ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 重要事例情報の分析について > 重要事例情報−分析集(第5回報告分 21件)

重要事例情報−分析集(第5回報告分 21件)

前ページ  次ページ

重要事例情報−分析集
(第5回報告分 21件)


目次

事例59:(不十分な指示確認による与薬ミス)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(調剤、与薬(内服・外用))

事例297:(難聴の患者による誤服薬)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(与薬(内服・外用))

事例305:(名称類似薬の取違え)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(与薬(注射・点滴))

事例396:(内服薬と類似外観の注射薬の取違え)
発生部署(集中治療室)
キーワード(与薬(内服・外用))

事例335:(経口挿管チューブの自己抜去)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(チューブ・カテーテル類)

事例81:(エックス線撮影時の気管内チューブトラブル)
発生部署(入院部門一般、集中治療室)
キーワード(人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

事例234:(腹臥位呼吸管理中の挿管チューブの自己抜去)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(チューブ・カテーテル類)

事例410:(人工呼吸器移動時の気管内チューブトラブル)
発生部署(集中治療室)
キーワード(人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

事例351:(栄養チューブの自己抜去)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(チューブ・カテーテル類)

事例368:(患者によるバルンカテーテル・モニターの切断)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(チューブ・カテーテル類)

事例101:(人工肺装着中のカニューレ屈曲)
発生部署(集中治療室)
キーワード(チューブ・カテーテル類)

事例293:(人工呼吸器呼吸回路の誤接続)
発生部署(集中治療室)
キーワード(人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

事例483:(輸液ポンプのフリーフロー)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(与薬(注射・点滴)、機器一般)

事例472:(抗悪性腫瘍剤投与量の誤入力)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(処方、情報・記録)

事例301:(検査部門不在時間帯の血液型判定検査)
発生部署(入院部門一般)
キーワード(輸血)

事例271:(全身麻酔中の体位固定不備による一時的麻痺)
発生部署(手術部門)
キーワード(移送・移動・体位変換)

事例384:(手術創へのガーゼ遺存)
発生部署(手術部門)
キーワード(組織)

事例255:(手術患者の間違い)
発生部署(入院部門一般、手術部門)
キーワード(情報・記録、組織)

事例352:(アレルギー食の誤配膳)
発生部署(入院部門一般、栄養部門)
キーワード(食事と栄養)

事例303:(CT撮影後のポラロイド写真の取り違え)
発生部署(放射線部門)
キーワード(検査・採血、情報・記録)

事例477:(複数の入力源におけるデータ不整合の発生)
発生部署(臨床検査部門)
キーワード(情報・記録)



事例59:(不十分な指示確認による与薬ミス)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (調剤、与薬(内服・外用))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分 【平日】発生時間帯【18〜19時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【86】
患者の心身状態【その他】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【処方・与薬(内服)】
(薬剤・製剤の種類) 【その他】
発生内容 【与薬時間・日付間違い】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
本来、検査当日の朝に内服するマグコロールP2包(水1800mlで溶解)を前日の19時に水2000mlで溶解して患者に渡してしまった。コップ1杯内服したところで気づき中止となった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
指示受けの際、時間が明記してなかったので19時と記載した。多忙だった。基準やマニュアルを確認しなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
基準、マニュアルの確認。薬品についての学習。検査の前処置について理解を深める。指示受け時の確認の徹底。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
ヒヤリ・ハットの具体的内容欄
 具体的検査名もしっかり記入してあるとわかりやすいでしょう。
 なぜ水1800mlで溶解するところ水2000mlで溶解したのか。また、どのように間違いに気づいたのかについても記載するとよいでしょう。

ヒヤリ・ハットの発生要因欄
 これは報告者自身が指示受けをしたのでしょうか。それとも記載してある指示簿をみて指示を受けたとしているのでしょうか。また、なぜ19時と記載したのでしょうか。具体的に理由があるとより分かりやすいです。
 さらに、多忙だったと書いてありますが、状況が理解しやすい内容があると改善策をより考えやすくなります。
 基準やマニュアルを確認しなかったとありますが、それらは約束指示をも載せているものなのか、記載していきましょう。

実施したもしくは考えられる改善策
 検査の前処置について理解を深めるとありますが、知識不十分だったのでしょうか。要因を明確にするためにも、職種経験年数や部署配属年数を記載するようにしてください。

■改善策に関するコメント
 指示がどのように出され、指示受けがどうであったか、また、部署での約束事等がどうであったかは明確でないためはっきりはいえませんが、この事例では医師が指示を出す時点で時間が明記されていなかったことと、確認せず看護師が時間を記入した事に最大の問題点があるようです。指示に時間の明記がなかったので19時と記載したとありますが、記載した看護師はなぜ、何時に内服させるのか確認できなかったのでしょうか。確認せずに19時と書いたとありますが、前日に下剤を飲ませる他の検査と間違っていたのではないでしょうか。改善策として基準、マニュアルの確認、検査の前処置について理解を深めると書いてありましたが、なぜそれができなかったのでしょうか。患者の病態と検査についての理解不足だったのか、心理学的な「思い込み」が生じたのか等により原因が異なり、改善策も変わります。

正確な処方・指示と指示受け時の確認
 医師は決まった検査の指示であっても処方される薬剤については内容、容量、時間を必ず明記することは基本的事項です。指示を受ける看護師は指示が不明確な場合や疑問を持った場合は、患者の安全確保のため医師に問い合わせる必要があります。
 クリティカルパス等を活用することは、効率的でありチームにおける情報の共有化が進むため推進すべき方策でしょう。

患者への検査説明について
 間違いに気付いたところがはっきりしませんが、検査について患者に明確に説明され、なおかつ、その予定が患者とベッドサイドへ行った医療従事者がわかりやすいように工夫されていれば未然に防げたかもしれません。
 患者への説明は、パンフレットや患者説明用のクリティカルパスを用い、高齢の患者の場合でも分かりやすいように十分配慮されていることが必要です。さらに、患者本人、家族、病院スタッフに情報が共有できるよう、オーバーテーブルに貼っておくなどの工夫もよいでしょう。安全で確実に医療行為が実施されるためには、治療の前処置などの情報が患者のベッドサイドに集約され、患者と共有できることが望ましいと言えます。

安全な薬剤の準備
 溶解する水の量は正確にする必要があります。溶解された薬剤が払い出される、あるいは、与薬する直前に溶解する薬剤などは、容器に定量の溶解水が薬剤と一緒に払い出される等の準備がされるシステムも有効です。

【参考資料】
 「安全な医療を提供するための10の要点」安全与薬のための5つのRightを徹底する教育が必要です。参考資料には、これ以外にも基本的かつ大切な要点が盛り込まれていますので、是非参照してください。
 (1)right client(正しい患者)、(2)right drug(正しい薬)、(3)right dose(正しい量)(4)right route(正しい方法)、(5)right time(正しい時間)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0110/tp1030-1f.html#8-9、厚生労働省医療安全対策検討会議、2001年9月


事例297:(難聴の患者による誤服薬)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(内服・外用))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【14〜15時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【63】
患者の心身状態【聴覚障害、精神障害】
発見者【同職種者】 
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【2年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年6ヶ月】
発生場面 【処方・与薬(内服)】
(薬剤・製剤の種類) 【その他(副腎皮質ホルモン)】
発生内容 【過少与薬】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【知識不足】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分】
発生要因-患者・家族への説明 【患者・家族への説明不十分、患者・家族の理解不十分】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
デキサメタゾン抑制試験のためデカドロン16錠一度に服用するように患者に説明したが、患者は毎日2錠づつ飲むものと勘違いし説明通りに服用しなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
服薬確認が出来ていなかった。患者が難聴であること、理解力不足があることを知らなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
必ず服薬確認すること。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 この事例を読んで誤薬の要因は患者にあるかのような表現がされていますが、果たしてそうでしょうか。服薬指導の方法に疑問を感じませんか。患者はデカドロン錠を毎日2錠ずつ飲むものと勘違いしたとありますが、なぜ勘違いしたのでしょうか。その情報は誰によるものなのでしょうか。そもそもその情報が問題だったのではないのでしょうか。どんなに指導方法を変えたとしても、情報伝達が不十分ならば再発を避けることができません。もっと要因を分析する必要があります。

■改善策に関するコメント
 対策として「必ず服薬確認する」だけでは曖昧です。この事例では、情報の伝え方と患者のアセスメントが問題であり、服薬確認だけでは不十分だということがわかります。ですから、その2点を抑えた改善策が必要です。
 服薬指導をするときは、その患者がどれだけ薬に対する理解があるかをアセスメントすることが大事です。病気について、治療方法について、服用する薬について、その薬を飲まなかったときに現れる症状についてなど。なぜその薬を飲まなければならないかが理解できない患者であれば、自己管理は中止にした方がいいでしょう。そして一回ずつの服薬確認もしくは看護室にて管理する方法を選択することが事故防止の観点からは妥当な策と考えます。まずは自己管理が可能かどうかのアセスメント基準を明確にすることが必要です。
 以上のことを考慮した改善策を記載します。参考にして検討してみてください。
 入院時アナムネーゼや外来からの情報により、患者のセルフケアアセスメントをリスクに注目して明らかにしておくことが重要です。特に、視力、聴力及びADL等は治療の方針にも反映されるべき情報です。
 患者に薬の説明をしたあと、患者に復唱させて理解できたかを確認する。
 口頭ではなく、目で見て確認できる薬の説明書を薬剤部門などで作成する。

 なお、発生要因として「患者が難聴であること、理解力不足があることを知らなかった」とされています。在院日数が短縮傾向にある最近では、外来からすぐに検査にまわるなど、患者の身体アセスメントが十分できにくい状況が見られています。外来で取得した問診などの情報を、病棟・検査部門でも活用できるようにするなど、事故防止の観点から院内の情報共有のあり方について検討することもよいでしょう。


