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「仕事と生活の調和」は進んだか? 〜プロジェクト参画企業座談会〜

「仕事と生活の調和」は進んだか? 〜プロジェクト参画企業座談会〜

「仕事と生活の調和推進プロジェクト」がスタートしてはや9カ月。日本の働き方、生き方は、どこが変わり、どこが変わらなかったのでしょうか。参画企業10社の担当者にお集まりいただき、今年度の取組を振り返りながら、長時間労働対策、休暇取得促進、育児・介護関連施策やそれに伴う苦労話、これからの展望について語っていただきました。
(平成21年2月4日実施)

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これまでを振り返って
いろんなライフスタイルの人が意欲的に働ける職場を作るのが、企業の役割。

司会 佐藤 博樹(サトウ ヒロキ)

司会 佐藤 博樹(サトウ ヒロキ)

東京大学社会科学研究所教授。厚生労働省「仕事と生活の調和推進委員会」座長。同省の労働政策審議会分科会委員等を兼職。夕方6時半以降に帰宅する日数を月10日以下としたり、週末の仕事を引き受けないなど仕事の総量規制を実践。

佐藤:
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス、以下WLB)については、まだ誤解があると思います。例えば「仕事だけじゃいけない、何か趣味もやらなければいけない」といったイメージがあります。WLB支援は、多様なライフスタイルを認めることであって、「仕事だけ」でも構わないのです。「仕事だけの人」だけでなく、いろんなライフスタイルの人が意欲的に働ける職場を作ることが企業によるWLB支援なのです。こうしたWLBに関する理解の浸透を含めて、プロジェクトを推進していかなくてはならないと思います。それではこれまでの取組を振り返ってご発言いただきたいと思います。

鹿島建設:
当社は仕事柄、長時間労働になりがちなので、まずWLBの考え方を分かってもらうことが重要だということになりました。そこで、いろんな媒体を通じて、いろんな言い方をしてみたのですが、先ほどのお話にもあったように、きちんとした理解が充分できてるとは言えない。現実的にうまく理解してもらえるツールがそんなに多くないから、というのもあります。休みを取るとかそういう話になれば個別に突っ込んでやることはできるんですが、今までの仕事のやり方を変えるっていうのは結構時間をかけてやらなければならないな、というのが正直なところです。

佐藤:
WLBの考え方が理解されていない、ということで苦労されているようですが例えばどんな反応がありますか?

鹿島建設:
この景気の悪い時期に、という声が一番多いですね。当社では労働組合の協力もあって、そちらでもWLBキャンペーンを実施しているんですけど、制度的な対応となるとなかなか難しくて。

佐藤:
制度だけを整えても、WLBの推進には繋がらないですね。時間生産性を上げるとか、業務を効率化するなど、メリハリのある働き方への改革がWLB支援の土台で、単に残業を減らすことや制度の充実ではありませんので。

キヤノン:
当社の場合は、育児・介護等の制度は充分に整備されていると認識していますので、以前から取り組んできた労働時間の削減を中心に更に力を入れています。具体的には昨年の7月から、ノー残業デーの徹底を行っています。会社の所定労働時間、つまり、始業時間から終業時間までの中で、いかに高い成果を出すか?という意識を社員に植えつけて行くことが狙いです。キヤノン労組にも協力をお願いして進めています。また、社長にメッセージを発信してもらい、社内広報誌掲載、ポスターの掲示なども行い、意識の高揚を図っています。その結果、水曜日と金曜日、週2回のノー残業デーの実施率は90%弱にまで伸びてきました。職場で様々な反応がありましたが、概ね肯定的な意見が多いようです。実際の残業時間も昨年は一昨年に比べ減りました。将来的には、ノー残業デーといった会社強制型ではなく、全社員が自らメリハリをつけた働き方ができるようになればと思っています。

佐藤:
研究所などからは抵抗はなかったのですか?

キヤノン:
やはり当初は結構ありました。早く帰れと会社は言うばかりだと…。水、金以外の曜日の残業が増えたりすることもありましたが、職場単位で工夫することで徐々にそんなことも減ってきて、時間に対する意識も変わってきた気がします。

キヤノン株式会社 狩野 尚徳(カノウ ヒサノリ)

キヤノン株式会社 狩野 尚徳(カノウ ヒサノリ)

人事本部人事第二課長。オフは家でのんびり、家族と買物、ドライブなどを楽しむが、やや“ワーク寄り”。

全日本空輸株式会社 宮坂 純子(ミヤサカ ジュンコ)

全日本空輸株式会社 宮坂 純子(ミヤサカ ジュンコ)

