労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  神奈川都市交通
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第418号
原告  個人X2
都市交通労働組合
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会)
補助参加人  神奈川都市交通株式会社
判決年月日  平成23年4月18日
判決区分  棄却
重要度   
事件概要  1 会社が、①組合支部長X1をスピード違反等を理由に諭旨解雇したこと、②当時の組合執行委員長X2に対し満62歳以降の雇用契約更新を拒絶したこと(以下「本件雇止め」という。)が、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審神奈川県労委は、会社に対し、組合支部長X1の原職復帰とバックペイ及び文書交付を命じ、X2の本件雇止めに関する申立ては棄却した。
 X2及び組合は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、X2及び組合が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁はX2及び組合の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。
判決の要旨  1 満62歳以降の準社員としての採用に係る裁量権の有無
(1) 会社の就業規則の規定上、満60歳の定年以降、満62歳までの雇用延長と、満62歳以降の準社員としての採用を明確に区別して規定し、満62歳以降の者を準社員として採用するに当たり、「特に会社が必要とする者及び本人の希望により会社が認めた者」について採用することがあるという以上、満62歳以降の準社員としての採否に際し、会社に裁量権があることは明らかである。
(2) 原告らは、第1に、会社においては解雇事由に該当するような特段の事情がない限り、満62歳で区切られることなく当然に準社員契約が継続されていたこと、第2に、会社の平成9年4月改正後の準社員取扱規定により、満62歳時に準社員として採用される旨の就業規則の内容は変更され、60歳以降は準社員として、62歳時の区切りなく6か月ごとに契約の更新が行われるものに改定されたことを主張する。
 しかし、第1の点に関しては、①乗務員が準社員採用を希望していても、会社が採用しないと判断する場合には、営業所長から乗務員にその旨を伝えて理解を得ることにしていたのであり、実態として、62歳以降の準社員としての採用は、会社の裁量的判断により、会社が必要とする者が採用されていたのであるし、②実際に、会社における乗務員の在籍人数推移をみても、61歳時に139人いた乗務員が、62歳時には97人と、約70%に減少し、有意の大きな減少が認められるから、原告らの主張は採用できない。
 また、第2の点に関しては、会社の就業規則の規定は上述のとおりであるし、就業規則の規定自体は変更されておらず、平成9年4月16日改正の準社員取扱規定は、必ずしも就業規則の規定内容と矛盾しないのであり、原告らのこの主張も、採用できない。
2 本件雇止めに至る会社の考慮した事情と不当労働行為該当性
(1) 就業時間中の休憩取得指示違反
 原告X2は、平成14年6月以降、会社から繰り返し休憩取得指示を受けていながら、これに従っていなかったと評価できるのであり、このような原告X2の行為は、準社員として採用するか否かを決するに当たり、考慮事情とすることは当然に許される。
 他の乗務員が原告X2と同程度の頻度で休憩不取得を繰り返していたことを具体的に根拠付ける根拠もないばかりか、原告X2は、会社から休憩取得指示を受けながら、これに従わなかったのであるから、他の乗務員との比較を言う原告らの主張は、採用の限りではない。
(2) 就業時間中の組合活動
 ア 就業時間中の組合活動については、就業規則で、労働協約に定める場合以外に行ってはならないと定められ、労働協約には、会社と原告組合の双方で協議の上開催する各種の会合、正規の手続を経て行われる団体交渉、その他会社が特に許可した場合のいずれかの場合のみ、就業時間中に組合活動を行うことができ、会社の許可を受けようとするときは目的・種類・参加人員及び出席者氏名・場所・所要時間を詳記して24時間前に申し出なければならないと定められていたこと、原告X2は、平成14年4月22日他、会社の許可を受けずに就業時間中の組合活動を行ったことが認められ、原告X2の準社員として採用するか否かを決するに当たり、上記行為を考慮事情の一つとすることは、相当というべきである。