事例305:(名称類似薬の取違え)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【9月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【16〜17時台】
発生場所【分娩室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【26】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【  年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年2ヶ月】
発生場面 【処方・与薬(末梢静脈点滴)】
(薬剤・製剤の種類) 【その他(子宮収縮剤)】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【知識不足】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【報告不十分】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこみ】
発生要因-システムの不備 【連絡・報告システムの不備、指示伝達システムの不備】
発生要因-連携不適切 【医師と看護婦の連携不適切、医師間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【薬剤名が似ていた】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【その他(薬剤の保管箱の表示が不適切であった)】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響中)】
備考【研修医(当時者)が薬剤を点滴ボトルに入れ、薬剤名を記載していたため、それを見た他の医師が誤りに気づいた。】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
子宮収縮抑制が必要な処置(骨盤位への外回転術)のため、ウテメリンを点滴静注する予定であった。ローテーション後2ヶ月目の研修医は、分娩室内保冷庫にあったメテナリン(子宮収縮剤)をウテメリンと同じ作用の薬剤と思い込み、点滴ボトルに入れ、ボトルにメテナリンと記載した。指導医がボトルに記載された薬剤名を見て、当時者に確認し、誤りに気づいた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
当時者は全く作用の相反する薬剤の名称の語感が似ていたために、同様の作用の薬剤と思い込んだ。それぞれの薬剤の確実な知識がなかった。分娩室保冷庫の扉には、ウテメリンと表示があったが、通常の分娩ではウテメリンを使用しないため、保冷庫の中にはメテナリンのみ置かれていた。指導医は研修医が準備した薬剤を、確実にダブルチェックしなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
1.薬剤名称を全く語感の異なるものにすること。厚生労働省での承認時に、薬剤名称についても類似のものがないか審査の項目とすること。2.薬剤保管場所の表示の改善。3.新研修医への教育。4.ダブルチェック時には「薬剤名、規格、量」を声だし、指差しすること。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 保冷庫の扉にはウテメリンと表示があったが、実際にはメテナリンが保管されていたと解釈できる記載です。おそらく両方の表示があったと推測されますが、保冷庫内の薬剤の配置など、ウテメリンとメテナリンの保管状態がわかるように詳しく記載して下さい。物理環境的な問題が本事例に与えた影響を考察することができます。
 薬剤保管場所については"表示の改善"だけでなく、何をどうするのか具体的な実行策についても記入してください。また新研修医への教育についても同様に、何時・誰が行うかの記載があると良いでしょう。改善策が有効で、歯止めの効いたものか判断できます。

■改善策に関するコメント
外観の類似に関する対策
 製品名称及び語感が、全く作用が異なるにも関わらず類似していることがヒヤリ・ハット誘発の原因と考えられます。この2剤は同じ産婦人科領域において使用されるため、これまでも取り違えの危険性について指摘されていました。改善策として薬剤保管場所の表示をあげていますが、薬品名の他、メテナリンについては「妊婦に禁忌」等分かりやすい表現を付け加えることが必要です。さらに、ウテメリンは比較的大きなアンプルでラベルの確認は容易ですが、メテナリンは小さな褐色アンプルの為視認性が良くありません。

名称の類似に関する対策
 薬剤名称を全く語感の異なるものにする対策として、医療機関内の薬事委員会において、類似性から誤りが誘発されないよう採用薬剤を定期的に見直すことも必要でしょう。
 ウテメリンの主成分は塩酸リトドリンですが、塩酸リトドリンGE(後発品)として十社近くから発売されています。メテナリンについても同成分の薬品が数社から発売されています。成分名であるマレイン酸メチルエルゴメトリン注射液は研修医にとっても薬効を理解しやすい薬品名でしょう。

参考
1)塩酸リトドリン注GE
ウテゾール、ウテメナール、ウテロトップ、ウテロン、ピロスデン、フレムーブ、リトドリン、リトドール、リンドルフ
2)マレイン酸メチルエルゴメトリン注射液
メテナリン、マレイン酸メチルエルゴメトリン注「イセイ」、マレイン酸メチルエルゴメタミン注F
 今回の事例は、経験年数も浅く、ローテーション後間もない研修医が起こした与薬に関するヒヤリハット事例でしたが、各診療科毎に、新規ローテーション職員が犯しやすいエラーをリスト化して洗い出すことだけでも、ローテーション直後の職員による事故の防止に役立つでしょう。ローテーション直後の職員は事故を起こしやすいことが明らかであり、研修医や新人看護師及び薬剤師等に対する教育研修の充実も検討していく必要があるでしょう。
 なお、アメリカ医学研究所(IOM)の報告書には、薬物療法のプロセスに関して、(1)記憶に頼ることを減らす、(2)プロセスを簡素化する、(3)業務標準を導入する、(4)規制と強制の機能を活用する、(5)プロトコールとチェックリストを上手に活用する、(6)他人のチェックへの依存や不干渉、複数データのエントリーを減らす、(7)外観や発音の類似した薬剤をなくすという提言が示されています。

【参考情報】
 ウテメリンの名称・由来は英語のuterus(子宮)とmerit(有益な作用)を合わせたもので切迫流・早産による子宮収縮を抑制することを意味しています。一方、子宮収縮止血剤のメテナリンは英語のmetro(子宮)と主成分であるエルゴメトリンから命名されています。
 2001年6月にこれら2剤を製造・販売する製薬メーカー2社共同による、取り違え防止の注意喚起を促すリーフレットが医療機関に配布されています。さらにウテメリンは2002年1月には識別性を高めるためにアンプルラベルに「切迫流・早産治療剤」の文字を大きく表示するようにしています。

【参考資料】
 キッセイ薬品ホームページ製品情報
http://www.kissei.co.jp/di/PRODUCTS_html/Int/INFO/UT/RE069.htm
 「中小産婦人科医療機関における医療安全管理指針モデル」
http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/INFO_MAP.htm、(社)日本産婦人科医会、2002年9月
 「人は誰でも間違える より安全な医療システムを目指して」、米国医療の質委員会・医学研究所、医学ジャーナリスト協会訳、日本評論社、2000
 「注射・点滴エラー防止」、川村治子編、JJNスペシャル 70、医学書院、2001


事例396:(内服薬と類似外観の注射薬の取違え)

発生部署 (集中治療室)
キーワード (与薬(内服・外用))

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【10〜11時台】
発生場所【NICU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【その他】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年4ヶ月】
発生場面 【処方・与薬(内服】
(薬剤・製剤の種類) 【その他】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【慌てていた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【複数の規格が存在した】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
経験4ヶ月の日勤看護師が、新生児痙攣で入院中の日令20日の児に経口用バンコマイシンを使用するところ誤って注射用バンコマイシンを溶解し内服させた。10:45に医師の指示により新しく開始になったバンコマイシンの指示をリーダーナースより受けた。受け持ち看護師は誤って注射用の棚からバンコマイシンを取りリーダーナースと他薬剤名確認後、溶解し容量を更に確認したが、バイアルのふたに書いてあった用法を見落とし準備・内服させてしまった。投与後、受け持ちナースはバイアルを注射用の棚から持って来た事に気付きエラーが発見される。念のため胃洗浄を行い経過を観察した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
受け持ち看護師は経口用と注射用があることを知っていたが、両方ともバイアルであるためバイアルを溶解して内服させると言う一連の行為に疑問を持たなかった。バンコマイシンと言う薬剤名にとらわれ確認したため注射用の表示を見落とし疑問に思わず準備した。リーダーナースは受け持ちが内服用をもってきたと思い込み、確認しているため注射用の表示に気付かなかった。注射用と経口用が同じバイアルであるため、混同しやすい。保管場所が隣合わせで、他の患児に注射用バンコマイシンを使用していたため無意識に注射の棚から取ってしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
経口用と注射用の包装をもっとわかりやすい別な仕様にできないか提言する(経口用はバイアル以外の外装)。 薬剤名だけでなく投与方法の指さし・声だし確認を確実にする。 注射用・内服用の保管場所を明確に区別し保管する。 薬剤払い出しの時、注意を引くような表示方法を工夫する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 医師からの指示は口頭によるものか、指示書において行われたのか、与薬に至るプロセスの詳しい記載があると何処にインシデントの要因があるか明らかになります。
 また、改善策の記載については、保管場所をどのように区別すれば再発防止につながるか、院内全体の問題としてとらえ、具体的に記載しましょう。また薬剤払い出しの時、注意を引くような表示方法の工夫は、具体的な改善策の記載があると良いでしょう。

■改善策に関するコメント
経口薬と注射薬の識別を容易にできる製品の製造
 塩酸バンコマイシンは経口剤、点滴静注用剤ともに1バイアル中0.5g(力価)を含有する白色の塊または粉末の製剤で、外観上酷似していることがインシデントの一因です。経口剤が灰色キャップに"のみぐすり"ラベルには"禁注射"と記載され、点滴静注用剤は黄色キャップに"塩酸バンコマイシン点滴用0.5g"ラベルには"点滴静注用"と記載されています。この2剤の間違いは生命に危険がありませんでしたが、他の経口投与薬と注射薬とを間違えば、致死的な事故になります。改善策にもあるように、医療現場からも製薬メーカーに対して注射針の刺せないバイアルや、形状の異なる容器の開発を要求してゆくことが必要です。

誤投与リスクの高い薬剤の管理
 通常、経口投与薬と注射薬とを間違えば、致死的な事故になります。このようなリスクの高い薬剤をリスト化し薬剤の払い出しはその度に薬局から行うなど、安全対策として薬剤管理上のシステムの変更が有効です。さらに患者登録票を作成し個別に管理すればより安全性が向上するでしょう。

【参考情報】
 この2剤は同じバルク、ラインで製造され製品の差はありません。しかし製造後の保存試験において、点滴静注用剤がより厳しい基準となっています。したがって、誤って点滴静注用剤を内服しても身体に悪影響を与えることはありません。この事例では念のため胃洗浄を行ったとありますが、このような対応は不必要であったことになります。
 塩酸バンコマイシンの経口剤は、効能・効果に骨髄移植時の消化管内殺菌があり無菌的に作られています。さらに吸湿性があり、酸素にふれるとピンクに変色する等の理由からバイアルで製剤されています。

【参考資料】
 「外観・名称の類似した注射薬について」
http://www.jshp.or.jp/naiyo/2waht/cont/rmmaintenance.html、(社)日本病院薬剤師会ホームページ医療関係者向け情報
 「注射・点滴エラー防止」、川村治子編、JJNスペシャル 70、医学書院、2001
 「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究」、平成11年度厚生労働科学研究報告書、主任研究者 川村治子


事例335:(経口挿管チューブの自己抜去)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【休日】 発生時間帯【22〜23時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【75】
患者の心身状態【下肢障害】
発見者【家族・付き添い】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【8年不明ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年5ヶ月】
発生場面 【気管チューブの使用管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
術後の患者さんで経口挿管し、呼吸器装着もしていた。術直後は激しく上肢を挙上していたため、両上肢抑制されていたが日中になり落ち着いたため抑制をはずしていた。20時ころベッド柵を何回もたたいたりして危険なため、家族の希望もあり、本人に同意を得て、両上肢抑制した。23時40分、家族からナースコールがあり、訪室すると家族が抜けたチューブを持っていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
握力が弱かったため、抜管は困難であろうと考え、抑制帯を長めに設定していたため、手を伸ばして抜管したと思われる。

