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安全な医療を提供するための
10の要点




はじめに

−「安全な医療を提供するための10の要点」の策定にあたって−


【策定の趣旨】

○ 患者に安全な医療サービスを提供することは、医療の最も基本的な要件の一つです。

○ このため、医療機関においては、医療安全に関する職員の意識啓発をすすめるとともに、医療安全を推進する組織体制を構築していくことが求められます。

○ そこで、医療機関における医療安全に関する基本的な考え方を標語の形式でとりまとめました。

○ この標語を参考に、それぞれの医療機関が、その特性などに応じてより具体的な標語を作成するなどの工夫が望まれます。


【策定の方針】

○ 「安全な医療を提供するための10の要点」は、以下の3つの方針により作成しました。

(1) 医療機関で働くすべての職員を対象として作成しました。

(2) 職員が業務を遂行するにあたって、医療の安全を確保するために基本となる理念などを、わかりやすく覚えやすい簡潔な表現でまとめたものとしました。

(3) この標語をもとに、それぞれの医療機関において、その特性などに応じた独自の標語が作成できるよう、各標語には解説、具体的な活用方法などを記載しました。

(1) 「解説」では、その標語の趣旨およびねらいを記述しました。

(2) 「具体的な取組に向けて」として、それぞれの医療機関での取組の方法を例示しました。



「安全な医療を提供するための10の要点」の策定方法


○ 標語の策定にあたっては、医療機関等における既存標語の調査および先進国や他業界の取組に関する調査を行い、重要な分野および項目を検討しました。

○ 医療の提供方法の特徴や医療機関の組織体制等を踏まえると、医療における安全管理体制の重要なポイントとして、A.理念、B.患者との関係、C.組織的取組、D.職員間の関係、E.職員個人、F.人と環境・モノの関係、という6分野が考えられます。

○ これらの6分野において、特に重要なものとしては、(1)安全文化、(2)対話と患者参加、(3)問題解決型アプローチ、(4)規則と手順、(5)職員間のコミュニケーション、(6)危険の予測と合理的な確認、(7)自己の健康管理、(8)技術の活用と工夫、(9)与薬、(10)環境整備、の10項目があげられます。

○ 「安全な医療を提供するための10の要点」は、この10項目について、分かりやすく覚えやすい標語としてまとめたものです。



医療安全の全体構成

医療安全の全体構成の図



安全な医療を提供するための10の要点


(1) 根づかせよう安全文化 みんなの努力と活かすシステム

(2) 安全高める患者の参加 対話が深める互いの理解

(3) 共有しよう 私の経験 活用しよう あなたの教訓

(4) 規則と手順 決めて 守って 見直して

(5) 部門の壁を乗り越えて 意見かわせる 職場をつくろう

(6) 先の危険を考えて 要点おさえて しっかり確認

(7) 自分自身の健康管理 医療人の第一歩

(8) 事故予防 技術と工夫も取り入れて

(9) 患者と薬を再確認 用法・用量 気をつけて

(10) 整えよう療養環境 つくりあげよう作業環境



(1)安全文化


 根づかせよう安全文化
    みんなの努力と活かすシステム



解説

○ 医療において患者を最優先させることは、古くから医療人の基本的な行動規範とされてきました。

○ 今日、患者の安全は何よりもまず優先されるべきであることを再認識し、医療に安全文化を根づかせていくことが必要です。

○ 医療における安全文化とは、医療に従事する全ての職員が、患者の安全を最優先に考え、その実現を目指す態度や考え方およびそれを可能にする組織のあり方と言えるでしょう。

○ なお、安全文化という言葉は、他の分野では「安全性に関する問題を最優先にし、その重要性に応じた配慮を行う組織や個人の特性や姿勢の総体」(国際原子力機関1991年)という意味で用いられています。

○ 人は間違えうることを前提として、システムを構築し機能させていくことが必要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 全ての職員は、安全を最優先に考えて業務に取り組みましょう。

