めることはできない。
(3) なお、控訴人らは、上記各事情に係るX2の行為は、以前から許容されていたものであり、他の者が同様の行為をしているのに、X2の行為だけを取り上げて問題にし、雇止めの理由とした旨主張する。
 しかしながら、①休憩指示義務違反の行為については、X2の「休憩」に関する記載のない例や適正な記載のない例は非常に多数であること、②タコメータの開閉行為についても、他の乗務員がタコメータの開閉を行った例はそれほど多くなく、X2がタコメータの開閉を行った例は多数であること、③これらに加えて、就業時間中の組合活動及び制帽着用義務違反も存在することに照らせば、会社がX2を他の従業員と同列の取扱いをすることができないと判断し、本件雇止めをしたことにつき、裁量権の逸脱又は濫用があったということはできないし、X2の行為だけを取り上げて正当な理由なく別段の対応をしたと認めることはできない。
(4) 以上によれば、満62歳以降の準社員としての再雇用は当然に行われるべきであったとはいえず、会社がX2につき本件雇止めをしたことがX2の組合活動等を嫌悪してされた不利益取扱いであると認めることはできないし、組合の弱体化を企図した支配介入であると認めることもできない。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
神奈川県労委平成16年(不)第3号 一部救済 平成18年3月31日
中労委平成18年(不再)第22号 棄却 平成21年1月21日
横浜地裁平成18年(行ウ)第14号 全部取消 平成21年2月19日
東京高裁平成21年(行コ)第111号 棄却 平成21年7月24日
最高裁平成21年(行ツ)第336号 上告棄却 平成22年2月4日
最高裁平成21年(行ヒ)第438号 上告不受理 平成22年2月4日
東京地裁平成21年(行ウ)第418号 棄却 平成23年4月18日
最高裁平成24年(行ツ)第115号・平成24年(行ヒ)第133号 上告棄却・上告不受理 平成24年5月18日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約162KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。