■実施したもしくは考えられる改善策
抑制が必要であると考えられる場合はしっかりと抑制する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 挿管チューブを自己抜管した事象のみが記載されていますが、自己抜管に至った経緯がわかりません。挿管されていた期間、病名、術式、患者の年齢などの情報が記載されていると、起きた事象の根本原因のアセスメントが可能になると考えます。根本原因に対して対策を講じない限り、有効な対策とは言えず、再発防止は困難になります。
 また、患者の状況から術後のせん妄状態と推測されますが、何を根拠に抑制を外したり、装着したりしているのか、判断の指標が不明です。看護上患者の身体損傷の可能性がある場合、それを予測して抑制の判断をしていると思いますが、判断の指標は組織的に標準化しておくことが重要です。
 抑制したにも関わらず自己抜管に至り、発生した要因が抑制帯を長めに設定したこと、対策がしっかりと抑制するという内容は、組織として抑制の基準が示され、根拠をもって、適正な抑制をされているか疑問に感じます。

■改善策に関するコメント
 術後ストレスフルな状態が続くことによって、一時的にせん妄状態が発生することがあります。せん妄を引き起こす要因は、手術、処置などの外的要因と患者の年齢、疾患、術式、ストレスコーピングスタイルなどが考えられます。従って術前に上記の情報を収集し、チームでアセスメントを行い、術後せん妄状態は起きることを前提に、予測した計画を立案しておくことが重要です。また立案した計画は患者・家族と合意をとっておく必要があります。

抑制の基準
 患者が治療過程において、現状を理解できず、患者自身の生命に関る危険行動を取る可能性がある場合は、抑制も必要であることを組織として打ち出す必要があると考えます。その場合以下の項目を示すことが望ましいと考えます。
(1)  抑制の考え方
 治療過程の一時的な認知障害、未発達な思考の小児が、患者自身の生命に関る危険行動を取る可能性がある場合、その行動を予防する手段として、他に予防する方法がないと判断した時のみ、生命を守る安全対策として、ある一定期間、最小限の抑制を施行することを基本とする。
(2)  抑制の対象患者
(3)  抑制の判断指標
(4)  インフォームドコンセント
(5)  抑制時の看護/TD
(6)  抑制用具と適正な使用方法
 抑制基準の作成や具体的な実施に当たっては、下記のような資料を参考にされるとよいでしょう。
 また、患者の状態によっては、医師はセデーションの見直しを行うことも必要です。

【参考情報】
 米国の看護技術の教科書では、「患者の安全確保」等が章立てされており、抑制(Restrain)の技術や物品(ex.ジャケット型、ベスト型、体幹ベルト、手袋、小児用全身包布等)の紹介がされている。

【参考資料】
 「精神科医からみた術後せん妄の診断と治療」消化器外科NURSING vol.4 No6 :546-554, 1999,水野雅文、鹿島晴雄
 「米国精神医学会治療ガイドライン:せん妄」、American Psychiatric Association,医学書院、2000
 「身体拘束ゼロへの手引きhttp://www.humind.or.jp/no-yokusei/manual/」、厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議、2001年3月
 「実践へのアドバイス 看護事故を防ぐ 身体拘束中の事故を防ぐ」看護実践の科学24(4-5)、富永利夫、1999年
 「かながわ拘束のない施設作りのガイドライン(試案)」、神奈川県福祉部高齢者施設課拘束なき介護検討プロジェクトチーム、2000年3月
 「抑制(身体拘束)除去困難事例集」、北海道抑制廃止研究会編、2000年


事例81:(エックス線撮影時の気管内チューブトラブル)

発生部署 (入院部門一般、集中治療室)
キーワード (人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【土曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【8〜9時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【83】
患者の心身状態【意識障害】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【気管チューブの使用管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自然抜去】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【その他の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
人工呼吸器管理の患者のレントゲン撮影時、身体の下に板を入れようと身体を動かしたところ挿管チューブが2cmほど抜けてしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
挿管チューブがつながっている管を一緒に動かさなかった。配慮が不足した。技術が未熟だった。

■実施したもしくは考えられる改善策
安全な手技の学習。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的な内容で身体を動かす時何人で実施したのか、誰が関わったのかの記述が改善策を考える上で必要です。また、発生した要因で技術が未熟だったとありますが、どのような技術なのか明確に表現されているとよいと思います。

■改善策に関するコメント
 改善策に安全な手技の学習とありますが、この事例の安全な手技とはどうあるべきかを改善策に具体的に示す必要があります。同じ事故を防止する上で有効な具体策を立案し実施することが重要です。

検査時の協力
 放射線検査技師がポータブル機器を用い、病棟においてエックス線撮影することは、移動等が困難な患者の場合は負担が少なく便利です。しかし、撮影に適した患者位置や機器設置がなされている放射線検査室とは異なり、病棟においては患者の身体状態や撮影指定箇所により様々な注意点が加わります。患者の情報、撮影の方法などを事前に臨床検査技師、医師、看護師あるいは患者自身がお互いに把握し、必要な介助人数や方法を理解しておくと、緊急の検査であっても撮影そのものは迅速に行うことができるでしょう。病室の大きさに制限があり、ポータブルエックス線装置を使用するために、人工呼吸器の移動等でトラブルが起こることもありますので、臨床工学士からの提案も必要です。
 介助スタッフ人数が多数必要な検査の場合、緊急以外をのぞいては早朝夜間を避け、病棟スタッフが多い時間帯にする配慮も必要でしょう。
 人工呼吸器装着中の気管内チューブのトラブルは、身体を動かす時に多く発生しています。清拭時、体交時、そして検査による移動も同様です。

患者の体位変換時の手順
 患者の身体を動かす際には、まずアームを外して、チューブ類を緩めてから身体を動かすこと、身体の動きに合わせてアームや機械も動かすことなど安全のための基本事項がいくつかありますので、この機会に再確認しましょう。また、病室が狭いと固定アームが位置的に動かしにくい場合もあります。その際には、アームからはずして動かす対応が可能ですが、このような安全と合理性の技術はEBMを踏まえて、手順として理解、習得することが必要です。

挿管チューブ・回路側の固定
 身体を少し移動した際に簡単に挿管チューブが抜けた場合、固定が確実になされていなかった可能性があります。意識がない患者でも体動はありますので、首の振り程度で抜管してしまわないよう効果的で確実な固定をしてください。また、回路との接続部分はきつくなりすぎていなかったでしょうか。過度な負荷が加わった場合、回路の接続部分で簡単にはずれることで、挿管チューブまで抜管されずにすみます。正確な回路の確認に加え、このような安全の視点による観察は、検査前の患者状態の観察時に必ずチェックすべき点ですが、日頃から、人工呼吸器装着患者のチェック項目としておきましょう。

医療チームでの確認や訓練
 緊急時や早朝夜間などスタッフ人数が限られた状況下で患者をサポートしなくてはならないこともあり、こういった手技は看護師だけでなく、検査において患者の体位を変換する検査部門や放射線技師などのスタッフも習得するべきです。院内のどこであっても患者さんが安心してサービスを受けられるよう、病院職員全員が安全な介助行えるようにしておきたいものです。院内研修を利用し、共通知識として習得させることも必要です。

【参考資料】
 「決定版人工呼吸器の使い方」小学館、P.267気道管理・加湿・喀痰の吸引 チューブ固定の方法
 「医療スタッフのための人工呼吸療法における安全対策マニュアル」
http://www.iijnet.or.jp/JACET/index.html、日本臨床工学技士会 業務安全委員会


事例234:(腹臥位呼吸管理中の挿管チューブの自己抜去)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【12〜13時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【68】
患者の心身状態【意識障害、上肢障害、下肢障害、歩行障害、床上安静
発見者【他患】
当事者の職種【他患】
当事者の職種経験年数【1年3ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年3ヶ月】
発生場面 【気管チューブの使用管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【昼食時で看護師の数が減った】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
喀痰貯留防止のため、うつぶせ寝を施行していた時、健側の抑制がはずれており、挿管チューブを自己抜去していた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
抑制の確認を怠ってしまった。麻痺の程度、意識レベルの変調を確認できなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
体交時は一緒に施行した人と抑制の確認をする。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 うつぶせ寝実施の計画、観察時間、腹臥位へ体位変換後どのくらいの時間でどのように発見されたのか記述されているとシステム的な事故要因の改善策が見えやすくなります。また、「意識障害の変調があった」とありますが、意識障害の程度や「意識障害の変調」の程度を捉えるツール使用の有無について、さらに上下肢障害の程度についても記述されていると良いでしょう。
 また、昼食時で看護師の数が減ったとありますが、担当看護師が患者の自己抜去のリスクを他の看護師に注意換気していたのか、何人の者がどのくらいの業務を分担していたのか、重症患者や処置の必要な患者が何人いたのかについて記述されていれば、適切な人員配置や業務分担に関して要因がなかったのかみていくことができます。

■改善策に関するコメント
肺理学療法の実施評価と医療チームでの手技の確認や訓練
 気管内挿管患者および気管切開患者を腹臥位にするには3人が必要とされています。患者の苦痛のない均質な体位変換の技術や観察、適切な抑制方法や抑制帯の種類について医療チーム内で検討し、共通の評価ツールの使用や均質の手技を提供し、気管内チューブによる呼吸管理からの離脱をすすめていくことが重要です。肺理学療法の評価や抑制帯を含む体位変換の手技は十分であったかについて医療チームで再検討しましょう。
 また、病棟に異動してきたスタッフや新入職員全員が基礎的な技術を習得するための技術訓練の場を提供していくことも有効でしょう。

病棟における業務と人員体制
 この事例の発生時間は、【12〜13時台】となっています。また勤務状態は【昼食時で看護師の数が減った】と記述されています。「喀痰貯留防止のため、うつぶせ寝を施行していた」ことから、看護師の目の届射ていない状況下での患者による挿管チューブの自己抜管が推測できます。
 腹臥位呼吸管理という呼吸理学療法の実施は下側肺障害予防のために有効な療法だと考えます。しかしながら、気管内洗浄吸引と体位変換は病態の安全性と患者の苦痛を考え、一人の看護師では行わない処置に該当します。特に気管内挿管患者を腹臥位にするには3人が必要とされています。このような呼吸ケアを実施する際は、勤務時間帯の中でも人員が多い時間帯で実施計画を立てることが好ましいでしょう。
 通常12時〜13時は、看護スタッフが交替で食事休憩に入りますが、患者の昼食時間でもあり昼食介助や与薬業務が入り、さらに患者の食後の排便排尿でナースコールの多い時間帯でもあります。業務の実施時間や患者の食事時間の変更、補助者の配置等も含めて、患者の安全確保の観点から病棟における管理を行うことは、病棟管理者の責務といえます。