→ 安全に関する知識や技術を常に学び向上することを心がけましょう。

→ 管理者のリーダーシップの発揮、委員会やリスクマネジャーの設置、教育訓練の充実といった事故予防のための体制づくりに取り組みましょう。

→ 業務の流れを点検し、個人の間違いが重大な事故に結びつかないようにする「フェイルセーフ」のしくみの構築に努めましょう。


(2)対話と患者参加


 安全高める患者の参加
    対話が深める互いの理解



解説

○ 医療は患者のために行うものです。その主役である患者が医療に参加することが重要です。

○ このことは安全に医療を提供していくためにも大切です。

○ 患者と職員との対話によって、医療内容に対する患者の理解が進むとともに、相互の理解がより深まります。


【具体的な取組に向けて】

→ 医療内容について十分に説明しましょう。

→ 日々の診療の場で、その内容や予定について説明しましょう。

→ 一方的な説明ではなく、患者との対話を心がけましょう。

→ 患者が質問や考えを伝えやすい雰囲気をつくりあげましょう。


(3)問題解決型アプローチ


 共有しよう 私の経験
    活用しよう あなたの教訓



解説

○ ミスが起こる要因はある程度共通していることから、その要因を明らかにし改善していくことが必要です。

○ 職員の経験を収集し、原因分析に基づいて改善策を導き出し、それを共有することが不可欠です。

○ 効果的な安全対策を講じるためには、個人の責任を追及するのではなく、システムの問題ととらえ改善していく「問題解決型」の取組が必要です。

○ 他産業の安全対策に関する知見を、医療における安全対策に活用することも有効です。


【具体的な取組に向けて】

→ すべての職員は、積極的に報告システムに参加しましょう。

→ 報告された事例の原因を分析しましょう。

→ 得られた改善策は職員全員で学び、実践しましょう。


(4)規則と手順


 規則と手順
    決めて 守って 見直して



解説

○ 規則や手順は、現実的かつ合理的なものを、職員自らが考え話し合いながら文書として作り上げることが必要です。さらにそれらは、必ず守らなければなりません。

○ 問題点や不都合な点が見つかった時には躊躇なく改善することが必要です。その際、あらかじめ関係する部門同士がよく調整することが必要です。

○ 規則や手順、各種用紙の書式などを統一することも、ミスを減らす上では大切です。


【具体的な取組に向けて】

→ 規則や手順を文書として整備し、遵守しましょう。

→ 必要なときには積極的に改善提案し、見直しましょう。

→ 見直しの際には関係者とよく話し合いましょう


(5)職員間のコミュニケーション


 部門の壁を乗り越えて
    意見かわせる 職場をつくろう



解説

○ 医療においては多様な職種や部門が存在し、チームで医療を行っています。

○ 安全な医療の提供のためには、部門・職種の違いや職制上の関係を問わず、相互に意見を交わしあうことが重要です。

○ 特にチーム内では、お互いが指摘し、協力しあえる関係にあることが不可欠と言えます。

○ 思い込みや過信は誰にでも起こりうるもので、自分では気がつきにくいものです。他人の目により互いに注意しあうことは、思い込みや過信の訂正にも有効です。

○ なお、ひとりの患者に複数の施設がかかわる場合には、外部の組織とのコミュニケーションも重要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 気づいたらお互いに率直に意見を伝え、周りの意見には謙虚に耳を傾けましょう。

→ 上司や先輩から率先してオープンな職場づくりを心がけましょう。

→ 関係する他施設等とのコミュニケーションにも努めましょう。


(6)危険の予測と合理的な確認


 先の危険を考えて
    要点押さえて しっかり確認



解説

○ 確認は、医療の安全を確保するために最も重要な行為です。

○ ただし、漫然と確認するのではなく、業務分析を行い、確認すべき点を明らかにした上で、要点を押さえて行うことが重要です。

○ 正しい知識を学び、的確な患者の観察や医療内容の理解により起こりうる危険を見通すことで、事故を未然に防ぐことができます。

○ 「いつもと違う」と感じた場合には、危険が潜んでいることがあるため注意が必要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 決められた確認をしっかり行いましょう。

→ 早期に危険を見つけるために、正しい知識を身につけましょう。

→ 「何か変」と感じる感性を大切にしましょう。


(7)自己の健康管理


 自分自身の健康管理
     医療人の第一歩



解説

○ 安全な医療を提供するためには、自らの健康や生活を管理することが必要であり、このことは医療人としての基本です。

○ 自己管理を行うためには、自分の体調を常に把握しておくことが必要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 次の業務に備えて、健康管理や生活管理を心がけましょう。

→ リーダーはメンバーの体調や健康状態にも配慮しましょう。


(8)技術の活用と工夫


 事故予防
    技術と工夫も取り入れて



解説

○ 安全確保のための取組を人間の力だけで行うには限界があります。このため、積極的に技術を活用することで、人的ミスの発生を減らすことができます。

○ 特に、近年発達を遂げている情報技術の活用は医療安全を推進するための手段の一つです。

○ 一つのミスが全体の安全を損なわないよう十分配慮され、操作性にも優れた機器や器具などを使うことが大切です(フェイルセーフ技術の活用やユーザビリティへの配慮)。

○ 機器や器具などに関する医療現場の意見や創意工夫も安全確保のために重要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 機器や器具などの購入や採用にあたっては、安全面や操作性に優れたものを選定しましょう。