人事部いきいき推進室室長。愛犬の散歩は毎朝欠かさない。週2〜3日はマラソンもする。

全日本空輸:
当社は、時間外労働の削減、仕事と家庭の両立支援、そしてこれらを推進するためのWLB啓発活動という三点に重点をおいて取り組んできました。両立支援については、制度も、またそれを利用する本人や職場の意識、風土などもだいぶ整ってきたと感じています。女性が各種制度を利用しにくいといった雰囲気はなくなってきているようです。一方、時間外労働の削減については、ノー残業デーや労働時間管理の徹底など、いくら仕組みを充実させても、結局、社員自身が「残業しないで自分の時間をつくりだすといいことがある」と理解しないと成果が出にくいことがわかりました。当社も毎週水曜日をノー残業デーとしていますが、水曜日だけは早く帰るけど、それ以外の日はゆったり残業してたり(笑)。啓発のために講演会やいろいろな活動もやりましたが、WLBに対する意識や風土の醸成はまだまだです。ただ今年度は、残業目標管理制度の導入や業務改革の推進などの仕組みが功を奏して、前年より6%程度残業が減りました。ところで鹿島建設さん同様、当社でもこの厳しい経営環境下で「WLBとは何事か」という声を多く聞きます。どうしても生産性向上とWLBが結びつかないんですね。WLBを推進すれば生産性が向上するんだ、と訴えてはいるのですが。

佐藤:
両立支援制度を利用しやすくするには、制度だけでなく、取得しても職場が困らない仕組みがないと、上司としては「取っていいよ」と言いにくいですね。そのあたり何か対応されたのでしょうか?

全日本空輸:
職場に制度利用者が増えてくると、自然とそのような風土になるように思います。上司にもノウハウが蓄積されますし、他の社員もいつかは自分も、とみんながカバーしあうことになります。

電通:
当社もかねてから長時間労働問題というのを抱えておりまして、2007年に第一回、2008年に第二回キャンペーンをやりました。二回目は夏季休暇取得に重点的に取り組みました。ありがたいことに、社長が全社員宛てにメールでメッセージを送ってくれましたので、間違いなく、社内的な気運は醸成されてきたかな、と。電通では今までになかったことです。それと今回参加させていただいて本当に良かったのが、いろいろな会社の人事担当者さんが集まる会議で当社の取組に非常に興味を持っていただけたこと、それと、どちらかというとこういうことにそっぽを向いていた営業が、お得意様の社長からWLBについて教えてと言われてノートを持って相談に来てくれたことですね。キャンペーンキャラクターとして働き虫と遊び虫のオブジェを作った結果、学生にも伝わりやすくなりました。ただ、「WLBだしこの辺でやめとく」みたいに仕事をちょっと控えてしまう、そんな話もあるんですね。これは間違った伝わり方なので今後の課題だと思っております。

佐藤:
WLBは、みんなが定時で帰らなくちゃいけないわけでもないですし、「仕事はほどほど」という意味でもないのですが、誤解を受けやすい言葉であることも事実ですね。今は過渡期のためいろんな誤解による課題もあると思います。

三井化学:
当社は二本柱を立てて活動しています。育児介護と仕事が両立しやすい環境づくりと、「ゆとり創出」に向けた時間づくりです。活動の推進は、組合幹部も含めたワーキンググループで行っています。「環境づくり」の方では、4月から育児休業期間を3年に延長、会社託児所もオープン予定です。また、社長自ら介護支援は更に充実させる必要があると言っており、介護休業の取得要件も緩和します。ただ、せっかく充実させた制度を結局女性ばかりが利用してキャリア上はマイナスになる、とならないよう担当者として注意していくつもりです。

佐藤:
育児休業について問題だと思うのは、現状、ほとんどは女性が取得していることです。このまま休業期間を伸ばして、女性だけが長期間の休業を取得することが女性のキャリアにとって望ましいことなのか疑問です。一定の休業取得のあとに早く仕事に復帰したいと考えている女性が実は多いのです。この点を踏まえると、1年程度の育休で復帰し、そのあと子育てと仕事を無理なく両立できる職場環境を作ることが大事なわけです。例えば、夫婦それぞれが週2、3日は定時で帰る。女性が残業する時は夫が定時で帰る。こうした仕組みがあれば、女性も長い休業を取得する必要がなくなるはずです。また、介護休業については、期間を長くすると家族介護に戻ることにもなりかねません。介護休業は本来、自分や家族だけでなく、社会的な介護サービスなどを活用できるようにして、早く仕事に復帰するための調整の期間であるべきです。しかし人事担当者も含めて、自分で介護するための休業と誤解している方も多いのです。

三井化学:
もう一つの「時間づくり」の方ですが、8月に社内報で社長の写真を大々的に載せて特集を組んだんです。ところが事業部を中心に聞こえてきたのは、ゆとりとか言ってる状況じゃないだろうとの声。そこで、9、11月にも「時間づくり」に的を絞った特集を組みまして、そうではない、業務改革と意識改革こそまずやるべきなのだという話を載せました。この過程で、ワーキンググループのメンバーで議論になったのが、「工場の交代勤務者は、年休取得率がすごく高い。それは、バックアップ体制をきちんと整えているからだ。ホワイトカラーがそうできるようになるためには、何をすればいいんだろう」ということでした。急激な景気後退の中、当社では残業がこれまで以上に増えている社員と、残業がなくなった社員の両方がいます…そんな今だからこそ、他の人の仕事内容を良く知って何かの時はバックアップできるようになるとか、業務自体を改善するとか、合理化を進めるチャンスなんだと思います。

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