【参考】
「胸部理学療法―ICUにおける理論と実際―」総合医学社p90-91、
C.F.Mackenzie,P.C.Imle,N.Ciesla(1989)./石田博厚監訳、丸川征四郎(1991)


事例410:(人工呼吸器移動時の気管内チューブトラブル)

発生部署 (集中治療室)
キーワード (人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【2〜3時台】
発生場所【ICU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【24年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【8年4ヶ月】
発生場面 【気管チューブの使用管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【接続はずれ】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
人工呼吸器加湿器のアラームが鳴ったので調整しようとしたが加湿器の位置がベッドと壁の間で調整しづらかった。そのため、人工呼吸器をベッドに平行にしようと一人で動かそうとしたところ、呼吸器のアラームが鳴り、患者さんをみると気管チューブが抜けそうになっていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
安易に一人で呼吸器を動かそうとした。回路やチューブに気を配っていたつもりだったが、注意が不足していた。

■実施したもしくは考えられる改善策
呼吸器や回路を動かすときは必ず二人以上で実施する。呼吸器の位置をあらかじめベッドと平行に置いておく。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容に「加湿器の位置がベッドと壁の間で調整しづらかった。」という記述がありますが、発生した要因に環境(呼吸器に対する加湿器や壁の位置等)の問題もありますので実際にどのような配置だったのかを記載してください。さらに具体的なメーカー名や型式があればより詳細な分析を行うことができます。
 また、気管チューブの固定はどのような材質のものを使ってどのように固定されていたのでしょうか。気管チューブが外れやすい要因としては人工呼吸器の問題もありますが、固定方法にも問題があることも含めて分析していきましょう。
 要因分析の中に、「安易に一人で動かそうとした」とありますが、その理由はなぜでしょうか。発生時間帯は深夜帯ですが、周囲の状況はどうだったのでしょう。何人で深夜勤務をしていたのか、その時間帯はどのような業務があり、なぜ人を呼ばなかったか詳細に分析できるよう記載しましょう。

■改善策に関するコメント
人工呼吸器装着時の移動の留意点
 人工呼吸器装着中の気管内チューブの抜管は、生命に関る重大な事故につながる危険性があります。気管内チューブの抜管事故は、清拭時、体交時など体を動かす時に多く発生しています。このヒヤリ・ハット事例は、人工呼吸器を移動させたときに発生していますが、体位変換時や、人工呼吸器自体をを移動する際は、1人のスタッフが気管内チューブが外れないよう必ず支持するなど、必ず複数のスタッフと実施するようにしましょう。

気管内チューブの固定
 気管内チューブの固定が甘いと当然抜管のリスクは高くなります。現在多く用いられている気管チューブの固定法は、布製の細い紐をチューブの両端から通して固定しているのみで、必ずしも安全な方法とはいえません。最近ではマジックテープなどで固定する方法もでてきています。気管チューブの安全な固定のための物品を開発する必要があるでしょう。して下さい。

環境整備
 ICUはベッドサイドに種々の医療機器が設置され、環境面から事故のリスクが高いといえます。日頃からベッドサイドの整理整頓に心がけてください。
 他の医療機器の数にもよりますが、人工呼吸器は一番事故のリスクが少ない位置を検討しいつも同じ位置に設置するとよいでしょう。
 人工呼吸器の安全対策については、重要事例No.293の参考資料を参照してください。


事例351:(栄養チューブの自己抜去)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【4〜5時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【77】
患者の心身状態【痴呆・健忘】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【6年5ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年5ヶ月】
発生場面 【栄養チューブの使用管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【自己抜去】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【技術が未熟】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
痴呆患者が経管栄養実施中にチューブ抜去。抑制をしていたが、ゆとりがありすぎて、患者が頭を持ち上げた為に、手が届いてしまった。気道内に栄養剤が入ったが、吸引ですぐにSPO2 87%から99%になった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
経管栄養中の抑制にゆとりがありすぎた。

■実施したもしくは考えられる改善策
この患者の経管栄養中の抑制方法について、検討した。体動激しい為、経管栄養時は、そのことを考慮した抑制方法を取る。(あまりゆとりを持たせない)時々観察する。(夜勤で経管栄養中、ずっと付き添うことは不可能)


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 この事例を読むとチューブの自己抜去の要因を、患者に対して用いた抑制にゆとりがあったからとしていますが、それ以外に、(1)経管栄養を注入する時間帯、(2)ベッドの傾き、(3)看護師の抑制に対する思いなども要因としてあげられます。
 (1)ヒヤリ・ハットが発生した時間帯が4〜5時です。そのような時間帯に経管栄養を注入する必要があるか疑問です。その時間帯ではおそらく患者は寝ているものと思われます。そこに経管栄養を流し込まれると、消化機能に変調を来したり、不用意に起きあがったりするなどの反応が起きる可能性があります。そのことに対する実施時間の配慮はされているのでしょうか。
 (2)ベッドはフラットだったのか、傾きがあったのか不明です。経管栄養注入中なので傾きがあったものと考えますが、もしフラットだった場合、患者が少し頭を持ち上げることは十分に考えられる動作です。
 (3)抑制のゆとりに対するアセスメントがありません。看護師がなぜゆとりのある抑制をしたのかということです。自己抜去した要因を技術不足といってしまっては危険です。看護師は何を考えてゆとりを与えたのでしょうか。これくらいなら大丈夫と思った、きつくすることには抵抗があったなど、なぜそうしたのかを解明しなければ、いくら抑制のゆとりをもたせないという対策を立てても、再び同じことをする恐れがあります。
 以上のことを検討して現状の問題点を明らかにしてください。そしてシステムの見直しを図るように心がけてください。

■改善策に関するコメント
 患者がチューブ類を自己抜去するときは、体動が激しい時ばかりとは限りません。なぜ抜くのか、どうしたときに抜かれるのかなどを、どうしたら抜かれなかったという事例を参考にして検討する必要があります。チューブ類の自己抜去の対策はどうしても抑制の強化につながりやすいので、患者要因にだけとらわれ図、病棟の看護管理上の要因も考慮すべきです。
 また、抑制をするときにあまりゆとりをもたせないとありますが、あまりという表現が曖昧です。その曖昧さが個々の看護師の判断を鈍らせていると考えます。抑制をするときはゆとりが無くてもいいのです。ゆとりがあるとかえって危険です。だから抑制をするのです。ゆとりを与えるのなら抑制は必要ありません。そのような統一した判断が出来るようなシステムにしなければなりません。
 以下にチューブ類の自己抜去の防止対策の例を挙げましたので参考にしてください。
 抑制をするときは手や身体の可動域を十分に考慮して行う。
 抑制中は観察ポイントを決めて(手や頭の位置、顔の表情、チューブ類への関心など)危険な状況をいち早く察知する。
 抑制中はチューブ類に関心が向かないように、ホールに移す、好むテレビや読書などを鑑賞するなどの刺激を与える
 抑制の際の注意点については、重要事例No.335の参考資料も参照してください


事例368:(患者によるバルンカテーテル・モニターの切断)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【 月】 発生曜日【  】 曜日区分【  】
発生時間帯【  】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【     】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
全身麻酔後2日目。バルンカテーテルやモニターをハサミで切断しているところを発見。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
不穏状態が術後1日目の夜より出現。ハサミなど危険物除去への配慮が不足していた。

■実施したもしくは考えられる改善策
不穏行動より予測し、家族への連絡を早期におこなう。危険物への配慮を行い、患者様にも協力を得る。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 起きた事象のみ記載されていますが、要因分析して根本的な対策を講じるためには、詳細な患者情報が必要と考えます。患者の年齢・病名・術式・ストレスーコーピングパターン、また事象が起きた時間、場所などは、患者の行動に対する分析の際に有効となる情報です。

■改善策に関するコメント
 術後のせん妄は、ストレスフルな状態が続くことによって一時的に発生しますが、チューブ類の抜去は、致死的な自己につながるおそれがあるため、術前に患者の情報を十分にアセスメントし、術後対策を講じることが重要です。特に生命に直結するラインの安全対策は、充分に計画しておき、医師・看護師・患者・家族と合意を得ておくことが必要と考えます。以下の項目を参考にして、改善策を検討してください。

患者のアセスメント
 術後の一過性のせん妄は、多くの患者に現れます。要因として患者の年齢・疾患・術式・ストレスーコーピングスタイル・術後の痛みなどがあります。術前に上記の項目を情報収集し、的確に患者のアセスメントをしておく必要があると考えます。手術の侵襲が大きい場合や患者の不安が強い場合は、術前から医師の診察を受け、術後の痛み対策を検討しておくことも一つの方法です。施設によっては精神リエゾンチームが介入する所もあります。

危険物の除去
 術後は一過性に認知力・理解力の低下が現れます。その発生に影響するのが患者の年齢・術式・患者の疾患に対する受け止め状態・漠然とした不安などが挙げられます。
 術後のせん妄状態は発生することを前提に、術前から患者・家族の同意を得て、危険物(はさみ、フォーク、ナイフなど)は、自宅に持ち帰るか、看護師室で預かるか選択してください。

【参考資料】
 「精神科医からみた術後せん妄の診断と治療」消化器外科NURSING vol.4 No6:546-554、 1999年、水野雅文、鹿島晴雄
 「米国精神医学会治療ガイドライン:せん妄」American Psychiatric Association、医学書院、2000年


事例101:(人工肺装着中のカニューレ屈曲)

発生部署 (集中治療室)
キーワード (チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【8〜9時台】
 発生場所【ICU】
患者の性別【女性】 患者の年齢【78】
患者の心身状態【床上安静、その他】
発見者【その他】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【その他のドレーン・チューブ類の管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【閉塞】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【扱いにくかった】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
人工肺装着中、送血カニューレが屈曲、カニューレ内圧が上昇、作動が停止してしまった。屈曲を直し、30秒後には状態が安定した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
カニューレ挿入部位と機械がベッドをはさんで反対側にあり、ルートの余裕が無く、挿入部が不自然な固定となっていた。出血傾向が著しくガーゼで挿入部位を覆っていたため屈曲に気づくのが遅くなった。機械に異常時のアラーム機能が無い。作動状況確認のためのモニターが無い。