 なお、原告X2が、組合活動を行う旨を当日の朝や納金時に主任等に通告していたという一方的な通告では、労働協約に定める会社の許可を受けたと見ることができない。
 イ 就業時間中であっても1日2時間程度の組合活動は容認されていたとの原告らの主張については、①平成14年9月、副所長が原告組合に対し、原告X2が所定の手続を取らずに就業時間中に組合活動をしたことを注意する旨の書面を交付していること、②平成15年3月、就業時間内の2時間の組合活動が慣行として認められているとの原告X2の発言に対し、所長が、就業規則に書いてなければ慣行など認めないなどと発言していることに照らせば、認めることはできない。
 また、早退後に行った組合活動があるとの原告らの主張については、所定の早退の手続がとられていない以上、失当な主張である。さらに、就業時間中の組合活動でも、正当な組合活動として許されるとの原告らの主張については、問題は組合活動自体の適法性ではなく、原告X2が就業時間中に就労義務を尽くさなかった事実の有無だから、前提を欠く。
(3) 制帽着用義務違反
 ア 就業規則では、従業員は勤務時間中制服制帽及び氏名札を着用しなければならない旨定められているのに、原告X2は、平成14年6月~15年7月の間、たびたび制帽を着用していないことに対する警告書を交付されたことが認められ、このような制帽着用指示に従わなかった行為は、原告X2を準社員として採用するか否かを決するに当たり、考慮事情とすることは当然に許される。
 イ 平成元年及び7年の交通事故の後、会社から無帽の許可を受けていたとの原告らの主張については、①乗務に復帰した12年4月以降、原告X2が制帽を着用しないことの許可を受けたことを示す的確な証拠はないし、②かえって、同年3月には制帽を着用できない乗務員は乗務させられない旨課長が発言し、前所長も、原告X2に対して制帽を着用するよう口頭で注意したことが認められるから、採用できない。
(4) タコメータの開閉
 乗務員服務規定によれば、乗務員が勤務時間中にタコメータの蓋を開ける行為は禁止されているのに、原告X2は、複数回にわたり勤務時間中にタコメータの蓋を開けていたものと認められ、原告X2を準社員として採用するか否かを決するに当たり、考慮事情とすることは、相当というべきである。
(5) 本件雇止めに至る会社の判断における裁量権の逸脱、濫用の有無
 以上のとおり、原告X2を準社員として採用するか否かを決するに当たり、①就業時間中の休憩取得指示違反、②就業時間中の組合活動、③制帽着用義務違反及び④タコメータの開閉等の事情を考慮することは、いずれも相当というべきであり、本件雇止めに至る会社の判断には、裁量権の逸脱、濫用があったとは認められない。
 原告組合と会社が対立的な労使関係にあったとしても、本件雇止めに至る会社の判断には、裁量権の逸脱、濫用があったとは認められないし、その判断は格別不当なものとも認められないから、本件雇止めが、原告組合の弱体化を図る目的で行われたものと認めることはできない。
3 結論
 以上の検討によれば、本件雇止めは、不当労働行為には当たらないとした本件命令は適法であり、原告の請求は理由がない。
 なお、原告らの平成22年5月16日付け申立書による文書提出命令申立ては、原告らが会社に対して求めた釈明事項について、会社が平成22年12月10日付け釈明書により一定の範囲で応答した本件においては、証拠調べの必要性がないから、却下する。
その他   

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
神奈川県労委平成16年(不)第3号 一部救済 平成18年3月31日
中労委平成18年(不再)第22号 棄却 平成21年1月21日
横浜地裁平成18年(行ウ)第14号 全部取消 平成21年2月19日
東京高裁平成21年(行コ)第111号 棄却 平成21年7月24日
最高裁平成21年(行ツ)第336号 上告棄却 平成22年2月4日
最高裁平成21年(行ヒ)第438号 上告不受理 平成22年2月4日
東京高裁平成23年(行コ)第194号 棄却 平成23年11月16日
最高裁平成24年(行ツ)第115号・平成24年(行ヒ)第133号 上告棄却・上告不受理 平成24年5月18日
 
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