→ 機器や器具などに改善すべき点があれば、関係者に対して積極的な改善提案を行いましょう。


(9)与薬


 患者と薬を再確認
    用法・用量 気をつけて



解説

○ 医薬品に関するミスは、医療事故の中で最も多いと言われています。

○ 誤薬を防ぐために、医薬品に関する「5つのR」に注意することが必要です。5つのR(Right=正しい)とは、「正しい患者」、「正しい薬剤名」、「正しい量」、「正しい投与経路」、「正しい時間」を指します。


【具体的な取組に向けて】

→ 処方せんや伝票などは読みやすい字で書き、疑問や不明な点があれば必ず確認しましょう。

→ 患者誤認防止のため、与薬時の患者確認は特に注意して行いましょう。

→ 類似した名称や形態の薬には特に注意しましょう。


(10)環境整備


 整えよう療養環境
    つくりあげよう作業環境



解説

○ 療養環境の整備は、患者の快適性の観点からだけでなく、転倒・転落等の事故予防の観点からも重要です。

○ 作業環境の整備も、手順のミスを防ぐなど、事故防止につながります。

○ なお、作業する場所だけでなく、記録や医療機器等も作業環境の一環として整備する必要があります。

○ 医療機器等はその特性をよく理解し、安全に使用することが必要です。


【具体的な取組に向けて】

→ 施設内の整理・整頓・清潔・清掃に取り組みましょう。

→ 他の人にもわかりやすい正確な記録を心がけましょう。

→ 医療機器等は操作方法をよく理解し、始業・終業点検や保守点検を行った上で使用しましょう。



おわりに

−「安全な医療を提供するための10の要点」の活用方法 −


○ 今回策定された「安全な医療を提供するための10の要点」は、全ての医療機関に共通する基本的な考え方として作成したものです。

○ この標語の活用により、それぞれの医療機関で職員の医療安全に関する理解が深まることが期待されます。

○ この標語の作成にあたって、独自に標語を作成していた医療機関に標語作成のきっかけ、作成方法、普及方法、標語作成による効果等に関するアンケート調査を行いました。

○ 以下には、このアンケート結果から示唆された、(1)標語作成への取組の意義、(2)標語の作成方法、(3)職員に対する周知の工夫、についてとりまとめました。

○ これらを参考に各医療機関で医療安全に対する取組が進められることが期待されます。


【標語作成への取組の意義】

○ 標語により、職員の医療安全に関する意識の向上や、ミスを犯しやすい場面での注意喚起につながります。

○ 各々の医療機関がそれぞれの施設内のどこに危険が潜んでいるかを全職員が認識し、具体的な対策を策定することが重要です。

○ このため、各々の医療機関が独自の標語づくりに取り組むことが求められます。これにより、職員の安全への意識や相互のコミュニケーションが深まり、医療安全がより一層進展することが期待されます。

○ なお、作成された標語は、新人研修の教材として用いるなど、すべての職員にその具体的意味まで理解してもらうよう配慮することが重要です。


【標語の作成方法】

○ 医療機関における標語は、(1)医療安全に対する基本理念や原則の周知と職員の意識啓発、(2)それぞれの部門の業務内容に応じた具体的な実施手順やチェックポイントの提示、を目的とした2種類のものを作成することがより効果的であるといえます。

○ 医療機関全体で共通する考え方(上記(1))を標語として作成する場合には、各部門の職員から構成される検討組織で作成することが望まれます。この検討組織は、安全管理のための既存の組織を活用するほか、新たな組織を設置することも考えられます。

○ 管理者のリーダ−シップのもとに、各部門の職員が話し合って作成することにより、各医療機関に潜んでいる危険に関する共通理解が進むとともに、職員相互のコミュニケーションが図られます。

○ なお、医療機関全体の標語は、施設の基本理念の中にその考え方を組み込むことが非常に重要です。

○ また、具体的な実施手順やチェックポイント(上記(2))に関する標語については、医療機関内のそれぞれの部門で独自に作成していくことが必要です。

○ 各部門で作成する場合には、部門内の職員が話し合って作成していくことが望まれます。これにより、より専門的で内容のある話し合いができ、業務改善に結びつくという効果も期待できます。


【職員に対する周知の工夫】

○ 作成された標語は職員に広く周知し、医療機関が一体となって安全に取り組んでいくことが重要です。

○ このためには、職員に標語を周知させる工夫が必要となります。

○ 以下の方法を参考として、それぞれの医療機関にあった方法により、職員全員に普及していくことが望まれます。

(周知方法の例)

 (1) ポスター

 (2) パンフレット・冊子

 (3) ニュースレター・院内報

 (4) 研修テキスト

 (5) カレンダー

 (6) パソコンのスクリーンセーバー



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