■実施したもしくは考えられる改善策
カニューレの屈曲の有無、作動状況についての確認の徹底。ME技師、医師と共にマニュアルの作成。業者へ状況提供。環境整備。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 患者の状況も含め、カニューレが屈曲に至るまでの経過を具体的に記載してあると、改善策を導きやすくなります。屈曲を招いた直接的な原因は何だったのでしょうか。人工肺の設置場所はどのような経緯でどうやって決めたのでしょう。カニューレ固定の方法や観察の頻度と内容などは標準化されていたのでしょうか。定められた基準とのギャップを分析することで、問題の所在を明らかにすることができます。
 また、機械の異常を発見したきっかけは何だったのでしょう。おそらく患者のバイタルサインズのモニターのアラームで異変に気づいたと推測されますが、通常、患者の状態はどのようにモニターされていたのでしょうか。こうした情報は、異常の早期発見が可能な環境が整えられているかどうかを検討するときに必要です。

■改善策に関するコメント
 人工肺のみならず対外循環を用いる療法は、生命の維持に直接的に関わります。このため、機器の正常な作動を維持すると同時に、異常の早期発見に努める必要があります。

人工肺設置場所とカニューレ部固定
 このケースの場合、まずカニューレ部の固定そのものが問題であったと考えられますが、その背景要因として、人工肺の設置場所がカニューレ挿入部から遠かったために、送血カニューレとそれに続くチューブに余裕がなかったことが挙げられています。カニューレ挿入部がどこであっても、機器の配置やルートの長さを選択する際には、効率性のみならず安全性の観点からも検討する必要があります。ルートに確実に固定ができる余裕を確保した上で固定を行うこと、屈曲が起きやすい部位などを検討した上で固定方法を標準化することが必要でしょう。
 次に発見に関わる要因として、出血傾向が著しくガーゼで挿入部を覆っていたことが挙げられています。この点については、ガーゼを使用する際の固定の方法を検討することで、観察が容易な状態への改善が可能と考えられます。

人工肺等医療機器の作動確認(モニター)方法
 事例では、「機器に異常時のアラーム機能がない」「作動状況に関するモニターがない」の2点が発生要因として挙げられていましたが、この条件下では、カニューレ内圧が変動しても確認する方法がないため作動停止する前に異常を発見することはできず、作動しているかどうかを定期的に確認する以外対処方法はないことになります。機器側から作動状況を直接知る方法がないのか、あるいはより安全な機種や現行の機器にそうした機能を付加することができないのかなど、機器そのものの選定や取り扱い、機器の作動状況の観察方法に関する検討を行う必要があります。
 近年、人工肺などの利用は機器や技術の開発によって簡便に行えるようになりましたが、機器の取り扱いや観察には高度の専門性が必要です。そのため(1)臨床工学士などを含めて専門知識を有する医療従事者の活用(2)安全性を考慮した医療機器の選定、(3)安全性を高めるような機能を医療機器に付加することの検討(3)人工心肺使用時の観察項目や固定法などの技術を医師、看護師、臨床工学士などチーム全体で検討し各医療機関で標準化・共有化できるよう整備することが必要です。
 チューブ類の管理については、重要事例No.81も参照してください


事例293:(人工呼吸器呼吸回路の誤接続)

発生部署 (集中治療室)
キーワード (人工呼吸器、チューブ・カテーテル類)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【18〜19時台】
発生場所【ICU】
患者の性別【男性】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【不明】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【6年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【4年8ヶ月】
発生場面 【人工呼吸器の使用・管理】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【機器の不適切使用】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
入室後30分頃、呼吸器が加湿されていないと担当医から指摘された。加湿器の電源は入っていたが、蛇管は全く水滴がついていなかった。加湿器の水も暖まっていなかった。センサーの接続などを確認し、少し様子を見るが、やはり加湿されず、熱線の部分だけがかなり熱くなっていた。麻酔科医に報告し、呼吸器のライン確認をすると、呼気側・吸気側が逆に接続されていた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
呼吸器を準備したとき、医師がテストしたとき、装着する前に確認していたはずだが、誰も気づかなかった。テストがOKの呼吸器だったため、大丈夫と思いこんでいた。

■実施したもしくは考えられる改善策
医療機器について、もう一度学習会を行った。呼気側・吸気側を日本語でシールを貼った。加湿の有無の確認。測定する時、観察係が責任を持って確認する。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容については、詳細な記載があり良いと思われます。
 要因については加温加湿器と人工呼吸器の位置、呼吸器の種類などの記載があると改善策を立案しやすくなります。具体的なメーカー名や型番が明記してあるとなおよいでしょう。また、呼吸器準備におけるテストはどの様な形で行われたか具体的記載があるとよいでしょう。

■改善策に関するコメント
チェックリストの活用
 人工呼吸器の使用前に行うテストは、リークテストとテスト肺を用いた動作試験で終了することが多いようです。チェックリストを用いて呼吸回路や流路また周辺付帯品を含めた点検を行うと効果的です。チェックリストと共に呼吸回路の回路図を呼吸器近傍に設置しておくとより効果的と思われます。

人工呼吸器回路のシステムの改善
 人工呼吸器の種類によりますが加温加湿器の固定位置や呼吸回路の長さを調節することにより吸気側と呼気側の接続を限定し逆の接続を出来なくすることも可能ですからこれらの工夫をすることも有効です。
 ディスポーザブルの呼吸回路には、呼気側と吸気側が色分けされたものもありこのような製品を用いることも誤接続の防止や早期発見につながり有効な方法です。
 人工呼吸器の参考資料は、、重要事例No.81も参照してください。

【参考資料】
 「生命維持装置である人工呼吸器に関する医療事故防止対策について」、厚生労働省医薬発第248号、平成13年3月
 「人工呼吸器による事故を防ぐ」医療・看護安全管理情報No.4、日本看護協会 人工呼吸器、平成14年2月


事例483:(輸液ポンプのフリーフロー)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (与薬(注射・点滴)、機器一般)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【 月】 発生曜日【  】 曜日区分【  】 発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【欠陥品・不良品】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【     】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
C型肝硬変、特発性細菌性腹膜炎の治療中にアミノレバン40ml/hと利尿目的でカタボンHiを輸液ポンプで3ml/hで持続滴下中であった.トイレに行きたいとのことで家族の付添のもと車椅子で行く。排泄後トイレの中で更衣をしようとして家族が輸液ポンプのドアを開放したためカタボンHiの残量が一気に血管内に流入してしまった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1.循環作動薬を3ml/hで投与するのに輸液ポンプを使用して滴下していた。ドパミンなど、循環作動薬の持続点滴に際しては、点滴スピードの管理など、特に万全の安全確保が求められる。なんらかのトラブルで、 輸液ポンプのライン固定がはずれた場合、全開状態で薬剤が注入される可能性があり危険である。 2. 医療機器の取扱いに対する認識不足。 医療機器を使用中の患者に対しては、機器の安全な操作と管理をしながら適切な治療が行えるように常に観察を要するが、家族の付き添いがある場合、医療従事者はつい患者から目を離しがちになり、医療機器の取扱いがおろそかとなった。 3.患者・家族への説明不足。通常、薬液の使用目的や副作用については説明を行うが、その輸液に使用する機器の取り扱いや起こりうるトラブルについての説明はほとんどされていない。

■実施したもしくは考えられる改善策
(1) 輸液ポンプとシリンジ・ポンプの使い分け:注入量の確認や安全面を考慮し、微量輸液 (10 ml以下/時間) の場合には、 "シリンジ・ポンプ"を使用することとし、 "輸液ポンプ"は10 ml/時間を越える輸液スピードの場合に用いる。 (2) 機器の取り扱い:循環作動薬など、 患者の生理機能に重大な影響を及ぼす薬剤が輸液されている患者の移動時には、医療従事者が付き添うことを原則とする。機器の取り扱いは、医療従事者のみが行うことを医療従事者および患者・家族にも徹底する。機器使用中は、常に輸液速度の監視を行う(「輸液・注射チェック表」を作成)。また、輸液ポンプを含む機器の取り扱いについて、医療従事者はその使い方および起こりうるトラブルとその対策に熟知する。  (3) 患者および家族への説明・指導について:患者および家族へ、薬液の使用目的のみならず、そのために機器が必要なこと、その取り扱いは医療従事者のみが行うこと、および取り扱いの誤りで重大な副作用が生じ得ることなどを事前に十分に説明する。患者や家族を対象としたオリエンテーション用パンフレットを作成する。  (4) その他 :主治医のみならず、同じグループの医師は、上記の事項が適切に行われているか否かの確認を常に行う。「循環作動薬の使用目的と使用上の注意について」の学習会を計画し循環器の医師を講師として実施し、循環作動薬について理解し使用上の注意が認識できた。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 先ず始めに,事例に関する情報を出来る限り多く記入しましょう。それにより患者背景が見えてきます。ヒヤリ・ハットの具体的内容ではバイタルサイン、全身状態について記入し、カタボンHiがどのように一気に血管内に投与されたかを具体的に検証して記入しましょう。輸液ポンプの設定、アラームの有無,輸液ラインの接続方法、特に連結方法については詳しく記入すると詳細な分析が可能となります。できれば穿刺部位も記入し、トイレで更衣が必要だった理由、排泄時には問題点がなかったか、患者や家族への説明はどのようにされていたか等記入しましょう。
 ヒヤリ・ハットの発生した要因は改善策につなげるための重要な部分です,ヒヤリ・ハットの要因を記入する場合は「なぜそうなったか」を記入しましょう,ここでは,なぜトイレで更衣が必要になったか,なぜ家族が輸液ポンプのドアを開けてしまったか、ドア開放のアラームが鳴ったはずですがその対処がどうだったか,そのとき輸液ポンプ作動状況や点滴ボトル残量はどうだったかを記入して自分がどうしてヒヤリとしハットしたか記入することが大事です。
 また,要因と改善策が重複していますので注意しましょう。

■改善策に関するコメント
 改善策は使い分け,取り扱い者,薬の作用の注意点については,改善策が多く記入されていて良いと思いますが,輸液ポンプ取り扱い方法の改善策はもう少し踏み込んだ検討ができそうです。

アンチフリーフロー機構のついた機器の選定
 このような事例の場合,アンチフリーフロー機構のついた機種を選定することが安全で確実な対策といえます。です。(アンチフリーフロー機構とは点滴回路を輸液ポンプからはずしたときに回路自体をクランプする機構です。)しかしながら、この機構のない輸液ポンプを使用する場合は、ドアの開放を防止するため、テープ等で固定することは多くの施設で実施されている対策です。

機器の定期点検
 最近の機種では、輸液ポンプのドアを開くと,アラームが鳴り,ドアクランプが働き回路をロックする機構を持つものが多いようです。使用する前に警報がなりクランプが働くことを確かめる簡単な使用点検を実施しましょう。また,事例のような医療機器の故障はしばしば見られるものです,臨床工学士等に管理してもらい,常に清掃,点検,整備が済んだものを使用できるよう検討していきましょう。

【参考資料】
 「輸液ポンプ等使用の手引き」
http://www.medsafe.net/contents/recent/2pump/img/yuekipump.pdf、日本医師会医療安全器材開発委員会、平成14年3月

 シリンジポンプの取り扱いによる事故も指摘されています。以下の参考資料も参照してください

【参考資料】
 「医療・看護安全管理情報No.10 シリンジポンプの取り扱いによる事故を防ぐ」http://www.nurse.or.jp/anzen/anzenjoho/index.html、日本看護協会


事例472:(抗悪性腫瘍剤投与量の誤入力)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (処方、情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【14〜15時台】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【女性】 患者の年齢【64】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【1年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年2ヶ月】
発生場面 【処方・与薬(末梢静脈点滴】
(薬剤・製剤の種類) 【抗腫瘍剤】
発生内容 【過剰与薬】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響大)】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
研修医が、2回目の化学療法を実施する患者のタキソールを前回入院時の体重から計算しコンピューターに入力してレジメを作成していた。前回と比べて今回は体重が10kg減少していることに気付き、計算しなおして手書きでレジメを訂正した。しかし、コンピューターを修正しなかった。指示時前回と同様というつもりでコンピューターからレジメを出したため、訂正前の量で指示された。実施の前前日に指導医が指示量が多いことに気付き指摘したので実施はされなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
作業を最後までしなかった。指示時にコンピューターより出したものに間違いは無いか確認しなかった。

■実施したもしくは考えられる改善策
修正する時はすべて修正する。この例のように指導医が確認をしっかり行う。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 手書きでレジメを訂正したがコンピューターを修正しなかったと記載されていますが、入力変更時のルールがどのようになっているのか記載されているとよいでしょう。また抗悪性腫瘍剤については、実施の前前日に指導医が指示量が多い事に気づいたと記載されていますが、レジメの作成から投与までの取り決めがどのようになっているか記載されているとよいでしょう。また、研修医と指導医の役割分担、指導方法が日常どのようにされていたかも記載しましょう。

■改善策に関するコメント
 コンピューター入力に関しては、そのシステムにより機能が異なると考えられるため取り扱いをする人が共通の認識を持つことができる操作手順書を作成するとともに遵守するための教育が必要でしょう。特に医師は、オーダー変更時等の留意点について十分に研修を受けるなどして熟知する必要があります。
 抗悪性腫瘍剤の投与については、その薬剤の重要性・危険性から、化学療法治療計画書のトリプルチェック(指導医・医長・薬剤師)をルール化している臨床研修病院もあります。また、抗悪性腫瘍の化学療法を実施する病棟においては、看護師がプロトコールを理解していることが必要です。
 悪性腫瘍の患者の場合、体重の減少は多くに見られるため、各クール毎の処方時に体重の入力を求めるシステムや、体重の変化について注意換気するシステムも有効と考えられます。

【参考資料】
 「適正な「がん化学療法」を支援する注射オーダリングシステム 〜抗がん剤レジメン入力システムについて〜」、平林利康ら、月刊薬事43(4)、pp961-966、2001
 「病院におけるビジネス・プロセス・リエンジニアリング ―国立がんセンター中央病院 新棟病院情報システムの構築の経験からー」医療とコンピュータ10(1)、pp10-17、小川博史、1999
 「エビデンスに基づくがん化学療法」、渡辺 亨(国立がんセンター中央病院内科医長)、埼玉医科大学雑誌 第28巻第4号 、pp186、2001年10月


事例301:(検査部門不在時間帯の血液型判定検査)

発生部署 (入院部門一般)
キーワード (輸血)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【金曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【不明】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【男性】 患者の年齢【25】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【他職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【  年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年4ヶ月】
発生場面 【輸血検査】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【クロスマッチ間違い】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響小)】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
血型判定において、使用した血液量が少なかったため十分に凝集が判定できず、血型を間違えた。AB型をA型と判定してしまった。血型判定が違うとの連絡があり、すぐに再検したところ、指摘のとおりであった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
次の仕事をこなさなくては、と慌てていた。

■実施したもしくは考えられる改善策
十分な量の血液をもって血型判定を行う。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容の記載が少なく状況把握が難しい報告です。報告内容では、「血液量が少なかったことが原因となり、その改善策は、十分な量の血液をもって血液型判定を行う。」となっていますが、血液量だけの問題とは思えません。具体的内容が乏しいと、発生要因を考えるのが難しく、その結果有効な対策が立てられません。発生状況を5W1Hに沿って一部(太字)推測し発生要因を考えてみます。具体的内容の記載が少なく状況把握が難しい報告です。報告内容では、「血液量が少なかったことが原因となり、その改善策は、十分な量の血液をもって血液型判定を行う。」となっていますが、血液量だけの問題とは思えません。具体的内容が乏しいと、発生要因を考えるのが難しく、その結果有効な対策が立てられません。発生状況を5W1Hに沿って一部(太字)推測し発生要因を考えてみます。
誰が : 免許取得後ほぼ2ヶ月の研修医が(当事者職種が医師で、職種経験年数4ヶ月とあり発生時期が8月)初めて1人で、
何を : ABO式血液型クロスマッチ検査を
何時 : 金曜日の(時間不明)輸血部門の職員がいない夜間帯に、
何処で : 検査機器等の未整備なナースステーションで
何故 : 25歳男性患者の緊急輸血のために、
どのように : 慌てて行った。

推測される発生要因
 免許取得後約2ヶ月の研修医が当事者とすると、全体のオリエンテーションが終わって間もない時期と思われます。血液型の検査の経験はあったのでしょうか。ABO式血液型検査方法の知識はあったでしょうが、検査手技の訓練はどの程度受けたのでしょうか。【発生要因−知識、技術、教育・訓練】
 発生場所が「ナースステーションで」とありますが、夜間・休日等の血液型検査には血液部門・検査科は関与しない組織なのでしょうか。輸血部門・検査科が夜間不在ならば、組織はそのための対策をどうしていたのでしょう。【発生要因−システムの不備】
 ABO型血液型検査では、赤血球についての抗原の存否を調べ(オモテ試験)、次に血漿について抗体の検査(ウラ試験)を行い、両者の結果を照合し血液型の最終判定をします。そのために患者から約5ml血液を採取し、血球成分と血漿に分離します。自然放置しても血球成分と血漿は分離しますが、確実に分離するには遠心分離機等により分離して検査に使います。ナースステーションには、血液検査に必要な判定用血清・遠心分離機や検査手順書等が整備されているのでしょうか。【発生要因−物品】
 夜間は職員が少なく職員はそれぞれの仕事に追われており、初めてや慣れない検査・処置を行う時に誰かに確認したくても新人職員は他の職員に声をかけづらく、あせった気持ちや不安な状況におかれています。【発生要因−心理的状況】

■改善策に関するコメント
 血液型の判定を間違え異型輸血が施行されれば、患者の生命にかかわる事故につながります。また、本報告の発見者は他の職種者となっていますが、(この情報も内容記載ほしい点です)もし、輸血を実施しようとした医師や看護師が、家族に指摘されたとすると、組織の信頼を喪失させることにつながります。

1【発生要因−システムの不備】
改善策:急性期病院では、患者の治療・看護は24時間を通し平均的に行われてきています。また、1日のうち病院機能においては夜間帯のほうが長いのですが、夜間帯は医師と看護師以外の部門が休止している施設も少なくありません。そのため、夜間の職員は日中他の職種が行っている慣れない業務を、時間に追われた環境で行う状況になり、事故発生の要因と言われています。夜間においても、、検査部門等も対応ができるシステムが必要です。また、夜間の手順を作成しておくことは有効でしょう。

2【発生要因−知識、技術、教育・訓練】
 本報告の当事者は、判定が不確実な量の血液で検査しています。検査に必要な知識・手順が不十分だったと思われます。
改善策:夜間に研修医に検査させるのなら、輸血療法についての基本的教育だけでなく、検査手技についても確実にできるよう、一度は指導者の元で訓練することを研修医教育プログラムに加える必要があります。

3【発生要因−諸物品】
改善策:次に、必要な物品の整備を行います。各ナースステーションに遠心分離機等を整備する経費は無駄と思われます。通常検査が行われている輸血部門に出向き検査するような体制を考えるほうがよいでしょう。(利便性だけを考え改善策をとるのも事故発生の要因になることもあります。)参考資料にあるような手順書を参考にし、血液型判定を日常行っていない医師でも確実に行えるような体制を整えましょう。

4【発生要因−心理的状況】
 本報告の当事者は血液型判定を「次の仕事を行わなくては、と慌てて」行っています。十分教育されていない段階の職員が担える業務量を考えることは安全管理上重要です。しかし時には、特に夜間・休日等には起こりえるとも思われます。そのときに、自信のないことや初めて実施することは、そのことを本人が口に出せれば周囲の者は、注意を払うことができます。当事者を心理的に追い込まないためにも、不安なこと不確実なことを口にできるような職場環境や人間関係(職場風土)を作り上げることが必要です。
 本事例の場合は、どのようにエラーが発見されたのか丁寧に分析することは、対策の検討に役立ちます。

【参考資料】
 「輸血実施手順書」http://www.yuketsu.gr.jp/tejyun.html、日本輸血学会、2001年3月
 「輸血ハンドブック」、霜山龍志偏、医学書院、2002年09月


事例271:(全身麻酔中の体位固定不備による一時的麻痺)

発生部署 (手術部門)
キーワード (移送・移動・体位変換)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【16〜17時台】
発生場所【手術室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【71】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【他職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【11年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【5年  ヶ月】
発生場面 【吸入麻酔】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【患者体位の誤り】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【その他】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
全身麻酔中に上肢の固定のしかたが不備で術後に一過性の麻痺が起こった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
麻酔時間が6時間と長時間であった。患者が痩せており上肢と手を固定する台の間に空間を生じ、結果的に過伸展の状態になった。

■実施したもしくは考えられる改善策
痩せた人の長時間の手術の際には上肢台と上肢の間にクッションをいれるようにする。あるいは上肢を体側に添わせるようにする。術前に上肢の可動域を確認しておく。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 具体的内容においては5W1Hの表記で状況がわかるように具体的に書いてください。この場合、術式、上肢固定の目的等も記述するとよいでしょう。
 手術室における関節可動域(ROM)を考慮した良肢位の方法が業務手順については、マニュアルで定められた手順と、ヒヤリ・ハット発生時に行われた手順を記載すると、第3者による分析が容易になります。また、麻痺した神経名が記載されていれば、体位の問題が明確になります。
 (1)本来実践すべき手順がありそれが機能しなかったために起きた事象である場合と、(2)業務手順自体が組織に取り入れられていなかったか場合とで、検討すべき対策は異なります。
 (1)であれば対策としては、ROMの教育、業務手順の周知徹底が必要です。(2)であれば対策としては、ROMを基準にした良肢位の方法、業務手順の作成となります。
 いずれの場合でも、個人の注意喚起レベルの対策ではなく、看護管理上の問題として捉えた対策の検討が必要です。

■改善策に関するコメント
 手術中の体位は、手術部位や術式等によって決定されます。そのうえで、安全かつ長時間安楽な体位を固定し保持するする必要があります。安全な体位にするには、起こりうる問題を予測して事前に対応しておくことが大切です。したがって体位固定の際には、神経や血管の走行を考慮し、適切な固定器具や保護材料を選択します。また、手術中にベッドを動かすと固定部が動くこともありますし、良肢位の固定を施したからといって、手術中も観察は必要です。

関節可動域に沿った体位の取り方
 手術の準備段階の看護業務手順に位置付け、マニュアルを作成しましょう。その場合、手術体位によって必要な四肢の固定方法を図式で示すことが有効と考えます。(既存の雑誌・本も活用しましょう)例えば、上肢を90度以上外転すると上腕骨頭で腕神経叢が伸展され、麻酔後に腕神経障害が起こる危険があります。

マニュアルの周知徹底
 手術室における間接介助看護師をはじめ全手術スタッフに教育し、確認行動に継がる指導を繰り返し行うことが重要です。また、体位固定や肢位における神経障害発生の危険に関する知識は、病棟における意識のない患者に対しても有効な情報ですので、病院全体で共有すべき知識と考えます。新採用者に対しても、根拠を示して確認行動に継がるオリエンテーションを行うことが必要です。

モニタリングを行う
 看護師が業務を行う際に、マニュアルを基準に行動しているかモニタリングする。必要時その場で教育する。
 今回は、既存マニュアルが実際になされていたか、マニュアルが不整備か注目しましたが、特に手術室のような患者が急変する可能性がある部署におけるマニュアルは安全かつ合理的でなくては実施されません。実施されないマニュアルは再検討が必要です。

【参考資料】
 「慶應義塾大学病院 周手術期看護マニュアル【総論】」 慶應義塾大学病院中央手術部編、メディカ出版、1997


事例384:(手術創へのガーゼ遺存)

発生部署 (手術部門)
キーワード (組織)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【月曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【16〜17時台】
発生場所【手術室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【67】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【3年5ヶ月】
当事者の部署配属年数【3年5ヶ月】
発生場面 【手術(四肢)】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【診察・治療のその他の誤り】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【観察不十分】
発生要因-判断 【判断の誤り】
発生要因-知識 【知識不足】
発生要因-技術(手技) 【技術・その他】
発生要因-報告等 【報告・その他】
発生要因-身体的状況 【身体的状況・その他】
発生要因-心理的状況 【思いこみ】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響中)】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
医師が、ガーゼカウントが合わないいうと看護師の報告を受けたが、閉創直後のX-Pでは、遺残があり取り出した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
看護師から報告を受けても、遺残していないという医師の思い込み。看護師の報告を軽んじている。

■実施したもしくは考えられる改善策
ガーゼ遺残防止マニュアルの実施徹底。医師と看護師のコミュニケーションを良くする。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 ヒヤリ・ハットの発生した要因は、再発防止の視点で分析してください。この場合、手術の内容(手術名、手術の状況、手術に関与している人員)など記入してあると状況が分かりやすくなり、実際にガーゼはどんな手順でカウントしていたか記入すると、改善に結びつく要因が分析ができると思います。また、ガーゼカウントを確認する方法としてはどのような手段をとっていたかなども記載していくとよいでしょう。
 改善策に「ガーゼ遺残防止マニュアルの実施徹底」とありますが、マニュアルが実施徹底されない要因を手術部全体で分析し、マニュアルが周知徹底されるような方策を改善策として具体的に挙げていきましょう。

■改善策に関するコメント
術後術野確認のためのレントゲン写真撮影の基準化
 今回の事例では、ガーゼカウントが合わず、レントゲン撮影を実施しヒヤリ・ハットが発見されていますが、例えば、術後、術野確認のためのレントゲン写真撮影の基準化をしてみることも安全対策の一つとなります。使用したX線不透過ガーゼ枚数、手術時間、出血量それぞれに基準を設け、ひとつでもこの基準を越えた場合、ガーゼ器械カウントがあっていても、術後術野のレントゲン写真撮影を行うこととし、遺残をおこすリスクの高い手術での安全確認を行なっている施設もあります。

チーム医療への意識改革と教育
 この事例では、医師が看護師からガーゼカウントが合わないと報告を受けているにも関わらず、閉創にいたっています。特に手術においては、異なる職種の職員が一丸となり患者の治療や安全確保に向け、それぞれの責任を果たすというチーム医療への意識改革が必要です。手術中は術者および直接介助看護師、外回り看護師の間の意思の疎通を充分に確保し、疑問な点や確認を要する点については、相互に躊躇することなく確認できるチーム医療を保証していくことが必要です。手術を進行していく上で、少しでも疑問や不安があれば手術の進行をしないことは、患者の安全を守る上で重要でしょう。上下関係に基づいた命令ではなく、それぞれがもつ責任を協力して分担していくという認識が求められるでしょう。特に、全職員を統括する病院管理者の安全に対する理念とリーダーシップが不可欠です。

院内でのマニュアルの位置付け
 改善策にある「ガーゼ遺残防止マニュアル」は院内でどのような体制で作成されたのでしょうか。医師やコメディカル全体で作成され、安全管理委員会などでその徹底が院内全体の遵守事項として承認されていることが重要です。

ガーゼカウントの用具の開発
 現在、ガーゼカウントに関する安全対策を目的にキックバケツ等の使用方法の工夫への取り組みが各施設でなされているようです。また、術前のガーゼカウンターの用具の研究開発がされているようですが、術後も含めたガーゼカウントに関する用具などの開発をメーカーなどに提案することにより、カウントの客観性・確実性を高める方法の開発も必要です。
 また、そのほかの方法としてガーゼ自体が術野において見えやすいように、標準よりも大きいサイズのガーゼを導入している施設もあります。


事例255:(手術患者の取違い)ここから

発生部署 (入院部門一般、手術部門)
キーワード (情報・記録、組織)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【 月】 発生曜日【  】 曜日区分【  】 発生時間帯【  】
発生場所【     】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【     】
発見者【     】
当事者の職種【     】
当事者の職種経験年数【  年  ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年  ヶ月】
発生場面 【          】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【          】
発生要因-確認 【          】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【     】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
タイムフリーで手術予定の患者が2名、病棟で待機中であった。手術部から院内PHSでA氏搬入の指示があったが、まだ前投薬指示の出ていないB氏に投薬を行い、手術部に搬入した。手術部受付で名前の確認をした時、患者間違いが判明した。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
1.電話連絡時、発信者・受信者が患者名の復唱・確認を怠った。2.電話の発信者・受信者が互いの名前を伝達するのを怠った。3.B氏に対する前投薬投与の指示がない状況での搬入指示に対して、前投薬投与指示の確認を怠った。

■実施したもしくは考えられる改善策
指示出し側である、手術部および放射線部は、手術指示録・血管撮影申込書に連絡に関する項目を設け指示出し時に記入、指示受け側の病棟は、指示受け時「手術・血管造影指示連絡確認票」を作成し記入することとした。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 各個人レベルでの情報伝達及び患者確認方法については要因が挙げられていますが、そもそもオンコール時の手術患者を手術室から病室へ連絡する際の患者確認・移送について通常どのように行われていたか、手順が徹底していたかなどのシステム上の要因についても記述しましょう。
 特にオンコールでの手術の場合、多くの場合が電話を活用した情報伝達になり、紙ベースで確認するのではなく、口頭での情報伝達になる場合があります。実際に電話で連絡があったとき、どのような項目を伝達していたのか、電話を受けていた時間帯に他にどのような業務があったか、人員と業務量の配分はどうだったかということも検討しましょう。

■改善策に関するコメント
指示伝達の手段の検討
 改善策に書かれている「手術・血管造影指示連絡確認票」などを作成し、活用することは有用ですが、口答指示は、指示出し側の言い間違い、受け側の聞き間違い等のエラーが発生するリスクは残存します。記入項目や確認方法が具体的に挙げられているか、継続的に検討していきましょう。
 また、今回の事例は、院内PHSで指示受けをしたようですが、電話は受け側の状況が忙しかったり、他の業務中の場合、集中して確認が出来ない場合もあるので、院内FAXによる文書伝達により、指示出しと受けの両側における共通認識のそのものの再検討も有効です。

前投薬の確認
 今回の事例では、指示出し・受け間違えに加え、「前投薬指示の出ていないB氏に投薬を行い」というミスが重ねられています。ミスの重なりは、一方ではミス発見の機会になる部分です。手術出し業務を見直す際に、前投薬実施における状況分析と改善策も重要なポイントです。前投薬の正確な実施手順に加え、上記指示伝達の項目にしましょう。

 厚生労働省の「患者誤認自己予防のための院内管理体制の確立方策に関する検討会」から出された提言では、職員個々人のエラーの問題だけに特化せず、下記の6点について再発防止策を挙げ改善を図っていくとされています。貴施設においても下記項目について検討し、改善の必要がないか検討し改善策を立案し、実施・評価する際に有効に活用し医療全体の質の向上に活かしていただきたく、要点のみですが列記します。

1) 患者中心の医療の確立
2) チーム医療の確立
3) 医師の責任体制の確立
4) 手術室の管理運営体制の確立
5) 病棟の勤務体制の見直し
6) 安全管理体制の確立

【参考資料】
 「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」、厚生労働省患者誤認事故防止方策に関する検討会、1999
https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1105/h0512-2_10.html
 「医療安全対策ノート」、東京都病院協会医療安全推進委員会、2001


事例352:(アレルギー食の誤配膳)

発生部署 (入院部門一般、栄養部門)
キーワード (食事と栄養)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【木曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【16〜17時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【歩行障害、その他】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【5年3ヶ月】
当事者の部署配属年数【  年2ヶ月】
発生場面 【食事介助】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【内容の間違い】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響小)】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
アレルギー食を摂取している患者に、通常の食事を間違って配膳した。アレルギー食品が含まれていなかったので、大事には至らなかった。配膳車から患者のテーブルに運ぶ際間違えた。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
配膳車から出す際、名前を確認したが、なぜか違う患者のところに配膳してしまった。

■実施したもしくは考えられる改善策
アレルギー食を食べている患者の食事は、配膳後に看護師が二人で確認することにした。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 配膳車から出す際の確認不十分とありますが、確認が不十分となりやすい環境要因の状況を記述すると分かりやすくなると思います。例えば、当日配膳する人は決まっていたのか、何人の人で、何人の患者に配膳していたか、配膳業務の役割分担、何人の患者がアレルギー食だったのか、配膳車の食事の区分けは病室番号ごとか、食事内容種類別ごとか、食札の表示はどのようになっているか、配膳したのは大部屋か個室か、患者確認方法はどのように行ったか等です。

■改善策に関するコメント
 今回の事例は配膳した食事にアレルギー食品が含まれていれば、アナフィラキシーショックを引き起こす重大な危険性があったと思われます。これを機会に院内の配膳システム全体を見直す必要があります。
 アレルギー食品は患者の申告によるものがほとんどと思いますが、食事の指示入力時、栄養部から給食に指示する時、食事作成時、食札作成の時、作成された食事の準備の時、配膳車に入れる時、配膳する時など患者の申告から配膳までに、チェックがどのようにおこなわれているかを確認しておきます。どの段階でも間違いの発生の可能性があります。アレルギー食品以外にも内服薬剤によって食べてはいけない食品や制限食もありますので間違いなく配膳する必要があります。

患者と食事の照合を確実にする方策
 配膳間違いを防ぐには、(1)食札等に注意情報を強調して表示(例えば食札の表示の仕方、配膳車の配列・表示)、(2)食事患者一覧表を出力し照合をする、(3)配膳業務を集中的に行う職員を定めておく等エラーが起こりにくい環境にすることが大切と考えます。また、「○○さんはアレルギー食ですよね」といったコミュニケーションをとりながら、患者にも配膳業務に参加・協力していただくことも大切でしょう。

注意情報のベッドサイドへの集約化
 在院日数の短縮に伴い、カルテやアナムネの情報だけで入院患者を把握するのは困難な状況になってきています。このような状況の中ではナースステーションの中ではなく、ベッドサイドで患者の情報が把握できるようなシステムが患者にとっても職員にとっても安全で確実であるといえます。アレルギー食摂取の患者の場合、ベッドサイドにアレルギー食摂取とわかるよう表示する等、注意情報をベッドサイドに集約する工夫が安全な対策といえるでしょう。
  考えられる改善策の中にアレルギー食を食べている患者の食事は、配膳後に看護師が二人で確認することにした、とありますが、このような改善策は実行可能でしょうか。配膳についても、薬剤で導入が推奨されているバーコードシステムは有効でしょう。また、患者と食事の照合は、治療食やアレルギー食、食止め等のリスクがある場合に限定することも、確認の有効性を高めるでしょう。


事例303:(CT撮影後のポラロイド写真の取り違え)

発生部署 (放射線部門)
キーワード (検査・採血、情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【8月】 発生曜日【水曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【12〜13時台】
発生場所【放射線撮影室・検査室】
患者の性別【患者複数】 患者の年齢【患者複数】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師】
当事者の職種経験年数【1年4ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年4ヶ月】
発生場面 【検査(CT)】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【データ取り違え】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこみ】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【多忙】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【実施前に発見(実施していれば影響大)】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発熱と意識混濁を呈して受診した患者さんを医師Aが外来で診察し、緊急CTを依頼した。実際のCT撮影には別の医師Bが付き添った。医師BはCT撮影後CT本体に附属したポラロイドカメラで撮影し、外来の医師Aにポラロイド写真を手渡した。しかし、医師Bがポラロイドカメラで撮影したのは同姓の別の患者さんであった。写真を受け取った医師も異なる患者であることに気づかず、CTで異常所見があったため患者さんを入院させた。入院直後に正式のフィルムが届き、間違いに気づいたため、患者さんに対して問題となる行為はなされていない。なお、この患者さんは他の要因もあって、入院となった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
ポラロイド写真に撮影した際と、受け取った写真を見た際のいずれにおいても、苗字を見ただけで名前を確認しなかったことは、日常業務の中での「慣れ」と「注意力低下」が原因であった。

■実施したもしくは考えられる改善策
今回の事例を当科医師・看護師に知らせ、常に「間違いない」と確認することの重要性を意識させた。


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 直接的にはB医師が同姓の別の患者をポラロイド撮影してしまったことが原因です。さらにA医師も別な患者であることに気づかなかったために、エラーの防護がなされなかったことがヒヤリハットにつながっています。これらについて、根本原因を探ることが重要です。とくにB医師がどの工程で間違えたのかについては、第三者が分析する上で非常に重要ですので、詳細に記述することが必要です。
 「慣れ」や「注意力低下」は誰にでも起こりうることなので、"確認の徹底"といった方法ではなく、なるべく工程の上流でシステム的に間違いを起こさないような工夫が必要です。これらの発生要因についてしっかりと分析し、対策を記述しましょう。

■改善策に関するコメント
 CT撮影の後、ポラロイド撮影をするという作業を行うことによって、情報が二分され、一元化がなされなかったのが今回のエラーの原因です。こうしたエラーの根本的な解決策としては、緊急に診断を要する患者の画像現像体制を見直し、ポラロイド撮影という作業を行わないようにすることが考えられます。
 CT画面には患者氏名、IDなど患者認証に用いられる情報が示されていますが、字が細かく確認しにくいのが普通です。ポラロイド写真自体もサイズが小さく文字等の確認は困難です。また、作業のために他患の撮影後画像を出している場合もあるため、この事例のように画面に映っている画像を確認せずにポラロイド撮影するという行為は患者誤認のリスクの高い行為だと考えられます。画面を確認することはもちろんですが、撮影を行った放射線技師に確認するなどの行為は十分だったのでしょうか。
 まず、これらの作業工程を見なおすことができるかどうかを考えてみましょう。
 一般的な患者取り違えに対する考え方については、重要事例No.255も参照してください。


事例477:(複数の入力源におけるデータ不整合の発生)

発生部署 (臨床検査部門)
キーワード (情報・記録)

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
発生月【7月】 発生曜日【火曜日】 曜日区分【平日】 発生時間帯【不明】
発生場所【検査室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【67】
患者の心身状態【不明】
発見者【他職種者】
当事者の職種【臨床検査技師】
当事者の職種経験年数【19年3ヶ月】
当事者の部署配属年数【2年3ヶ月】
発生場面 【採血】
(薬剤・製剤の種類) 【          】
発生内容 【計算・入力・転記間違い】
発生要因-確認 【確認不十分】
発生要因-観察 【          】
発生要因-判断 【          】
発生要因-知識 【          】
発生要因-技術(手技) 【          】
発生要因-報告等 【          】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【コンピュータシステムの不備】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響なし】
備考【                   】

■ヒヤリ・ハットの具体的内容
初診時の患者氏名が1文字間違っていたのでIDカードと事務部門のコンピューター及び、血液検査のコンピューターには変更されたが生化学のコンピューターには反映されないためID番号で識別し間違った名前で結果が打ち出されて病棟に返された。変更した際、どこからも連絡が無かったので生化学のコンピューターは修正されなかった。

■ヒヤリ・ハットの発生した要因
コンピューターが全システムで繋がっていない。他部門の職員は、このようになっているシステムであることを知らない。

■実施したもしくは考えられる改善策
医事課でIDカードを修正した時に生化学検査室に連絡を入れることにする。(将来は全コンピューターを繋ぐ予定はあるがまだ未定である。)


専門家からのコメント


■記入方法に関するコメント
 おおむねヒヤリハットの内容は読み取れますが、なぜ一字間違ったのかという背景要因も検討し記載する必要があります。ここで、別システムとなっているのは生化学検査室だけだったのでしょうか。他にも多くの別システムがあるのでしょうか。また、システム担当者はいないのでしょうか。この問題は単に一部署の問題ではなく、病院全体の情報処理システムの問題であり、上記のような周辺状況も記述すると、第三者が分析する際に役に立ちます。

■改善策に関するコメント
 本来的にはID、氏名等の入力は発生源(初診受付)で1回のみ入力することが基本です。このとき入力ミスを防ぐために、「氏名、生年月日等に間違いはありませんか?」といった確認システムを組み込むことは必須です。
 しかしながらコンピューターがすべてつながっていない場合は、複数箇所でID、氏名等を入力することになりますが、入力ミス等によってデータの整合性が崩れてしまうことが考えられ、患者誤認のリスクが生じます。さらにその部署が生化学検査室のように、検体が送られてくるのみで患者本人と接触しない部署では、患者に直接確認することが出来ませんので、リスクはさらに大きいと考えられます。
 もし、データ(氏名等)に修正が必要となった場合、すでに指摘されているように別システムとなる部署に連絡し、いっせいに修正してもらう必要がありますが、その際の連絡漏れなど間違いを完全にゼロにすることは出来ません。
 したがって、患者を間違えてしまった場合のデメリットを考えると、システムを統合するほうがはるかに効果的と考えます。
 ただし、システムの統合には費用がかかるため、現実には統合を見合わせている機関もあるかもしれません。その場合でも、組織としてこの問題にどう対応するか、連絡漏れのないようなしくみをどう構築するかについて、検討しておく必要があるでしょう。データ修正に関するフローシートを作成し、活用することも効果的です。
 なお、病院によっては部門ごとに情報システム化が行われている場合がありますが、その場合でも病院全体のシステムを統轄する立場の人(情報システム管理者)を配置することが重要です。


前ページ 次ページ

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 重要事例情報の分析について > 重要事例情報−分析集(第5回報告分 21件)

ページの先頭へ戻る